この章で学ぶこと
中世を終え、 「人間」 と 「理性」 を中心に据えた近代西洋思想を学びます。 自然科学の発展と、 神から自由になった人間の自己確立が主題です。
- ルネサンス と 人文主義
- 経験論 (ベーコン) と合理論 (デカルト)
- 社会契約説 (ホッブズ・ロック・ルソー)
- カント の道徳哲学 (定言命法)
- ヘーゲル の弁証法と 人倫
- 功利主義 (ベンサム・J.S.ミル)
1. ルネサンスと宗教改革
14-16 世紀イタリアで始まった ルネサンス は、 ギリシャ・ローマの古典を復興し、 神中心から人間中心へと文化を転換しました。
| 人物 | 業績 |
|---|
| ピコ・デラ・ミランドラ | 『人間の尊厳について』 ― 人間の 自由意志 |
| エラスムス | 『愚神礼賛』 ― 教会批判 |
| マキャヴェリ | 『君主論』 ― 政治を道徳から切り離す |
宗教改革 (前章参照) と合わせ、 個人の主体性が強まりました。
2. 経験論と合理論
近代哲学は、 「正しい知はどう得られるか」 をめぐり 2 つの立場に分かれました。
経験論 (イギリス)
| 哲学者 | 主張 |
|---|
| ベーコン (1561-1626) | 「知は力なり」、 帰納法、 4つのイドラ (種族・洞窟・市場・劇場の偏見) |
| ロック | タブラ・ラサ (心は白紙)、 経験から観念が生まれる |
| ヒューム | 因果は習慣が生む信念 |
合理論 (大陸)
| 哲学者 | 主張 |
|---|
| デカルト (1596-1650) | 方法的懐疑、 「我思う、ゆえに我あり」 (コギト・エルゴ・スム)、 演繹法 |
| スピノザ | 汎神論 ― 神即自然 |
| ライプニッツ | モナド (単子) 論 |
デカルト (1596-1650) の肖像。 フランス・ハルス作 (1649 頃)、 ルーヴル美術館所蔵。 (Wikimedia Commons, Public domain)
ポイント: 後に カント が経験論と合理論を統合します。
3. 社会契約説
絶対王政を超え、 「人民の合意に基づく政治」 を説く思想。 詳細は 公共 の章で学ぶが、 倫理でも必須です。
| 思想家 | 自然状態 | 契約内容 | 主権 |
|---|
| ホッブズ (1588-1679) 『リヴァイアサン』 | 「万人の万人に対する闘争」 | 自然権を主権者に全面譲渡 | 絶対 (結果的に君主) |
| ロック (1632-1704) 『統治二論』 | 比較的平和、 所有権不安定 | 一部を政府に信託、 抵抗権保留 | 議会主権 (間接民主制) |
| ルソー (1712-1778) 『社会契約論』 | 自由・平等で善良 | 一般意志 に全員が服す | 人民主権 (直接民主制) |
4. カント (1724-1804)
ドイツ哲学の巨人。 経験論と合理論を統合し、 「コペルニクス的転回」 で認識論を革新しました。
カント (1724-1804) の肖像 (1790 年頃)。 ドイツ観念論哲学の創始者。 (Wikimedia Commons, Public domain)
認識論
- 認識は 「対象が主観に従う」 (これまでと逆)
- 物そのもの (物自体) は認識不可、 私たちは現象のみを知る
道徳哲学
| 概念 | 内容 |
|---|
| 善意志 | 善をなそうとする意志のみが無条件に善 |
| 定言命法 | 結果によらず 「~ せよ」 と命じる道徳法則 |
| 仮言命法 | 「もし ~ ならば、 ~ せよ」 (条件付き、 道徳ではない) |
| 道徳法則の第 1 定式 | 「君の意志の格率が、 普遍的法則となるように行為せよ」 |
| 目的の王国 | 「人を単に手段としてでなく、 つねに同時に目的として扱え」 |
| 自律 | 自ら道徳法則を立て、 自ら従う |
大事: カントの道徳は 「動機 (善意志)」 を重視する 動機主義 です。 結果を重視する 功利主義 と対比されます。
5. ヘーゲル (1770-1831)
ドイツ観念論の大成者。 主著 『精神現象学』 『法の哲学』。
ヘーゲル (1770-1831) の肖像。 ヤコブ・シュレジンガー作 (1831 年)。 (Wikimedia Commons, Public domain)
| 概念 | 内容 |
|---|
| 弁証法 | 正 (テーゼ) ↔ 反 (アンチテーゼ) → 合 (アウフヘーベン・止揚) |
| 絶対精神 | 歴史を動かす精神。 自由を自覚する過程 |
| 人倫 | 客観的道徳が社会制度に現れる |
| 人倫の 3 段階 | ① 家族 (愛) → ② 市民社会 (欲望と競争) → ③ 国家 (人倫の完成) |
6. 功利主義
19 世紀イギリス。 道徳を 「快楽を増やし、 苦痛を減らす」 結果で測ろうとする。
| 思想家 | 主張 |
|---|
| ベンサム (1748-1832) | 「最大多数の最大幸福」、 量的功利主義 |
| J.S.ミル (1806-1873) | 質的功利主義 (「満足した豚であるよりも、不満足なソクラテスである方がよい」)、 『自由論』 他者危害原則 |
章末まとめ
- ルネサンス・宗教改革 → 人間中心へ
- 経験論 (ベーコン: イドラ・帰納) と合理論 (デカルト: 我思うゆえに我あり・演繹)
- 社会契約説: ホッブズ・ロック (抵抗権)・ルソー (一般意志)
- カント: 善意志・定言命法・自律
- ヘーゲル: 弁証法・人倫 (家族 → 市民社会 → 国家)
- 功利主義: ベンサム (量)・J.S.ミル (質)