この章で学ぶこと
ベクトルと行列を扱う線形代数の基礎を学びます。行列式と連立一次方程式、線形空間の概念は、次章の固有値・対角化の土台になります。
- 行列の演算と逆行列
- 行列式の計算と性質
- 連立一次方程式(掃き出し法・クラメルの公式)
- 線形空間・一次独立・基底と次元
- 行列の階数(ランク)
ポイント: 線形代数の中心は「連立一次方程式を行列で扱う」ことです。行列式が 0 かどうかで「解が一意か」が決まり、階数が解の自由度を測ります。計算は機械的に正確に。
1. 行列の演算と逆行列
2×2 行列 A=(acbd) の行列式は detA=ad−bc。detA=0 のとき逆行列が存在し、
A−1=ad−bc1(d−c−ba)
例題: A=(2513) の逆行列を求めよ。
detA=2⋅3−1⋅5=1=0 なので逆行列が存在する。
A−1=11(3−5−12)=(3−5−12)
検算: AA−1=(2513)(3−5−12)=(6−515−15−2+2−5+6)=(1001)。単位行列になる。正しい。
2. 行列式
3×3 行列式は余因子展開(第1行で展開)で計算できます。
detadgbehcfi=a(ei−fh)−b(di−fg)+c(dh−eg)
行列式の主な性質:
- 2つの行(列)を入れ替えると符号が変わる
- ある行(列)を定数倍すると行列式も同じ倍率になる
- ある行に他の行の定数倍を加えても行列式は変わらない
- det(AB)=(detA)(detB)、det(A−1)=(detA)−1
例題: det102231014 を求めよ。
第1行で余因子展開する。
1⋅(3⋅4−1⋅1)−2⋅(0⋅4−1⋅2)+0⋅(0⋅1−3⋅2)
=1⋅(12−1)−2⋅(0−2)+0=11+4=15
検算: 第1列で展開して確認。1⋅(3⋅4−1⋅1)−0+2⋅(2⋅1−0⋅3)=1⋅11+2⋅2=11+4=15。一致する。
3. 連立一次方程式
連立一次方程式 Ax=b は、A が正則(detA=0)なら x=A−1b で一意に解けます。2×2 ではクラメルの公式も便利です。
例題: 連立方程式 {2x+y=5x+3y=5 を解け。
係数行列 A=(2113)、detA=6−1=5。クラメルの公式により
x=51det(5513)=515−5=2,y=51det(2155)=510−5=1
検算: 2⋅2+1=5(∘)、2+3⋅1=5(∘)。両式を満たす。よって x=2, y=1。
大事: detA=0 のときは、解が「ない」か「無数にある」かのどちらかです。このとき係数行列を掃き出し法(行基本変形)で簡約化し、階数を調べて解の様子を判定します。
4. 線形空間・一次独立・基底
ベクトルの集合がたし算とスカラー倍について閉じているものを線形空間(ベクトル空間) といいます。ベクトル v1,…,vk が一次独立とは、
c1v1+⋯+ckvk=0⟹c1=⋯=ck=0
が成り立つこと。空間全体を生成する一次独立なベクトルの組を基底、その個数を次元といいます。
例題: v1=(12), v2=(34) は一次独立か。
c1v1+c2v2=0 は係数行列 (1234) の連立方程式。det=1⋅4−3⋅2=−2=0 なので、自明な解 c1=c2=0 のみ。よって一次独立で、R2 の基底をなす。
検算: det=0 ⇔ 列ベクトルが一次独立、という同値性と整合する。2 本の独立なベクトルが R2(次元 2)を張る。正しい。
5. 行列の階数(ランク)
行列の階数(ランク) は、行基本変形で階段形にしたときの「0 でない行の本数」で、独立な行(列)の最大本数に等しいです。
例題: A=(122436) の階数を求めよ。
第2行から第1行の 2 倍を引く。
(122436)→(102030)
0 でない行は1本なので rankA=1。
検算: 第2行は第1行のちょうど 2 倍で独立でない。独立な行は1本だけ。階数 1 と整合する。
大事: 連立方程式 Ax=b(n 変数)の解は、rankA=rankRUBY0END=n なら一意、=r<n なら n−r 個の自由度をもつ無数解、rankA<rankRUBY1END なら解なし。階数は解の構造を決める要です。
どう問われるか
- 一次では「行列式・逆行列・連立方程式の解」を求める計算が頻出。3×3 の行列式や 3 変数の連立も。
- 二次では「ベクトルの一次独立性・基底・次元の判定」「階数を用いた解の存在条件の議論」など、概念の理解を問う記述が出ます。
よくまちがえるところ
線形代数では、数の計算の常識を行列に持ち込むことと、階数の読み方の誤りが目立ちます。
| まちがい | 例 | 直し方 |
|---|
| 行列式が和について分配すると思う | det(A + B) = det A + det B とする | 成り立たない。積については det(AB) = det A det B が成り立つ |
| 行の定数倍で行列式が変わらないと思う | 1行を2倍しても行列式は同じとする | 行列式も2倍になる。n次で全体を k 倍すると k の n乗倍 |
| 一次独立を「たがいに定数倍でない」で済ませる | 3本のベクトルが2本ずつ独立だから全体も独立とする | 定義に戻る。線形結合が零ベクトルなら係数がすべて 0 |
| 係数行列の階数だけで解の存在を判断する | 階数が2だから解ありとする | 拡大係数行列の階数と比べる。両者が異なれば解なし |
いちばん多いのは一次独立の判定を見た目で済ませることです。2本ずつは独立でも、3本目が前2本の線形結合で書けてしまえば、全体としては一次従属です。たとえば (1,0,0)、(0,1,0)、(1,1,0) はどの2本も独立ですが、3本目が1本目と2本目の和なので全体は従属です。判定は必ず定義、つまり「線形結合が零ベクトルになるのは係数がすべて 0 のときに限る」に戻り、係数行列の階数を調べてください。ベクトルの本数と階数が一致すれば一次独立です。
階数で解を読み分ける
連立一次方程式の解の様子は、2つの階数の比較だけで決まります(変数の個数を n とします)。
| 係数行列の階数 | 拡大係数行列の階数 | 解の様子 |
|---|
| r | r より大きい | 解なし(矛盾する式がある) |
| n | n | ただ1つの解 |
| r(n より小さい) | 同じ r | 無数の解。自由度は n - r |
行基本変形で階段形にしていく手順は次のとおりです。
| 順番 | すること |
|---|
| 1 | 拡大係数行列(係数と右辺を並べたもの)を作る |
| 2 | 左上から順に、その列の先頭が 0 でない行を上へ持ってくる |
| 3 | その行を使って、下の行の同じ列を 0 にする |
| 4 | 次の列へ移り、2と3をくり返す |
| 5 | 0 でない行の本数を数える。これが階数 |
| 6 | 係数部分の階数と拡大係数行列の階数を比べる |
行基本変形は行の入れかえ・行の定数倍・ある行に他の行の定数倍を加える、の3種類だけです。連立方程式を解く途中で列を入れかえると変数の対応がずれるので、行の変形に統一してください。
大事: 正方行列 A について、次はすべて同値です。行列式が 0 でない、逆行列をもつ、階数が次数に等しい、列ベクトルが一次独立、連立方程式 Ax = b がどんな b に対しても唯一の解をもつ。どれか1つを確かめれば残りも言えるので、問題に応じていちばん計算が楽なものを選べます。
自分でチェック
- det(A + B) が det A + det B にならないと言える
- 行を定数倍したときの行列式の変化を説明できる
- 一次独立を定義(線形結合と係数)で判定できる
- 係数行列と拡大係数行列の階数を比べて解の有無を判定できる
- 行列式が 0 でないことと同値な条件をいくつか挙げられる
まとめ
- 2×2 逆行列は ad−bc1(d−c−ba)
- 行列式は余因子展開、det(AB)=detAdetB
- 連立方程式はクラメルの公式・掃き出し法、det=0 で一意解
- 一次独立・基底・次元、階数が解の自由度を測る
次章では、行列の最も重要な性質である固有値・固有ベクトル・対角化・二次形式を学びます。