この章で学ぶこと
情報セキュリティは、IT パスポート試験で**最も重要かつ最も出題数の多い**分野です。100 問中おおよそ **10〜13 問**が情報セキュリティ関連から出題され、合格の最重要分野と言えます。
シラバス Ver.6.5 では中分類 23「セキュリティ」として位置づけられ、3 つの小分類で構成されています:
| 小分類 | 項目 | 本章の対応節 |
|---|
| 61 | 情報セキュリティ | 1・2 節 |
| 62 | 情報セキュリティ管理 | 3 節 |
| 63 | 情報セキュリティ対策・情報セキュリティ実装技術 | 4・5 節 |
この章をマスターすれば、テクノロジ系の得点を大きく押し上げられます。用語の定義・典型的な場面・試験でどう問われるかの 3 点セットで覚えるのがコツです。
学習ゴール
この章を読み終えた時点で、以下ができるようになっていることを目指します。
- CIA 3 要素(機密性・完全性・可用性)と拡張 4 要素(真正性・責任追跡性・否認防止・信頼性)を判別できる
- 主要な脅威(マルウェア・フィッシング・SQL インジェクション・DoS・標的型攻撃)を判別できる
- ISMS・JIS Q 27001・情報セキュリティポリシーを使いこなせる
- 暗号化(共通鍵・公開鍵)・デジタル署名・PKI・認証技術(多要素認証・生体認証)を判別できる
- 対策技術(ファイアウォール・IDS/IPS・WAF・アンチウイルス・DMZ)を使いこなせる
1. 情報セキュリティの 3 要素(CIA)
情報セキュリティの土台となる概念が CIA と呼ばれる 3 要素です。JIS Q 27000 でも定義されている基本中の基本。
| 頂点 | 要素 | 意味 | 失われると |
| C | 機密性(Confidentiality) | 認可者だけ閲覧可 | 情報漏えい |
| I | 完全性(Integrity) | 改ざんされていない | データ不整合 |
| A | 可用性(Availability) | 必要時に使える | サービス不能 |
3 要素を バランスよく 守る。どれか 1 つが極端に弱いと全体の安全性が下がる。
3 要素の定義
| 要素 | 英語 | 意味 | 失われると… |
|---|
| 機密性 | Confidentiality | 認可された者だけがアクセスできる状態 | 情報漏えい |
| 完全性 | Integrity | 情報が正確で、改ざんされていない状態 | データ改ざん・不整合 |
| 可用性 | Availability | 必要な時にアクセスできる状態 | システム停止・サービス不能 |
具体例で理解する
| 場面 | どの要素が守られている? |
|---|
| オンラインバンキングでパスワードを暗号化 | 機密性 |
| 振込金額が途中で書き換えられないよう[[電子署名 | でんししょめい]]を付与 |
| 銀行システムが 24 時間稼働するよう冗長化 | 可用性 |
拡張 4 要素(7 要素)
CIA に加え、以下もよく問われます:
- 真正性(Authenticity) — なりすましでないことを証明
- 責任追跡性(Accountability) — 誰がいつ何をしたか追跡可能
- 否認防止(Non-repudiation) — 「やってない」と後から言わせない
- 信頼性(Reliability) — 意図した動作を期待通り行う
試験での問われ方: 「ユーザー権限管理によって守られるのは CIA のどれか」「電子署名が実現するのは機密性か完全性か」のように、具体的な対策と 3 要素の対応を問う形が定番です。
2. 脅威・脆弱性・攻撃手法
2.1 脅威の分類
| 分類 | 例 |
|---|
| 人的脅威 | 誤操作・紛失・盗難・内部不正・ソーシャルエンジニアリング |
| 技術的脅威 | マルウェア・不正アクセス・盗聴・DoS |
| 物理的脅威 | 地震・火災・停電・侵入 |
脅威 × 脆弱性 = リスク という関係を押さえましょう。脅威があっても脆弱性がなければリスクは顕在化しません。
2.2 マルウェアの種類
マルウェア(Malicious Software)は**悪意のあるプログラム全般**の総称。感染経路と増殖方法で分類されます。ウイルスは寄生型、ワームは単独型、トロイの木馬は偽装型と特徴が異なり、ランサムウェアは近年の企業被害の主犯格。試験では種類と特徴の対応が頻出で、特にワームとウイルスの違い(自己増殖するかどうか)が定番の引っかけ。
| 種類 | 特徴 | 代表例 |
|---|
| ウイルス | 他のプログラムに**寄生して増殖** | ファイル感染型 |
| ワーム | 単独で自己増殖・ネットワーク経由で拡散 | Blaster、Conficker |
| **[[トロイの木馬 | トロイのもくば]]** | 無害を装って侵入し裏で悪事を働く(自己増殖しない) |
| ランサムウェア | データを暗号化して**身代金を要求** | WannaCry、Ryuk |
| スパイウェア | ユーザーの行動を監視・情報収集 | キー盗聴、広告追跡 |
| キーロガー | キーボード入力を記録 | パスワード窃取 |
| ボット | 攻撃者から遠隔操作される(複数集まるとボットネット) | DDoS 攻撃踏み台 |
| RAT | Remote Access Trojan。遠隔操作を可能にする | 標的型攻撃 |
引っかけ: ウイルス vs ワーム。ウイルスは**他のプログラムに寄生して増える(単独では動けない)、ワームは単独で自己増殖する(他のプログラム不要)。試験で「単独で増殖するマルウェアは?」と問われたらワーム**。
2.3 ソーシャルエンジニアリング
ソーシャルエンジニアリングは、技術的な脆弱性ではなく人間の心理を突く攻撃手口。どれだけシステムを堅牢にしても、人が騙されれば情報は漏れます。「振り込め詐欺」のデジタル版と考えると理解しやすい。**組織の弱点は人間**という発想で、教育・訓練が対策の中心になります。
- ショルダーハック — 肩越しにパスワードを盗み見(カフェでの作業、電車内)
- トラッシング(スキャビンジング) — ゴミ箱から情報を漁る(シュレッダー未処理の書類)
- フィッシング — 偽メール・偽サイトでパスワード等を入力させる(銀行の偽サイト)
- 標的型攻撃メール — 特定の組織を狙った偽装メール(取引先を装った添付ファイル)
- ビジネスメール詐欺(BEC) — 経営層や取引先になりすまして送金指示(国際的に大被害)
- スミッシング — SMS を使ったフィッシング(「荷物が届いています」等の偽 SMS)
- ビッシング — 電話を使ったフィッシング(サポート電話を装う)
頻出: 技術対策では防げないのがソーシャルエンジニアリングの特徴。対策は**教育・訓練・ルール**(机上整理・画面ロック・2 重確認等)。試験でも「パスワードポリシ強化では防げない攻撃は?」のような形で問われる。
2.4 主要な攻撃手法
| 攻撃 | 仕組み | 対策の鍵 |
|---|
| **[[ブルートフォース攻撃 | ブルートフォースこうげき]]** | すべての文字列を総当たりで試行 |
| **[[辞書攻撃 | じしょこうげき]]** | よくある単語を辞書として試行 |
| **[[パスワードリスト攻撃 | パスワードリストこうげき]]** | 他サイトから漏えいした ID/PW を流用 |
| レインボー攻撃 | ハッシュ値から元のパスワードを逆引き | ソルト付きハッシュ |
| SQL インジェクション | 入力欄に SQL を混入させて DB 操作 | プレースホルダ・入力値検証 |
| クロスサイトスクリプティング(XSS) | 他サイトへの罠スクリプトを埋込み | 出力エスケープ |
| クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF) | ログイン状態を悪用し意図しない操作を実行 | トークン検証 |
| ディレクトリトラバーサル | ../等でサーバ内の不正ファイルにアクセス | パス正規化 |
| **[[中間者攻撃 | ちゅうかんしゃこうげき]](MITM)** | 通信経路で盗聴・改ざん |
| MITB(Man-in-the-browser) | ブラウザ上のマルウェアが通信を改ざん | アンチウイルス・入力監視 |
| DNS キャッシュポイズニング | DNS サーバに偽情報を覚えさせる | DNSSEC |
| **DoS / [[DDoS 攻撃 | DDoS こうげき]]** | 大量リクエストでサービス停止させる |
| APT(Advanced Persistent Threat) | 長期間潜伏し標的を狙う高度持続型攻撃 | 多層防御・EDR |
| サプライチェーン攻撃 | 取引先や OSS 経由で侵入 | 納入元チェック・SBOM |
| **[[ゼロデイ攻撃 | ゼロデイこうげき]]** | パッチ公開前の脆弱性を突く |
| Adversarial Examples | AI モデルを誤認識させる細工入力 | モデル堅牢化・入力検証 |
試験での問われ方: シナリオ(例:「入力欄から DB が操作されました」)→ 攻撃名を選ぶ型が頻出。逆に「SQL インジェクション対策として適切なものは?」で選択肢から選ばせる型も出ます。
| 状況 | 入力 | 生成される SQL | 結果 |
| ✓ 正常な入力 | ID = "yamada" PW = "abc123" | WHERE id='yamada' AND pw='abc123' | 該当ユーザーのみログイン |
| ⚠ 攻撃の入力 | ID = ' OR '1'='1 PW = "x" | WHERE id='' OR '1'='1' AND pw='x' | '1'='1' が常に真 → 全ユーザーがマッチ → 不正ログイン |
対策: プレースホルダ(バインド機構) — 入力をエスケープして SQL の構造を変えさせない。
頻出引っかけ: SQL インジェクションの**対策はプレースホルダ(バインド変数)**。入力値検証だけでは不十分(複雑なエスケープが漏れることがある)。「サニタイジング」「エスケープ処理」も補助的だが、根本対策はプレースホルダ。
3. 情報セキュリティマネジメント
3.1 情報セキュリティポリシ
情報セキュリティポリシは、組織のセキュリティに関する**方針を文書化したもの。単に「頑張ります」ではなく、経営層の宣言 → 具体基準 → 手順書の 3 階層で体系化されます。法律に例えると「憲法 → 法律 → 施行規則**」の関係。トップダウンで方針を決め、現場の手順書まで落とし込むのが基本です。
| 階層 | 内容 | 位置づけ | 例 |
|---|
| 基本方針(ポリシ) | 経営者による宣言 | 全体の**憲法** | 「当社は情報資産を適切に保護する」 |
| 対策基準(スタンダード) | 遵守すべき具体的基準 | 法律 | 「パスワードは 12 文字以上、90 日で変更」 |
| 実施手順(プロシージャ) | 手順書・マニュアル | 細則 | 「パスワード変更の画面操作手順」 |
ポイント: 3 階層は**抽象 → 具体の順。基本方針は数十ページ程度、対策基準は数十〜数百ページ、実施手順は膨大な量になる。組織全体の方向性を示すのがポリシ**、**実務の指示は手順書**という役割分担。
3.2 ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)
ISMS(Information Security Management System)は、組織的に情報セキュリティを管理する枠組み。JIS Q 27001(国際規格 ISO/IEC 27001 の日本版)に基づき、**PDCA サイクルで継続的に改善**します。ISMS 認証を取得した企業は「情報セキュリティが体系的に運用されている」証となり、取引先との信頼構築に役立ちます。
| フェーズ | 内容 | 具体的活動 |
|---|
| Plan | リスクアセスメント → 管理策選定 | 資産棚卸、脅威特定、対策計画 |
| Do | 管理策の実施 | 対策実装、社員教育 |
| Check | 監査・有効性評価 | 内部監査、インシデント分析 |
| Act | 改善 | 次サイクルへのフィードバック |
認証機関によるISMS 認証(ISO/IEC 27001 認証)を取得できます。日本では JIPDEC の認定した認証機関が審査を行います。
3.3 リスクマネジメント
リスクマネジメントは、セキュリティリスクを特定・評価・対応する体系的なプロセス。すべてのリスクをゼロにはできないため、どのリスクにどこまで対策するかを経営判断で決めます。リスクアセスメント(評価)とリスク対応(選択)の 2 段階で考えるのが基本です。
リスクアセスメントの流れ
- リスク特定 — どんな資産にどんな脅威・脆弱性があるか洗い出し
- リスク分析 — **発生可能性 × 影響度**でリスクレベルを評価
- リスク評価 — 受容可能か判定(許容基準との比較)
リスク対応の 4 分類
| 対応 | 意味 | 例 |
|---|
| リスク回避 | リスク源を除去 | クラウド利用をやめる |
| リスク低減(軽減) | 対策で発生可能性・影響度を下げる | ファイアウォール導入 |
| リスク移転(共有) | 他者に一部または全部を移す | サイバー保険加入 |
| リスク受容(保有) | そのまま受け入れる | 影響が小さいので対策しない |
試験での問われ方: 「小さなリスクを保険で移す」のようなシナリオ → 4 分類のどれかを選ぶ問題が毎回出ます。
3.4 CSIRT と関連組織
セキュリティインシデント(情報漏洩・マルウェア感染・不正アクセス等)は**発生を完全には防げないため、起きたとき即対応できる専門チームが必要です。各企業が持つのが CSIRT、監視専門が SOC、国レベルの調整役が JPCERT/CC などの組織体系。試験では略称と役割**の対応が問われます。
| 組織・用語 | 役割 |
|---|
| CSIRT(シーサート) | Computer Security Incident Response Team。企業内インシデント対応チーム |
| SOC(ソック) | Security Operation Center。24 時間監視専門組織 |
| JPCERT/CC | 日本のコーディネーションセンター(企業横断の情報連携) |
| IPA セキュリティセンター | 国内の情報セキュリティ対策を推進(独立行政法人 IPA) |
| J-CSIP | **サイバー情報共有**イニシアティブ(重要産業間) |
| J-CRAT | サイバーレスキュー隊(標的型攻撃の対応支援) |
| ISMAP | 政府のクラウドサービス安全性評価制度 |
| SECURITY ACTION | **中小企業**の自己宣言制度(星 1 つ・星 2 つ) |
引っかけ: CSIRT vs SOC。CSIRT はインシデント発生時の対応チーム(事後対応)、SOC は 24 時間監視・早期発見チーム(事前発見)。似ているが役割分担は違う。
4. 暗号化と認証
4.1 暗号方式
| 方式 | 鍵の使い方 | 速度 | 代表例 |
|---|
| **[[共通鍵暗号 | きょうつうかぎあんごう]]**(対称鍵) | 暗号化・復号で同じ鍵 | 高速 |
| **[[公開鍵暗号 | こうかいかぎあんごう]]**(非対称鍵) | 公開鍵で暗号化 → 秘密鍵で復号 | 低速 |
| ハイブリッド暗号 | 共通鍵を公開鍵で配送 → 本文は共通鍵で | 速度と安全性を両立 | SSL/TLS |
公開鍵暗号の使い分け(最重要ポイント)
| 目的 | 誰の何鍵で暗号化 | 誰が何鍵で復号 |
|---|
| 機密性(盗聴防止) | 受信者の公開鍵 | 受信者の秘密鍵 |
| 電子署名(なりすまし防止・完全性) | 送信者の秘密鍵 | 送信者の公開鍵 |
試験での頻出引っかけ: 「A さんが B さんに秘密メッセージを送りたい。どの鍵で暗号化する?」 → 答えは「B さん(受信者)の公開鍵」。自分の鍵ではない点に注意。
① 機密性(盗聴防止)
秘密のメッセージを送りたい
- 送信者 A は 「B の公開鍵」で暗号化(公開鍵は誰でも入手可能)
- 📨 暗号文をネット送信(盗聴されても読めない)
- 受信者 B は 「B 自身の秘密鍵」で復号(秘密鍵は B しか持っていない)
✓ 第三者に読まれない
「受信者の鍵ペア」を使う。代表例: SSL/TLS の鍵交換
② 電子署名(なりすまし防止)
本当に A が送った文書か証明
- 送信者 A は 「A 自身の秘密鍵」で署名(秘密鍵は A しか持っていない)
- 📨 文書 + 署名を送る(中身は秘密ではない)
- 検証者は 「A の公開鍵」で検証(検証 OK = A の秘密鍵で署名された証拠)
✓ なりすましを防止
「送信者の鍵ペア」を使う。代表例: 電子契約・コード署名
覚え方:①機密性は「受信者の鍵ペア」、②電子署名は「送信者の鍵ペア」。「誰の・どの鍵で・何をするか」を整理すると引っかけに惑わされない。
4.2 電子署名と PKI
- 電子署名 — 送信者の秘密鍵で文書のハッシュ値を暗号化したもの。**真正性・完全性・否認防止**を実現
- ハッシュ関数 — 任意長入力 → 固定長出力。MD5(非推奨)、SHA-256等
- PKI(Public Key Infrastructure) — 公開鍵を信頼できる形で配るインフラ
- 認証局(CA) — 公開鍵に「この鍵は本人のもの」と証明書を発行
- CRL(Certificate Revocation List) — 失効した証明書のリスト
- デジタル証明書 — 公開鍵 + 所有者情報に CA が署名したもの
4.3 認証の 3 要素
認証は「本当にその人本人か確認する」こと。方法は大きく**3 要素に分類され、どの要素を組み合わせるかでセキュリティの強さが決まります。パスワードだけ(知識 1 つ)より、パスワード + スマホ SMS(知識 + 所持)の方が2 倍以上強固です。最近はパスワードだけの認証は業務システムで禁止**される傾向にあります。
| 要素 | 英語 | 例 |
|---|
| 知識(知っていること) | Knowledge | パスワード・PIN・合言葉・秘密の質問 |
| 所持(持っているもの) | Possession | IC カード・スマホ・ワンタイムトークン |
| 生体(本人の特徴) | Inherence | 指紋・顔・虹彩・静脈 |
- 多要素認証(MFA) — 3 要素のうち2 つ以上を組み合わせる(知識 + 所持、生体 + 知識等)
- 2 段階認証 — 同じ要素を 2 回(パスワード + 秘密の質問など、どちらも知識)。MFA ではない
- シングルサインオン(SSO) — 1 回のログインで複数サービスを使える(Google アカウントで他サービスログイン等)
- FIDO — パスワードレス認証の国際標準(生体 + デバイス)
頻出引っかけ: 多要素認証 vs 2 段階認証の違い。多要素は異なる種類の要素を組み合わせる、2 段階認証は単に2 回認証する。「パスワード + 秘密の質問」は**両方知識なので2 段階認証ではあるが多要素ではない**。これが試験で最も出題される引っかけ。
4.4 生体認証の指標
| 指標 | 意味 |
|---|
| 本人拒否率(FRR) | 本人なのに拒否される率 |
| 他人受入率(FAR) | 他人を本人と認めてしまう率 |
セキュリティ重視なら FAR を下げる、利便性重視なら FRR を下げる。両立は困難(トレードオフ関係)。
5. 情報セキュリティ対策技術
実際にセキュリティを守る**技術的な手段**を見ていきます。ネットワーク・端末・データ・物理・決済の各領域に専用技術があり、多層防御(複数の対策を重ねる)の考え方が基本です。「1 つの対策ですべてを守る」発想は古く、現代は 防御線を何重にも張るのが標準になっています。
5.1 ネットワーク系対策
ネットワーク経由の攻撃を防ぐ技術群。ファイアウォールで大ざっぱに遮断し、IDS/IPSで侵入を検知・防止、WAFで Web アプリ固有の攻撃を防ぎ、SIEMでログを相関分析。これらを組み合わせた**多層防御**が現代のネットワークセキュリティの標準です。
| 技術 | 役割 | 用途 |
|---|
| ファイアウォール | 通信の通過を許可/拒否(フィルタリング) | 境界防御の第一線 |
| DMZ(非武装地帯) | 公開サーバを内部 LAN から分離 | Web サーバ・メールサーバ配置 |
| IDS(Intrusion Detection System) | 侵入検知(通知のみ) | 攻撃検知・ログ記録 |
| IPS(Intrusion Prevention System) | 侵入防止(検知 + 遮断) | 即時遮断が必要な場面 |
| WAF(Web Application Firewall) | Web アプリ特有の攻撃(SQLi・XSS 等)を防御 | Web サイト保護 |
| SIEM | セキュリティログの集約・相関分析 | 複数機器のログ統合分析 |
| VPN | 暗号化トンネルで安全に通信 | リモートワーク |
| SSL/TLS | 通信経路の暗号化(HTTPS はこれ) | Web 通信の暗号化 |
引っかけ: IDS vs IPS。「Detection = 検知のみ」、「Prevention = 防止(検知 + 遮断)」。IPS は怪しい通信を自動遮断するため**誤検知で業務停止のリスク**があり、慎重な運用が必要。試験では「通信を自動で遮断するのは?」と問われたら IPS。
5.2 端末・データ系対策
ネットワーク境界だけでなく、端末(エンドポイント)やデータそのものを守る技術。テレワーク普及で境界防御だけでは足りなくなり、EDR(端末での攻撃検知)、DLP(機密情報流出防止)、MDM(モバイル端末管理)が重要性を増しています。
| 技術 | 役割 |
|---|
| アンチウイルスソフト | マルウェア検知・駆除(従来型) |
| EDR(Endpoint Detection and Response) | 端末での**攻撃検知・対応**(アンチウイルスの進化版) |
| DLP(Data Loss Prevention) | 機密情報の流出防止(USB 制御、メール添付監視) |
| MDM(Mobile Device Management) | モバイル端末の**一元管理**(紛失時のリモートワイプ等) |
| TPM(Trusted Platform Module) | 端末に搭載される**暗号処理専用チップ** |
5.3 バックアップと事業継続
ランサムウェアや**大規模災害**で全データが使えなくなっても、**バックアップから復旧**できれば事業は継続できます。重要なのは「バックアップを取ること」だけでなく、「バックアップ自体が守られていること」。3-2-1 ルールが業界標準の指針です。
- 3-2-1 ルール — 3 個のコピー・2 種類の媒体・1 個をオフサイト保管
- WORM(Write Once Read Many) — 1 回書いたら変更不可。ランサムウェア対策に有効
- BCP(Business Continuity Plan) — 事業継続計画(災害時の業務再開手順)
- BCM(Business Continuity Management) — 継続的に BCP を見直す**管理体制**
具体例: ランサムウェア被害でバックアップまで暗号化された企業が後を絶ちません。オフラインバックアップ(ネットから切り離した別媒体)や **WORM 記録が有効な対策。日常のバックアップと災害対策用**を区別する発想が重要です。
5.4 物理的対策
デジタル対策だけでなく、物理的な侵入・盗難・災害への備えも必須。入退室管理・施錠・監視カメラ・UPSなどの基本が守られていないと、ハイテクなサイバー対策も無意味になります。**「机上のパスワードメモ」**のようなアナログな抜け穴は身近なところで起きやすい。
- 入退室管理 — IC カード・生体認証(サーバルーム、秘匿エリア)
- サーバルームの施錠 — 物理アクセス制御
- 監視カメラ — 侵入痕跡の記録・抑止
- UPS(無停電電源装置) — 瞬間的な停電対策
- クリアデスク/クリアスクリーン — 席を離れるときは書類を片付け、画面をロック
5.5 決済系セキュリティ
クレジットカード・QR コード決済・オンラインバンキングなど、お金の流れに関わるセキュリティ。PCI DSS(カード業界基準)や eKYC(電子的本人確認)などの用語は近年の出題頻度が上昇しています。EMV 3-D セキュア 2.0 はオンライン決済の本人認証標準。
| 用語 | 意味 |
|---|
| EMV 3-D セキュア 2.0 | オンラインカード決済の本人認証(リスクベース認証) |
| PCI DSS | カード業界のセキュリティ基準(国際) |
| eKYC | 電子的な本人確認(Electronic Know Your Customer)。オンライン口座開設 |
| AML/CFT | マネーロンダリング・テロ資金供与対策 |
5.6 IoT セキュリティの特徴
IoT 機器(家電・センサー・スマート家電)は、計算資源が乏しく、長期間更新されないため、従来のセキュリティ対策が使えません。**防犯カメラがボットネット化した Mirai 事件のように、IoT セキュリティの甘さが大規模攻撃の踏み台になる事例も発生。設計段階から堅牢化**するのが基本です。
- 軽量暗号 — 計算資源が乏しいため、従来の重い暗号が使えない → IoT 向け軽量暗号(CLEFIA 等)
- セキュアブート — 起動時に**正規ソフトか署名検証**
- 耐タンパ性 — 物理的な改ざんを検知・防止
- 設計段階からの堅牢化(Security by Design) — 長期間使用・アップデートが届きにくい前提で初期設計時から対策
引っかけ: IoT セキュリティはソフトウェア更新が届きにくいのが最大の課題。スマート電球や監視カメラは 5 年以上同じファームウェアで動くことがあり、脆弱性が発見されてもパッチが当たらないまま稼働し続ける。**設計時点での堅牢化**が必須になる理由。
📋 章末まとめ
最重要ポイント 10 連発
- CIA の 3 要素 — 機密性・完全性・可用性。どの対策がどれを守るかを即答できるように
- 公開鍵暗号の鍵の使い分け — 機密性なら「受信者の公開鍵」、電子署名なら「送信者の秘密鍵」
- SQL インジェクション対策 — プレースホルダ(バインド機構)が正解
- リスク対応 4 分類 — 回避・低減・移転・受容
- ISMS の PDCA — Plan-Do-Check-Act の継続的改善
- 多要素認証 vs 2 段階認証 — 同じ要素を 2 回は多要素ではない
- IDS と IPS の違い — IDS は検知のみ、IPS は遮断まで行う
- WAF の用途 — Web アプリ固有の攻撃(SQLi・XSS)対策
- 3-2-1 バックアップルール — 3 個・2 媒体・1 オフサイト
- ランサムウェア対策 — オフライン保管・WORM・最新パッチ
出題傾向のコツ
- 具体シナリオ → 攻撃名 or 対策名を選ぶ型が中心
- CIA の 3 要素は「この対策はどれを守るか」の組み合わせで覚える
- 用語を英語略称でも日本語でも答えられるようにする(例: WAF = Web Application Firewall)
次章で、実際の出題形式に慣れていきましょう。