この章で学ぶこと
マネジメント系 20 問のうち、この章は **4〜6 問**ほどの出題があります。「システムが止まったらどう直す?」「止まらないようにどう管理する?」「サービス品質の契約ってどう作る?」「社内の不正をどう防ぐ?」といった、**システムを作った後の運用・管理・監査**にまつわる章です。
前章(プロジェクトマネジメント)がシステムを**作る**話なら、この章は**作った後に安定稼働させ、健全に管理する**話。地味だけど IT 部門で最も人手と時間がかかる領域で、実務と直結する論点が多いです。
学習ゴール
この章を読み終えた時点で、以下ができるようになっていることを目指します。
- ITIL の主要プロセス(インシデント・問題・変更管理等)をシナリオから**判別**できる
- SLA・SLM・SLO・OLA の違いを使いこなせる
- サービスデスクの機能と役割、エスカレーションの種類を判別できる
- ファシリティマネジメント(UPS・無停電電源装置・PUE 等)の要素を使いこなせる
- システム監査の目的・手順・独立性を説明できる
- 内部統制(J-SOX・COSO・職務分掌)を判別できる
試験では: 「このシナリオは何管理?」の判別問題が中心。たとえば「障害でサーバが落ちた → 待機系に切り替えた」=インシデント管理、「なぜ落ちたか根本原因を調べた」=問題管理、のように**目的で区別**する訓練をする。
1. サービスマネジメントの基礎と ITIL
サービスマネジメントとは、「IT サービスを止めずに提供し続ける」ための一連の活動。システムを作るのは一時的な仕事(プロジェクト)ですが、運用はシステムが使われている**数年〜数十年にわたって続く**長期活動です。「24 時間止まらない銀行 ATM」「月に 1 回しか落ちない EC サイト」のような**品質の高いサービス**を維持するには、体系的な管理が必要。その世界的ベストプラクティスが ITIL です。
1.1 サービスマネジメントとは
IT サービスを**安定的に提供し続けるための管理活動全般。作ったシステムを「動かし続ける」**運用・保守フェーズの根幹で、**インシデント対応・構成管理・変更管理・キャパシティ管理**などを含みます。
具体例: オンラインバンキングを 365 日 24 時間止めずに動かすには、**監視(異常検知)・バックアップ・冗長化・障害対応手順・定期メンテナンス計画が欠かせません。これらシステムを使い続けるための裏方仕事**がサービスマネジメント。日本では「運用保守」とも呼ばれますが、体系化された枠組みとして ITIL が使われます。
ITIL(アイティル)は、IT サービスマネジメントのベストプラクティス集。1980 年代に英国政府が策定し、現在は世界標準として採用されています。SLA・インシデント管理・問題管理・変更管理など、本章で学ぶ用語の**多くが ITIL 由来**です。最新版は ITIL 4(2019〜)。
ITIL の特徴は「こうすべき」と断定するのではなく、「こうした方がうまくいきやすい」という**推奨事項のライブラリである点。各組織が自社のサイズ・業種に合わせて取捨選択**するのが基本です。
ポイント: ITIL は**枠組み・用語の標準であって、絶対守るべき法律ではない**。実務では自社の規模・業種に合わせてカスタマイズするのが普通。
1.3 SLA と SLM
**サービス品質を数値化して取り決めるのが SLA(Service Level Agreement)、それを継続的に守る活動が SLM(Service Level Management)。SLA を結んだだけでは意味がなく、毎月の実績を測って改善する SLM の運用**とセットで初めて機能します。
- SLA(Service Level Agreement) — サービス品質の**合意書。稼働率・応答時間等を数値化した契約文書**
- SLM(Service Level Management) — SLA を達成するための**継続的管理活動**(PDCA)
- SLO(Service Level Objective) — SLA に書かれるサービス目標値(例: 稼働率 99.9% 以上)
- OLA(Operational Level Agreement) — 社内部門間での合意(SLA は社外契約、OLA は社内合意)
具体例: AWS の SLA では「月間稼働率 99.99% 未満なら返金」のような条項があります。もし 99.99% を割った場合、ユーザーは使用料の一部返金を受けられます。単なる約束ではなく、違反時のペナルティまで決めてあるのが SLA の契約文書としての特徴。
頻出引っかけ: SLA は文書、SLM は管理プロセス。SLA「Agreement」の A が「合意・契約」、SLM「Management」の M が「継続管理」。SLA を作っただけでは意味がなく、SLM で守り続ける活動とセットで初めて機能する。
2. サービスマネジメントの主要プロセス
ITIL のプロセス群は大きく「日常運用系」と「ユーザ窓口系」に分かれます。日常運用ではインシデント・問題・変更・構成・リリースの 5 大プロセスが中心。それぞれ「何を目的とした活動か」で区別され、試験では**シナリオからプロセス名を当てる問題**が頻出です。
2.1 日常運用系プロセス
日常運用は、「トラブル対応」と「変更時の安全確保」が二本柱。5 つのプロセスはそれぞれ異なる役割を持ち、互いに連携して動きます。特にインシデント管理(早期復旧)と問題管理(根本対策)の違いは、毎年必ず出題される鉄板論点です。
| プロセス | 内容 | 目的 |
|---|
| **[[インシデント管理 | インシデントかんり]]** | 障害やトラブルの**早期復旧** |
| **[[問題管理 | もんだいかんり]]** | インシデントの**根本原因**分析と恒久対策 |
| **[[変更管理 | へんこうかんり]]** | システム変更のリスクを抑えて実施 |
| **[[構成管理 | こうせいかんり]]**(CMDB) | 構成要素(機器、ソフト、ドキュメント)の管理 |
| **[[リリース管理 | リリースかんり]]** | 本番環境への展開管理 |
- ⚠ 障害発生
- ① インシデント管理(短期)
目的: できるだけ早くサービス復旧
手段: 暫定対応・回避策(再起動・代替系切替)
- ② 問題管理(中長期)
目的: 根本原因を突き止めて恒久対策
手段: 根本原因分析・既知のエラー登録
「とりあえず動かす(インシデント)」と「再発防止する(問題)」を分けて運用する。
頻出引っかけ: 「サーバーがダウン → とりあえず再起動して復旧させた」は インシデント管理(暫定対応)。「ダウンの根本原因を調べてメモリリークを修正、再発を防いだ」は 問題管理(恒久対策)。同じ事象でも段階で呼び方が違う。
2.2 サービスデスク
サービスデスクは利用者(社員・顧客)からの問い合わせ・障害連絡の**窓口。電話・メール・チャットで受け付け、簡単な案件は自分で解決し、難しい案件は専門部門にエスカレーション(引き継ぎ)します。企業における IT の顔**であり、ここの質がユーザ満足度を大きく左右します。
| 型 | 特徴 | 利点・欠点 |
|---|
| ローカルサービスデスク | 拠点ごとに設置 | 地元密着で文化的にも近い / 重複コスト |
| 中央サービスデスク | 1 箇所に集約 | コスト効率 / 時差・言語の問題 |
| バーチャルサービスデスク | 仮想的に統合(分散配置だが統一的に運用) | 柔軟性 / 管理複雑 |
| フォロー・ザ・サン | 時差を活用して 24 時間対応(東京→ロンドン→NY の 3 拠点リレー) | 24 時間対応 / 拠点管理コスト |
2.3 エスカレーション
エスカレーションは、サービスデスクで対応しきれない案件を**上位や専門部門に引き継ぐ**仕組み。2 つのタイプがあり、「誰に」「なぜ」引き継ぐかが違います。試験では **機能的 vs 階層的**の区別が問われます。
- 機能的エスカレーション — **専門知識を持つ担当者**へ引き継ぎ(例: ネットワーク障害なら NW エンジニアへ)
- 階層的エスカレーション — **上位管理者**へ報告・権限委譲依頼(例: 大規模障害なら IT 部長へ)
引っかけ: 機能的 = 専門(横方向)、階層的 = 上司(縦方向)。技術的に難しい案件は機能的、組織的判断が必要な案件は階層的。
3. ファシリティマネジメント
ファシリティマネジメントは「IT 設備や物理環境を適切に管理する」活動。サーバルームの空調・電源・防火、災害対策、データセンタの省エネなどが対象です。システムが動く**物理的な基盤を守らないと、どんなに優秀なソフトウェアも意味を成しません。大規模災害(停電・地震・水害)で業務が止まらないよう、二重化・代替系・省エネ**の設計が求められます。
3.1 物理環境の管理
サーバルーム・データセンタの**物理セキュリティと設備管理は、IT サービス継続の土台。とくに電源管理は最重要で、瞬停(一瞬の停電)でも機器が壊れたりデータが飛ぶリスクがあります。そのため多段階の電源バックアップ**が標準設計になっています。
- サーバルーム — **空調・電源・消火・入退室管理**を統合した専用設備
- UPS(無停電電源装置) — 瞬停(数分〜10 分)対策。バッテリで一時的に給電、安全にシャットダウンできる
- 自家発電装置 — 長時間停電対策(数時間〜数日)。ディーゼル発電機など
- 冗長化電源(二系統受電) — 電力会社系統を**二重化**(A 社 + B 社から受電)
- ホットスタンバイ — 予備機を常時稼働させ、障害時に瞬時切替
頻出: 電源対策の段階 — 瞬停対策 = UPS、長時間停電対策 = 自家発電。この 2 つは**対応時間スケールが違う**ので役割分担。UPS は自家発電が起動するまでの「つなぎ」としても機能する。
3.2 環境への配慮
IT 機器は**大量の電力を消費します。世界のデータセンタの電力消費量は、世界の電力消費の2% に達すると言われており、環境配慮が経営課題になっています。これを背景にグリーン IT・PUE 指標・省エネ法**などの概念が重視されるようになりました。
- グリーン IT — 環境負荷を減らす IT 活用(**省電力 CPU・仮想化による集約・クラウド移行**など)
- PUE(Power Usage Effectiveness) — データセンタの**電力効率指標**(1.0 に近いほど効率的)
- 省エネ法 — 一定規模以上の事業者に**エネルギー使用合理化**を義務付け
PUE の計算: PUE = データセンタ全体の消費電力 ÷ IT 機器の消費電力。1.0 なら IT 機器以外(空調・照明)の電力がゼロの理想状態。日本の平均は約 1.7、先進的な施設は 1.2 未満。
4. システム監査
システム監査は「情報システムが適切に運用されているか、独立した第三者が検証する」活動です。会社が IT に依存する時代になり、システムが止まる・情報が漏れる・不正が起きるなどのリスクが経営を揺るがすようになりました。これを**客観的にチェックする仕組みがシステム監査で、上場企業には金融商品取引法で監査が義務化**されています。
4.1 システム監査の目的
情報システムが**安全(セキュリティ)・効率的(コスト適正)・効果的(業務に役立つ)に運用されているか、独立した第三者が検証する活動。単なる技術チェックではなく、経営目標と IT の整合性を見ます。監査結果は改善指導に活かされ、健全な IT 運営**に貢献します。
具体例: ある企業のシステム監査で「バックアップは取られているが、復元テストが 3 年間されていない」と指摘されたら、それは重大リスク。本当に復元できるか未検証のバックアップは、災害時に使えない可能性があります。こうした運用上の見落としを発見するのが監査の役割。
4.2 監査人の独立性
監査人(Auditor)は、被監査部門と独立した立場で検証する必要があります。同じ部署の人が監査すると身内の不正を見逃しやすいため、客観性を担保する仕組みとして「独立性」が 3 つの観点で求められます。
- 外観上の独立性 — 被監査部門と組織的に独立(別部署、あるいは社外の第三者機関)
- 精神上の独立性 — 公正不偏な姿勢(身内贔屓せず、事実のみで判断)
- 適格性 — 専門知識と経験(IT と監査の両方に精通)
引っかけ: 監査人は被監査部門の業務を自ら改善してはならない。改善は被監査部門の責任、監査人は**指摘と助言のみ**。監査人が改善まで関与すると**独立性が損なわれる**(「自分が作った仕組みを自分で監査」する状態になる)。
4.3 監査のプロセス
監査は6 段階のプロセスで進みます。計画から実行、報告、フォローアップまで体系化されており、単発ではなく**継続的な PDCA** として運用されます。試験では**各段階で何をするか**が問われます。
- 監査計画の策定 — 監査範囲・スケジュール・手続きを計画
- 予備調査 — 事前情報収集(組織図・業務フロー・システム構成)
- 本調査 — 証拠収集(インタビュー・文書確認・実地テスト・データ分析)
- 評価・結論 — 収集した証拠に基づく判定
- 報告書作成と提出 — 監査結果・指摘事項・改善提案を文書化
- 改善指導・フォローアップ — 指摘事項の**改善状況を後日確認**
4.4 システム監査基準・管理基準
経済産業省が策定した**監査の拠り所となる公的基準が 2 つあります。「監査する側の行動規範」と「監査される側の管理項目」という監査人 / 被監査者の両面**から基準が作られています。
- システム監査基準 — 監査人の行為規範(経済産業省策定)
- システム管理基準 — 情報システムの管理項目のチェックリスト(経済産業省策定、被監査者向け)
5. 内部統制と IT ガバナンス
内部統制は「会社自身が不正や誤りを防ぐ仕組み」。上場企業には法律で義務付けられており、監査とは別に**組織内部での継続的な統制活動が求められます。特に財務報告の信頼性**を担保する J-SOX 制度(内部統制報告制度)は、日本の上場企業全社に適用されています。
5.1 内部統制の 4 つの目的
内部統制は**4 つの目的**を達成するための仕組み。金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で定義されています。経営層が主導し、全社員が役割を持って取り組みます。
- 業務の有効性・効率性 — 業務が目的に沿って効率的に行われているか
- 財務報告の信頼性 — 決算書に嘘がないか(最重要、J-SOX の中核)
- 関連法規の遵守 — コンプライアンス
- 資産の保全 — 会社資産(現金・在庫・情報)が守られているか
5.2 内部統制の基本要素(COSO フレームワーク)
COSO フレームワークは、国際的な内部統制の教科書。米国で策定され世界的に採用されています。日本の J-SOX もこれに準拠しつつ、**「IT への対応」を 6 番目に独自追加**しているのが特徴です。
- 統制環境 — 組織文化・倫理観の土台
- リスク評価 — リスクを特定・分析・評価
- 統制活動 — 不正防止のための手続き(承認・分掌等)
- 情報と伝達 — 必要な情報を関係者に伝達
- モニタリング — 内部統制の有効性を継続監視
- IT への対応 — 日本独自の追加項目(IT 依存の時代への対応)
頻出: 「IT への対応」は COSO にない日本版独自の 6 つ目要素。金融商品取引法に基づく日本版 SOX(J-SOX)で追加された。国際フレームワークに日本流アレンジを加えた形。
5.3 主な内部統制関連制度
内部統制に関連する制度・フレームワークは複数あり、それぞれ**役割が違います**。COSO は国際的な内部統制の枠組み、J-SOX は日本の法律、COBIT は IT ガバナンスの枠組み、のように整理すると混乱しません。
| 制度 | 内容 | 主体 |
|---|
| J-SOX(内部統制報告制度) | 金融商品取引法に基づく、上場企業の内部統制評価 | 日本(法律) |
| COSO | 国際的な内部統制フレームワーク | 米国(自主基準) |
| COBIT | IT ガバナンスのフレームワーク | ISACA(自主基準) |
頻出: J-SOX は日本の法律・義務、COSO は国際標準のフレームワーク、COBIT は IT ガバナンス専用。3 つを混同しないように。日本の上場企業に強制されるのは J-SOX。
5.4 IT ガバナンス
IT ガバナンスは「経営戦略と IT を整合させ、IT 投資の効果を最大化する統制活動」。IT は経営の根幹を支える時代になりましたが、現場の IT 部門が勝手に投資するのではなく、経営層が主導して方向性を決めるのが IT ガバナンスの要点です。
- IT 戦略委員会 — 経営と IT を結ぶ意思決定機関(経営陣 + IT 部門の合同委員会)
- CIO(Chief Information Officer) — 最高情報責任者。IT ガバナンスの責任者
- CISO(Chief Information Security Officer) — 最高情報セキュリティ責任者(セキュリティ専門)
具体例: 企業のデジタル変革(DX)推進で「基幹システムをクラウド化するか、オンプレで残すか」のような大きな判断は、IT 部門だけでは決められません。経営戦略・投資規模・リスク許容度を総合判断する **IT 戦略委員会で決定**し、CIO が遂行責任を持ちます。
5.5 職務分掌
開発と運用を分離、申請と承認を分離など、権限の集中を防ぐ仕組み。内部統制の基本。1 人が「何でもできる」状態は不正の温床になるので、業務を複数の役割に分け、相互チェックを効かせる。
| ⚠ NG(職務集中) | ✓ OK(職務分掌) |
1 人が全部できる
・開発・本番リリース
・申請・承認
・記録改ざんも可能
→ 不正の温床 |
役割を分離して相互チェック
・開発 ↔ 運用
・申請 ↔ 承認
・記帳 ↔ 出納
・注文 ↔ 検収 |
「権限を分離 → 相互チェック」が原則。
頻出引っかけ: **「開発担当者が本番システムにそのまま変更を反映できる」**は職務分掌違反の代表例。本番反映には別の運用担当者の承認・実施を要するのが内部統制の基本。
📋 章末まとめ
最重要ポイント 10 連発
- SLA と SLM の違い — 合意書と継続的管理
- インシデント vs 問題管理 — 早期復旧 vs 根本原因
- CMDB — 構成情報の一元管理データベース
- サービスデスクの型 — ローカル・中央・バーチャル・フォロー・ザ・サン
- UPS の役割 — 瞬停対策(長時間は自家発電)
- PUE の意味 — 1.0 に近いほど効率的
- システム監査の独立性 — 外観上・精神上
- J-SOX の目的 — 財務報告の信頼性確保
- COSO の 5(+1)要素 — 日本では IT 対応が追加
- 職務分掌 — 開発と運用を分離
出題傾向のコツ
- インシデント管理と問題管理の違いは頻出
- SLA は「サービス品質を数値で約束する文書」と覚える
- 監査は「第三者の視点」がキーワード