この章で学ぶこと
「哲学 (philosophy)」 という言葉は、 古代ギリシャ語の 「philosophia (知を愛すること)」 に由来します。 紀元前 6 世紀、 イオニア地方で始まったギリシャ哲学は、 西洋思想の出発点です。
- 自然哲学者 (タレス・ピタゴラス・ヘラクレイトス・デモクリトス) の関心
- ソフィストの相対主義とプロタゴラス 「人間は万物の尺度」
- ソクラテスの無知の知・問答法・「徳は知」
- プラトンのイデア論・哲人政治
- アリストテレスの中庸・テオリア・ポリス的動物
- ヘレニズムのエピクロス派とストア派
ラファエロ作 『アテネの学堂』 (1509-1511)。 中央にプラトン (天を指す) とアリストテレス (地を指す) が描かれ、 周りに古代ギリシアの哲学者たちが集う。 (画: Raphael / Wikimedia Commons, CC0)
1. 自然哲学者 — 万物の根源 (アルケー) は何か
ギリシャ哲学は、 神話でなく 「自然 (ピュシス)」 の中に万物の根源 (アルケー) を探ることから始まりました。
| 哲学者 | アルケー |
|---|
| タレス | 水 |
| アナクシマンドロス | 無限なもの (ト・アペイロン) |
| アナクシメネス | 空気 |
| ピタゴラス | 数 |
| ヘラクレイトス | 火・「万物は流転する」 (パンタ・レイ) |
| パルメニデス | 「有るものは有り、無いものは無い」 |
| エンペドクレス | 土・水・火・空気の 4 元素 |
| デモクリトス | 原子と空虚 |
ポイント: 神話でなく 「観察と理性」 で世界を説明しようとしたことが、 哲学と科学の共通の出発点です。
2. ソフィストとソクラテス
ソフィスト
紀元前 5 世紀のアテネで民主政が発展すると、 弁論術を教える職業教師ソフィストが活躍しました。 代表がプロタゴラスです。
- 「人間は万物の尺度である」 (プロタゴラス)
- 真理は人により異なる ― 相対主義
- やがて弁論で相手を言い負かす詭弁に陥る者も
ソクラテス (前 469-前 399)
ソクラテスはソフィストと対比され、 著作を残さず、 弟子プラトンの著作からその思想が伝えられます。
ソクラテス (前 470 頃 -前 399) の胸像。 ルーヴル美術館所蔵。 (写真: Eric Gaba / Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.5)
| 概念 | 内容 |
|---|
| 無知の知 | 「自分が知らないことを知っている」 ― 真の知への出発点 |
| 問答法 (助産術) | 対話を通じて相手の中に真理を生ませる |
| 「徳は知なり」 | 善を真に知れば、 必ず善を行う |
| 魂への配慮 | 富や名誉より、 魂を善く生きることが大切 |
大事: ソクラテスはアテネの裁判で 「青年を堕落させた」 「ポリスの神を信じない」 と訴えられ、 死刑となりました。 友人の脱獄の勧めを断り、 「悪法も法なり」 (※ 通俗的要約) として毒杯を仰いだ逸話が伝えられます。
3. プラトン (前 427-前 347)
ソクラテスの弟子。 アテネに学園 「アカデメイア」 を開きました。
プラトン (前 427-前 347) の胸像。 シラニオン作の模刻、 カピトリーノ美術館所蔵。 (写真: Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons, CC BY 2.5)
イデア論
- 私たちが見ている感覚世界は不完全な 「影」
- 真に存在するのは永遠不変の イデア (idea) の世界
- 善・美・正義等、 各概念にイデアがある
- 最高のイデア = 善のイデア
- 比喩: 「洞窟の比喩」 ― 人は影を実在と錯覚している
魂の三分説と四元徳
魂を 3 つに分け、 各部分に対応する徳と、 全体の調和としての正義を説きました。
| 魂 | 徳 | 階級 (国家) |
|---|
| 理性 | 知恵 | 統治者 (哲人) |
| 気概 | 勇気 | 防衛者 |
| 欲望 | 節制 | 生産者 |
| 全体の調和 | 正義 | 国家全体 |
→ 哲人政治: 善のイデアを知る哲学者が国を治めるべき
4. アリストテレス (前 384-前 322)
プラトンの弟子。 「万学の祖」 と呼ばれ、 リュケイオン学園を開きました。
アリストテレス (前 384-前 322) の胸像。 ローマ・アルテンプス宮所蔵。 (写真: Jastrow / Wikimedia Commons, Public domain)
イデア論批判と形相・質料
- プラトンのイデアを批判し、 個物の中に本質を見る
- 個物は形相 (本質) と質料 (素材) から成る
倫理学
| 概念 | 内容 |
|---|
| 最高善 | 人生の目的 = 幸福 |
| 中庸 (メソテース) | 過剰と不足を避けた中間 = 徳 |
| 知性的徳 | 知恵・思慮 (学習で得る) |
| 倫理的徳 (習性的徳) | 勇気・節制 (習慣で得る) |
| テオリア (観想) | 真理を見る最高の活動 |
友愛と共同体
- 「人間はポリス的動物 (社会的動物) である」
- フィリア (友愛) を 3 種に分類:
- 有用性に基づく友愛
- 快楽に基づく友愛
- 善 (人柄) に基づく友愛 = 最高の友愛
- 正義を配分的正義 (能力に応じた分配) と調整的正義 (取引の公正) に分ける
5. ヘレニズム期の思想
アレクサンドロス大王の東方遠征 (前 4 世紀) 以後、 個人の心の平安を求める思想が広まりました。
| 学派 | 創始者 | 中心概念 |
|---|
| エピクロス派 | エピクロス | アタラクシア (魂の平静)、 「隠れて生きよ」、 精神的快楽を重視 |
| ストア派 | ゼノン | アパテイア (情念からの解放)、 自然に従って生きよ、 世界市民 (コスモポリテース) |
| 懐疑派 | ピュロン | 判断中止 (エポケー) |
ポイント: ストア派は後のキリスト教や近代自然法思想に大きな影響を与えました。
章末まとめ
- 自然哲学: アルケーの探究 (タレス = 水、 ヘラクレイトス = 万物流転)
- ソクラテス: 無知の知・問答法・徳は知
- プラトン: イデア論・哲人政治・洞窟の比喩
- アリストテレス: 中庸・テオリア・ポリス的動物・三種の友愛
- ヘレニズム: エピクロス (アタラクシア)・ストア (アパテイア・世界市民)