この 章で 学ぶこと
ここから 2 章は 経済 の学習です。 第 7 章では 「市場」 を中心とした経済のしくみを学びます。
- 経済の三主体 — 家計・企業・政府 のはたらき
- 市場 のしくみ — 需要 と 供給 で決まる 市場価格
- 独占・寡占 と 公正取引委員会
- 株式会社 のしくみ — 株主・配当・株主総会
- 労働者の権利 — 労働三法・労働組合・男女雇用機会均等法
- 消費者 の権利 と保護のしくみ — クーリング・オフ など
ポイント: 経済は 「市場」 と 「政府」 の両方ではたらいています。 すべてを市場に任せると不平等や独占が起き、 すべてを政府が管理すると効率が落ちます。 中学公民では、 この 両面の働き を学んでバランスの取れた見方を育てます。
1. 経済の三主体 — 家計・企業・政府
わたしたちの 経済 (お金やモノ・サービスのやり取り) は、 大きく 3 つの主体によって動いています。
三主体のはたらき
| 主体 | 役割 |
|---|
| 家計 | 個人や家族の経済活動。 働いて 所得 を得て、 消費 と 貯蓄 をする |
| 企業 | 商品やサービスを生産・販売し、 利潤 (もうけ) を追求する |
| 政府 | 税金を集め、 公共サービス (道路・学校・社会保障) を提供する |
三主体の関係
3 つの主体は、 おたがいに モノ・サービス・お金 をやり取りしています。
| やり取り | 内容 |
|---|
| 家計 → 企業 | 労働力 (働く時間) を提供 → 賃金を受け取る |
| 企業 → 家計 | 商品・サービスを販売 → 代金を受け取る |
| 家計 → 政府 | 税金 (直接税・間接税) を納める → 公共サービスを受ける |
| 企業 → 政府 | 法人税などを納める → 公共サービスを受ける |
大事: 家計が消費するから企業は売れる。 企業が雇うから家計は所得を得る。 政府が公共サービスを整えるから、 家計も企業も活動できる。 三主体は 「持ちつ持たれつ」 の関係です。
経済の循環
このやり取りはぐるぐる回っているので 経済の循環 と言います。 一部分が止まると全体に影響します。 たとえば家計の消費が落ち込めば、 企業の売上が減り、 雇用が縮小し、 また家計の所得が減る、 という悪循環 (デフレスパイラル) が起こります。
2. 家計の収入と支出
家計は経済の出発点です。 その収入と支出を見てみましょう。
家計の収入
| 種類 | 内容 |
|---|
| 勤労所得 | 会社や役所で働いて得る給料 (もっとも一般的) |
| 事業所得 | 自営業 (お店や農業) で得る所得 |
| 財産所得 | 株や土地を持っていて得る配当・家賃など |
家計の支出
家計の支出は 消費支出 (生活に使うお金) と 非消費支出 (税金・社会保険料) に分かれます。
エンゲル係数 (食費が消費支出に占める割合) や、 教育費・住居費の割合の変化から、 暮らしのゆとりを読み取ることができます。
ポイント: 給料がそのまま使えるお金になるわけではありません。 給料から 所得税・住民税・社会保険料 などが引かれた残り (手取り) が、 家計が自由に使えるお金です。 これを 「可処分所得」 と言います。
貯蓄と消費
使い切れなかったお金は 貯蓄 されます。 貯蓄は銀行などを通じて、 企業の投資に活用されたり、 国債 の購入に回されたりします。
最近は キャッシュレス決済 (クレジットカード・電子マネー・QR コード決済) が広がり、 お金の流れがますます見えにくくなっています。 自分のお金の出入りを把握する 家計管理 の大切さは増しています。
3. 市場のしくみ — 需要と供給
市場 とは、 商品が売り買いされる場のことです。 八百屋やスーパーのような目に見える場所だけでなく、 株式市場のようにインターネット上の取引も市場です。
需要と供給
需要(Demand)と供給(Supply)の曲線。価格が高いと需要は減り供給は増える。両者が交わる点で価格(P)と数量(Q)が決まり、これが市場価格になる。
| 用語 | 意味 |
|---|
| 需要 | 「買いたい」 という量。 価格が下がれば増え、 上がれば減る |
| 供給 | 「売りたい」 という量。 価格が上がれば増え、 下がれば減る |
| 市場価格 | 需要と供給がつり合うところで決まる価格 |
| 均衡価格 | 需要量と供給量がちょうど一致する価格 |
グラフで見る — 需要曲線と供給曲線
価格を縦軸、 数量を横軸にとると、
- 需要曲線 は 右下がり (価格が下がるほど買いたい人が増える)
- 供給曲線 は 右上がり (価格が上がるほど売りたい人が増える)
の形になり、 2 つの曲線が交わる点で 均衡価格 が決まります。
市場価格の動き — 具体例
- 野菜が豊作のとき: 供給が増えすぎる → 価格が下がる
- 不作のとき: 供給が減る → 価格が上がる
- 流行のおもちゃ: 需要が急増 → 価格が上がる、 または品切れに
このように、 市場経済 では 価格が信号 (シグナル) となって、 何をどれだけ作るかが決まる のです。 この働きをアダム・スミスは 「見えざる手」 と表現しました。
大事: 市場経済の長所は、 効率がよい こと。 値段が高くなれば供給が増え、 安くなれば需要が増えて、 おのずとバランスがとれます。 一方で、 価格が高くて買えない人を置いていく、 という短所もあります。
4. 独占と寡占 — 市場の失敗を防ぐ
市場経済には、 ほうっておくと 市場の失敗 が起こる弱点があります。 そのひとつが 独占 と 寡占 です。
独占・寡占とは
| 用語 | 意味 |
|---|
| 独占 | ある商品の市場を 1 つの企業が支配する状態 |
| 寡占 | 少数 (2 〜 3 社) の企業が市場を支配する状態 |
独占や寡占が起こると、 企業同士の競争がなくなり、 価格が高く保たれ、 商品の質も上がりにくくなります。 困るのは消費者です。
公正取引委員会と独占禁止法
そこで日本では、 独占禁止法 によって不公正な取引や独占を禁じ、 公正取引委員会 が監視をしています。
| 用語 | 意味 |
|---|
| カルテル | 同業の企業同士が話し合って価格を決める (禁止) |
| 談合 | 公共工事の入札で、 業者同士が事前に落札者を決める (禁止) |
その他の市場の失敗
| 種類 | 例 |
|---|
| 公共財 の問題 | 道路・公園のように、 だれもが使えるが利益を出しにくいもの → 政府が供給 |
| 外部不経済 | 工場の煙が周辺住民に迷惑をかける (公害) → 政府が規制 |
| 情報の非対称性 | 売り手だけが商品の欠陥を知っている → 消費者保護法で対応 |
ポイント: 市場経済はすばらしい仕組みですが、 完璧ではありません。 だからこそ 政府の規制や補助 が必要になる場面があるのです。 これは 「市場 vs 政府」 の対立ではなく、 両者の役割分担 と理解しましょう。
5. 企業のはたらきと株式会社
企業 は、 商品やサービスを生産する経済活動の中心です。
企業の種類
| 大分類 | 種類 | 例 |
|---|
| 公企業 | 国や地方公共団体が経営 | 水道・市営バス・国立病院 |
| 私企業 | 民間が経営 | 株式会社・合同会社・個人商店 |
私企業のなかでも、 もっとも一般的なのが 株式会社 です。
株式会社のしくみ
株式会社 は、 株式 (会社の所有権を細かく分けたもの) を発行して、 多くの人 (= 株主) からお金を集める形の会社です。
| 用語 | 意味 |
|---|
| 株主 | 株式を買って会社に出資した人。 会社の 「持ち主」 のひとり |
| 配当 | 会社の利益の一部が株主に分けられるお金 |
| 株主総会 | 株主が集まって会社の重要事項を決める最高機関 |
| 取締役会 | 株主総会で選ばれた取締役が、 会社の経営を行う |
| 証券取引所 | 株式の売買が行われる市場 (東京・大阪・名古屋など) |
有限責任とは
株式会社の大きな特徴は、 株主が 有限責任 であることです。 もし会社が倒産しても、 株主が負担するのは出資した金額まで。 それ以上の借金を返す責任はありません。
これにより、 多くの人が安心して出資でき、 会社は大きな資金を集められます。 産業革命以降、 大企業が急成長できた理由のひとつです。
企業の社会的責任 (CSR)
最近の企業には、 利潤追求だけでなく 企業の社会的責任 (CSR) が求められています。
| 内容 | 例 |
|---|
| 環境保護 | CO2 削減、 リサイクル、 省エネ製品の開発 |
| 雇用の確保 | 安定した雇用、 男女平等、 障害者雇用 |
| 法令遵守 (コンプライアンス) | 法律違反をしない、 不正会計をしない |
| 社会貢献 | 地域への寄付、 ボランティア支援 |
最近では ESG 投資 (環境 Environment・社会 Social・ガバナンス Governance を重視する投資) や SDGs経営 という考え方も広がっています。
6. 労働者の権利と働き方
家計 の所得の多くは、 働いて得る給料です。 だからこそ 労働者の権利 を守るしくみが大切になります。
労働三権と労働三法
日本国憲法第 28 条は、 労働者につぎの 労働三権 を保障しています。
| 権利 | 意味 |
|---|
| 団結権 | 労働組合 をつくる権利 |
| 団体交渉権 | 労働組合が会社と交渉する権利 |
| 団体行動権 (争議権) | ストライキなどを行う権利 |
これを具体化した法律が 労働三法 です。
| 法律 | 内容 |
|---|
| 労働基準法 | 労働時間・休日・最低賃金などの基準 (1 日 8 時間・週 40 時間以内) |
| 労働組合法 | 労働組合の活動を保障 |
| 労働関係調整法 | 労使の対立を調整するしくみ |
男女平等と多様な働き方
| 法律 | 目的 |
|---|
| 男女雇用機会均等法 (1985) | 採用・昇進・賃金などで男女差別を禁止 |
| 育児・介護休業法 | 育児や介護のための休業を保障 |
| 働き方改革関連法 (2018) | 長時間労働の是正、 多様な働き方を促進 |
雇用の課題
近年は、 非正規雇用 (パート・アルバイト・派遣社員・契約社員) の割合が労働者全体の約 4 割に達しています。 賃金や待遇の 正規・非正規格差 が社会問題です。
また、 過労死・パワハラ・サービス残業などの ブラック企業 問題、 過重労働による ワークライフバランス の崩れも課題です。
大事: 労働者の権利は、 過去の人々が長い時間をかけて勝ち取ってきたものです。 「働きすぎ」 は当たり前ではありません。 自分や家族の権利として、 知っておくことが大切です。
7. 消費者の権利を守る
商品を買う 「消費者」 も、 市場経済では弱い立場に立たされやすい存在です。
消費者の 4 つの権利
1962 年、 アメリカのケネディ大統領が示した 消費者の 4 つの権利 が世界で参考にされています。
- 安全である権利
- 知らされる権利
- 選択できる権利
- 意見を反映させる権利
日本の消費者保護のしくみ
| 制度・法律 | 内容 |
|---|
| 消費者基本法 (2004) | 消費者の権利を尊重し、 自立を支援 |
| 製造物責任法 (PL 法) (1995) | 商品の欠陥で被害が出た場合、 メーカーが責任を負う |
| 消費者契約法 (2001) | 不当な契約 (うそ・脅しによる契約) を取り消せる |
| クーリング・オフ | 訪問販売などで結んだ契約を、 一定期間内なら無条件で解除できる |
| 消費者庁 (2009) | 消費者保護を一元的に担当する省庁 |
悪質な商法に注意
中学生・高校生をねらった悪質な手口も増えています。
| 手口 | 内容 |
|---|
| キャッチセールス | 街頭で声をかけて、 営業所などに連れ込んで契約させる |
| マルチ商法 | 「友達を勧誘すれば儲かる」 と誘って商品を買わせる連鎖販売 |
| 架空請求 | 利用していないサービスの料金請求メール / SMS |
| ワンクリック詐欺 | サイトをクリックしただけで 「契約成立」 と請求 |
| SNS 投資詐欺 | SNS で 「絶対儲かる」 と勧誘して投資させる |
18 歳成人と契約
2022 年 4 月から、 成年年齢 が 20 歳から 18 歳に引き下げ られました。 18 歳になると親の同意なしで契約できますが、 その分、 未成年者取消権 (親の同意なしの契約を取り消せる権利) が使えなくなります。 契約のトラブルが増えることが心配されています。
ポイント: 「うますぎる話には裏がある」。 「絶対儲かる」 「あなただけ特別」 「今すぐ決めて」 と急かされたら、 必ず一度立ち止まり、 信頼できる大人や 消費生活センター (☎ 188) に相談しましょう。
8. 賢い消費者・賢い働き手として
第 7 章のしめくくりとして、 中学生のみなさんが消費者・将来の働き手として身につけてほしいことをまとめます。
消費者として身につけたいこと
| 力 | 具体的に |
|---|
| 情報を比較する | 1 つの広告だけで判断しない、 口コミ・公式情報を確認 |
| 必要性を考える | 「ほしい」 と 「必要」 を分ける |
| 契約の重さを知る | サインしたら基本的に取り消せない、 クーリング・オフ には期限がある |
| トラブル時は相談する | 1 人で抱え込まず、 家族・先生・消費生活センターへ |
| 環境への影響を考える | 大量消費・大量廃棄ではなく、 エシカル消費 (倫理的な消費) を意識 |
詐欺・トラブルから身を守る
- 知らない番号 / メール / SNS DM はまず 疑う
- 「ID・パスワード・カード番号」 を聞いてくる相手は ほぼ詐欺
- 「無料」 と書いてあっても、 利用規約・契約条件を確認
- 困ったら 消費者ホットライン 188 (いやや) に電話
将来の働き手として
- 労働基準法 の基本 (1 日 8 時間 / 週 40 時間 / 残業代 / 有給休暇) を知っておく
- 求人票の読み方 (賃金・労働時間・社会保険) を学んでおく
- 「おかしい」 と感じたら相談: 1 人で悩まず、 労働基準監督署 や労働組合へ
- 男女平等・多様性 を当たり前のものとして受け止める
大事: 経済は 「お金もうけ」 だけのものではありません。 より良いくらしをつくるための仕組み です。 賢く消費し、 健康に働き、 困ったら声を上げる。 これが 市場経済 を支える 主権者 の姿です。
まとめ
- 経済の三主体: 家計・企業・政府 が循環しながら経済を動かす
- 市場 では 需要 と 供給 が価格を決める (見えざる手)
- 独占・寡占 は競争をなくす → 独占禁止法 と 公正取引委員会 で防ぐ
- 株式会社 は 株主 が 有限責任 で出資、 株主総会 が最高機関
- 労働三法 が労働者の権利を保障、 男女雇用機会均等法 で男女平等
- 消費者 には クーリング・オフ・PL 法・消費者契約法 が守りの網
- 市場と政府の 両面 から経済を見るのが中学公民の視点