この章で学ぶこと
今のわたしたちが 「人は生まれながらに自由 で平等 である」 と当然 のように言えるのは、 過去 の多くの人の 長い闘争 の結果 です。 この章では、 人権 と 民主主義 がどう育ってきたかを歴史順に学びます。
- 人権 (基本的人権) とは何かを知る
- 中世イギリスからの マグナ・カルタ (1215 年) を学ぶ
- 17・18 世紀 の 社会契約説 (ロック・ルソー・モンテスキュー) を知る
- 権利章典・アメリカ独立宣言・フランス人権宣言 を順に学ぶ
- 20 世紀 の 世界人権宣言 (1948 年) と国際化の流れをつかむ
- 歴史上の人物を 多角的に評価 する視点 を育てる
ポイント: 人権は 「最初からあったもの」 ではなく、 数百年かけて少しずつ認められてきたもの です。 そして 今でも完成していない — これが大事な視点 です。
1. 人権とは何か (基本的人権)
「人権」 とは、 人が人として生まれただけで当然に持つ権利 です。 もう少し正式 に言うと 「基本的人権」 と言います。
人権の 3 つの大きな性質
| 性質 | 意味 |
|---|
| 固有性 | 国や人から与えられるのではなく、 生まれながらに持つ |
| 不可侵性 | 国家や他人が 奪うことができない |
| 普遍性 | すべての人 に平等 に認められる (国籍・性別・年齢関係 なく) |
人権の主な種類
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|
| 自由権 | 国家からの自由 (干渉 されない権利) | 思想・信条・言論・信教 の自由 |
| 平等権 | 等しくあつかわれる権利 | 法の下の平等 |
| 社会権 | 人間 らしく生きる権利 | 生存権・教育 を受ける権利・労働権 |
| 参政権 | 政治 に参加 する権利 | 選挙権・被選挙権 |
| 請求権 | 人権が侵害されたときに救済 を求める権利 | 裁判 を受ける権利 |
大事: これら 5 種の人権は、 歴史の中で順番に認められてきました。 自由権が一番古く、 社会権は 20 世紀 に入ってからの新しい権利です。
2. マグナ・カルタ (1215 年) — 王の権力を縛る
人権史の出発点とされるのが、 中世イギリスの マグナ・カルタ (Magna Carta、 大憲章) です。
背景
- 13 世紀 イギリス、 王ジョン (失地王) の重い課税 と戦争失敗 への不満
- 貴族 たちが王に反抗 し、 1215 年に王に文書を認めさせた
主な内容
| 条項 | 内容 |
|---|
| 第 12 条 | 王が勝手に課税 できない。 貴族会議 の同意 が必要 |
| 第 39 条 | 法の適正 な手続き なしに自由を奪われない |
歴史上の意義
- 「王であっても法に縛られる」 (法の支配) という考え方の出発点
- 当初 は貴族だけの権利だったが、 後に すべての国民 へ広がる種となった
ポイント: マグナ・カルタは 「最初から民主主義」 ではありません。 でも、 王を法で縛る という考えが生まれたことが後の人権の土台 になりました。
3. 社会契約説 (17・18 世紀) — 国家は何のためにあるか
17 〜 18 世紀、 ヨーロッパで 「国家とは何か」「政治 の力はどこから来るか」 を根本から問い直す思想 が生まれました。 これが 社会契約説 です。
主な思想家
| 思想家 | 国 | 主著 | 主張の要点 |
|---|
| ホッブズ | イギリス | リヴァイアサン (1651) | 自然状態 は 「万人の万人に対する闘争」。 安全 のために強い主権 が必要 |
| ロック | イギリス | 統治二論 (1690) | 国民は生命・自由・財産 の権利を持つ。 政府が暴政 なら 抵抗権 を持つ |
| モンテスキュー | フランス | 法の精神 (1748) | 三権分立 (立法・行政・司法 を分ける) を主張。 権力集中 を防ぐ |
| ルソー | フランス | 社会契約論 (1762) | 主権 は国民全体 にある (人民主権)。 一般意志で政治を行う |
共通 する考え方
- 国家や政府は、 神や王が上からつくったものではなく、 国民がお互いに約束 (契約) して作った
- だから、 国家が約束を破れば国民は 抵抗 できる
- これが 国民主権 と 民主主義 の思想の源流
大事: ロック・モンテスキュー・ルソーは それぞれ立場 が違う。 ロックは国王と議会の共存を、 ルソーは直接民主制を重視。 一つの 「正解」 ではなく、 多様な議論の中から民主主義が育った のです。
4. 市民革命と権利宣言 (17・18 世紀)
社会契約説を背景 に、 17 〜 18 世紀 に 「市民革命」 が起こり、 王の権力を制限 する文書が次々に生まれました。
主な文書と革命
| 年 | 国 | 文書 / 出来事 | 要点 |
|---|
| 1689 | イギリス | 権利章典 (名誉革命の結果) | 国王は議会の同意なく法律や課税を行えない |
| 1776 | アメリカ | アメリカ独立宣言 | 「すべての人は平等、 生命・自由・幸福追求 の権利を持つ」 |
| 1789 | フランス | フランス人権宣言 (フランス革命) | 「人は生まれながら自由で平等な権利を持つ」 (第 1 条) |
イギリス — 名誉革命と権利章典 (1689)
- 国王ジェームズ 2 世が議会を無視 し専制政治を行う
- 議会が王を追放 し、 オランダからウィリアムとメアリーを迎える
- 流血がほとんどなかったので 「名誉革命」
- 翌年、 権利章典 で 議会の優越 が確立
アメリカ — 独立戦争 (1775-83)
- イギリスの植民地であったアメリカが、 重い課税に反抗 し独立を目指す
- 1776 年 7 月 4 日、 アメリカ独立宣言 (主起草: ジェファーソン) を発表
- ロックの思想を強く受け 「生命・自由・幸福 の追求」 を不可譲の権利とした
フランス — フランス革命 (1789-99)
- 王ルイ 16 世の専制 と経済危機、 国民の不満が爆発
- 1789 年 7 月 14 日、 バスチーユ牢獄襲撃
- 8 月 26 日、 フランス人権宣言 を採択
- 「自由・平等・友愛」 の標語 が後の民主主義へ影響
フランス人権宣言(1789年)。フランス革命で採択され、自由・平等・国民主権をうたい、近代人権思想の出発点となった。
19 世紀 の流れ
| 動き | 内容 |
|---|
| 奴隷解放 | アメリカ南北戦争 (1861-65)、 リンカンの解放宣言 |
| 選挙権拡大 | 当初 は男性 かつ一定 の財産 を持つ人だけ → 順次拡大 |
| 労働運動 | 工業化の進展 とともに労働者の権利を求める動き |
| 女性参政権 | 19 世紀末から 20 世紀初頭に各国で認められ始める |
ポイント: 18 世紀 の宣言でも、 「人」 とは当初 白人の男性のみ を意味 することが多かった。 女性・有色人種・労働者へ権利が広がるにはさらに 100 年以上かかった。
5. 20 世紀の人権 — 社会権と世界人権宣言
19 世紀 の自由権だけでは 「お金がなければ自由もない」 ことがわかってきました。 そこで 20 世紀 に 社会権 が生まれます。
ワイマール憲法 (1919) — 社会権の誕生
- ドイツの ワイマール憲法 (1919 年) が世界で初めて 「人間らしく生きる権利」 (生存権) を規定
- 「経済生活の秩序 は、 すべての人に人間 たるに値する生活を保障するものでなければならない」 (151 条)
- 後の日本国憲法 25 条 (生存権) のモデル
第二次世界大戦と反省
- ナチス・ドイツのホロコースト、 各国の戦争犯罪 など、 国家が人権を大規模 に侵害
- 「自国内の問題」 で済ませず、 国際的に人権を守る 必要が痛感 される
世界人権宣言 (1948 年)
- 1948 年 12 月 10 日、 国際連合総会で採択
- 30 条 からなる、 国際的な人権文書の出発点
- 第 1 条: 「すべての人間は、 生まれながらに自由であり、 かつ尊厳 と権利とについて平等である」
- 法的拘束力はないが、 その後の人権規約 (1966 年) で法的拘束力を持つようになる
12 月 10 日は 世界人権デー
毎年 12 月 10 日は 「世界人権デー」 として各地で人権啓発活動が行われます。
その後の人権条約
| 年 | 条約 | 内容 |
|---|
| 1965 | 人種差別撤廃条約 | 人種を理由とする差別を禁止 |
| 1966 | 国際人権規約 | 世界人権宣言を法的に補強 |
| 1979 | 女性差別撤廃条約 | 女性へのあらゆる差別を撤廃 |
| 1989 | 子どもの権利条約 | 子どもの 4 つの権利を規定 |
| 2006 | 障害者権利条約 | 障害 のある人の権利を規定 |
子どもの権利条約の 4 つの権利
| 権利 | 内容 |
|---|
| 生きる権利 | 防げる病気で命を落とさない |
| 育つ権利 | 教育を受け、 遊び、 休むこと |
| 守られる権利 | 暴力 や搾取 から守られる |
| 参加 する権利 | 意見 を表明し、 聴かれること |
大事: あなたたち中学生も、 この 「意見を表明する権利」 を持っています。 学校や家庭での大切な決定に、 自分の考えを言うことは立派 な権利行使です。
6. 人権はまだ完成していない
世界人権宣言から約 80 年。 でも、 人権は まだまだ完成していません。
現代の人権課題 (世界)
| 課題 | 内容 |
|---|
| 戦争・内戦 | 多くの民間人が命や家を失う |
| 難民 | 戦争・迫害 から逃れる人が約 1 億人 (2022 年ごろ) |
| 貧困 | 1 日約 200 円未満で暮らす人が約 7 億人 |
| 児童労働 | 学校に行けず働く子どもが約 1.6 億人 |
| ジェンダー不平等 | 女性 の教育・労働・政治参加 の制限 |
現代の人権課題 (日本)
| 課題 | 内容 |
|---|
| 女性差別 | 国会議員・管理職の女性比率 が低い |
| 障害者差別 | バリアフリー不十分、 雇用機会の不足 |
| 外国ルーツ | 入居・就職 での差別、 ヘイトスピーチ |
| L G B T Q | 同性 パートナーの法的地位 が不確定 |
| 子どもの貧困 | 約 7 人に 1 人 (2021 年ごろ) |
人権を守る主な機関
- 国際連合人権高等弁務官事務所 (UNHCR とは別)
- 国際刑事裁判所 (戦争犯罪を裁く)
- 日本では 法務省人権擁護局、 各地の 人権擁護委員
ポイント: 人権は一度認められたら終わりではありません。 常に守り、 広げる努力 が必要です。 その主役は国だけでなく、 一人 ひとりの市民です。
まとめと安全配慮
この章のまとめ
| 時期 | 出来事 | キーワード |
|---|
| 1215 | マグナ・カルタ | 王を法で縛る |
| 17-18 世紀 | 社会契約説 | ロック・モンテスキュー・ルソー |
| 1689 | 権利章典 (英) | 議会の優越 |
| 1776 | アメリカ独立宣言 | 生命・自由・幸福追求 |
| 1789 | フランス人権宣言 | 自由平等友愛 |
| 1919 | ワイマール憲法 | 社会権 (生存権) |
| 1948 | 世界人権宣言 | 国際的な人権の出発点 |
| 1989 | 子どもの権利条約 | 子どもも権利主体 |
安全配慮 — 歴史的人物の多角的評価
歴史上の人物を学ぶときは、 つぎのことに注意しましょう。
- 「英雄」 と一面的にたたえない (例: ジェファーソンは独立宣言の起草者だが、 同時 に奴隷所有者でもあった)
- 「悪人」 と一方的に決めつけない (例: ルイ 16 世は確かに失政をしたが、 個人としての評価は多様)
- 当時 の価値観と現在の価値観は違う (例: 18 世紀の 「人権」 と 21 世紀の 「人権」 では範囲がまったく違う)
- 複数 の立場 からの史料 を比較 する (王側の記録 と民衆側の記録)
- 人権拡大の 「主役」 は名もなき多くの人 であったことを忘れない
主権者の自覚
人権史を学ぶことは、 単なる暗記ではありません。 「今、 自分が当然に持っている権利は、 誰かが命をかけて勝ち取ってきたもの」 と知ることで、 権利を大切にし、 また 新しい権利を育てていく主体 になるための学びです。
次の章では, この人権史の成果 を受けた 日本国憲法 の 3 大原則を学びます。