この章で学ぶこと
前の章で学んだ 日本国憲法 の 3 大原則を、 実際に動かすしくみが 政治のしくみ です。 中心となるのが 国会・内閣・裁判所 の 3 つ。 互いに力を抑え合う 三権分立 の考え方を軸に学びましょう。
- 三権分立 とは何か、 なぜ必要かを知る
- 国会 の役割と二院制 (衆議院・参議院) を学ぶ
- 内閣 の役割と 議院内閣制 を知る
- 裁判所 の役割、 三審制、 違憲審査 を学ぶ
- 裁判員制度 を知る (18 歳以上が候補)
- 三権が互いを抑え合うしくみをつかむ
ポイント: 「権力を一つのところに集めると 暴走する」 — モンテスキュー (Ch3) の 警告を形にしたのが三権分立です。
1. 三権分立 — 権力を分けるしくみ
三権分立 とは、 国家の権力を 立法権 (法律をつくる)・行政権 (法律を実行する)・司法権 (法を守らせる) の 3 つに分け、 別々の機関が担うしくみ です。
三つの権力と機関
| 権力 | 役割 | 担う機関 |
|---|
| 立法権 | 法律をつくる | 国会 |
| 行政権 | 法律に基づき政策を実行する | 内閣 (中央省庁) |
| 司法権 | 法律に基づき争いを裁く | 裁判所 |
なぜ三権を分けるのか
| 理由 | 内容 |
|---|
| ① 権力集中の防止 | 一人・一機関が全権を持つと 暴政になりやすい |
| ② 抑制と 均衡 | 互いに 監視・牽制し合い、 行き過ぎを防ぐ |
| ③ 国民の自由を守る | 権力が暴走すると真っ先に失われるのが国民の自由 |
三権の相互関係 (主なもの)
| 動き | 内容 |
|---|
| 国会 → 内閣 | 内閣総理大臣の 指名、 内閣不信任決議 |
| 内閣 → 国会 | 衆議院の 解散 |
| 国会 → 裁判所 | 裁判官の 弾劾 (だんがい) 裁判 |
| 裁判所 → 国会 | 法律の 違憲審査 |
| 内閣 → 裁判所 | 最高裁判所長官の 指名 (任命は天皇)、 その他裁判官の 任命 |
| 裁判所 → 内閣 | 命令・処分の 違憲審査 |
| 国民 → 国会 | 選挙 |
| 国民 → 内閣 | (世論) |
| 国民 → 裁判所 | 国民審査 (最高裁裁判官) |
大事: 三権の中心に 「国民」 が位置します。 これが 国民主権 の表れです。
2. 国会 — 立法機関
国会 は 「国権の最高機関」 であり、 「国の 唯一の立法機関」 です (41 条)。
国会議事堂 (東京・永田町)。国の唯一の立法機関である国会が開かれる。中央・左に衆議院、 右に参議院。
二院制 (両院制)
日本の国会は 衆議院 と 参議院 の 二院制 を採用しています。
| 項目 | 衆議院 | 参議院 |
|---|
| 議員数 | 465 人 | 248 人 |
| 任期 | 4 年 (解散あり) | 6 年 (3 年ごとに半数改選) |
| 被選挙権 | 25 歳以上 | 30 歳以上 |
| 選挙区 | 小選挙区 + 比例代表 | 選挙区 + 比例代表 |
| 解散 | あり | なし |
なぜ二院制か
- 慎重な審議: 1 つの法律を 2 回検討、 誤りを防ぐ
- 多様な民意: 任期や選出方法が違い、 多様な意見を反映
- チェック機能: 一方が行き過ぎた時に他方が 抑 える
衆議院の優越
衆議院は任期が短く解散もあるため、 より新しい民意 を反映しやすいとされ、 いくつかの場面で 優越 が認められます。
| 場面 | 衆議院の優越 |
|---|
| 法律案 | 衆が可決、 参が否決 → 衆が 3 分の 2 以上で再可決すれば成立 |
| 予算 | 衆が先議。 不一致時は衆の議決が国会の議決 |
| 条約 | 同上 |
| 内閣総理大臣の指名 | 同上 |
国会の主な仕事
| 仕事 | 内容 |
|---|
| 法律の制定 | 法律案を審議し議決 (年間 100 本前後が成立) |
| 予算の議決 | 1 年間の国の収入・支出を決める |
| 条約の承認 | 内閣が結んだ条約を承認する |
| 内閣総理大臣の指名 | 国会議員の中から選ぶ |
| 憲法改正の発議 | 各院 3 分の 2 以上で国民投票へ |
| 国政調査権 | 政府を監視するため証人を呼ぶ |
| 弾劾裁判 | 不適任な裁判官をやめさせる |
国会の種類
| 種類 | 内容 |
|---|
| 常会 (通常国会) | 毎年 1 月召集、 会期 150 日 |
| 臨時会 | 内閣や議員が必要と認めた時 |
| 特別会 | 衆議院解散 → 総選挙後 30 日以内 |
| 緊急集会 (参のみ) | 衆議院解散中の緊急時 |
法律ができるまで
| ステップ | 内容 |
|---|
| ① 法律案提出 | 内閣または国会議員が提出 |
| ② 委員会審査 | 各院の専門委員会で詳しく検討 |
| ③ 本会議 | 各院の全議員で議決 |
| ④ 他院へ送付 | もう一方の院で同じ流れ |
| ⑤ 両院一致 で 成立 | (不一致なら両院協議会や衆の再議決) |
| ⑥ 天皇が公布 | 形式的な公布 |
ポイント: 法律案の多くは 内閣 が提出します (約 7-8 割)。 しかし国会議員が提出する 議員立法 も重要です。
3. 内閣 — 行政機関
内閣 は行政 (法律や予算に基づき政策を実行する仕事) の最高機関です。
内閣の 構成
| 役職 | 役割 |
|---|
| 内閣総理大臣 (首相) | 内閣の長、 国務大臣を任命・罷免 |
| 国務大臣 | 各省の長 (財務大臣・外務大臣など) |
- 内閣総理大臣は 国会議員 であることが必要 (67 条)
- 国務大臣の 過半数 は国会議員であることが必要 (68 条)
- 内閣総理大臣と国務大臣は 文民 (軍人でない人) であること (66 条)
議院内閣制
日本は 議院内閣制 を採用しています。 これは 国会と内閣が強く結びついたしくみ です。
| 特 | 内容 |
|---|
| 総理大臣を国会が指名 | 衆議院で 多数を占める政党の党首が 普通 |
| 内閣は国会に 連帯責任 | 内閣全体で国会に責任を負う |
| 内閣不信任決議 | 衆議院が不信任を決議すると、 10 日以内に衆を 解散 するか 総辞職 |
大統領制との違い
| 項目 | 議院内閣制 (日・英) | 大統領制 (米) |
|---|
| 行政の長の選出 | 議会が指名 | 国民が直接選挙 (米は選挙人) |
| 議会と行政 | 結びつき強い | 厳格に分離 |
| 解散権 | あり | なし |
内閣の主な仕事
| 仕事 | 内容 |
|---|
| 法律の 執行 | 国会がつくった法律を実行 |
| 外交 | 条約の 締結、 大使の 派遣 |
| 予算案の作成 | 国会に提出 |
| 政令の制定 | 法律を実施するための詳細なルール |
| 天皇の国事行為の助言・承認 | 天皇の行為を補佐 |
| 最高裁判所長官の指名 | 任命は天皇 |
中央省庁
内閣の下で実際の仕事をするのが 中央省庁 (1 府 11 省 + 庁・委員会) です。
| 主な省 | 担当 |
|---|
| 財務省 | 予算・税 |
| 外務省 | 外交 |
| 法務省 | 法律・人権・出入国 |
| 防衛省 | 自衛隊 |
| 文部科学省 | 学校・大学・科学 |
| 厚生労働省 | 医療・年金・労働 |
| 経済産業省 | 産業・貿易・エネルギー |
| 国土交通省 | 道路・鉄道・港・住宅 |
| 環境省 | 環境・気候変動 |
| デジタル庁 | (2021 年設置) IT・行政デジタル化 |
ポイント: 政府の仕事を実際に動かすのは 公務員 (約 330 万人、 うち国家公務員約 60 万人) です。
4. 裁判所 — 司法機関
最高裁判所 (東京千代田区) — 日本の司法の最高機関。 三審制 の頂点。 違憲審査権 を持ち、 「憲法の番人」 ともよばれる。
裁判所 は 法に基づき争いを裁く 機関です。 公平・中立であるために、 国会や内閣から 独立 しています。
司法権の独立
- 裁判所は国会・内閣から独立 (76 条)
- 裁判官は 「自己の良心に従い、 独立してその職権を行う」 (76 条 3 項)
- 裁判官は簡単に罷免できない (心身の故障・弾劾裁判以外)
裁判所の種類と三審制
日本の裁判所は 5 種類、 同じ事件を最大 3 回 裁判できる 三審制 を採用しています。
| 種類 | 役割 |
|---|
| 最高裁判所 | 唯一の最高裁。 15 人の裁判官 |
| 高等裁判所 | 全国 8 か所。 主に控訴審 |
| 地方裁判所 | 全国 50 か所。 主に一般事件の第一審 |
| 家庭裁判所 | 家族・少年事件 |
| 簡易裁判所 | 全国 438 か所。 軽い事件 |
三審制の流れ
| ステップ | 名称 | 内容 |
|---|
| ① 第一審 | 地方 (簡易・家庭) 裁判所 | 最初の裁判 |
| ② 控訴 | 高等裁判所 | 第一審の判決に不服 |
| ③ 上告 | 最高裁判所 | 控訴審の判決に不服 |
ポイント: 三審制は 誤判 (えん罪) を防ぐ ためのしくみです。
裁判の種類
| 種類 | 内容 |
|---|
| 民事裁判 | 個人や企業の間の争い (お金・契約・離婚など) |
| 行政裁判 | 国や自治体と個人の争い (民事の一種として行う) |
| 刑事裁判 | 犯罪かどうか、 どんな刑罰かを決める |
違憲審査と 「憲法の番人」
裁判所は 法律・命令・処分が憲法に違反していないかを判断 できます (違憲審査、 81 条)。 最終判断は 最高裁判所 が行い、 「憲法の番人」 と呼ばれます。
過去の主な違憲判決の例
| 年 | 内容 |
|---|
| 1973 | 尊属殺重罰規定 (刑法 200 条) を違憲 |
| 1985 | 衆議院議員定数不均衡 (1 票の格差) を違憲 |
| 2008 | 国籍法 (婚外子の国籍) を違憲 |
| 2015 | 女性の再婚禁止期間 (100 日超の部分) を違憲 |
推定無罪と適正手続
刑事裁判では 「疑わしきは 被告人の利益に」 が原則。 有罪が証明されるまでは 無罪と推定 されます。 また 適正な手続 で行うこと (31 条) も大切です。
5. 裁判員制度
裁判員制度 は、 国民が 重大な刑事裁判に参加する しくみで、 2009 年 5 月 から始まりました。
基本のしくみ
| 項目 | 内容 |
|---|
| 対象事件 | 殺人などの重大な刑事事件 (地方裁判所の第一審のみ) |
| 構成 | 裁判官 3 人 + 裁判員 6 人 |
| 役割 | 有罪か無罪か、 有罪なら どんな刑罰か を決める |
| 裁判員の選ばれ方 | 18 歳以上 の有権者から 抽選 (くじ引き) |
メモ: 2022 年の法改正で、 2023 年から裁判員候補が 18・19 歳にも拡大されました。 大学 1 年生で候補になる可能性があります。
なぜ裁判員制度か
| 理由 | 内容 |
|---|
| 市民感覚 | 裁判に一般市民の感覚を反映 |
| 司法への理解 | 国民が司法を身近に感じる |
| 司法の 信頼 | 「裁判は国民のもの」 という意識を育てる |
裁判員の義務
- 守 秘義務: 評議の内容を一生話してはいけない
- 出頭 義務: 正当な理由なく欠席すると過料
裁判員制度の課題
- 心理的な負担 (残酷な証拠を見ることも)
- 守秘義務と 「裁判員経験の共有」 のバランス
- 仕事・育児と両立できるか
その他の司法参加
- 検察審査会 (1948 年 〜): 検察官の不起訴処分を審査
- 少年審判 への民間参加 (家庭裁判所調停委員など)
ポイント: 裁判員制度は 「主権者として司法に関わる」 大切な機会です。 数年後、 あなたたちも候補になるかもしれません。
6. 司法を支える専門家
裁判を公正に進めるために、 多くの専門家が関わります。
法律の専門家
| 職業 | 役割 |
|---|
| 裁判官 | 中立の立場で判決を下す |
| 検察官 | 公益の代表として起訴し、 立証する |
| 弁護士 | 当事者の立場で主張する (民事)・被告人を弁護 (刑事) |
| 司法書士 | 登記や簡易訴訟の補助 |
法テラス
「日本司法支援センター」 (法テラス) が 2006 年に設立され、 お金がなくても法律相談を受けられる仕組みが整えられました。
国民審査
最高裁判所の裁判官は、 任命後最初の衆議院議員総選挙と 10 年ごとに 国民審査 を受けます (79 条)。 罷免を可とする票が過半数の場合、 罷免されます。 これも主権者の重要な権利です。
7. 三権分立をまとめる
最後に、 三権が互いをどう抑え合うかを表で整理しましょう。
三権相互の抑制と均衡
| 矢印 | 内容 |
|---|
| 国会 → 内閣 | 内閣不信任決議、 総理大臣指名 |
| 内閣 → 国会 | 衆議院解散 |
| 国会 → 裁判所 | 弾劾裁判 |
| 裁判所 → 国会 | 違憲審査 (法律) |
| 内閣 → 裁判所 | 最高裁長官指名・裁判官任命 |
| 裁判所 → 内閣 | 違憲審査 (命令・処分) |
| 国民 → 国会 | 選挙 (衆・参) |
| 国民 → 裁判所 | 国民審査 (最高裁) |
| 国民 → 内閣 | 世論 (間 接的) |
なぜ国民から内閣への直接矢印がないのか
日本は 議院内閣制 であり、 国民は国会議員を選び、 国会が総理大臣を指名します。 つまり国民と内閣は 国会を介して つながります。 一方、 大統領制 (米国) では国民が大統領を 直接選挙 で選びます。
ポイント: 三権分立は 「完璧なしくみ」 ではなく、 常に国民が 監視し、 改善していく動的なしくみ です。
まとめと安全配慮
この章のまとめ
| 三権 | 機関 | 主な役割 |
|---|
| 立法 | 国会 (衆・参) | 法律をつくる |
| 行政 | 内閣 | 法律を実行する (議院内閣制) |
| 司法 | 裁判所 (5 種、 三審制) | 法を守らせる、 違憲審査 |
安全配慮 — 政治への関心と 18 歳選挙権
中学生からすると 「政治」 は遠いものに感じるかもしれません。 でも、 数年であなたたちは
- 18 歳 で 選挙権 (国政選挙・地方選挙)
- 18 歳 で 裁判員 候補 (2023 年 〜)
- 18 歳 で 憲法改正国民投票
- 20 歳 で 検察審査員 候補
を持つ主権者になります。 その準備を中学・高校で始めましょう。
政治と関わる 5 つのヒント
- ニュースを見る習慣 — テレビ・新聞・ネットを複数比較
- 複数の立場を知る — 一つの情報源だけに偏らない
- 「なぜそう思うか」 を話す練習 — 家族や友達と議論
- 選挙公約を読む習慣 — 18 歳までの練習
- 特定の政党・政治家のファンにならず、 政策で 比較
政治的中立の大切さ
公民では 特定の政党や政治家を評価しません。 各党にはそれぞれの立場があり、 どれが 「正解」 かは主権者のあなたが自分で判断する問題です。 学校の教員も政治的中立を守ることが求められます。
18 歳選挙権の意味
2016 年の選挙権年齢引き下げは、 70 年ぶりの歴史的改正 でした (1945 年に男女普通選挙、 それまで 20 歳)。 これは 「若い世代の声を政治に」 という期待と、 「18 歳を大人として信頼する」 という社会からのメッセージです。
次の章では, 三権分立を補う 地方自治 と、 主権者の直接の武器である 選挙 のしくみを学びます。