この章で学ぶこと
解析の土台となる1変数関数の微分を、大学レベルで整理します。高校で学んだ微分を、平均値の定理とテイラー展開という強力な道具で深めます。
- 導関数の定義と基本的な微分公式
- 合成関数・積・商の微分
- 平均値の定理(ロルの定理・ラグランジュの平均値の定理)
- テイラー展開・マクローリン展開
- ロピタルの定理による不定形の極限
ポイント: 微分の中核は「局所的な変化率」です。テイラー展開は関数を多項式で近似する技法、平均値の定理は「微分の情報から関数全体の性質を引き出す」橋渡しの定理です。
1. 導関数の定義と基本公式
関数 f の点 x における導関数は、極限
f′(x)=limh→0hf(x+h)−f(x)
が存在するとき、その値として定義されます。この極限が存在するとき f は x で微分可能であるといい、微分可能ならばそこで連続です(逆は成り立ちません)。
基本的な微分公式:
| 関数 | 導関数 |
|---|
| xn | nxn−1 |
| ex | ex |
| logx | x1 (x>0) |
| sinx | cosx |
| cosx | −sinx |
| tanx | cos2x1=sec2x |
2. 合成関数・積・商の微分
- 積の微分: (fg)′=f′g+fg′
- 商の微分: (gf)′=g2f′g−fg′ (g=0)
- 合成関数(連鎖律): dxdf(g(x))=f′(g(x))g′(x)
例題: y=x2e3x を微分せよ。
積の微分を使う。f=x2, g=e3x とおくと f′=2x、g′=3e3x(連鎖律)。
y′=2xe3x+x2⋅3e3x=(2x+3x2)e3x=x(2+3x)e3x
検算: x=0 で y′=0。一方 y=x2e3x は x=0 で最小値 0 をとり接線が水平なので y′(0)=0 と整合する。
3. 平均値の定理
ロルの定理: f が閉区間 [a,b] で連続、開区間 (a,b) で微分可能で f(a)=f(b) ならば、f′(c)=0 を満たす c∈(a,b) が存在する。
ラグランジュの平均値の定理: f が [a,b] で連続、(a,b) で微分可能ならば、
b−af(b)−f(a)=f′(c)
を満たす c∈(a,b) が存在する。
例題: f(x)=x2 について、区間 [1,3] で平均値の定理を満たす c を求めよ。
3−1f(3)−f(1)=29−1=4=f′(c)=2c
よって c=2。これは (1,3) の内部にあり、定理の主張と整合する。
検算: f′(2)=2⋅2=4、平均変化率も 4。一致する。
4. テイラー展開とマクローリン展開
f が点 a の近くで何回でも微分可能なとき、a のまわりのテイラー展開は
f(x)=∑n=0∞n!f(n)(a)(x−a)n
特に a=0 の場合をマクローリン展開といいます。代表的な展開:
ex=∑n=0∞n!xn=1+x+2!x2+3!x3+⋯
sinx=∑n=0∞(2n+1)!(−1)nx2n+1=x−3!x3+5!x5−⋯
cosx=∑n=0∞(2n)!(−1)nx2n=1−2!x2+4!x4−⋯
1−x1=∑n=0∞xn=1+x+x2+⋯(∣x∣<1)
例題: log(1+x) のマクローリン展開を x3 の項まで求めよ。
f(x)=log(1+x) とおく。導関数を順に計算する。
f′(x)=1+x1,f′′(x)=−(1+x)21,f′′′(x)=(1+x)32
x=0 での値は f(0)=0、f′(0)=1、f′′(0)=−1、f′′′(0)=2。よって
log(1+x)=0+1⋅x+2!−1x2+3!2x3+⋯=x−2x2+3x3−⋯
検算: 既知の展開 log(1+x)=∑n=1∞n(−1)n−1xn と各係数が一致(1,−21,31)する。正しい。
大事: テイラー展開には剰余項(誤差)が付きます。f(x)=∑k=0nk!f(k)(a)(x−a)k+Rn で、ラグランジュ型剰余は Rn=(n+1)!f(n+1)(ξ)(x−a)n+1(ξ は a と x の間)。近似の精度を議論するときに使います。
5. ロピタルの定理
00 や ∞∞ の不定形の極限は、分子分母を微分して比べられます。
ロピタルの定理: x→a で f,g→0(または ±∞)で、g′(x)=0 かつ limg′(x)f′(x) が存在すれば、x→alimg(x)f(x)=x→alimg′(x)f′(x)。
例題: x→0limx3sinx−x を求めよ。
x→0 で分子分母とも 0。ロピタルを3回適用するか、テイラー展開を使う。展開で計算すると
sinx−x=(x−6x3+⋯)−x=−6x3+⋯
limx→0x3sinx−x=limx→0x3−6x3+⋯=−61
検算: ロピタルで確認。1回微分で 3x2cosx−1(0/0)、2回で 6x−sinx(0/0)、3回で 6−cosx→−61。一致する。
どう問われるか
- 一次では「指定された関数の導関数を求めよ」「不定形の極限を求めよ」が頻出。積商・連鎖律を素早く正確に。
- 二次では「テイラー展開を用いて近似値や極限を求める」「平均値の定理を用いて不等式を証明する」など、定理の活用が問われます。
よくまちがえるところ
微分法では、定理の適用条件を確かめないまま道具を使うことが最大の失点源です。
| まちがい | 例 | 直し方 |
|---|
| 不定形でないのにロピタルの定理を使う | x → 0 の (x + 1)/cos x に適用し、1/(-sin x) から発散と答える(正しくは 1) | 0/0 か ∞/∞ になっていることを先に確認する |
| ロピタルで商の微分をしてしまう | (f/g)' を計算して極限をとる | 分子と分母を別々に微分して f'/g' を作る |
| 微分可能と連続を逆に理解する | 「連続だから微分可能」とする | 微分可能ならば連続。逆は偽(絶対値の関数は x = 0 で連続だが微分不可能) |
| テイラー展開の剰余項を無視する | 有限項で切ったものを等号で結ぶ | 有限項なら剰余項 R_n を付ける。近似の誤差はここで評価する |
いちばん多いのはロピタルの空回りです。ロピタルの定理は、x → a で分子分母がともに 0(または ともに ±∞)に近づき、g'(x) が 0 でなく、しかも f'/g' の極限が存在するときに限って使えます。この確認を飛ばすと、そもそも不定形でない式に適用して誤った値を出したり、微分するたびに形が複雑になって永久に終わらなかったりします。sin x のような関数が絡む極限は、テイラー展開のほうが速く確実なことが多いので、まず展開を試すのが実戦的です。
不定形の処理を使い分ける
不定形は7種類ありますが、処理は「0/0 か ∞/∞ に持ち込む」の一点に集約されます。
| 不定形 | 処理 | 例 |
|---|
| 0/0 | ロピタル、またはテイラー展開 | (sin x - x)/x³ → -1/6 |
| ∞/∞ | ロピタル、または最高次でくくる | x/e^x → 0 |
| 0 × ∞ | 一方を分母に移して 0/0 か ∞/∞ に | x log x (x → +0) → 0 |
| ∞ - ∞ | 通分・有理化して1つの分数に | √(x²+x) - x → 1/2 |
| 1 の ∞乗 | 対数をとって 0 × ∞ に | (1 + 1/x)^x → e |
| 0 の 0乗 | 対数をとる | x^x (x → +0) → 1 |
| ∞ の 0乗 | 対数をとる | x^(1/x) (x → ∞) → 1 |
対数をとる型は、y = f(x)^g(x) とおいて log y = g(x) log f(x) の極限を求め、最後に指数に戻すのが手順です。log y → L なら y → e^L です。
大事: マクローリン展開 e^x = 1 + x + x²/2! + x³/3! + ...、sin x = x - x³/3! + x⁵/5! - ...、cos x = 1 - x²/2! + x⁴/4! - ...、log(1+x) = x - x²/2 + x³/3 - ... の4つは暗記しておくと、0/0 型の極限をほぼ即答できます。分子と分母を必要な次数まで展開し、最低次の項どうしを比べるだけです。
自分でチェック
- ロピタルの定理を使う前に不定形であることを確認できる
- ロピタルは分子と分母を別々に微分すると言える
- 微分可能ならば連続、逆は成り立たないと説明できる
- 主要な4つのマクローリン展開を書ける
- 1 の ∞乗 の形を対数をとって処理できる
まとめ
- 導関数は変化率の極限。積商・連鎖律で複雑な関数も微分できる
- 平均値の定理は「平均変化率 = ある点の微分係数」を保証する
- テイラー展開は関数を多項式で近似(ex,sinx,cosx,log(1+x) は暗記)
- 不定形の極限はロピタルの定理かテイラー展開で
次章では、微分の逆である積分法(積分技法・定積分・広義積分)を学びます。