この章で学ぶこと
2変数以上の関数の微分・積分を学びます。偏微分・全微分から重積分、極値判定まで、大学の多変数微積分の中核です。
- 偏微分と高階偏導関数
- 全微分と合成関数の連鎖律
- 重積分(累次積分・積分順序の変更)
- 多変数関数の極値(ヘッセ行列による判定)
ポイント: 偏微分は「他の変数を定数とみて1変数で微分」するだけです。多変数では「どの変数で微分するか」を意識すること。極値判定は1変数の2階微分判定の自然な拡張(ヘッセ行列)になります。
1. 偏微分
z=f(x,y) について、y を定数とみて x で微分したものを x に関する偏導関数といい、∂x∂f または fx と書きます。
∂x∂f=limh→0hf(x+h,y)−f(x,y)
例題: f(x,y)=x2y+sin(xy) の偏導関数 fx, fy を求めよ。
x で微分(y は定数):
fx=2xy+ycos(xy)
y で微分(x は定数):
fy=x2+xcos(xy)
検算: 2階の混合偏微分を比べる。fxy=∂y∂(2xy+ycos(xy))=2x+cos(xy)−xysin(xy)、fyx=∂x∂(x2+xcos(xy))=2x+cos(xy)−xysin(xy)。fxy=fyx(連続なら一致するというシュワルツの定理)と整合する。
2. 全微分と連鎖律
z=f(x,y) が微分可能なとき、全微分は
dz=∂x∂fdx+∂y∂fdy
x=x(t), y=y(t) で z が t の関数になるときの連鎖律は
dtdz=∂x∂fdtdx+∂y∂fdtdy
例題: z=x2+y2、x=cost, y=sint のとき dtdz を求めよ。
dtdz=2x⋅(−sint)+2y⋅cost=−2costsint+2sintcost=0
検算: z=cos2t+sin2t=1(定数)なので dtdz=0。一致する。
3. 重積分
長方形領域 D=[a,b]×[c,d] 上の重積分は、フビニの定理により累次積分で計算できます。
∬Df(x,y)dxdy=∫ab(∫cdf(x,y)dy)dx
例題: ∬Dxydxdy を D=[0,1]×[0,2] で求めよ。
∫01(∫02xydy)dx=∫01x[2y2]02dx=∫01x⋅2dx=[x2]01=1
検算: 積分順序を入れ替える。∫02(∫01xydx)dy=∫02y⋅21dy=21[2y2]02=21⋅2=1。同じ値。正しい。
例題(変数分離できる場合): ∬Dx2ydxdy を D=[0,1]×[0,3] で求めよ。
被積分関数が x の関数と y の関数の積なので、積分も積に分かれる。
(∫01x2dx)(∫03ydy)=31⋅29=23
検算: ∫01x2dx=31、∫03ydy=29、積 31⋅29=23。正しい。
大事: 三角形などの一般領域では積分の上限・下限に変数が入ります。たとえば 0≤x≤1, 0≤y≤x の領域なら ∫01∫0xfdydx。積分順序を変えると上下限も変わるので、領域の図を描いて確認しましょう。
4. 多変数関数の極値
f(x,y) の極値の候補は停留点(fx=0 かつ fy=0)です。停留点での極値判定はヘッセ行列
H=(fxxfyxfxyfyy)
の判別式 D=fxxfyy−(fxy)2 で行います。
| 条件 | 判定 |
|---|
| D>0 かつ fxx>0 | 極小 |
| D>0 かつ fxx<0 | 極大 |
| D<0 | 鞍点(極値でない) |
| D=0 | 判定不能 |
例題: f(x,y)=x2+y2−4x−6y+13 の極値を求めよ。
停留点: fx=2x−4=0 より x=2、fy=2y−6=0 より y=3。停留点は (2,3)。
2階偏微分: fxx=2, fyy=2, fxy=0。判別式 D=2⋅2−02=4>0 かつ fxx=2>0 なので極小。
f(2,3)=4+9−8−18+13=0
極小値は 0。
検算: f(x,y)=(x−2)2+(y−3)2+(13−4−9)=(x−2)2+(y−3)2 と平方完成できる。これは (2,3) で最小値 0 をとる。一致する。
どう問われるか
- 一次では「指定された関数の偏導関数」「重積分の値」を求める計算が頻出。
- 二次では「ヘッセ行列を用いた極値判定」「積分順序を変更して重積分を計算」「ラグランジュの未定乗数法による条件付き極値」など、多変数特有の応用が問われます。
よくまちがえるところ
多変数では、1変数の感覚をそのまま持ち込むことが誤りのもとになります。
| まちがい | 例 | 直し方 |
|---|
| 偏微分と全微分を混同する | dz を (∂f/∂x) dx だけで書く | dz = (∂f/∂x) dx + (∂f/∂y) dy。両方の寄与を足す |
| 偏微分のとき他の変数まで動かす | f = x²y の f_x を 2xy + x² とする | y は定数扱い。f_x = 2xy、f_y = x² |
| ヘッセ行列の判定条件を半分だけ使う | 判別式 D が正だから極小と決める | D が正かつ f_xx が正で極小、f_xx が負で極大 |
| 判別式が負のときを判定不能とする | D が負の停留点を極値に数える | D が負なら鞍点(極値でない)。判定不能は D = 0 のとき |
いちばん多いのは極値判定の条件を半分しか見ないことです。判別式 D = f_xx f_yy - (f_xy)² は「そこが極値かどうか」しか教えてくれず、極大か極小かは f_xx(または f_yy)の符号で決まります。D が正のとき f_xx と f_yy は同符号になるので、どちらを見ても同じ結論になります。順序としては、まず停留点(f_x = 0 かつ f_y = 0)を求め、次に D の符号で「極値か鞍点か」、最後に f_xx の符号で「極大か極小か」と3段階で決める、と決めておくと取りちがえません。
積分順序の変更も要注意です。0 ≦ x ≦ 1、0 ≦ y ≦ x の三角形領域を y から先に積むと ∫(0 から 1) ∫(0 から x) の形ですが、順序を変えると ∫(0 から 1) ∫(y から 1) dx dy になります。上下限をそのまま入れかえるのは誤りで、必ず領域の図を描き直してください。
極値判定の手順
| 順番 | すること | 確かめること |
|---|
| 1 | f_x と f_y を計算する | 他の変数を定数として扱えているか |
| 2 | f_x = 0 かつ f_y = 0 を解く | 停留点をすべて求める(複数あることが多い) |
| 3 | f_xx、f_yy、f_xy を計算する | f_xy = f_yx になっているか(連続なら一致する) |
| 4 | 各停留点で D = f_xx f_yy - (f_xy)² を求める | 符号を見る |
| 5 | D が正なら f_xx の符号で極大・極小を決める | D が負なら鞍点、D = 0 なら別の方法が要る |
| 6 | 極値の値 f(a, b) を計算する | 平方完成や具体値の代入で確かめる |
判定の対応をまとめます。
| 判別式 D | f_xx | 判定 |
|---|
| 正 | 正 | 極小 |
| 正 | 負 | 極大 |
| 負 | 問わない | 鞍点(極値でない) |
| 0 | 問わない | この判定法では決まらない |
大事: 混合偏微分 f_xy と f_yx は、2階偏導関数が連続であれば一致します(シュワルツの定理)。これは強力な検算になります。f = x²y + sin(xy) なら f_xy も f_yx も 2x + cos(xy) - xy sin(xy) となり、一致することで両方の計算が同時に確かめられます。
自分でチェック
- 全微分が両方の偏微分の寄与の和だと書ける
- 偏微分のとき他の変数を定数として扱える
- 極値判定を D の符号と f_xx の符号の2段階で行える
- D が負なら鞍点、D = 0 なら判定不能と言い分けられる
- 積分順序を変えるとき領域を描き直して上下限を書き換えられる
まとめ
- 偏微分は「他の変数を定数とみて1変数微分」
- 全微分 dz=fxdx+fydy、連鎖律で t 微分
- 重積分は累次積分(フビニの定理)、積分順序の変更で検算
- 極値はヘッセ行列の判別式 D=fxxfyy−fxy2 で判定
次章では、複素数を変数とする関数を扱う複素解析(正則関数・コーシーの定理・留数)を学びます。