はじめに
漢文とは、 古代中国 で書かれた文章を、 日本人が日本語の語順で読むための工夫をほどこして読むものです。 もとの漢文は全て漢字だけで書かれており、 これを 白文 と呼びます。
この章でできるようになること:
- 訓読 とは何かを説明できる
- 白文・訓読文・書き下し文 の 3 つを区別できる
- 返り点 (レ点・一二点・上下点) を読める
- 送り仮名 を正しく付けられる
ポイント:漢文は 中国語の文章を、 日本語の語順で読み直す ための技術です。 「読む順番を入れ替える」 仕組みを表すのが 返り点、 「日本語の活用を補う」 のが 送り仮名 です。
1. 白文・訓読文・書き下し文
漢文を学ぶとき、 同じ文が 3 つの姿で現れます。
| 名称 | 内容 | 例 |
|---|
| 白文 | 漢字だけの原文 | 学而時習之 |
| 訓読文 | 白文に返り点・送り仮名・句読点 を付けたもの | 学ビテ而時ニ習フ[レ]之ヲ |
| 書き下し文 | 訓読文を日本語の語順でひらがな交じりに書き直したもの | 学びて時に之を習ふ |
注意:書き下し文は歴史的仮名遣いで書くのが原則です。 「学びて」 は 「まなびて」、 「習ふ」 は 「ならふ」 と読みます (現代仮名遣いなら 「ならう」)。
2. 返り点の種類
返り点とは、 下から上へ返って読む ことを示す記号です。 漢字の左下に小さく書きます。
レ点
すぐ下の字を先に読み、 次にレ点が付いた字を読む。 1 字だけ返る場合に使う。
| 訓読文 | 読む順番 |
|---|
| 読[レ]書 | 書 → 読 |
| 不[レ]知 | 知 → 不 |
例: 「読[レ]書」 は 「書を読む」 と書き下す。
一二点
2 字以上離れて返る場合に使う。 一が付いた字を先に読み、 二が付いた字へ返る。
| 訓読文 | 読む順番 |
|---|
| 学二詩書一 | 詩 → 書 → 学(書に一、 学に二) |
例: 「読二漢文之書一」 は 「漢文の書を読む」。
上下点
一二点で既に返った範囲の 外側でさらに返る場合に使う。 上 → 中 → 下の順で大きく返る。
| 訓読文 | 読む順番 |
|---|
| 有[レ]朋自二遠方一来 | 遠 → 方 → 自 → 来 → 朋 → 有 |
返り点の優先順位
覚え方:返り点は 内側が先、 外側が後。 レ点 < 一二点 < 上下点 < 甲乙点の順で 「より外側を返る」 力が強くなります。
3. 送り仮名の付け方
送り仮名は、 漢字の右下に小さな カタカナ で書き、 日本語の 活用語尾・助詞・助動詞 を補います。
| 漢文 | 訓読文 | 書き下し文 |
|---|
| 我読書 | 我ハ書ヲ読ム | 我は書を読む |
| 不知人 | 人ヲ知ラ[レ] ズ | 人を知らず |
| 子曰学而時習之 | 子曰ハク、 学ビテ而時ニ習フ[レ]之ヲ | 子曰はく、学びて時に之を習ふ |
送り仮名の主なはたらき:
- 活用語尾: 読ム/読マ/読メなど動詞の活用
- 助詞: 「ハ」「ヲ」「ニ」「ノ」 など
- 助動詞: 「ズ」(打消)「ム」(推量)「リ」(完了) など
注意: 「而」「於」「于」「乎」 などは多くの場合置き字 となり、 書き下し文では表記しません (後述)。
4. 置き字 — 読まない字
漢文には訓読の際に 読みを当てず、 書き下し文にも出さない字があります。 これを 置き字 と呼びます。
| 置き字 | 主なはたらき |
|---|
| 而 | 順接・逆接の接続(送り仮名 「テ」「ドモ」 で補う) |
| 於・于・乎 | 場所・対象・比較を示す前置詞 |
| 矣・焉 | 文末の強意・断定 |
| 兮 | 詩の調子を整える |
例: 「学而時習之」 → 「学びて時に之を習ふ」 の 「而」 は訓読で 「テ」 と補い、 書き下し文では文字として表さない。
5. 訓読の実践 — 論語の冒頭
孔子の言葉を集めた 論語 の冒頭を訓読してみましょう。
| 段 | 内容 |
|---|
| 白文 | 子曰、学而時習之、不亦説乎。 |
| 訓読文 | 子曰ハク、 学ビテ而時ニ之ヲ習フ、 亦説バシカラ[レ] ズヤ。 |
| 書き下し文 | 子曰はく、学びて時に之を習ふ、亦た説ばしからずや。 |
| 現代語訳 | 先生がおっしゃった。 「学んで、 そして折にふれて復習する。 何と喜ばしいことではないか」。 |
解説: 「不亦 〜 乎」 は 「亦た 〜 ずや」 と読み、 「何と 〜 ではないか」 と訳す詠嘆反語の形です。 第 5 章で詳しく学びます。
返り点 と 送り仮名 を付けた漢文の例 (韓非子 より)。 漢字の左下にレ点・一二点等を書き、 右下にカタカナで送り仮名を添える。
6. 章末まとめ
- 訓読 = 漢文を日本語の語順で読む技術
- 白文 → 訓読文 → 書き下し文 の 3 段階
- 返り点 はレ点・一二点・上下点の 3 種が基本
- 送り仮名 は漢字の右下にカタカナで
- 置き字 「而・於・于・乎・矣・焉」 は書き下し文に出さない
次章では、 書き下し文の表記の細かなルールを学びます。