はじめに
5 年生で学んだ 尊敬語・謙譲語・丁寧語の 3 種類 をふまえ、 この章では 特殊敬語 の運用と 場面に応じた使い分け を学びます。 また、 漢字の音読み・訓読みがどこから来たのかも知ります。
この章でできるようになること:
- 特殊敬語(おっしゃる・召し上がる・うかがう等) を使える
- 家族・先生・お客様・公的な場面で適切な敬語を選べる
- 過剰敬語・二重敬語の誤りを避けられる
- 音読み と 訓読み の由来を知る(漢音・呉音・唐音)
ポイント:敬語は 「正しいかどうか」 だけでなく、 「相手と場面に合っているか」 が大切です。 過剰な敬語は かえって失礼 になることもあります。
1. 特殊敬語 — 言い換え型の敬語
ふつうの動詞を敬語にする場合、 「お○○ になる」 や 「○○ される」 ではなく、 まるごとちがう動詞に変わる ものがあります。 これを特殊敬語と呼びます。
動詞別敬語表
| ふつう | 尊敬語(相手を高める) | 謙譲語(自分を低める) | 丁寧語 |
|---|
| 行く | いらっしゃる・おいでになる | うかがう・参る | 行きます |
| 来る | いらっしゃる・おいでになる | 参る | 来ます |
| いる | いらっしゃる | おる | います |
| 言う | おっしゃる | 申す・申し上げる | 言います |
| 見る | ご覧になる | 拝見する | 見ます |
| 食べる | 召し上がる | いただく | 食べます |
| もらう | お受けになる | いただく・ちょうだいする | もらいます |
| あげる | くださる | 差し上げる | あげます |
| する | なさる・される | いたす | します |
| 思う | お思いになる | 存じる | 思います |
| 知る | ご存じです | 存じ上げる | 知っています |
やってみよう: 「先生が朝ご飯を 食べる」 を尊敬語にすると? 答えは 「先生が朝ご飯を 召し上がる」。 「食べる」 とはまったくちがう形の動詞になります。
2. 場面別の敬語
家族との会話 — 丁寧語中心
家族とのふだんの会話では、 過度な敬語は不自然です。 丁寧語 を中心に、 ふだんの言葉で話します。
- ふつう: 「お母さん、 ごはん食べる?」
- 丁寧に: 「お母さん、 ごはん食べますか?」
先生との会話 — 尊敬語 + 丁寧語
学校の先生には、 尊敬語を中心に使います。
- 「先生はいらっしゃいますか?」(尊敬語 + 丁寧語)
- 「先生がおっしゃったことを覚えています」(尊敬語 + 丁寧語)
お客様との会話 — 尊敬語 + 謙譲語 + 丁寧語の総合
お客様に接する場面は、 三種類を組み合わせる 最も高度な敬語運用 です。
- 「お客様、 どちらにいらっしゃいますか?」(尊敬語)
- 「わたくしがご案内いたします」(謙譲語 + 丁寧語)
公的な場面 — 高度な敬語運用
スピーチや式典では、 ふだんよりも かたい敬語 を使います。
- 「本日はお越し下さいまして、 まことにありがとうございます」
手紙 — 書き言葉の敬語
手紙には 書き言葉特有の敬語 があります。
- 「拝啓」「敬具」 の始まりと終わり
- 「お元気でいらっしゃいますか」 という安否の問いかけ
- 「ご自愛ください」(健康を大切に) という結びの言葉
3. 過剰敬語を避ける
敬語を使いすぎると、 かえって 失礼 になったり、 不自然 になったりします。
二重敬語 — 一つの動詞に二つ重ねる誤り
| 誤り | 正しい形 | 説明 |
|---|
| お読みになられる | お読みになる | 「お読みになる」 が尊敬、 「られる」 も尊敬 → 二重 |
| おっしゃられる | おっしゃる | 「おっしゃる」 が尊敬、 「られる」 も尊敬 → 二重 |
| ご覧になられます | ご覧になります | 「ご覧になる」 が尊敬、 「られる」 も尊敬 → 二重 |
| いただかせていただく | いただく | 「いただく」 が二回 → 重ねすぎ |
尊敬と謙譲の混同
| 誤り | 正しい形 | 説明 |
|---|
| 先生が申し上げる | 先生がおっしゃる | 「申し上げる」 は自分を低める謙譲 → 相手に使うのは誤り |
| 先生が参る | 先生がいらっしゃる | 「参る」 は謙譲 → 先生に使うのは誤り |
「お/ご」 の付けすぎ
| 誤り | 正しい形 |
|---|
| お父さんのお好きな食べ物 | お父さんの好きな食べ物 |
| ご自分のお名前 | ご自分の名前 |
注意: 「お/ご」 は 相手に関わる物事 に付けるのが基本。 自分や身内の物事には付けません。
4. 漢字の音読みと訓読みの由来
ここからは、 漢字の 読み方がどこから来たのか を学びます。
音読みと訓読みのちがい
| 種類 | 由来 | れい |
|---|
| 音読み | 中国の発音がもと | 山(サン)・水(スイ)・行(コウ) |
| 訓読み | 日本語の意味を当てた | 山(やま)・水(みず)・行く(い-く) |
訓読みは 日本独自 のもので、 中国や韓国の漢字文化圏にはありません。 同じ 「山」 の字を、 中国では 「シャン」 としか読まない一方、 日本では 「サン(音)」 とも 「やま(訓)」 とも読みます。
音読みの 3 種類 — 漢音・呉音・唐音
音読みにはさらに 3 種類 あります。 中国のどの時代のどの地方の発音が伝わったかで、 読みが分かれるのです。
| 種類 | 伝わった時代 | 中国の地方 | れい(「行」 の場合) |
|---|
| 呉音 | 古い時代(5-6 世紀) | 江南(呉) | ギョウ(修行・行事) |
| 漢音 | 奈良・平安(7-9 世紀) | 長安(唐) | コウ(行進・行動) |
| 唐音 | 鎌倉・室町以降 | 宋・元・明 | アン(行灯・行脚) |
同じ 「行」 という字を、 来た時期と場所で三通りに読む のが日本の漢字のおもしろさです。
漢音と呉音の主なちがいのれい
| 漢字 | 漢音 | 呉音 | 漢音で使う熟語 | 呉音で使う熟語 |
|---|
| 明 | メイ | ミョウ | 明白 | 光明・明日 |
| 経 | ケイ | キョウ | 経過 | お経・経文 |
| 京 | ケイ | キョウ | 京華 | 京都 |
| 行 | コウ | ギョウ | 行動 | 行事・修行 |
「お経」 は仏教の言葉として古くに伝わったので 呉音、 「経過」 は漢音で読むのが一般的です。 仏教関係の言葉に呉音が多いのは、 仏教が早く伝来した時代の名残です。
やってみよう: 「行動」 はコウドウ(漢音)、 「修行」 はシュギョウ(呉音)。 同じ 「行」 でも場面で読みが変わるのは、 この由来を知ると納得できます。
5. 訓読みは日本独自の工夫
「山」 という漢字を見た古代の日本人は、 「これは日本語で言う やま と同じ意味だ」 と気付き、 その字に 「やま」 という読みを当てました。 これが 訓読み です。
訓読みの仕組み:
- 漢字が中国から伝わる(音と意味がセット)
- 日本人が、 漢字の意味を日本語で何と言うか考える
- 漢字に日本語の言葉を当てて読む
訓読みがあるおかげで、 漢字が日本語の中に 自然に取り込まれ、 同じ字で二通り以上の読み方ができるようになりました。
6. 一字で何通りもの読みを持つ漢字
| 漢字 | 音読み | 訓読み | 熟語れい |
|---|
| 生 | セイ・ショウ | い-きる・う-まれる・お-う・は-える・なま | 学生・一生・生まれる |
| 下 | カ・ゲ | した・しも・もと・さ-げる・お-りる・くだ-さる | 下車・下駄・下げる |
| 行 | コウ・ギョウ・アン | い-く・ゆ-く・おこな-う | 行動・修行・行脚 |
| 上 | ジョウ・ショウ | うえ・かみ・あ-げる・のぼ-る | 上下・上人・上げる |
「生」 は何と 十をこえる読み方 を持ちます。 これは日本語の多さと、 中国から何度も漢字が伝わったことの両方が関係しています。
7. 漢字を楽しく学ぶコツ
- 一つの字を見たら 音読みと訓読みの両方 を確認
- 熟語でよく使う読みから覚える
- 「どの時代に来た読みか」 と想像してみる(古い仏教の言葉に呉音が多い等)
- 訓読みは 日本語の意味そのもの なので、 意味から思い出しやすい
8. まとめ
- 特殊敬語(おっしゃる・召し上がる・うかがう・拝見する等) を動詞別に覚える
- 場面に応じて家族・先生・お客様・公的・手紙で使い分ける
- 過剰敬語(二重敬語・尊敬と謙譲の混同・お/ごの付けすぎ) を避ける
- 音読み は中国由来、 訓読み は日本独自の工夫
- 音読みには漢音・呉音・唐音の 3 種類がある
- 同じ漢字でも場面で読みが変わるのは由来を知ると理解しやすい
敬語と漢字の由来を知ると、 言葉がどう使われてきたか が見えてきます。 これは中学の国語への大切な橋わたしになります。