この章で学ぶこと
第 10 章は高校物理の 最終章、 そして 20 世紀物理学 の入り口です。 19 世紀末までの古典物理学では説明 できない現象 (光電効果、 原子 の安定性、 放射線) を解決した 量子論 の基礎 を学びます。
- 光電効果 と アインシュタイン の 光量子仮説 E = hν を理解 する
- ボーアの原子模型 と 水素スペクトル を学ぶ
- 放射線 (α・β・γ) の種類と 半減期 を知る
- 核分裂・核融合 と E = mc² (質量とエネルギーの等価性) を理解 する
- 物質波 と ド・ブロイ波長 λ = h/p で 量子論 の全体像を知る
ポイント: 量子論 の中心は 「光も物質も、 波 と 粒子 の両方の性質 を持つ」 という 波動と粒子の二重性 です。 これまでの古典力学とは全く違う世界 に入ります。
1. 光電効果
光電効果とは
金属 の表面に光を当てると、 電子 が飛び出す現象 を 光電効果 と言います。 この飛び出した 電子 を 光電子 と呼びます。
古典物理学で説明できない観察結果
| 観察結果 | 古典で期待されること | 古典での矛盾 |
|---|
| ある振動数 (限界振動数 ν0) 以下の光では強さをいくら上げても 電子 が出ない | 光の強さでエネルギーが増えれば出るはず | 出ない |
| 限界振動数以上なら弱い光でもすぐ出る | 弱い光はエネルギーが溜まるまで時間 がかかるはず | すぐ出る |
| 光電子 の 最大運動エネルギー は光の 強さではなく 振動数 で決まる | 強い光ほど速い 電子 が出るはず | 光の強さではなく 振動数 |
光量子仮説 (アインシュタイン、 1905)
アインシュタイン は 「光はエネルギーの粒 (光子、 photon) として振る舞う」 と仮定 し、 光電効果 を説明 しました。 光子 1 個のエネルギー:
| 関係式 | 説明 |
| E = h × ν | 光子 のエネルギー (h: プランク定数) |
| h = 6.63 × 10⁻³⁴ J·s | プランク定数 |
| (1/2) × m × v² = h × ν − W | 光電子 の最大運動エネルギー (W: 仕事関数) |
W が 仕事関数 (電子 を金属から引き抜くのに必要な最小エネルギー)。 限界振動数 ν0 = W / h。
例題 1
仕事関数 W = 4.0 eV の金属に振動数 ν = 2.0 × 10¹⁵ Hz の光を当てた。 光電子 の 最大運動エネルギー を求めよ (1 eV = 1.6 × 10⁻¹⁹ J)。
解: hν = 6.63 × 10⁻³⁴ × 2.0 × 10¹⁵ ≈ 1.33 × 10⁻¹⁸ J ≈ 8.3 eV
最大運動エネルギー = hν − W = 8.3 − 4.0 = 4.3 eV
2. 原子模型と水素スペクトル
ボーアの原子モデル。 電子 は決まった エネルギー準位 (軌道) のみを取り、 外側 の 軌道 から 内側 へ移るときに差の エネルギー を光として放出 (線スペクトル)。
ラザフォードの原子模型
1911 年、 ラザフォード は α 粒子を金箔に当てる実験で 「原子は中心に小さな + の 原子核 があり、 周りを 電子 が回っている」 と結論 しました。
ラザフォード模型の矛盾
古典電磁気学 では、 加速する 電荷 (円運動する 電子) は 電磁波 を出してエネルギーを失い、 すぐに 原子核 に落ちてしまうはずです。 しかし実際は原子は安定 しています。
ボーアの原子模型 (1913)
ボーア は 2 つの仮定 を設けてこの矛盾 を解決しました。
| 仮定 | 内容 |
|---|
| 量子条件 | 電子 は特定 の 軌道 (定常状態) のみを取れる。 軌道の 角運動量 mvr = n × h / (2π) (n: 量子数 1, 2, 3, ...) |
| 振動数条件 | 電子 が高い エネルギー準位 E_n から低い E_m に移るとき、 差のエネルギーを 光子 として出す: hν = E_n − E_m |
水素のエネルギー準位
| 関係式 | 説明 |
| E_n = − 13.6 / n² eV | 水素原子の n 番目の エネルギー準位 |
| n = 1 が 基底状態 (− 13.6 eV) | 最も安定 |
| n = ∞ で 0 eV (電離状態) | 電子 が自由になる |
水素スペクトル
水素原子が出す光の 波長 は 不連続 で、 系列 として整理されます:
| 系列 | 終着順位 m | 範囲 |
|---|
| ライマン系列 | 1 | 紫外線 |
| バルマー系列 | 2 | 可視光 |
| パッシェン系列 | 3 | 赤外線 |
3. 物質波 (ド・ブロイ波)
波動と粒子の二重性
光が 「波であり粒である」 なら、 電子 などの物質も 「粒であり波である」 のでは? と考えたのが ド・ブロイ (1924) です。
| 関係式 | 説明 |
| λ = h / p = h / (m × v) | ド・ブロイ波長 (p: 運動量) |
電子 が結晶 で 回折 することを デヴィソン・ガーマー が 1927 年に確認し、 物質波 の実在が証明 されました。
例題 2
質量 m = 9.1 × 10⁻³¹ kg の 電子 が v = 1.0 × 10⁶ m/s で動くときの ド・ブロイ波長 を求めよ。
解: λ = h / (mv) = 6.63 × 10⁻³⁴ / (9.1 × 10⁻³¹ × 1.0 × 10⁶) ≈ 7.3 × 10⁻¹⁰ m (約 0.73 nm、 原子サイズと同等)
4. 原子核と放射線
原子核の構成
原子核 は 陽子 (p、 + の電荷) と 中性子 (n、 電荷なし) でできています。 まとめて 核子 と呼びます。
| 表記 | 意味 |
|---|
| 原子番号 Z | 陽子 の数 (= 電子 の数) |
| 質量数 A | 陽子 + 中性子 の数 |
| 同位体 (アイソトープ) | Z が同じで A が違う核 (例: ¹H・²H・³H) |
放射線の種類
| 種類 | 正体 | 電荷 | 透過力 | 電離作用 |
|---|
| α線 | ヘリウム原子核 (²He⁴) | + 2 | 弱 (紙で止まる) | 強 |
| β線 | 高速電子 | − 1 | 中 (アルミ板で止まる) | 中 |
| γ線 | 電磁波 (波長極短) | 0 | 強 (鉛板で弱まる) | 弱 |
半減期
放射性同位体 の数が半分になるまでの時間を 半減期 T と呼びます。 元の数 N0、 t 後の数 N:
| 関係式 | 説明 |
| N = N0 × (1/2)^(t / T) | 残存放射性核の数 |
例題 3
半減期 5 年の 放射性同位体 が 100 g ある。 15 年後に残る量は?
解: t/T = 15/5 = 3 (半減期が 3 回)
N = 100 × (1/2)³ = 100 × 1/8 = 12.5 g
5. 核反応と質量エネルギー
質量とエネルギーの等価性
アインシュタイン の 特殊相対性理論 が示したのは、 質量自体がエネルギーである ということです。
| 関係式 | 説明 |
| E = m × c² | 質量とエネルギーの等価性 (c = 3.0 × 10⁸ m/s) |
質量欠損と結合エネルギー
原子核 の質量は、 核子をバラバラにしたときの質量の合計よりも少し小さい。 この差を 質量欠損 Δm と呼び、 対応するエネルギー Δm × c² が 結合エネルギー です。
結合エネルギー が大きい核ほど安定 です。 鉄 (Fe) の周辺が最も安定 で、 それより軽い核は 核融合 で、 重い核は 核分裂 でエネルギーを出します。
核分裂と核融合
| 反応 | 内容 | 利用例 |
|---|
| 核分裂 | 重い核 (²³⁵U) が中性子を吸収して 2 つに割れ、 大量のエネルギーを放出 | 原子力発電、 原子爆弾 |
| 核融合 | 軽い核 (²H + ³H → ⁴He + n) が合体してエネルギーを放出 | 太陽のエネルギー源、 水素爆弾、 開発中の核融合炉 (ITER) |
連鎖反応と臨界
核分裂 で生じた 中性子 が別の ²³⁵U を分裂させ、 連鎖的に反応が続くことを 連鎖反応 と言います。 一定量 (臨界質量) を超えると連鎖が維持 されます。 原子炉では 制御棒 で中性子を吸収し、 連鎖をコントロールします。
6. 量子論への入り口
量子論 は ボーア・ハイゼンベルク・シュレディンガー らによって 1925-1927 年に完成 しました。 高校範囲では結論の一部だけ触れます。
不確定性原理 (ハイゼンベルク)
「電子 の位置と運動量は同時に正確に決められない」 という原理:
| 関係式 | 説明 |
|---|
| Δx × Δp ≥ h / (4π) | 位置の不確定さ × 運動量の不確定さ |
量子論の応用
| 技術 | 量子論の役割 |
|---|
| 半導体 (PC・スマートフォン) | 結晶中の 電子 の エネルギー帯 を量子論で計算 |
| レーザー | 誘導放出 で同じ位相の 光子 を大量に出す |
| MRI (医療) | 原子核 の 核スピン を利用 |
| 量子コンピューター (新興) | 重ね合わせ と 量子もつれ を計算に使う |
ポイント: 量子論 は 「電子 が 波として広がり、 観測すると 粒として 1 点に現れる」 という直感とは異なる世界観を持ちます。 しかしこれこそが現代技術の基盤となっています。
7. 章末まとめと安全配慮
この章で学んだこと
- 光電効果 = 光が粒 (光子) である証拠、 E = hν、 最大運動エネルギー = hν − W
- ボーアの原子模型、 水素の エネルギー準位 E_n = − 13.6 / n²
- ド・ブロイ波長 λ = h / (mv) で物質も波として振る舞う
- 放射線 α (ヘリウム核)・β (電子)・γ (電磁波)、 半減期 N = N0 × (1/2)^(t/T)
- E = mc² と 質量欠損 が 結合エネルギー、 核分裂 と 核融合
- 量子論 = 波と粒の二重性、 不確定性原理 が現代技術の基礎
安全配慮 — 放射線の基礎安全
放射線 は目に見えず匂いもないため、 専用の機器 (ガイガーカウンター など) でしか検出 できません。 学校での取り扱いは厳しく制限 されます。
| 場面 | 危険 | 対策 |
|---|
| 学校での 霧箱 (放射線観察) | 弱い 放射線源 (¹⁴C、 トリウムランプ等) でも微量被爆 | 教師の立ち会い必須、 線源 に直接触れない、 終了後手洗い |
| 医療 X 線・CT | X 線 (γ 線) による細胞 損傷 | 防護衣 (鉛入りエプロン) を着用、 必要最小限の検査 |
| 自然放射線 (ラドン等) | 屋内蓄積で肺への影響 | 換気で大幅に減らせる |
| 原子力関連施設 | 高線量被爆 | 一般立入禁止、 専門教育 と 線量計着用が必須 |
放射線防御の 3 原則
| 原則 | 内容 |
|---|
| 距離 | 線源 から離れる (距離 の 2 乗に反比例で弱まる) |
| 時間 | 接する時間を短くする |
| 遮蔽 | α は紙、 β はアルミ、 γ は鉛・コンクリートで遮る |
全章共通ルール
- 学校での 放射線実験 は教師の完全な監督下で行う
- 線源 を持ち帰らない・触らない・口に入れない
- 異常を感じたら即教師に報告し、 換気して距離 を取る
高校物理の修了にあたって
10 章を通して、 力学・熱・波動・電磁気・原子という 物理学の 5 大分野 を学びました。 これらはすべて 「自然 を数式で表す」 という共通 の方法論で結ばれています。
大学物理では、 これらを 微分積分 と ベクトル解析 で厳密 に表し直し、 さらに 特殊相対性理論・一般相対性理論・場の量子論 へと発展します。 高校物理の公式一つひとつが、 その入口です。
おつかれさまでした: 物理は 「公式を覚える」 ではなく 「自然 を説明 する道具を手に入れる」 学問です。 大学で物理を続けない人でも、 ここで学んだ エネルギー保存・力学・電磁気 の考え方は、 工学・情報・医療・経済などあらゆる分野で役立ちます。
霧箱 — 過飽和の水蒸気やアルコール蒸気の中を 荷電粒子 が通ると、 経路に沿って凝結が起こり白い飛跡として見える。 α 線・β 線・宇宙線の観測装置。