この章で学ぶこと
高校数学 II の出発点となる章です。 数学 I で学んだ 展開・因数分解・実数 の力を土台に、 ここでは 「式を自在にあつかう道具」 と 「論理的に主張を示す作法」 を身につけます。
- 二項定理 と パスカルの三角形 を使って (a+b)n を展開できる
- 多項式の除法 (f(x)÷g(x)=q(x)+r(x)/g(x)) と 剰余の定理 を理解する
- 恒等式 の意味と係数比較法を使える
- 等式・不等式の 証明 の基本 (差を取る・同値変形・場合分け) を身につける
- 相加平均と相乗平均 の関係 を不等式の証明に活用する
ポイント: 数学 I までは 「計算する」 が中心でした。 数学 II では 「示す」 が加わります。 「明らか」 と思っても、 等号のつなぎ方一つで厳密さが変わるのが 証明 の世界です。
1. 二項定理
二項展開の公式
(a+b)2=a2+2ab+b2、 (a+b)3=a3+3a2b+3ab2+b3 のように、 (a+b)n の展開の各項の係数は 二項係数 (kn) (nCk とも書く) であらわせます。
(a+b)n=∑k=0n(kn)an−kbk=(0n)an+(1n)an−1b+⋯+(nn)bn
これを 二項定理 といいます。
パスカルの三角形
二項係数(kn) は パスカルの三角形 で視覚的に求められます。 となりあう二数の和が下の数になります。
| n | 係数の並び |
|---|
| 0 | 1 |
| 1 | 11 |
| 2 | 121 |
| 3 | 1331 |
| 4 | 14641 |
| 5 | 15101051 |
例題
| 問題 | 解法 |
|---|
| (x+2)4 を展開せよ | (04)x4+(14)x3⋅2+(24)x2⋅4+(34)x⋅8+(44)⋅16=x4+8x3+24x2+32x+16 |
| (2x−y)5 の x2y3 の係数 | (35)(2x)2(−y)3=10⋅4⋅(−1)x2y3=−40x2y3。 係数は −40。 |
やってみよう: (x+1)6 の x3 の係数を求めよ。 (答え: (36)=20)
多項定理 (発展)
(a+b+c)n を展開したとき、 apbqcr (p+q+r=n) の係数は p!q!r!n! であらわせます。 これを 多項定理 といいます。
2. 整式の除法と分数式
整式の割り算
整式A を整式B (B=0) で割ると、 商Q と余り R を用いて次のようにかけます。 ただし degR<degB。
A=B⋅Q+R
筆算で一次ずつ次数を下げて計算します。
例題
x3−2x2+5 を x−1 で割る:
| 段階 | 結果 |
|---|
| x3÷x=x2 | 商の第 1 項x2 |
| x2(x−1)=x3−x2 を引く | 余り −x2+5 |
| −x2÷x=−x | 商の第 2 項−x |
| −x(x−1)=−x2+x を引く | 余り −x+5 |
| −x÷x=−1 | 商の第 3 項−1 |
| −1(x−1)=−x+1 を引く | 余り 4 |
よって x3−2x2+5=(x−1)(x2−x−1)+4。
分数式
分母 ・ 分子が整式の形を 分数式 といい、 通分・約分・四則が普通の分数と同じようにできます。
x1+x+11=x(x+1)(x+1)+x=x(x+1)2x+1
3. 恒等式
恒等式とは
文字にどんな値を入れても等式が成り立つ場合、 これを 恒等式 といいます。 一方で特定の値でだけ成り立つのが 方程式 です。
大事: x2−1=(x−1)(x+1) は 恒等式 (x が何でも成り立つ)。 x2−1=0 は 方程式 (x=±1 だけで成り立つ)。
係数比較法と数値代入法
ax2+bx+c≡a′x2+b′x+c′ が恒等式 ⇔ a=a′,b=b′,c=c′ (両辺を同次数で比較)。
例題
(x−1)(x+2)1=x−1a+x+2b を満たす a,b を求めよ。
両辺に (x−1)(x+2) をかけて、 1=a(x+2)+b(x−1)。 これは x についての恒等式。
- x=1代入: 1=3a ⇒ a=31
- x=−2代入: 1=−3b ⇒ b=−31
数値代入法の注意: 代入で求めた a,b は 「その値で等式が成り立つ」 だけで、 「全ての x で等号が成り立つ (恒等式)」 とは必ずしも言えません。 厳密には 未知数の個数 + 1 個以上 の値を代入して必要条件を絞り、 最後に 係数比較法で十分性を確認 する手順が安全です。
やってみよう: x(x+1)2x+3=xa+x+1b を求めよ。 (答え: a=3,b=−1)
4. 等式の証明
基本の流れ
「A=B を示せ」 と言われたら、 次のどれかを使います。
- 左辺を変形して右辺にする (一方向)
- 両辺をそれぞれ変形して同じ式にそろえる
- A−B=0 を示す (差を取る)
例題
a+b+c=0 のとき、 a3+b3+c3=3abc を示せ。
(証明) c=−(a+b) より、
a3+b3+c3=a3+b3−(a+b)3
=a3+b3−(a3+3a2b+3ab2+b3)=−3ab(a+b)=−3ab⋅(−c)=3abc。 □
5. 不等式の証明
差を取る基本
A≥B を示すには、 A−B≥0 を示せばよい。 平方完成や x2≥0 が強い武器になります。
例題
a2+b2≥2ab を示せ。
(証明) a2+b2−2ab=(a−b)2≥0。 等号成立は a=b のとき。 □
相加平均と相乗平均
a>0,b>0 のとき、
2a+b≥ab(等号は a=b のとき)
これを 相加平均と相乗平均 の関係 (AM-GM 不等式) といい、 最小値を求めるのに使えます。
例題
x>0 のとき、 x+x4 の最小値を求めよ。
x+x4≥2x⋅x4=2⋅2=4。 等号は x=x4 すなわち x=2 のとき。 最小値は 4。
やってみよう: x>0 のとき 4x+x1 の最小値を求めよ。 (答え: 4、 x=21 で)
まとめ
- 二項定理 で (a+b)n の各項の係数がわかる ((kn))
- 整式の除法は A=BQ+R (degR<degB) の形になる
- 恒等式 の未定係数は 「係数比較」 か 「数値代入」 で求める
- 等式 ・ 不等式の 証明 は 「差を取る」 「x2≥0」 「相加平均と相乗平均」 が三大武器
- 等号が成立する条件を 必ず添える こと
次の章: 第 2 章では 複素数 と 高次方程式 に入ります。 二乗して −1 になる数i を導入し、 三次 ・ 四次方程式を因数定理で解きます。