この章で学ぶこと
ベクトルは 平成 30 年告示 で 数学 B から数学 C に移行 しました。 この章では 空間ベクトル を中心に、 内積、 直線や 平面の方程式 を学びます。 加えて大学線形代数への橋渡しとして、 外積 や 行列・1次変換 を 【発展】 扱いで紹介します (R4 課程では高校範囲外だが、 物理や大学数学で必須)。
- 空間ベクトルの成分表示と計算
- 内積 a⋅b の定義と用途
- 空間の 直線 と 平面 の方程式
- 【発展】 外積 a×b の計算と幾何的意味
- 【発展】 行列 の基本と1次変換の入り口
ポイント: 平面ベクトルは 「位置と向きと大きさ」 を同時に扱える道具でした。 空間でも考え方は同じで、 成分が 1 つふえるだけです。 しかし 「2 つのベクトルの両方に垂直なベクトル」 を作る 外積 など、 空間だけの新しい道具が加わります。
1. 空間ベクトルの成分表示
空間座標と基本ベクトル
空間に原点 O と互いに垂直な 3 軸 (x,y,z) をとった 空間座標 を考えます。 点P の座標は (x,y,z) と書き、 ベクトル OP は 成分 を使って
OP=(x,y,z)
と表します。 さらに 基本ベクトル を
e1=(1,0,0),e2=(0,1,0),e3=(0,0,1)
と定めると、 任意の空間ベクトルは
a=a1e1+a2e2+a3e3=(a1,a2,a3)
の形に一意に分解できます。
大きさと演算
| 演算 | 式 |
|---|
| 大きさ | ∣a∣=a12+a22+a32 |
| 和 | a+b=(a1+b1,a2+b2,a3+b3) |
| 差 | a−b=(a1−b1,a2−b2,a3−b3) |
| 実数倍 | ka=(ka1,ka2,ka3) |
例題 1
a=(2,−1,3), b=(1,2,−2) のとき、 ∣a∣ と a+2b を求めよ。
解: ∣a∣=4+1+9=14。 a+2b=(2+2,−1+4,3−4)=(4,3,−1)。
2. 内積 (空間ベクトル)
内積の定義
2 つの空間ベクトル a,b のなす角を θ (0≤θ≤π) とすると、 内積 は
a⋅b=∣a∣∣b∣cosθ
成分表示では
a⋅b=a1b1+a2b2+a3b3
となり、 平面の場合と同じ形に 1 項加わるだけです。
内積の性質
| 性質 | 式 |
|---|
| 交換則 | a⋅b=b⋅a |
| 分配則 | a⋅(b+c)=a⋅b+a⋅c |
| 実数倍 | (ka)⋅b=k(a⋅b) |
| 大きさとの関係 | a⋅a=∣a∣2 |
垂直条件
a=0,b=0 のとき、
a⊥b⟺a⋅b=0
例題 2
a=(1,2,2),b=(2,−1,2) のなす角を求めよ。
解: a⋅b=2−2+4=4, ∣a∣=3,∣b∣=3。 よって cosθ=94。 θ=cos−194。
3. 外積 (ベクトル積)
定義と公式
数学 C で新しく学ぶ 外積 (ベクトル積) は、 2 つの空間ベクトル a=(a1,a2,a3),b=(b1,b2,b3) に対して
a×b=(a2b3−a3b2, a3b1−a1b3, a1b2−a2b1)
で定義される 新しいベクトル です。 結果がスカラーになる内積と区別してください。
外積の幾何的意味
| 性質 | 内容 |
|---|
| 向き | a,b の両方に 垂直、 右手系 (右ねじの向き) |
| 大きさ | ∣a×b∣=∣a∣∣b∣sinθ (θ はなす角) |
| 意味 | a,b がはる 平行四辺形の面積 に一致 |
外積の性質
| 性質 | 式 |
|---|
| 反交換則 | b×a=−a×b |
| 分配則 | a×(b+c)=a×b+a×c |
| 実数倍 | (ka)×b=k(a×b) |
| 平行条件 | a∥b⟺a×b=0 |
例題 3
a=(1,2,3),b=(2,−1,1) の外積と、 a,b がはる平行四辺形の面積 S を求めよ。
解:
a×b=(2⋅1−3⋅(−1), 3⋅2−1⋅1, 1⋅(−1)−2⋅2)=(5,5,−5)
S=∣a×b∣=25+25+25=53
4. 直線と平面の方程式
空間直線のベクトル方程式
通過点A(a) と方向ベクトル d があるとき、 直線 ℓ上の点P(p) は
p=a+td(t∈R)
成分で書くと A(x0,y0,z0), d=(l,m,n) (lmn=0) として
lx−x0=my−y0=nz−z0
これを直線の 対称式 と呼びます。
平面の方程式
法線ベクトル n=(a,b,c) と通過点A(x0,y0,z0) を持つ 平面 は
a(x−x0)+b(y−y0)+c(z−z0)=0
整理して ax+by+cz+d=0 (d=−ax0−by0−cz0) と書けます。
点と平面の距離
点P(x1,y1,z1) と平面 ax+by+cz+d=0 の 距離 は
h=a2+b2+c2∣ax1+by1+cz1+d∣
例題 4
3 点A(1,0,0),B(0,2,0),C(0,0,3) を通る平面の方程式を求めよ。
解: AB=(−1,2,0),AC=(−1,0,3) の外積
AB×AC=(6,3,2)
を法線とし、 点A(1,0,0) を通るから 6(x−1)+3y+2z=0、 すなわち 6x+3y+2z=6。
5. 球と距離
球の方程式
中心 C(a,b,c)、 半径 r の 球 は
(x−a)2+(y−b)2+(z−c)2=r2
これは円の方程式を 1 次元増やした形です。
平面と球の関係
平面と球の関係は、 中心から平面への距離 h と半径 r の大小で決まります。
| 関係 | 条件 | 共通部分 |
|---|
| 離れる | h>r | なし |
| 接する | h=r | 1 点 |
| 交わる | h<r | 円 (半径 r2−h2) |
6. 行列入門
行列とは
数を長方形に並べたものを 行列 と呼びます。 横の並びを 行、 縦の並びを 列 と呼び、 m行n列の行列を m×n行列と言います。
A=(1324),B=(adbecf)
A は 2×2、 B は 2×3行列です。
行列の演算
| 演算 | 規則 |
|---|
| 和 | 同じ型の行列どうし、 成分ごとに加える |
| 実数倍 | 全ての成分を k倍する |
| 積 | A (m×n) と B (n×p) の積は m×p、 (AB)ij=∑kaikbkj |
単位行列と逆行列
2×2 の 単位行列 は
E=(1001)
行列 A=(acbd) の 行列式 は detA=ad−bc で、 detA=0 のとき 逆行列 が
A−1=ad−bc1(d−c−ba)
で与えられます。
例題 5
A=(2312) の逆行列を求めよ。
解: detA=4−3=1 より A−1=(2−3−12)。
7. 1 次変換の入り口
行列で平面を動かす
2×2行列 A を用いて、 平面上の点(x,y) を
(x′y′)=A(xy)
に対応させる操作を 1次変換 と呼びます。 これは 線形 な変換 (和と実数倍を保つ) に限られます。
代表的な 1 次変換
| 変換 | 行列 A |
|---|
| 原点中心、 角θ の 回転 | (cosθsinθ−sinθcosθ) |
| x軸対称 | (100−1) |
| y軸対称 | (−1001) |
| 原点中心 k倍拡大 | (k00k) |
例題 6
60° の回転を表す行列で、 点(1,0) を動かせ。
解: A=(1/23/2−3/21/2) で
A(10)=(1/23/2)
つまり単位円上の 60° の点に移ります。
8. 大学数学への橋渡し
| 高校で学ぶこと | 大学線形代数での拡張 |
|---|
| 空間ベクトル | n次元ベクトル空間、 基底、 次元 |
| 内積 | 内積空間、 直交基底 |
| 外積 | 外積代数、 微分形式 |
| 行列 | n×n行列、 固有値・固有ベクトル・行列式の一般化 |
| 1次変換 | 線形写像、 表現行列、 対角化 |
大事: 数学 C のベクトルと行列は、 線形代数 という大学数学の最重要分野への入り口です。 物理・工学・情報 (機械学習・3DCG) で必須の言語なので、 計算だけでなく 「幾何的に何が起きているか」 を図でつかんでください。
章末まとめ
- 空間ベクトル = (a1,a2,a3)、 大きさ ∣a∣=a12+a22+a32
- 内積 a⋅b=a1b1+a2b2+a3b3 で角度・垂直が分かる
- 外積 a×b は両方に垂直で、 大きさは平行四辺形の面積
- 平面 ax+by+cz+d=0、 法線 n=(a,b,c)
- 行列の積・逆行列・1次変換は線形代数への入口