この章で学ぶこと
日本の政治は、 国会が国の意思を決め、 内閣が政策を実行する 仕組みで動いています。 この国会と内閣の関係を 議院内閣制 と呼びます。
- 国会の位置づけと 「国権の最高機関」
- 二院制 (衆議院と参議院)
- 内閣の構成と権限
- 議院内閣制の仕組み (大統領制との比較)
- 選挙制度 (小選挙区・比例代表)
- 一票の格差問題
ポイント: 「日本の総理大臣は国民が直接選ぶ」 と思う人がいますが、 これは 誤り です。 国民 → 国会議員 → 総理大臣と間接的に選ばれます。 これが議院内閣制の大きな特徴です。
1. 国会の地位と権限
東京・永田町の国会議事堂。 1936 年完成、 中央塔の左右に衆議院・参議院が配置される (右が参議院、 左が衆議院)。
第 41 条: 「国会は、 国権の最高機関であつて、 国の唯一の立法機関である。」
「国権の最高機関」 の意味
「最高」 という表現はありますが、 国会が内閣や裁判所を支配する意味ではありません。 三権分立の原則から、 「主権者たる国民が直接選んだ代表の集まりであり、 民主的正当性が最高に強い」 という意味で解されます (政治的美称説)。
国会の主な権限
| 権限 | 内容 | 条文 |
|---|
| 立法権 | 法律を作る | 41, 59 条 |
| 予算議決権 | 国の予算を決める | 60, 86 条 |
| 条約承認権 | 内閣が結んだ条約を承認 | 61, 73 条 |
| 内閣総理大臣指名権 | 総理大臣を選ぶ | 67 条 |
| 弾劾裁判所設置 | 裁判官を罷免 | 64 条 |
| 国政調査権 | 証人喚問等 | 62 条 |
| 憲法改正発議権 | 3 分の 2 で発議 | 96 条 |
2. 二院制 — 衆議院と参議院
日本の国会は衆議院と参議院の 二院制 を採用しています。
衆参両院の比較
| 項目 | 衆議院 | 参議院 |
|---|
| 議員定数 | 465 人 (小選挙区 289 + 比例 176) | 248 人 (選区 148 + 比例 100) |
| 任期 | 4 年 (解散あり) | 6 年 (3 年ごとに半数改選、 解散なし) |
| 被選挙権 | 25 歳 以上 | 30 歳 以上 |
| 選挙区 | 全国を 289 区に分割 + 全国 11 ブロック比例 | 都道府県単位 + 合区 + 全国比例 |
衆議院の優越
衆議院は任期が短く解散があるため、 民意をより反映しやすいとされ、 いくつかの事項で優越が認められています。
| 事項 | 優越内容 |
|---|
| 予算議決 (60 条) | 両院協議会で不一致、 30 日経過 → 衆議院議決が国会議決 |
| 条約承認 (61 条) | 同上 (期間 30 日) |
| 内閣総理大臣指名 (67 条) | 同上 (期間 10 日) |
| 法律案議決 (59 条) | 参議院が否決 / 60 日以内に議決せず → 衆議院 3 分の 2 で再可決 |
大事: 衆議院と参議院で多数派が異なる状態を 「ねじれ国会」 と呼びます。 法律案が通らず政治が停滞する原因となります。
3. 国会の種類と運営
| 種類 | 内容 | 期間 |
|---|
| 常会 (通常国会) | 1 月召集、 予算審議中心 | 150 日 (延長 1 回可) |
| 臨時会 | 内閣決定 / 両院 1/4 要求 | 両院一致で決 |
| 特別会 | 衆議院解散総選挙後 30 日以内 | 同上 |
| 参議院の緊急集会 | 衆議院解散中の緊急時 | 内閣が請求 |
審議の流れ
法律案は、 提出 → 委員会審査 → 本会議採決 → もう一方の院へ、 という流れで審議されます。 中心は 委員会: 予算委員会・厚生労働委員会など、 分野別に常任委員会が置かれています。
4. 内閣の構成と権限
構成
内閣は、 内閣総理大臣 (首相) と 14 人以内 (特別法で増員可) の 国務大臣 で構成されます。 総理大臣は 国会議員 から選ばれ、 国務大臣の過半数も 国会議員 でなければなりません (68 条)。 また、 全員が 文民 であることが必要です (66 条)。
内閣の主な権限 (73 条)
| 権限 | 内容 |
|---|
| 法律の執行 | 国会が作った法律を運用 |
| 外交関係の処理 | 条約締結・大使派遣 |
| 官吏の事務掌理 | 国家公務員の人事 |
| 予算の作成・国会提出 | 毎年度 |
| 政令の制定 | 法律の執行に必要な細かい規則 |
| 恩赦の決定 | 大赦・特赦・減刑等 |
行政組織
内閣の下に、 省・庁・委員会が置かれています。
| 主な省庁 | 所管 |
|---|
| 内閣府 | 総合調整・皇室事務 |
| 総務省 | 地方自治・選挙・通信 |
| 外務省 | 外交 |
| 財務省 | 予算・税制 |
| 文部科学省 | 教育・科学 |
| 厚生労働省 | 医療・年金・労働 |
| 農林水産省 | 農業・水産 |
| 経済産業省 | 産業・資源 |
| 国土交通省 | 道路・交通・気象 |
| 環境省 | 環境保全 |
| 防衛省 | 自衛隊運用 |
| デジタル庁 (2021-) | 行政DX |
| こども家庭庁 (2023-) | 子ども政策 |
5. 議院内閣制
議院内閣制とは、 内閣が国会の信任に基づいて成立し、 国会に対して連帯責任を負う制度 です。 英国で発達し、 日本・ドイツ・イタリア等が採用しています。
内閣と国会の関係
| 関係 | 内容 |
|---|
| 総理大臣の指名 | 国会が国会議員の中から指名 |
| 内閣不信任決議 (69 条) | 衆議院が可決 → 10 日以内に衆議院解散 or 内閣総辞職 |
| 衆議院解散 | 内閣が助言し天皇が行う (7 条解散) / 69 条解散 |
| 法律案提出 | 内閣も提出可能 (閣法が多数) |
大統領制との比較 (米国)
| 項目 | 議院内閣制 (日本) | 大統領制 (米国) |
|---|
| 首長選出 | 国会が指名 | 国民が選挙 (実際には選挙人団) |
| 立法と行政 | 一体的 | 厳格分離 |
| 法律案提出権 | 内閣あり | 大統領なし (教書送付のみ) |
| 議会解散 | あり | なし |
| 拒否権 | なし | 大統領が法案に拒否権 |
| 大臣兼任 | 議員が大臣 | 不可 (閣僚は議員でない) |
6. 選挙制度
4 つの基本原則
| 原則 | 意味 |
|---|
| 普通選挙 | 財産・性別に関らず全員 |
| 平等選挙 | 一人一票の価値平等 |
| 直接選挙 | 有権者が直接候補者に投票 |
| 秘密選挙 | 投票内容を秘密に |
衆議院の選挙制度
1994 年の改革で 「小選挙区比例代表並立制」 となりました。
| 区分 | 定数 | 仕組み |
|---|
| 小選挙区 | 289 | 1 区1名、 最多得票者当選 |
| 比例代表 | 176 | 全国 11 ブロック、 政党に投票 → ドント式で配分 |
参議院の選挙制度
| 区分 | 定数 | 仕組み |
|---|
| 選挙区 | 148 | 都道府県単位 (一部合区) |
| 比例代表 | 100 | 全国単位、 非拘束名簿式 |
ドント式とは
政党の得票数を 1, 2, 3, … と割り、 商の大きい順に議席を配分する方法です。
| 政党 | A | B | C |
|---|
| 得票 | 1500 | 900 | 600 |
| ÷1 | 1500① | 900② | 600④ |
| ÷2 | 750③ | 450⑥ | 300 |
| ÷3 | 500⑤ | 300 | 200 |
(6 議席配分の例: A=3、 B=2、 C=1)
7. 一票の格差問題
選挙区ごとの人口差により、 1 票の価値に差が生じる問題です。
最高裁判例
| 年 | 対象 | 格差 | 判断 |
|---|
| 1976 | 衆議院 | 4.99 倍 | 違憲 (事情判決) |
| 1985 | 衆議院 | 4.40 倍 | 違憲 |
| 2014 | 参議院 (2013 選) | 4.77 倍 | 違憲状態 |
| 2018 | 衆議院 | 1.98 倍 | 合憲 |
| 2023 | 衆議院 (2021 選) | 2.08 倍 | 合憲 |
最高裁は衆議院で 2 倍程度、 参議院で 3 倍程度 を目安に判断しているとされます。 改善のため 「合区」 (鳥取 + 島根、 徳島 + 高知) も導入されました。
議論: 都市部 (1票が軽い) と地方 (1票が重い) で意見が分かれます。 地方の意見を反映するため一定の格差は必要とする見方もあります。
まとめ
- 国会は 「国権の最高機関」 で、 立法権・予算議決等を持つ
- 衆参両院 の構成・任期・優越関係を整理
- 内閣は国会から選ばれ、 国会に責任を負う 議院内閣制
- 米国 大統領制 との違い (権力分離の厳格さ) を理解
- 選挙制度は 小選挙区比例代表並立制、 一票の格差が現代の課題
次章では、 人権を救済し法を守る 司法 (裁判所) の仕組みを学びます。