この章で学ぶこと
中学 1 年で 「文字式 と 単項式・多項式 の加法減法」、 中学 2 年で 「単項式 × 多項式」 まで学びました。 中学 3 年ではいよいよ 多項式 × 多項式 に進みます。
このとき答えをそのまま 1 行で書けるようにする 公式 が 乗法公式 です。 入試では計算スピードと正確さの両方が求められ、 ここでつまずくと後の 因数分解 や 二次方程式 が全滅します。 一気に完璧にしましょう。
この章が終わるころには、 つぎのことができるようになっています。
- (a+b)(c+d) を 分配法則 で 展開 できる
- 4 つの 乗法公式 を暗記し、 瞬時に当てはめられる
- (a+b+c)2 や 3 数の積など、 やや複雑な式も工夫して 展開 できる
- 共通因数 をくくる、 同じ形を文字で 置き換える等の入試で頻出のテクニックを身につけられる
ポイント: 「展開」 は 「かっこをはずして 1 つの多項式にする」 こと。 反対操作が次章の 因数分解 で、 両者は 逆の関係 です。
1. 多項式 × 多項式の基本 (分配法則)
まず一般の (a+b)(c+d) を考えます。 1 つずつかっこをばらすと、
(a+b)(c+d)=a(c+d)+b(c+d)=ac+ad+bc+bd
つまり、 左のかっこの各項を、 右のかっこの各項にかけてすべてたす というルールです。
例題 1: (x+2)(x+3) を展開しなさい。
(x+2)(x+3)=x⋅x+x⋅3+2⋅x+2⋅3=x2+3x+2x+6=x2+5x+6
中 2 項 (3x と 2x) をまとめて 5x にするのがポイントです。
例題 2: (2x−1)(3x+4) を展開しなさい。
(2x−1)(3x+4)=6x2+8x−3x−4=6x2+5x−4
符号 は 「マイナス × プラス = マイナス」 を意識します。 展開の計算ミスの 9 割は 符号 です。
ポイント:展開した直後は必ず 同類項 をまとめる。 ここを忘れると 「答えが 4 項のまま」 で減点対象です。
2. 乗法公式 1: (a+b)2=a2+2ab+b2
(a+b)2 は (a+b)(a+b) と同じなので、 上の分配法則で計算できるのですが、 何度も出てくるので 公式化 します。
(a+b)2=a2+2ab+b2
「最初の 2 乗、 2 倍の積、 後の 2 乗」 と唱えましょう。
例題 3: (x+5)2 を展開しなさい。
a=x, b=5 と見れば、
(x+5)2=x2+2⋅x⋅5+52=x2+10x+25
例題 4: (3x+2y)2 を展開しなさい。
a=3x, b=2y と置きます。
(3x+2y)2=(3x)2+2⋅3x⋅2y+(2y)2=9x2+12xy+4y2
係数の 2 乗 (32=9 など) を忘れないように。
3. 乗法公式 2: (a−b)2=a2−2ab+b2
マイナス版も公式化します。
(a−b)2=a2−2ab+b2
中の項だけがマイナス、 両端の a2 と b2 は 必ずプラス (−b を 2 乗するとプラスになるため) です。
例題 5: (2x−7)2 を展開しなさい。
(2x−7)2=(2x)2−2⋅2x⋅7+72=4x2−28x+49
よくあるミス: (a−b)2=a2−b2 と書いてしまう。 a2−b2 は 別の公式 (次で学ぶ和と差の積) なので、 混同しないこと。
4. 乗法公式 3: (a+b)(a−b)=a2−b2 (和と差の積)
(a+b)(a−b)=a2−b2
これは 「和と差の積は 2 乗の差」 と覚えます。 中の項が消えるのが美しい公式。
例題 6: (x+4)(x−4) を展開しなさい。
(x+4)(x−4)=x2−16
例題 7: (5a+3b)(5a−3b) を展開しなさい。
(5a+3b)(5a−3b)=(5a)2−(3b)2=25a2−9b2
例題 8 (入試頻出): 99×101 を工夫して計算しなさい。
99=100−1, 101=100+1 と見れば、
99×101=(100−1)(100+1)=1002−12=10000−1=9999
数値計算でもこの公式は使えます。
5. 乗法公式 4: (x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab
最後の公式は 1 次の係数と定数項 に注目します。
(x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab
「x の係数 = a と b の和、 定数項 = a と b の積」 と覚えます。
例題 9: (x+3)(x+5) を展開しなさい。
和3+5=8、 積3×5=15 より、
(x+3)(x+5)=x2+8x+15
例題 10: (x−2)(x+7) を展開しなさい。
和(−2)+7=5、 積(−2)×7=−14 より、
(x−2)(x+7)=x2+5x−14
符号を含めた 「足し算」 と 「かけ算」 を落ち着いて行えば OK。
6. 4 つの公式まとめ表
| 番号 | 公式 | 使う場面 |
|---|
| 1 | (a+b)2=a2+2ab+b2 | 同じかっこの 2 乗 (プラス) |
| 2 | (a−b)2=a2−2ab+b2 | 同じかっこの 2 乗 (マイナス) |
| 3 | (a+b)(a−b)=a2−b2 | 中の文字が同じで符号だけちがう 2 つの積 |
| 4 | (x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab | x で始まる 2 つの 1 次式の積 |
ポイント:入試では 「形を見た瞬間にどの公式か判別」 できるようになることがゴール。 暗記 + 演習 100 問で体に染み込ませましょう。
7. 入試で使うテクニック
(1) 共通因数を先にくくる
例題 11: 3(x+2)(x−1)−(x+2)(x−3) を展開しなさい。
(x+2) が共通なので、 先にくくると楽です。
3(x+2)(x−1)−(x+2)(x−3)=(x+2){3(x−1)−(x−3)}
中身を計算します。
3(x−1)−(x−3)=3x−3−x+3=2x
よって、
(x+2)⋅2x=2x2+4x
(2) 同じかたまりを文字で置く (置換)
例題 12: (x+y+3)(x+y−3) を展開しなさい。
x+y=A と置くと、
(A+3)(A−3)=A2−9=(x+y)2−9=x2+2xy+y2−9
3 つ以上の項がある多項式でも、 共通部分を 1 文字に置き換える ことで公式が使えます。
(3) 順序を入れ替えて公式を使う
例題 13: (a+b−c)(a−b+c) を展開しなさい。
{a+(b−c)}{a−(b−c)} と見れば、 和と差の積公式が使えます。
{a+(b−c)}{a−(b−c)}=a2−(b−c)2=a2−(b2−2bc+c2)=a2−b2+2bc−c2
ポイント: −(b−c)2 のカッコをハズすとき、 すべての項の符号を反転 する。 ここもミスが多い。
(4) (a+b+c)2 の公式 (覚えておくと速い)
(a+b+c)2=a2+b2+c2+2ab+2bc+2ca
3 つの項の 2 乗と、 2 つずつの積の 2 倍 3 セットの和です。 入試で出たら即答したい公式。
例題 14: (x+2y−3)2 を展開しなさい。
x2+(2y)2+(−3)2+2⋅x⋅2y+2⋅2y⋅(−3)+2⋅(−3)⋅x
=x2+4y2+9+4xy−12y−6x
8. 章末演習 (入試形式)
つぎの式を展開せよ。
(1) (2x+3)(2x−3)
(2) (x−6)2
(3) (x+4)(x−9)
(4) (3a+5)2−(3a−5)2
(5) (x+y+1)(x+y−1)
略解:
(1) 4x2−9
(2) x2−12x+36
(3) x2−5x−36
(4) 公式 1, 2 で各々展開すると {9a2+30a+25}−{9a2−30a+25}=60a
(5) x+y=A と置くと A2−1=x2+2xy+y2−1
章のまとめ:展開は 「形を見抜く」 → 「公式当てはめ」 → 「符号と同類項を確実に」 の 3 段階。 ここで速く正確に解ける力を付けると、 次章の 因数分解、 第 4 章の 二次方程式 が一気にラクになります。
まとめ — 多項式の展開を 3 行で
- 展開公式は (a+b)2=a2+2ab+b2、 (a−b)2=a2−2ab+b2、 (a+b)(a−b)=a2−b2、 (x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab の 4 本が基本である
- 複雑な式は共通部分を A などに置換して既知の公式に帰着させると見通しがよくなる
- 展開の鉄則は「形を見抜く → 公式に当てはめる → 符号と同類項を正確に処理する」 の 3 段階で、 速さと正確さの両立が肝心である