はじめに
中国春秋戦国時代 (前 770 年 〜 前 221 年) に興った多数の思想家をまとめて 諸子百家 と呼びます。 高校漢文で主に扱うのは 儒家・道家・法家 の 3 派です。
この章でできるようになること:
- 諸子百家の主要学派の中心思想を言える
- 孔子・孟子・老子・荘子・韓非子の代表章句を識別できる
- 各思想の漢文表現上の特徴を理解する
1. 儒家 — 孔子と『論語』
孔子(前 551 頃 〜 前 479) は春秋時代末の思想家。 弟子たちが編んだ言行録が 論語。 中心概念は 仁 と 礼。
仁 — 思いやり
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 樊遅問仁。子曰、愛人。 |
| 書き下し文 | 樊遅仁を問ふ。子曰はく、人を愛す。 |
| 現代語訳 | 樊遅 が仁とは何かと尋ねた。 先生がおっしゃった、 「人を愛することだ」。 |
出典: 論語顔淵篇。
礼 — 社会的秩序の形
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿言、非礼勿動。 |
| 書き下し文 | 礼に非ざれば視ること勿かれ、礼に非ざれば聴くこと勿かれ、礼に非ざれば言ふこと勿かれ、礼に非ざれば動くこと勿かれ。 |
| 現代語訳 | 礼にかなわない事は見てはならず、 聴いてはならず、 言ってはならず、 行ってはならない。 |
出典: 論語顔淵篇。 仁を実践する具体的な方法としての 「四勿(しもつ)」。
2. 儒家 — 孟子と『孟子』
孟子(前 372 頃 〜 前 289 頃) は孔子の思想を発展させ、 性善説 と 王道政治を唱えた。
性善説
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 人之有是四端也、猶其有四体也。 |
| 書き下し文 | 人の是の四端有るや、猶ほ其の四体有るがごとし。 |
| 現代語訳 | 人がこの 四端 (惻隠・羞悪・辞譲・是非の心) を持つことは、 四肢を持つのと同様である。 |
出典: 孟子公孫丑上篇。 人は生まれながらに善である とし、 四つの道徳の芽を万人に認める。
| 四端 | 発展する徳 |
|---|
| 惻隠の心 | 仁 |
| 羞悪の心 | 義 |
| 辞譲の心 | 礼 |
| 是非の心 | 智 |
3. 道家 — 老子と『老子(道徳経)』
老子 は 道家 の開祖とされる伝説的人物。 「道」 と 「無為自然」 を説く。
道
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 道可道、非常道。名可名、非常名。 |
| 書き下し文 | 道の道とすべきは、常の道に非ず。名の名とすべきは、常の名に非ず。 |
| 現代語訳 | 「道」 と名指せるような道は、 永遠の道ではない。 名を付けられる名は、 永遠の名ではない。 |
出典: 老子第 1 章。 「道」 は言葉で捉えられない根源であると述べる。
上善は水の如し
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 上善若水。水善利万物而不争。 |
| 書き下し文 | 上善は水の若し。水は善く万物を利して争はず。 |
| 現代語訳 | 最上の善は水のようなものだ。 水はよく万物をうるおしながら何とも争わない。 |
出典: 老子第 8 章。 低い所へ流れ、 争わない水を理想とする。
4. 道家 — 荘子と『荘子』
荘子 は老子の思想を寓話で展開した。 万物斉同 と自由な精神を説く。
胡蝶の夢
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 昔者荘周夢為胡蝶。栩栩然胡蝶也。…不知周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。 |
| 書き下し文(抜粋) | 昔者荘周夢に胡蝶と為る。…周の夢に胡蝶と為るか、胡蝶の夢に周と為るかを知らず。 |
| 現代語訳 | 昔、 荘周は夢で蝶になった。 ひらひらと楽しむ蝶そのものだった。 … 荘周が夢で蝶になったのか、 蝶が夢で荘周になっているのか、 区別がつかない。 |
出典: 荘子斉物論。 主観と客観、 自他の区別の相対性 を説く寓話。
5. 法家 — 韓非子
韓非子(前 280 頃 〜 前 233) は法家を大成した思想家。 性悪説を前提に、 法・術・勢 による統治を説いた。
法の重視
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 法不阿貴、縄不撓曲。 |
| 書き下し文 | 法は貴きに阿らず、縄は曲がれるに撓まず。 |
| 現代語訳 | 法は身分の高い者にへつらわず、 大工の墨縄は曲がった木に沿って曲げられない。 |
出典: 韓非子有度篇。 法の前では万人平等 という法治主義。
6. 学派一覧
| 学派 | 代表 | 中心思想 | 代表概念 |
|---|
| 儒家 | 孔子・孟子・荀子 | 道徳と礼による秩序 | 仁・礼・性善(孟子) |
| 道家 | 老子・荘子 | 自然に従う無為の生 | 道・無為自然・万物斉同 |
| 法家 | 韓非子・商鞅 | 法と君主権による統治 | 法・術・勢 |
| 墨家 | 墨子 | 兼愛・非攻 | 兼愛・非攻 |
| 名家 | 公孫龍 | 言葉と実体の関係 | 白馬非馬 |
| 陰陽家 | 鄒衍 | 陰陽五行 | 陰陽・五行 |
孔子 (元代古版半身肖像、 台北國立故宮博物院蔵 『歴代古聖賢半身像冊』)。 諸子百家の中心に位置する儒家の開祖で、 「仁」 と 「礼」 を説き、 春秋末期の礼の崩壊に対して道徳政治の復興を訴えた。 弟子たちが編んだ 『論語』 が後世 2000 年の東アジア思想の基盤となった。
7. 章末まとめ
- 儒家 = 仁・礼による道徳政治 (孔子・孟子・荀子)
- 道家 = 道・無為自然 (老子・荘子)
- 法家 = 法 ・ 術 ・ 勢による厳格な統治 (韓非子)
- 「胡蝶の夢」「上善若水」「四端」 は入試頻出
次章では史伝 (史記・十八史略) を学びます。