この章で学ぶこと
数学的帰納法 (mathematical induction) は、 「すべての自然数n について命題P(n) が成り立つ」 ことを証明 する強力な方法。 漸化式 で推測 した 一般項 や、 不等式・整除性の証明 など、 入試頻出のテクニックです。
- 数学的帰納法 の 2 ステップ構造 を理解 する
- 基底 (n=1) と 帰納段階 (k→k+1) の役割 を知る
- 等式の証明 (例: ∑k の公式)
- 不等式の証明 (例: 2n>n)
- 整除性の証明 (例: n3−n は 6 の倍数)
ポイント: 数学的帰納法は ドミノ理論 でイメージ。 「1 番目を倒す」 + 「k番目が倒れれば k+1番目も倒れる」 → すべて倒れる。
1. 数学的帰納法の仕組み
2 ステップの流れ
すべての自然数n で命題P(n) が成り立つことを示すには、 次の 2 つを証明 すればよい。
- 基底 (Step 1): P(1) が成り立つ
- 帰納段階 (Step 2): P(k) が成り立つと 仮定 すれば P(k+1) も成り立つ
ドミノでイメージ
| 条件 | ドミノの例え |
|---|
| Step 1 | 1 番目のドミノ を倒す |
| Step 2 | k番目が倒れれば k+1番目が必ず倒れる (連鎖) |
| 結論 | すべてのドミノ が倒れる |
大事: Step 2 で使う 「P(k) が成り立つ」 という仮定を 帰納法の仮定 と呼びます。 これは 「証明中に使う 道具」 であり、 証明 が終わるまでは仮定 された状態。
2. 等式の証明
例題 1: ∑k=1nk=2n(n+1) を証明 せよ
証明:
Step 1 (n=1): 左辺 =1、 右辺 =21⋅2=1。 → 成立 ✓
Step 2 (n=k で成立と仮定): ∑i=1ki=2k(k+1) と仮定。 このとき n=k+1 で
i=1∑k+1i=i=1∑ki+(k+1)=2k(k+1)+(k+1)
=(k+1)⋅2k+2=2(k+1)(k+2)
これは n=k+1 のときの公式と一致。 → 成立 ✓
Step 1, 2 より、 すべての自然数n で等式が成り立つ。 □
3. 不等式の証明
例題 2: n≥5 のとき 2n>n2 を証明 せよ
証明: n≥5 で考えるので、 Step 1 は n=5 からスタート。
Step 1 (n=5): 25=32>25=52。 → 成立 ✓
(参考: n=4 では 24=16=42 で等号が成立するため、 厳密不等号2n>n2 は n≥5 のときに成立する。)
Step 2 (n=k で成立と仮定, k≥5): 2k>k2 と仮定。 n=k+1 では
2k+1=2⋅2k>2k2
2k2≥(k+1)2 を示せばよい。 2k2−(k+1)2=k2−2k−1=(k−1)2−2。 k≥5 で (k−1)2≥16>2 なので 2k2>(k+1)2。
したがって 2k+1>(k+1)2。 → 成立 ✓
Step 1', 2 より n≥5 で不等式が成り立つ。 □
4. 整除性の証明
例題 3: すべての自然数n で n3−n は 6 の倍数 と証明 せよ
証明:
Step 1 (n=1): 13−1=0=6⋅0。 → 6 の倍数 ✓
Step 2 (n=k で成立と仮定): k3−k=6m (m は整数) と仮定。
(k+1)3−(k+1)=k3+3k2+3k+1−k−1=(k3−k)+3k(k+1)
=6m+3k(k+1)。 ここで k(k+1) は 連続 2 整数の積 で必ず 偶数 なので 3k(k+1) は 6 の倍数。 したがって (k+1)3−(k+1) は 6 の倍数。 → 成立 ✓
Step 1, 2 よりすべての自然数n で 6 の倍数。 □
5. 漸化式と数学的帰納法
漸化式で推測 した一般項 を 証明 するのが標準的な使い方。
例題 4
a1=1、 an+1=2an+1 を満たす 数列 について、 an=2n−1 となることを証明 せよ。
証明:
Step 1 (n=1): a1=1=21−1 ✓
Step 2 (n=k で成立と仮定): ak=2k−1 と仮定。 漸化式から
ak+1=2ak+1=2(2k−1)+1=2k+1−2+1=2k+1−1
→ n=k+1 で成立 ✓
したがって an=2n−1 (n≥1)。 □
6. よくある誤り
NG パターン
| 誤り | なぜダメか |
|---|
| Step 1 を飛ばす | 1 番目のドミノが立ったままになる |
| 「P(k+1) が成り立つと仮定」 と書く | 結論 を仮定 してしまう (循環論法) |
| Step 2 で n=k の仮定 を使わずに証明 | 帰納の連鎖 が切れる (帰納法の意味なし) |
大事: 数学的帰納法では、 証明文中で 「仮定」 という言葉 を必ず書く こと。 採点者に 「仮定 を使いました」 と明示 するのがマナー。
7. まとめ
| 用途 | パターン |
|---|
| 等式 (∑公式など) | P(k)→P(k+1) で 1 項足す |
| 不等式 | 仮定 から評価 を引き出す |
| 整除性 | 仮定 と P(k+1)−P(k) を利用 |
| 漸化式の一般項 | 漸化式の形をそのまま使う |
8. 強い帰納法
通常の帰納法との違い
通常 の帰納法 (Step 2 で 「P(k) を仮定」) では力不足 な場合、 強い帰納法 を使う。
| Step 2 で仮定 するもの | 名称 |
|---|
| P(k) だけ | 通常 の帰納法 |
| P(1),P(2),…,P(k) すべて | 強い帰納法 |
大事: どちらも 「すべての自然数n で P(n) が成り立つ」 という結論 は同じ。 どちらかで証明 できれば、 同じことが言える。
例題 5 (フィボナッチ数列の性質)
フィボナッチ数列F1=1,F2=1,Fn+2=Fn+1+Fn について、 すべての自然数n で Fn≥1 であることを強い帰納法で証明 せよ。
証明:
Step 1: n=1,2 で F1=F2=1≥1 ✓
Step 2: n≤k で Fn≥1 と仮定。 k+1≥3 ならば
Fk+1=Fk+Fk−1≥1+1=2≥1
→ 成立 ✓
したがってすべての n で Fn≥1。 □
9. 帰納法が使えないケース (盲点)
「すべての馬は同じ色」 という 古典的ジョーク を知っていますか?
主張: n頭の馬はどのグループでも全員同じ色。
偽証明:
- Step 1 (n=1): 1 頭だけなら当然同じ色 ✓
- Step 2 (n=k で成立と仮定): k+1頭を並べたとき、 前k頭と後k頭はそれぞれ全員同じ色 (仮定 より)、 重なりがあるから全員同じ色。
→ 結論: 「すべての馬は同じ色」 (明らかに誤り)
どこが間違いか: Step 2 は k+1≥3 のときしか重なりが発生しない。 k=1 → k+1=2 では前 1 頭と後 1 頭が重ならず、 連鎖 が切れる。
大事: 帰納法では 「Step 2 がすべての k で機能するか」 を厳しく確認 する。 「重なりがあるから同じ」 という議論 は、 重なりがない初期段階 で破綻 することがある。
次の章: 第 5 章から 確率分布 に入ります。 数列とは別の話題 ですが、 「期待値 = ∑x⋅P」 のように ∑ が大活躍 します。