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千年前の歌や言葉が、 今でもわたしたちの生活の中で使われているのはどうしてでしょうか。 この章では 長く親しまれている言葉(百人一首・いろは歌・漢詩名言・ことわざ・慣用句) を鑑賞し、 自分の言葉として活かす方法を学びます。
この章でできるようになること:
百人一首 は 藤原定家(1162-1241) が 100 人の歌人の名歌を一人一首ずつ選んだ歌集です。 鎌倉時代に成立し、 江戸時代からは かるた として庶民にも広がりました。
第 1 番 — 天智天皇
秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ
意味: 秋の田の仮小屋の屋根の苫(とま、 まこもで編んだもの) が粗くて、 わたしの袖は夜露でぬれてしまう。 農民の苦労を思いやる歌として古くから親しまれてきました。
第 9 番 — 小野小町
花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
ここには二つの 掛詞 があります。 「ふる」 は 「経る(時がたつ)」 と 「降る(雨が降る)」、 「ながめ」 は 「眺め(物思い)」 と 「長雨」 を重ねています。 桜の色があせたことと、 自分の美しさも衰えたことを重ねた歌です。
第 17 番 — 在原業平
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
「ちはやぶる」 は 枕詞 で、 「神」 を修飾する決まった言葉です。 紅葉が川一面に散って、 川がしぼり染めのように見える様子を、 「神代でも聞いたことがない」 と大げさにほめています。
第 35 番 — 紀貫之
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
意味: 人の心は変わるかもしれないけれど、 ふるさとの梅の花は昔と同じ香りで咲いている。 久しぶりに訪れた場所で詠んだ歌です。
第 86 番 — 西行法師
なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな
意味: 「なげけ(悲しめ)」 と月が命じるわけではないのに、 まるで月のせいにしているかのようなわたしの涙だ。 月を見て物思いにふける歌人の心が美しく表れています。
| 技法 | 意味 | れい |
|---|---|---|
| 掛詞 | 一つの言葉に二つの意味を持たせる | 「ながめ」=眺め+長雨 |
| 縁語 | ある語と関係の深い語をちりばめる | 海の歌で 「波・舟・浦」 をそろえる |
| 本歌取り | 古い名歌を踏まえて新しい歌を詠む | 万葉集の歌を下敷きに新古今で詠む |
| 枕詞 | 特定の語を修飾する決まった言葉 | 「ちはやぶる」→ 神 |
解説著作権:百人一首の歌はすべてパブリックドメイン(鎌倉時代成立)。 現代語訳・鑑賞解説は Studia オリジナルです。
いろは歌 は 10 世紀頃に作られたとされる、 仮名 47 字をすべて一度ずつ使った歌です。 作者ははっきりしません。
いろはにほへどちりぬるを わかよたれそつねならむ うゐのおくやまけふこえて あさきゆめみしゑひもせす
漢字にすると:
色は匂へど散りぬるを 我が世誰ぞ常ならむ 有為の奥山今日越えて 浅き夢見じ酔ひもせず
意味: 美しい花もいつかは散る。 わたしたちの世も永遠ではない。 移ろいゆく山(人生の苦しみ) を今日こえて、 浅い夢も見まい、 酔いもしない。
「色は匂へど散りぬるを」 は 無常観(永遠のものは何もないという仏教の考え)を表すことで知られています。
覚え方: いろは歌は 同じ仮名を二度使わない という言葉遊びの名作です。 「ん」 がないのは、 当時の仮名体系のなごりです。
中国の古典から生まれた 漢詩名言 は、 短い言葉に深い知恵がこもっています。
| 名言 | 読み | 意味 | 生活での活かし方 |
|---|---|---|---|
| 学びて時に之を習う | まなびてときにこれをならう | 学んだことをくり返し練習すると楽しい | 漢字や計算の復習を、 いやなことではなく楽しみと考える |
| 己の欲せざる所、 人に施すこと勿れ | おのれのほっせざるところ、 ひとにほどこすことなかれ | 自分がされたくないことを人にしてはならない | 友達との関係で「これされたらいや」 を思い出す |
| 温故知新 | おんこちしん | 古いことを学んで新しいことを知る | 歴史を学ぶと今の社会が見えてくる |
| 名言 | 出典 | 意味 |
|---|---|---|
| 春眠暁を覚えず | 孟浩然「春暁」 | 春の朝は気持ちよくて目が覚めない |
| 少年老い易く学成り難し | 朱熹「偶成」 | 若い時はあっと言う間に過ぎ、 学問はなかなか完成しない |
| 名言 | 意味 |
|---|---|
| 鶏鳴狗盗(けいめいくとう) | 役に立ちそうもない才能でも、 いざという時役立つ |
| 四面楚歌(しめんそか) | 周りがみな敵で助けがない状況 |
解説著作権:漢詩・論語・史記はすべてパブリックドメイン(紀元前から 8 世紀の中国古典)。 現代語訳・活かし方は Studia オリジナルです。
3 年生でことわざ入門、 5 年生で由来を学びました。 6 年生では 少し複雑な慣用句 も使えるようになりましょう。
| 慣用句 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| 砂をかむ | 味気なくつまらない | 一人で食べる食事は砂をかむ思いだ |
| うがった見方 | 物事の本質をついた見方(× ひねくれた見方) | 彼のうがった意見が議論を深めた |
| 水を得た魚 | 自分に合う場で生き生きと活躍する | 図書委員になって、 妹は水を得た魚だ |
| 目から鱗(うろこ) が落ちる | 急に物事がよく分かるようになる | 説明を聞いて目から鱗が落ちた |
| 弘法も筆のあやまり | 名人でも失敗することがある | 漢字検定 1 級の先生でも弘法も筆のあやまりだ |
注意: 「うがった見方」 は 本来はほめ言葉。 「ひねくれた見方」 という意味で使う人が増えていますが、 本来の意味を知っておきましょう。 言葉の意味が時代とともに変わる例でもあります。
3 年生で 「言葉は変わる」 という入口を学び、 5 年生で由来を学びました。 6 年生では 歴史の流れ として整理します。
| 時代区分 | 西暦 | 代表的な文学 |
|---|---|---|
| 上代(じょうだい) | 〜 794 | 万葉集・古事記・日本書紀 |
| 中古(ちゅうこ) | 794 〜 1192 | 古今和歌集・源氏物語・枕草子 |
| 中世(ちゅうせい) | 1192 〜 1603 | 平家物語・徒然草・新古今和歌集 |
| 近世(きんせい) | 1603 〜 1868 | 奥の細道・南総里見八犬伝 |
| 近代(きんだい) | 1868 〜 1945 | 漱石・鴎外・賢治・啄木 |
| 現代(げんだい) | 1945 〜 | 戦後の文学・現代詩 |
| 言葉 | 古典での意味 | 現代での意味 |
|---|---|---|
| をかし | 趣がある・興味深い | こっけいだ |
| あはれ | しみじみした感動 | かわいそうだ |
| うつくし | かわいい・いとしい | 美しい |
| やさし | つらい・身が痩せる思い | 親切だ |
「枕草子」 で 「春はあけぼの。 やうやう白くなりゆく山際、 すこし明かりて」 を読んだとき、 「をかし」 を 「おもしろい」 ではなく 「趣がある」 と訳すのはこのためです。
「エモい」「ぴえん」「タイパ(タイムパフォーマンス)」 など、 現代の若者言葉も 言葉が今も変わり続けている証拠 です。 古い言葉が「古めかしい」、 新しい言葉が「正しい」 というわけではなく、 どの時代の言葉もその時代を映す鏡です。
注意: 「最近の若い人の言葉は乱れている」 と決めつけないこと。 平安時代の大人も「最近の若い者は…」 と嘆いた記録が残っています。 言葉の変化は 自然な現象 です。
千年前の歌や言葉を知ることは、 古い時代を振り返るだけでなく、 今の自分の言葉をより豊かにする ことにつながります。