この章で学ぶこと
数学 II で学んだ 複素数 z=a+bi (i2=−1) を、 数学 C では 「平面上の点」 として図形的に扱います。 複素数 の 足し算 は平行移動、 かけ算 は 回転 と 拡大 に対応 し、 これまでの ベクトル や 1次変換 とはまた違う強力な道具 になります。
- 複素数 を平面上の点として表す 複素数平面
- 共役複素数 zˉ の幾何的意味 (実軸対称)
- 複素数の 絶対値 ∣z∣ と 偏角 argz
- 複素数の 加法 = 平行移動、 乗法 = 回転 + 拡大
- 三角不等式 ∣z+w∣≤∣z∣+∣w∣
大事: 複素数 は単なる 「−1」 ではなく、 平面上の点を 1 つの数として扱う言語 です。 この視点は 電気回路 (交流 のフェーザ表示)、 量子力学 (波動関数)、 フラクタル (マンデルブロ集合) など、 現代数学・物理・工学の基盤 となる道具 です。
1. 複素数平面
定義
複素数 z=a+bi (a,b∈R) を、 平面上の点(a,b) に対応 させたものを 複素数平面 (ガウス平面、 アルガン平面) と呼びます。
| 要素 | 対応 |
|---|
| 実軸 (x軸) | 実数a |
| 虚軸 (y軸) | 虚部b |
| 原点 | 0 |
| 1 | (1,0) |
| i | (0,1) |
例
| 複素数 | 平面上の点 |
|---|
| 3+2i | (3,2) |
| −1+4i | (−1,4) |
| −2i | (0,−2) |
2. 共役複素数
定義
z=a+bi の 共役複素数 は
zˉ=a−bi
複素数平面 では 実軸 に関する対称移動 に相当 します。
性質
| 性質 | 式 |
|---|
| 和 | z+w=zˉ+wˉ |
| 積 | zw=zˉwˉ |
| 大きさ | zzˉ=a2+b2=∣z∣2 |
| 実数条件 | z=zˉ⟺z∈R |
| 純虚数条件 | z=−zˉ⟺z は純虚数または 0 |
3. 絶対値と偏角
絶対値
複素数 z=a+bi の 絶対値 は、 原点 からの距離
∣z∣=a2+b2
偏角
z=0 のとき、 実軸 から反時計回りに測った角を 偏角 argz=θ と言います。
| 関係 | 式 |
|---|
| 直交形 → 三角 | a=∣z∣cosθ, b=∣z∣sinθ |
| 三角形 → 直交 | z=∣z∣(cosθ+isinθ) |
最後の形を 極形式 と呼び、 第 9 章で詳しく学びます。
例題 1
z=1+3i の 絶対値 と 偏角 を求めよ。
解: ∣z∣=1+3=2、 tanθ=3 で z が第 1 象限だから θ=π/3。
4. 加法 = 平行移動
ベクトルとしての解釈
複素数z を 原点 を始点 とするベクトル と見ると、 和z+w はベクトルの和 (平行四辺形の法則) と一致 します。
| 演算 | 幾何的意味 |
|---|
| z+w | z を w だけ 平行移動 |
| z−w | w から z へのベクトル |
| ∣z−w∣ | 2 点z,w間の 距離 |
三角不等式
平面ベクトルと同じく
∣z+w∣≤∣z∣+∣w∣
(等号は z,w が同じ向きのとき)
5. 乗法 = 回転 + 拡大
1 つの大事な定理
2 つの 複素数 を 極形式 z1=r1(cosθ1+isinθ1), z2=r2(cosθ2+isinθ2) で表すと、 積は
z1z2=r1r2{cos(θ1+θ2)+isin(θ1+θ2)}
つまり
| 要素 | 結果 |
|---|
| 絶対値 | かけ算 (r1⋅r2) |
| 偏角 | 足し算 (θ1+θ2) |
幾何的解釈
z に w=r(cosθ+isinθ) をかけると、 z は 角θ だけ原点 を中心 に 回転 し、 さらに r倍に 拡大 されます。
特に、
| 乗数 | 操作 |
|---|
| i | 90° 回転 |
| −1 | 180° 回転 |
| −i | −90° 回転 (時計回り 90°) |
| cosθ+isinθ | 角θ 回転 |
| r (実数) | r倍拡大 |
例題 2
z=2+3i を原点中心 に 90°回転 せよ。
解: i をかけるだけ。 iz=i(2+3i)=−3+2i。
例題 3
z=1+i を原点中心 に 60°回転 し、 さらに 2 倍拡大 せよ。
解: 乗ずる数は w=2(cos60°+isin60°)=1+3i。
wz=(1+3i)(1+i)=1+i+3i+3i2=(1−3)+(1+3)i
6. 商と共役
除法の偏角・絶対値
z2z1 (z2=0) では
| 要素 | 結果 |
|---|
| 絶対値 | r1/r2 |
| 偏角 | θ1−θ2 |
つまり 「偏角 の引き算」 「絶対値 の割り算」。
計算ルール (共役を使う)
z2z1 は分母・分子に z2 をかけて、 分母を実数化します。
z2z1=z2z2z1z2=∣z2∣2z1z2
例題 4
3−i1+2i を a+bi の形で表せ。
解: 分母分子に 3+i をかける:
(3−i)(3+i)(1+2i)(3+i)=9+13+i+6i+2i2=101+7i=101+107i
7. 図形との結びつき
円・直線を複素数で表す
| 図形 | 複素数表示 |
|---|
| 中心 α、 半径 r の円 | ∣z−α∣=r |
| α,β を結ぶ線分の 垂直二等分線 | ∣z−α∣=∣z−β∣ |
| α からの距離 と β からの距離 の比が k:1 の軌跡 | ∣z−α∣=k∣z−β∣ (アポロニウスの円) |
例題 5
∣z−2∣=3 はどのような図形 か。
解: 中心 2 (= 実軸上の点(2,0))、 半径 3 の円。
8. 複素数の力 — なぜ強力か
1 つの数で 「向きと大きさ」 を持つ
実数やベクトルと比べた 複素数 の強みを並べます。
| 道具 | 向き | 大きさ | 演算 |
|---|
| 実数 | なし | あり (絶対値) | 加減乗除 |
| 平面 ベクトル | あり | あり | 加減、 内積・外積 (積はない) |
| 複素数 | あり (偏角) | あり (絶対値) | 加減乗除が全部できる |
ベクトルに 「かけ算」 を自然 な形で入れたのが 複素数、 と言えます。
物理と工学での使い方
| 分野 | 複素数の役割 |
|---|
| 電気回路 (交流) | 電圧・電流をフェーザ (Vejωt) で表し、 微分 を かけ算 に化す |
| 量子力学 | 波動関数 ψ は複素値、 確率が ∣ψ∣2 |
| 信号処理 | フーリエ変換 が 複素数 を必須とする |
| フラクタル | マンデルブロ集合z→z2+c |
次の章へ: 第 9 章で 極形式 を集中学習、 第 10 章で ド・モアブルの定理 (zn の計算) と n乗根を学びます。
章末まとめ
- 複素数平面: z=a+bi↔点(a,b)
- 共役 zˉ = 実軸対称、 zzˉ=∣z∣2
- 絶対値 ∣z∣=a2+b2、 偏角 argz
- 加法 = 平行移動、 乗法 = 回転 + 拡大
- i をかける = 90° 回転
- 円∣z−α∣=r、 垂直二等分線∣z−α∣=∣z−β∣