はじめに
この章では、 日本語の文字が どのように生まれたか、 そして 漢字と仮名をどう使い分けるか、 さらに 敬語 の 3 種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語) を学びます。
この章でできるようになること:
- 万葉仮名 から ひらがな・カタカナ が生まれた流れを説明できる
- 漢字が 表意文字 であることを理解できる
- 漢字を使う場面と仮名を使う場面を区別できる
- 敬語 3 種類を区別して、 基本形を使える
- 場面に応じて敬語を使い分けられる
ポイント: 4 年生までは 丁寧な言葉(敬体・常体) を学びました。 5 年生からは 3 種類の敬語 へ一歩進みます。 大人への第一歩です。
1. 漢字の由来と特質
漢字は 古代中国で生まれた文字 で、 約 3000 年以上前から使われています。 日本には 4〜5 世紀ごろ、 朝鮮半島を経由して伝わりました。
漢字は表意文字
漢字は 一字ごとに意味を表す文字です。 このような文字を 表意文字 と言います。 一方、 ひらがな・カタカナ・ローマ字は 音を表す 表音文字 です。
| 文字の種類 | 例 | 1 字が表すもの |
|---|
| 表意文字 | 漢字(山・川・愛) | 意味 |
| 表音文字 | ひらがな・カタカナ・ローマ字 | 音 |
やってみよう: 「山」 という漢字を見ると、 読み方を知らない中国人でも 「やま」 の意味だとわかります。 これが表意文字の強みです。 日本と中国で漢字の読みはちがっても、 意味が通じることがあるのはこのためです。
漢字の利点
- 意味がひとめでわかる: 「橋」 と 「箸」 は同じ 「はし」 でも意味がちがうが、 漢字で区別できる
- 短くても意味が伝わる: 「学校へ」 と 4 文字でわかる
- 音が同じ言葉を区別できる: 「電気・天気・転機」 は漢字で区別
2. 仮名の由来 — 万葉仮名からひらがな・カタカナへ
漢字が入って来た当初、 日本人は 漢字を 「音を表す記号」 として借りて日本語を書きました。 これが 万葉仮名 です。
万葉仮名のれい
『万葉集』 という古い歌集で多く使われたことから、 「万葉仮名」 と呼びます。
| 万葉仮名 | 読み | 現代の表記 |
|---|
| 夜麻 | やま | 山 |
| 波奈 | はな | 花 |
| 安米 | あめ | 雨 |
| 古非 | こひ | 恋 |
漢字の意味を取らず、 音だけを借りる やり方です。 しかしこれは書くのも読むのも大変でした。
ひらがなの誕生
平安時代(9〜10 世紀)、 万葉仮名を くずして書く うちに、 ひらがな が生まれました。
| 元の漢字 | 草書(くずし字) | ひらがな |
|---|
| 安 | 安をくずす | あ |
| 以 | 以をくずす | い |
| 宇 | 宇をくずす | う |
| 衣 | 衣をくずす | え |
| 於 | 於をくずす | お |
| 加 | 加をくずす | か |
| 波 | 波をくずす | は |
ひらがなはやわらかく書けるため、 平安時代の 女性の文学(『枕草子』 や 『源氏物語』 など) を中心に広まりました。
カタカナの誕生
同じ頃、 お坊さんたちがお経を読むときに 漢字の一部を取って ふり仮名をつけるために カタカナ をつくりました。
| 元の漢字 | 取った部分 | カタカナ |
|---|
| 阿 | 左の 「阝」 を略 | ア |
| 伊 | 左の 「イ」 | イ |
| 宇 | 上の 「ウ」 | ウ |
| 江 | 右の 「エ」 | エ |
| 於 | 左の 「方」 を略 | オ |
| 加 | 左の 「カ」 | カ |
| 八 | そのまま | ハ |
ひらがなが くずし で生まれたのに対し、 カタカナは 一部を取る で生まれました。 漢字の一部をそのまま使うから、 カタカナは形がまっすぐで角ばっています。
3. 漢字と仮名の使い分け
日本語の文章は 漢字と仮名の混ぜ書き で書かれます。 どちらを使うかには、 いくつかの目安があります。
漢字を使う場面
- 意味をはっきりさせたいとき: 「橋を渡る」「箸を持つ」
- 固有名詞: 山田さん、 東京、 富士山
- かたい文章・公式な場: 「報告する」「検討する」
- 漢語(漢字熟語): 「学校・友情・規則」
仮名を使う場面(ひらがな)
- やわらかい印象を出したいとき: 「ありがとう」「おはよう」
- 子ども向けの文章: 漢字を減らして読みやすく
- 副詞や形式名詞 「こと・とき・もの」: 「楽しいこと」「行ったとき」「好きなもの」
- ひらがなで書くきまりの語: 「いろいろ」「すぐに」「とても」
仮名を使う場面(カタカナ)
- 外来語: テレビ・コンピュータ・パン
- 動物・植物の学術名: イヌ・ネコ・サクラ
- 擬音語・擬態語: ワンワン・キラキラ
- 強調したい言葉: 「コレが大事」
やってみよう: 「ありがとう」 と 「有難う」 は同じ意味でも、 印象がちがいます。 「ありがとう」 はやわらかく、 「有難う」 はあらたまった感じがします。 場面に応じて使い分けましょう。
過剰な漢字や 「お/ご」 のつけすぎに注意
- 過剰漢字: 「読めない漢字をぎっしり」 は読みにくい → 7 割漢字、 3 割仮名が目安
- 過剰 「お/ご」: 「お父さんの お好きなお食事」 は過剰 → 「お父さんの好きな食事」 で十分
4. 敬語入門 — 3 種類の区別
敬語 とは、 相手や話題に上がる人を大切に思う気持ちを表す言葉 です。 5 年生からは、 敬語を 3 種類 に分けて理解します。
| 種類 | だれを高めるか | やり方 | れい |
|---|
| 尊敬語 | 相手や話題の人 を高める | 相手の動作を高い言葉で | 「先生が おっしゃる」 |
| 謙譲語 | 自分側 を低めて相手を立てる | 自分の動作を低い言葉で | 「わたしが 申し上げる」 |
| 丁寧語 | 話し相手 に丁寧に話す | 文末を 「です・ます」 に | 「明日行き ます」 |
動作別対比表
| ふつう | 尊敬語(相手の動作) | 謙譲語(自分の動作) | 丁寧語 |
|---|
| 行く | いらっしゃる | うかがう・まいる | 行きます |
| 来る | いらっしゃる | まいる | 来ます |
| 言う | おっしゃる | 申す | 言います |
| 食べる | 召し上がる | いただく | 食べます |
| 見る | ご覧になる | 拝見する | 見ます |
| する | なさる | いたす | します |
| いる | いらっしゃる | おる | います |
5 年生では 太字の基本形 をまず覚えましょう。 場面に応じた細かい使い分けは 6 年生でさらに学びます。
形をつくるルール
| ルール | 形 | れい |
|---|
| 尊敬: 「お/ご 〜 になる」 | お 〜 になる | お書きになる・お読みになる |
| 尊敬: 「〜 れる/られる」 | 〜 れる | 書かれる・読まれる |
| 謙譲: 「お/ご 〜 する」 | お 〜 する | お渡しする・お答えする |
| 丁寧: 「〜 です/ます」 | 〜 ます | 行きます・読みます |
| 丁寧: 「お/ご 〜」(美化語) | お 〜 | お茶・お花・ご飯 |
「ご」 は漢語に、 「お」 は和語につくことが多いです(ご飯・お茶など)。
5. 場面別の敬語例
学校で先生に話すとき
- ふつう: 「先生、 この問題教えて」
- 敬語: 「先生、 この問題を 教えてくださいませんか」(丁寧 + 謙譲)
お客さんが来たとき
- ふつう: 「お母さん、 田中さんが来たよ」
- 敬語: 「お母さん、 田中さんが いらっしゃいました」(尊敬)
お店で買い物をするとき
- お店の人: 「いらっしゃいませ。 何を お探しですか」(尊敬)
- お客: 「こちらをください」(丁寧)
- お店の人: 「かしこまりました。 5 0 0 円に なります」(謙譲・丁寧)
お礼を言うとき
- ふつう: 「ありがとう」
- 丁寧: 「ありがとう ございます」
- あらたまった: 「誠に ありがとうございます」
6. 過剰敬語・誤用に注意
| 誤り | なぜダメか | 正しい形 |
|---|
| お父さんの お好きな | 自分の家族に 「お」 をつけない | お父さんの好きな |
| 田中さんが おっしゃられた | 「おっしゃる」 + 「れる」 で二重敬語 | 田中さんがおっしゃった |
| わたしは来られました | 自分に尊敬語を使っている | わたしはまいりました |
ポイント:敬語は 「だれを高めるか」 を考える ことがまず大切です。 自分を高めてしまったり、 二重にかさねたりすると不自然になります。
7. まとめ
- 漢字は 表意文字、 仮名は 表音文字
- 万葉仮名 がくずされて ひらがな、 一部が取られて カタカナ が生まれた
- 漢字と仮名は 場面と印象 で使い分ける
- 敬語 には 尊敬語・謙譲語・丁寧語 の 3 種類がある
- 尊敬は 相手 を、 謙譲は 自分側 を低め、 丁寧は 文末 を整える
- 過剰敬語・二重敬語に注意
次の Ch5 では 古典入門(枕草子・平家物語・竹取物語・論語)と自作短歌 を学びます。
まとめ — 仮名と漢字の由来・敬語入門を 3 行で
- 漢字は一字で意味を表す 表意文字、ひらがな・カタカナは音を表す 表音文字。漢字と仮名を場面で使い分けると文章が読みやすくなる。
- 万葉仮名 をくずして平安時代に ひらがな が、漢字の一部を取って カタカナ が生まれた。
- 敬語 には 尊敬語(相手を高める)・謙譲語(自分側を低める)・丁寧語(文末を整える)の 3 種類がある。二重敬語には注意しよう。