この 章で 学ぶこと
**[[選挙|せんきょ]]** — 主権者 で あ る 国民 が 代表 を 選 ぶ 民主主義 の 基本行為。 日本 で は 2016 年 に **18 歳[[選挙権|せんきょけん]]** が 実現。
第 5 章では、 国レベルの政治のしくみ (国会・内閣・裁判所) を学びました。 第 6 章では、 もっと身近な 「地域の政治」 と、 政治に参加する手段である 「選挙」 を学びます。
- 地方自治 は 「民主主義の学校」 とよばれる理由
- 二元代表制 — 知事 / 市町村長 と地方議員 をそれぞれ住民が直接選ぶしくみ
- 直接請求権 — 条例制定 / 議会解散 / 首長解職などを住民が請求できる権利
- 選挙の 4 原則 — 普通選挙・平等選挙・直接選挙・秘密選挙
- 小選挙区比例代表並立制 など、 日本の選挙制度
- 政党・与党・野党、 世論 と マスメディア の関係
ポイント: 2016 年から選挙権年齢が 18 歳 に引き下げられました。 中学生のみなさんも、 数年後には 有権者 になります。 この章は、 そのときに 「自分の頭で判断する力」 を育てるための土台です。
1. 地方自治とは — 民主主義の学校
国の政治は遠くに感じる人も、 自分の住む市町村のゴミ収集や図書館、 公園のことなら身近に感じるはずです。 こうした 住民に身近な地域社会の問題を、 住民みずからが解決していくしくみ を 地方自治 と言います。
地方自治の意味
イギリスの政治家ブライスは 「地方自治 は民主主義の学校」 と言いました。 身近な地域の課題に取り組むことで、 住民は政治の仕組みを学び、 民主主義の力を育てる、 という意味です。
日本国憲法第 8 章 (第 92 〜 95 条) は地方自治について定めています。 そこには 「地方自治の本旨」 として、 つぎの 2 つの考え方が示されています。
| 本旨 | 意味 |
|---|
| 団体自治 | 地方公共団体 (都道府県・市町村) が、 国から独立して、 自分たちで地域のことを決める |
| 住民自治 | 地域の住民が、 自分たちの代表 (首長・議員) を選び、 政治に参加する |
大事: 地方自治は 「地域のことは地域で決める」 という考えに立っています。 国が一方的に決めて押しつけるのではなく、 地域住民の意思を尊重する、 これが地方自治の核心です。
地方公共団体とは
地方公共団体 (地方自治体) は、 都道府県 (47) と 市町村 (約 1,700) に分かれます。 さらに東京 23 区も特別区として地方公共団体です。
地方公共団体は、 国から独立した 「法人」 として、 自分の財産を持ち、 自分の仕事 (事務) を行います。
| 種類 | 例 | 主な仕事 |
|---|
| 都道府県 | 東京都・大阪府・北海道・沖縄県 | 警察・高校・大きな道路・医療体制 |
| 市町村 | ◯◯市・◯◯町・◯◯村 | 小中学校・ゴミ収集・水道・住民票・保育園 |
2. 二元代表制 — 首長と議会の二つの代表
国の政治が 議院内閣制 (国会が内閣総理大臣を選ぶ) であるのに対して、 地方の政治は 二元代表制 という形をとります。
首長と議員を別々に選ぶ
二元代表制 とは、 住民が 首長 (都道府県知事 / 市町村長) と 地方議員 を、 それぞれ別の選挙で 直接 選ぶしくみです。
| 代表 | 選び方 | 任期 | 被選挙権 |
|---|
| [[知事 | ちじ]] | 住民が直接選挙 | 4 年 |
| [[市町村長 | しちょうそんちょう]] | 住民が直接選挙 | 4 年 |
| [[地方議員 | ちほうぎいん]] (都道府県・市町村) | 住民が直接選挙 | 4 年 |
国会 では、 国会議員が 内閣総理大臣 を選びます。 つまり、 国民は総理大臣を直接選べません。 ところが地方では、 知事や市町村長を 住民が直接選挙で選ぶ のです。 これは住民の声がより直接届くしくみです。
首長と議会の関係
首長 と 地方議会 は、 おたがいにけん制し合う関係 (チェック・アンド・バランス) にあります。
| 仕組み | 内容 |
|---|
| **[[条例 | じょうれい]] の制定** |
| 予算の議決 | 首長が提案、 議会が議決 |
| **[[不信任決議 | ふしんにんけつぎ]]** |
| **[[再議 | さいぎ]] (拒否権)** |
ポイント: 二元代表制 の長所は、 住民の意思が 「首長」 と 「議会」 の両方に直接届く こと。 一方、 首長と議会の意見が食い違うと、 政治が動きにくくなる短所もあります。
3. 直接請求権 — 住民が直接動かす制度
地方自治では、 住民が議員や首長を選ぶだけでなく、 直接、 政治に参加できる制度 が用意されています。 これが 直接請求権 です。
4 つの直接請求
| 請求の種類 | 必要な署名数 | 請求先 | 結果 |
|---|
| **[[条例 | じょうれい]] の制定・改廃** | 有権者の 50 分の 1 以上 | 首長 |
| **[[監査請求 | かんさせいきゅう]]** (会計の検査) | 有権者の 50 分の 1 以上 | 監査委員 |
| **[[議会の解散 | ぎかいのかいさん]]** | 有権者の 3 分の 1 以上 (※) | 選挙管理委員会 |
| **[[首長・議員の解職 | しゅちょう・ぎいんのかいしょく]] (リコール)** | 有権者の 3 分の 1 以上 (※) | 選挙管理委員会 |
(※ 有権者数が 40 万を超える場合は、 計算式が緩和されます)
住民投票とリコール
特に リコール (解職請求) は、 住民が選んだ首長や議員を任期途中で辞めさせられる強力な制度です。 国会議員にはこの制度がありません。
また、 地方独自の課題について住民の意思を直接問う 住民投票 が条例で行われることもあります (例: 原発の建設、 米軍基地の移設、 市町村合併など)。 結果に法的拘束力はありませんが、 住民の意思を示す重要な手段です。
大事: 国の政治では、 国会議員を一度選んだらリコールできません。 地方ではリコール制度があるからこそ、 住民が首長や議員を 「監視」 しつづける 力が働くのです。
4. 地方財政と地方分権
地方公共団体が政治を行うにはお金が必要です。 これを 地方財政 といいます。
地方財政の収入
| 収入の種類 | 内容 |
|---|
| **[[地方税 | ちほうぜい]]** |
| **[[地方交付税 | ちほうこうふぜい]]** |
| **[[国庫支出金 | こっこししゅつきん]]** |
| **[[地方債 | ちほうさい]]** |
地方税の割合が低く、 国からの補助金 (地方交付税・国庫支出金) に頼っている自治体が多いことが日本の課題です。 これを 「3 割自治」 と呼ぶことがあります (自主財源が約 3 〜 4 割しかない、 という意味)。
地方分権の流れ
1990 年代から、 国の権限を地方に移す 地方分権 の動きが進められてきました。 1999 年の 地方分権一括法 により、 国と地方は対等な関係に位置づけ直されました。
しかし現実には、 過疎化・高齢化・人口減少のなかで、 財政が苦しい自治体が増えています。 また、 平成の大合併 (1999 〜 2010 年) で市町村数が約 3,200 から約 1,700 に減るなど、 地方のすがたも大きく変化しています。
ポイント: 地方分権の理想は 「地域のことは地域で決める」 ですが、 そのためには 「財源」 と 「人材」 の両方が必要です。 多くの自治体がこの 2 つを十分に確保できていない、 というのが現代の課題です。
5. 選挙のしくみ — 4 つの基本原則
民主政治の基本である 選挙 には、 守られるべき 4 つの原則があります。 公職選挙法 によって定められています。
選挙の 4 原則
| 原則 | 意味 |
|---|
| **[[普通選挙 | ふつうせんきょ]]** |
| **[[平等選挙 | びょうどうせんきょ]]** |
| **[[直接選挙 | ちょくせつせんきょ]]** |
| **[[秘密選挙 | ひみつせんきょ]]** |
戦前の日本では、 一定額以上の税を納めた男性だけに選挙権がある 制限選挙 でした。 1925 年に満 25 歳以上の男子全員に拡大され、 1945 年に満 20 歳以上の男女に拡大、 そして 2016 年に 満 18 歳 に引き下げられました。
一票の格差問題
平等選挙 の原則に関わる問題として 一票の格差 があります。 選挙区によって有権者数に大きな差があると、 「ある選挙区の 1 票が、 別の選挙区の 0.5 票分の価値しかない」 というようなことが起こります。
最高裁判所はこれまでに、 衆議院・参議院の選挙について 「違憲状態」 や 「違憲」 とする判決を何度も出してきました。 国会は選挙区の区割り変更などで対応していますが、 完全な解消には至っていません。
6. 日本の選挙制度
日本の選挙制度は、 衆議院と参議院で異なる方式が採られています。
衆議院 — 小選挙区比例代表並立制
衆議院 (定数 465) は 小選挙区比例代表並立制 という制度を採っています。
| 区分 | 定数 | 方式 |
|---|
| **[[小選挙区 | しょうせんきょく]]** | 289 |
| **[[比例代表 | ひれいだいひょう]]** | 176 |
- 小選挙区 の長所: 大政党に有利で政権が安定しやすい / 短所: 死票 (落選候補に投じた票) が多くなる
- 比例代表 の長所: 民意が反映されやすく死票が少ない / 短所: 小政党が乱立しやすい
両方を組み合わせることで、 双方の長所を活かそうというのが並立制の狙いです。
参議院 — 選挙区と比例代表
参議院 (定数 248) は 3 年ごとに半数を改選 します (任期 6 年)。
| 区分 | 定数 | 方式 |
|---|
| [[選挙区 | せんきょく]] | 148 |
| [[比例代表 | ひれいだいひょう]] | 100 |
投票率の課題
近年、 日本の 投票率 は下がる傾向にあります。 特に若い世代の投票率が低く、 衆議院選挙の 20 代投票率は 30 〜 40 % 台で推移しています。
投票率が低いと、 一部の人の意見だけで政治が動いてしまう危険があります。 「自分が投票しても何も変わらない」 と感じる人も多いですが、 投票はあなたの 「こうあってほしい」 という意思を社会に届ける手段です。
ポイント: 期日前投票・不在者投票・在外投票 など、 投票しやすくする工夫も増えています。 18 歳になったら、 ぜひ自分の意思を投票で示してください。
7. 政党・世論・マスメディア
選挙では、 候補者個人だけでなく 政党 が大きな役割を果たします。
政党とは
政党 とは、 同じ考えや政策を持つ人々が集まり、 政権をめざして活動する団体です。 政党は、 選挙のときに 公約 (マニフェスト) を発表して、 有権者に判断材料を示します。
| 用語 | 意味 |
|---|
| **[[与党 | よとう]]** |
| **[[野党 | やとう]]** |
| **[[連立政権 | れんりつせいけん]]** |
| **[[公約 | こうやく]] (マニフェスト)** |
民主政治では 複数政党制 が基本です。 一つの政党しか認めない一党制は民主主義とは言えません。
世論とマスメディア
世論 とは、 社会のさまざまな問題について、 多くの人が共有している意見のことです。 民主政治では、 政治が世論を反映することが大切です。
世論の形成に大きな影響を与えるのが マスメディア (新聞・テレビ・ラジオ・インターネット) です。
| 役割 | 内容 |
|---|
| 情報提供 | 政治・経済・社会の出来事を伝える |
| 政府の監視 | 権力が暴走しないようチェックする (「第 4 の権力」) |
| 世論形成 | 報道を通じて社会の意見を形づくる |
しかし、 マスメディアの報道には注意も必要です。 フェイクニュース や、 一方的な情報、 特定の立場に偏った報道もあります。 受け取る側に メディアリテラシー (情報を批判的に読み取る力) が求められます。
インターネットと SNS の影響
近年は、 SNS や動画サイトが世論形成に大きな役割を果たしています。 2013 年からは インターネット選挙運動 も解禁され、 候補者や政党は SNS で情報発信できるようになりました。
一方で、 SNS では自分と似た意見ばかりが集まる フィルターバブル・エコーチェンバー という現象が起きやすく、 多様な意見にふれる機会が減ってしまう問題があります。
8. 18 歳の主権者として — 安全に政治に参加するために
最後に、 中学生のみなさんが将来主権者 として政治に参加するときに、 心がけてほしいことをまとめます。
主権者教育のポイント
| 心構え | 具体的に |
|---|
| 複数の情報源で確認する | 一つのテレビ・SNS だけで判断せず、 複数のメディアを比べる |
| 公約・政策で判断する | 「カッコいいから」 「面白いから」 ではなく、 政策の中身を見る |
| 多様な意見を尊重する | 自分と違う意見にも耳を傾ける (一方的に決めつけない) |
| 冷静に議論する | 政治の話で感情的にならない、 相手を攻撃しない |
| 必ず投票に行く | 一票は小さくても、 民意を集めれば社会は動く |
SNS と政治 — 注意点
- フェイクニュース にだまされない: 出所不明の情報は信じない、 元のソースを確認する
- ヘイトスピーチ に加担しない: 特定の人種・宗教・立場の人を攻撃する書き込みはしない / 拡散しない
- 個人を晒さない: 政治家個人や、 意見が違う人を SNS でさらしものにしない
- 18 歳未満は選挙運動禁止: 公職選挙法で、 18 歳未満による選挙運動 (特定候補への投票呼びかけなど) は禁止されています
学校・家庭での話し合い
政治の話題は、 家族や友人と話してみることも大切です。 ただし、 特定の政党を 「これが正しい」 と押しつけたり、 違う意見の人を否定したりしない のがマナーです。
大事: 民主主義は 「みんなで決める」 という難しい仕組みです。 全員の意見が一致することはありません。 だからこそ、 おたがいの意見を聞き合い、 妥協点を探る という姿勢が必要です。 これは選挙の技術ではなく、 「民主主義を生きる態度」 そのものです。
まとめ
- 地方自治 は 「民主主義の学校」。 団体自治 と 住民自治 が両輪
- 二元代表制 で、 住民は知事 / 市町村長と地方議員を直接選ぶ
- 直接請求権 で、 住民は条例制定・リコール などを請求できる
- 選挙の 4 原則: 普通選挙・平等選挙・直接選挙・秘密選挙
- 衆議院 は 小選挙区比例代表並立制、 参議院 は選挙区と比例代表
- 世論 と マスメディア、 メディアリテラシー が大切
- 18 歳から 有権者、 主権者として情報を多角的に判断する力を育てよう