この章で学ぶこと
第 9 章では、 第 8 章の電場に続いて 磁場 と 電磁誘導 を学びます。 電気と磁気の関係を理解することで、 発電機・モーター・変圧器などの仕組みが数式で説明できます。
- 磁場 B と磁束 Φ を理解する
- 電流が作る磁場 (アンペール、 直線・円形・ソレノイド) を計算できる
- 電流が磁場から受ける力 (F = BIL) を求められる
- ローレンツ力 F = qvB を使える
- ファラデーの電磁誘導の法則 で起電力を計算できる
- 交流と実効値を理解し、 変圧器の仕組みを学ぶ
ポイント: 電気と磁気は対称ではない が、 動く電荷が磁場を作り、 動く磁場が電場を作る という関係があります。 この 「動くと入れ替わる」 が第 9 章のキーワードです。
1. 磁場
棒磁石 の周りに鉄粉を撒くと、 磁力線 の形が現れる。 線は N 極 から出て S 極 に入り、 磁石の内部では S → N に続く閉曲線をなす。
磁石と磁場
磁石には N 極・S 極があり、 同極は反発、 異極は引き合います。 磁石の周りには 磁場 B (magnetic field) があり、 鉄紛で形を見える化できます (磁力線)。
| 量 | 記号 | 単位 |
|---|
| 磁場 (磁束密度) | B | T (テスラ) または Wb/m² |
| 磁束 | Φ | Wb (ウェーバ) |
| 関係 | Φ = B × S (S: 面積) | — |
電流が作る磁場
電流が流れる導線の周りにも磁場ができます (エルステッドが発見)。
| 状況 | 磁場の大きさ |
| 無限直線電流から距離 r の点 | B = μ0 × I / (2π × r) |
| 半径 a の円形電流の中心 | B = μ0 × I / (2a) |
| 長いソレノイド (単位長さあたり n 巻) | B = μ0 × n × I (内部で一様) |
μ0 = 4π × 10⁻⁷ N/A² (真空の透磁率)。 磁場の向きは 右ねじの法則 で求められます (電流の向きに右ねじを進めたとき、 ねじの回る向きが磁場の向き)。
2. 電流が磁場から受ける力
F = BIL (フレミングの左手)
磁束密度 B の磁場に直角に、 長さ L の導線に電流 I を流すと、 導線は力 F を受けます。
| 関係式 | 説明 |
| F = B × I × L | 磁場と電流が直角のとき |
| F = B × I × L × sin θ | 磁場と電流が角度 θ をなすとき |
向きは フレミングの左手の法則:
- 親指 = 力 F の向き
- 人さし指 = 磁場 B の向き
- 中指 = 電流 I の向き
これが モーター の原理です。
ローレンツ力
電荷 q が速さ v で磁場 B の中を動くと、 受ける力:
| 関係式 | 説明 |
| F = q × v × B | v ⊥ B のとき (ローレンツ力) |
| F = q × v × B × sin θ | 一般形 |
例題 1
電子 (q = 1.6 × 10⁻¹⁹ C) が v = 1.0 × 10⁷ m/s で B = 0.10 T の磁場に直角に入射した。 受ける力を求めよ。
解: F = q × v × B = 1.6 × 10⁻¹⁹ × 1.0 × 10⁷ × 0.10 = 1.6 × 10⁻¹³ N
ポイント: ローレンツ力は速度 v に常に直角にはたらくため、 仕事をしません (運動エネルギーを変えない)。 円運動の向心力としてはたらき、 サイクロトロンや質量分析器で利用されます。
3. ファラデーの電磁誘導
電磁誘導。 コイルに磁石を出し入れすると、 コイルを貫く 磁束 が変化し、 コイルに 誘導起電力 が生じて 誘導電流 が流れる (ファラデーの電磁誘導の法則)。
電磁誘導とは
回路を貫く磁束 Φ が 時間とともに変化する と、 回路に起電力が生じます。 この現象を 電磁誘導 と言い、 ファラデーが 1831 年に発見しました。
ファラデーの法則
| 関係式 | 説明 |
| V = − N × ΔΦ / Δt | 誘導起電力 (N: コイルの巻数) |
マイナス符号は レンツの法則 を表します: 「誘導電流は、 磁束の変化を妨げる向きに流れる」。
例題 2
100 巻のコイルを貫く磁束が 0.1 秒間に 0.020 Wb から 0.050 Wb に変化した。 起電力 V を求めよ。
解: V = N × ΔΦ / Δt = 100 × (0.050 − 0.020) / 0.1 = 100 × 0.30 = 30 V
動く導体の起電力
長さ L の導体棒を、 磁束密度 B の磁場に直角に速さ v で動かすと、 棒の両端に起電力が生じます。
| 関係式 | 説明 |
|---|
| V = B × v × L | 動く導体棒の起電力 |
これは 発電機の基本原理 です。
4. 自己誘導と相互誘導
自己誘導
コイルに流れる電流が変わると、 自分自身の磁束も変わり、 起電力が生じます。 これを 自己誘導 と言い、 自己インダクタンス L で表します。
| 関係式 | 説明 |
|---|
| V = − L × ΔI / Δt | 自己誘導起電力 |
| U = (1/2) × L × I² | コイルの蓄積エネルギー |
L の単位は H (ヘンリー)。
相互誘導と変圧器
2 つのコイルを近づけて一方 (1 次) の電流を変えると、 もう一方 (2 次) に誘導起電力が生じます。 これが 変圧器 (トランス) の原理です。
| 関係式 | 説明 |
| V1 / V2 = N1 / N2 | 巻数の比 = 電圧の比 |
| I1 × V1 = I2 × V2 (理想) | 電力保存 (損失なしの仮定) |
ポイント: 変圧器は 交流でのみ動作 します (直流では磁束が変化しないので起電力が生じない)。 これが家庭用電源に交流が採用される大きな理由の 1 つです。
5. 交流
交流の表し方
交流は 時間とともに大きさと向きが周期的に変わる 電流です。 一般的に 正弦波 (sine wave) で表されます。
| 関係式 | 説明 |
|---|
| V = V0 × sin(ωt) | 電圧の時間変化 (V0: 最大値、 ω: 角周波数) |
| ω = 2π × f | 角周波数と振動数の関係 |
| T = 1 / f | 周期 |
日本の家庭用交流は 100 V (実効値)、 振動数は東日本 50 Hz・西日本 60 Hz。
実効値
交流の 「実質的な値」 を表すのが 実効値 (Vrms, Irms) です。 同じジュール熱を出す直流の値と等しい:
| 関係式 | 説明 |
| Vrms = V0 / √2 | 電圧の実効値 (最大値 ÷ √2) |
| Irms = I0 / √2 | 電流の実効値 |
| P (平均電力) = Vrms × Irms | 消費電力 (抵抗負荷) |
例題 3
家庭用交流 100 V (実効値) の最大電圧 V0 を求めよ。
解: V0 = Vrms × √2 = 100 × 1.414 ≈ 141 V
6. 章末まとめと安全配慮
この章で学んだこと
- 磁場 B、 磁束 Φ = B × S、 直線電流の磁場 B = μ0 I / (2πr)
- F = BIL (フレミングの左手)、 ローレンツ力 F = qvB
- ファラデーの法則 V = − N ΔΦ/Δt、 レンツの法則
- 動く導体棒 V = BvL、 自己インダクタンス U = (1/2) L I²
- 変圧器 V1/V2 = N1/N2、 交流 V = V0 sin(ωt)、 実効値 Vrms = V0/√2
安全配慮 — 強磁場と高周波
磁場・電磁誘導の実験では、 強磁場が体や心臓ペースメーカーに与える影響、 誘導起電力による感電 に注意が必要です。
| 機材・場面 | 危険 | 対策 |
|---|
| ネオジム磁石・電磁石 | 指を強く挟む事故、 心臓ペースメーカー・電子機器への影響 | 取り扱い時は軍手、 ペースメーカー着用者や電子機器から離す |
| 変圧器・コイルの二次側高電圧 | 巻数比で増圧された 数千 V での感電 | 電源を切ってから触る、 端子に直接触れない |
| 高周波 (RF) コイル | 電磁誘導で体内に熱発生 | 長時間近づかない、 連続運転を避ける |
| 大容量コンデンサーとコイルの共振回路 | 高電圧・大電流サージ | 必ず電源を切り放電してから触る |
全章共通ルール
- 強磁場機器には 心臓ペースメーカー着用者立ち入り禁止
- 磁石を 磁気カード・パソコン・スマートフォンに近づけない
- コイルの端子は通電中触らない (誘導起電力で感電の可能性)
次の章: 第 10 章では 原子と量子 を学びます。 古典物理学で説明できない光電効果・原子模型・放射線など、 20 世紀初頭に発展した量子論の入り口です。