この章で学ぶこと
19 世紀後半から 20 世紀の思想は、 ヘーゲルの体系を批判し、 個別の人間 (実存)、 経験の現場 (現象学)、 言語の構造 (構造主義) に注目しました。
- 実存主義: キルケゴール・ニーチェ・ヤスパース・ハイデガー・サルトル
- プラグマティズム: パース・ジェイムズ・デューイ
- 現象学: フッサール
- フランクフルト学派: ホルクハイマー・アドルノ・ハーバーマス
- 構造主義とポスト構造主義: レヴィストロース・フーコー
1. 実存主義
「実存 (エクシステンツ)」 = 「いまここに存在する個別の自分」。 普遍的体系でなく、 各自の生き方を問う思想。
キルケゴール (1813-1855)
キルケゴール はデンマークの思想家。 「主体的真理」 を求めました。
- 「あれかこれか」 ― 選択こそ実存
- 実存の 3 段階: 美的 (享楽) → 倫理的 (義務) → 宗教的 (神の前の単独者)
- 「死に至る病」 = 絶望
キルケゴール (1813-1855) の肖像 (1838 年、 従兄弟ニルス・C・キルケゴール画)。 実存主義の先駆者。 (Wikimedia Commons, Public domain)
ニーチェ (1844-1900)
ニーチェ はキリスト教の道徳を 「ルサンチマン」 (弱者の嫉妬) の産物と批判。
| 概念 | 内容 |
|---|
| 神は死んだ | キリスト教的価値観の崩壊 |
| ニヒリズム | 価値の喪失 |
| 超人 (ユーバーメンシュ) | 価値を自ら創造する人 |
| 力への意志 | 生の根本衝動 |
| 永劫回帰 | 全てが永遠に繰り返される(この生を肯定する試金石) |
ニーチェ (1844-1900) の肖像写真 (1875 年頃)。 「神は死んだ」 「超人」 「永劫回帰」 を説いた。 (写真: Friedrich Hermann Hartmann / Wikimedia Commons, Public domain)
ヤスパース (1883-1969)
ヤスパース はドイツの哲学者。 死・苦悩・闘争・罪といった 「限界状況」 で人は真の実存と 「超越者」 (包括者) に出会うとしました。
ハイデガー (1889-1976)
ハイデガー は 『存在と時間』 で、 人を 「現存在 (ダーザイン)」 と呼び、 「死への存在」 であることの自覚から本来的な生き方が開かれるとしました。 日常の流れに埋没した状態を 「ひと (世人)」 と呼びます。
サルトル (1905-1980)
フランスの サルトル は無神論的実存主義の代表。
| 概念 | 内容 |
|---|
| 実存は本質に先立つ | 人は先に存在し、 自らの本質をつくる |
| 自由の刑 | 人は自由であることを強制される |
| アンガージュマン | 社会への参加・関与 |
ボーヴォワール 『第二の性』: 「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」 (ジェンダー論の先駆)。
2. プラグマティズム
19 世紀後半のアメリカで興った思想。 「真理は実際の行動で役に立つかどうか」 で測る。
| 思想家 | 主張 |
|---|
| パース | 「観念の意味は実際的効果で決まる」 |
| ジェイムズ | 「真理は有用」 |
| デューイ (1859-1952) | 道具主義 ― 知性は問題解決の道具。 「問題解決学習」 |
3. 現象学
ドイツの フッサール (1859-1938) は、 客観的世界を一旦 「エポケー (判断中止)」 し、 意識に現れたままの経験を記述する 現象学 を提唱。 志向性 (意識はつねに 「~ について」 の意識) を発見しました。 メルロ・ポンティ は身体の現象学を展開。
4. フランクフルト学派
ナチス体験を経て、 啓蒙と近代理性を批判的に再考。
| 思想家 | 主張 |
|---|
| ホルクハイマー・アドルノ | 『啓蒙の弁証法』 ― 啓蒙が野蛮を生んだ |
| フロム | 『自由からの逃走』 ― ナチズムの大衆心理 |
| ハーバーマス (1929-) | コミュニケーション的合理性 ― 対話による合意形成 |
5. 構造主義とポスト構造主義
20 世紀半ば以降、 個人を動かす 「構造 (言語・無意識・社会)」 に注目。
| 思想家 | 主張 |
|---|
| レヴィ・ストロース (1908-2009) | 未開社会の構造を分析、 「野生の思考」 ― 西洋中心主義批判 |
| フーコー (1926-1984) | 『監獄の誕生』 ― 近代の 「規律訓練権力」、 知と権力の結び付き |
| デリダ | 脱構築 ― 西洋哲学の二項対立を揺さぶる |
| アーレント (1906-1975) | 『人間の条件』 ― 「労働・仕事・活動」、 全体主義を批判 |
章末まとめ
- 実存主義: キルケゴール (主体的真理)・ニーチェ (超人・永劫回帰)・ヤスパース (限界状況)・ハイデガー (死への存在)・サルトル (実存は本質に先立つ)
- プラグマティズム: デューイ (道具主義)
- 現象学: フッサール (エポケー・志向性)
- フランクフルト学派: ハーバーマス (コミュニケーション的合理性)
- 構造主義: レヴィストロース (野生の思考)、 フーコー (規律訓練)
- アーレント: 活動・全体主義批判