››
高校物理 の入り口となる章です。 中学で学んだ 「速さ」 「力」 「エネルギー」 を、 高校では 数式 と ベクトル を使ってより厳密 に表すようになります。 まずはその道具 と考え方をそろえましょう。
ポイント: 中学物理 と高校物理 の大きな違い は、 「向き をきちんと考えること」 と 「誤差 や 精度 を意識 すること」 です。 この章で道具 をそろえ、 第 2 章からの力学へつなげましょう。
物理 とは、 自然 のしくみを数式 で表す学問 です。 物体がどう動くか、 エネルギー がどう移り変わるか、 電気 や光がどうふるまうかなどを、 できるだけ少ない法則 で 統一的に説明 しようとします。
| 分野 | 主に扱うもの | 高校での学ぶ章 |
|---|---|---|
| 力学 | 物体の運動・力・エネルギー | Ch2-Ch5 (本教科書) |
| 熱力学 | 熱・温度・気体 | 物理基礎後半 |
| 波動 | 音・光・波 | 物理 |
| 電磁気学 | 電気・磁気・電磁波 | 物理 |
| 中学で学んだこと | 高校で発展 する形 | 章 |
|---|---|---|
| 力 (N) と重さ | ベクトル としての力、 作用線 | Ch3 |
| 速さ | 速度 (向き付き)・加速度 | Ch2 |
| 力と運動 (F = ma の直感) | 運動方程式 F = ma の数式化 | Ch3 |
| 仕事 と エネルギー | 力学的エネルギー 保存則 (式で表す) | Ch4 |
| 円運動 (定性的) | 向心力・周期・角速度 (数式 で) | Ch5 |
大事: 高校物理 では、 中学で 「だいたいこうなる」 と学んだことを、 「なぜそうなるか」 を数式 で説明 できるようになります。
中学の 「探究」 をベースに、 高校では 誤差 と 再現性 を強く意識 します。
| ステップ | やること | 高校物理 での例 |
|---|---|---|
| ① ぎ問 | 観察 から問いを立てる | 重い物ほど速く落ちるか |
| ② 仮説 | 予想 と根拠 | 空気 の抵抗 がなければ同じ |
| ③ 計画 | 条件制御 と道具 | 真空容器 で落下比べ |
| ④ 実験 | 再現性 の確保 | 5 回以上測定 |
| ⑤ 分析 | グラフ・式化 | 時間-速度 グラフ |
| ⑥ 考察 | 誤差 を含め議論 | 有効数字 で結果 を書く |
| ⑦ 結論 | 1 文でまとめる | 真空 では同じ速さで落ちる |
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 仮説 | 検証前の予想 | 「重い物ほど速く落ちる」 |
| 法則 | 多数の 実験 で確認 された規則性 | 万有引力 の 法則 |
| 原理 | より根本的な出発点 | 相対性 原理 |
| モデル | 現象 を単純化した表現 | 質点 (大きさゼロの物体) |
ポイント: 物理 では 「正しい答え」 がひとつと決まっているわけではなく、 「現時点で最も多くの現象 を説明 できる仮説」 が 法則 と呼ばれます。 法則 も将来書き換わる可能性 があります。
実験 で得た数値 は、 必ず 誤差 を含みます。 その数値 が どのくらい信頼 できるか を表すのが 有効数字 です。
| 数値 | 有効数字 | 意味 |
|---|---|---|
| 1.23 | 3 桁 | 1.235 〜 1.224 までのはば |
| 1.230 | 4 桁 | 「最後の 0 も有意」 とわかる |
| 0.00123 | 3 桁 | 先頭 の 0 はカウントしない |
| 1.23 × 10³ | 3 桁 | 1230 とは区別 (1230 は 3 〜 4 桁 あいまい) |
| 計算 | ルール | 例 |
|---|---|---|
| かけ算・わり算 | 小さい方の 桁数にそろえる | 1.2 × 3.45 = 4.14 → 4.1 (2 桁) |
| 足し算・引き算 | 小数点以下 の 桁 が少ない方にそろえる | 1.23 + 4.5 = 5.73 → 5.7 |
| 種類 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 偶然誤差 | 測定 のバラつき | 何度も測り平均 をとる |
| 系統誤差 | 道具 のくせ・ゼロ点ずれ | 道具 の 校正・補正 |
| 個人誤差 | 読み取りのくせ | 複数人で確認 |
大事: 物理 の答えは 数値 + 単位 + 有効数字 で書きます。 「3.14 m/s」 と 「3.142 m/s」 は別の答えとみなします。
世界共通 の単位系を SI単位系 (国際単位系、 Système International d'Unités) と言います。 7 つの 基本単位 が土台 です。
| 量 | 単位 | 記号 |
|---|---|---|
| 長さ | メートル | m |
| 質量 | キログラム | kg |
| 時間 | 秒 | s |
| 電流 | アンペア | A |
| 温度 | ケルビン | K |
| 物質量 | モル | mol |
| 光度 | カンデラ | cd |
基本単位 を組み合わせて作る単位 を 組立単位 と言います。
| 量 | 単位 | 組み合わせ |
|---|---|---|
| 速度 | m/s | 長さ ÷ 時間 |
| 加速度 | m/s² | 速度 ÷ 時間 |
| 力 | N (ニュートン) | kg・m/s² |
| 仕事・エネルギー | J (ジュール) | N・m |
| 仕事率 | W (ワット) | J/s |
| 圧力 | Pa (パスカル) | N/m² |
| 周波数 | Hz (ヘルツ) | 1/s |
| 記号 | 名前 | 大きさ | 例 |
|---|---|---|---|
| T | テラ | 10¹² | 1 TB = 10¹² B |
| G | ギガ | 10⁹ | GHz |
| M | メガ | 10⁶ | MW |
| k | キロ | 10³ | km、 kg |
| (なし) | ─ | 1 | m、 s |
| m | ミリ | 10⁻³ | mm、 mA |
| μ | マイクロ | 10⁻⁶ | μm |
| n | ナノ | 10⁻⁹ | nm |
| p | ピコ | 10⁻¹² | ps |
ポイント: 単位 が違うまま計算 すると、 答えは 絶対 に合いません。 計算前に必ず m と s にそろえましょう (例: km/h → m/s は ÷ 3.6)。
| 種類 | 性質 | 例 |
|---|---|---|
| スカラー | 大きさだけ | 質量・時間・温度・エネルギー・速さ |
| ベクトル | 大きさ + 向き | 速度・加速度・力・運動量 |
ベクトル は矢印 で表します。 矢印 の 長さが大きさ、 向きが方向 を表します。 文字で書くときは、 太字 (例: F) や上に矢印 (例: F →) で区別 します。
ポイント: 教科書に載る 「力の 矢印図」 は、 始点 (力のはたらく点) と 長さ (大きさ) と 向き がすべて意味 をもちます。 ノートに描くときは、 この 3 つをしっかり描きましょう。
| 操作 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 合成 | 2 つの ベクトル を 1 つにまとめる | 東へ 3 N + 北へ 4 N → 北東寄りに 5 N |
| 分解 | 1 つの ベクトル を 2 方向 に分ける | 斜面上の重力を斜面方向と垂直方向に |
直角 に交わる 2 つの ベクトル の合成 は、 三平方 の定理 で求めます。
| 成分 | 大きさ |
|---|---|
| x 方向: 3 | ─ |
| y 方向: 4 | ─ |
| 合成 の大きさ | √(3² + 4²) = √25 = 5 |
| 計算 | スカラー | ベクトル |
|---|---|---|
| 5 + 3 | 8 (常に) | 向きが同じなら 8、 反対 なら 2、 直角 なら √34 |
| 5 × 2 | 10 | 同じ向きで大きさ 2 倍 (10) |
大事: 「速さ 5 m/s」 と 「速度東へ 5 m/s」 は別の量です。 高校物理 では 必ず向きを意識 しましょう。
物理基礎 で必要な数学は、 ほぼ 中 3 〜 高 1 範囲 で足ります。
| 数学 | 物理 での用途 |
|---|---|
| 1 次式・グラフ | 等速直線運動・等加速度運動 |
| 2 次式 (xt = v₀t + ½at²) | 落下運動 |
| 平方根 | ベクトル合成 |
| 三角比 (sin・cos・tan) | 力の 分解・斜面 |
| ピタゴラスの定理 | ベクトル合成 |
| 比例・反比例 | フックの法則・ボイルの法則 |
斜面 や ベクトル分解 で sin・cos をよく使います。 角度 θ の直角三角形で:
| 関係 | 式 |
|---|---|
| sin θ | 対辺 ÷ 斜辺 |
| cos θ | 隣辺 ÷ 斜辺 |
| tan θ | 対辺 ÷ 隣辺 |
| θ | sin θ | cos θ | tan θ |
|---|---|---|---|
| 0° | 0 | 1 | 0 |
| 30° | 1/2 | √3/2 | 1/√3 |
| 45° | √2/2 | √2/2 | 1 |
| 60° | √3/2 | 1/2 | √3 |
| 90° | 1 | 0 | ─ |
ポイント: 「斜面 の角度 θ」 が出てきたら、 重力の斜面方向成分 = mg sin θ、 垂直方向成分 = mg cos θ が定番 です。 Ch3 でくわしく学びます。
物理 の 「事故」 の多くは、 単位 の取り違え から起きます。 1999 年 NASA の 火星気候探査機 は、 ヤード・ポンドと SI 単位 を取り違えて失敗しました。
| 場面 | 危険 | 対策 |
|---|---|---|
| 計算前 | 単位 が km/h と m/s が混ざる | 必ず m と s にそろえる (km/h ÷ 3.6) |
| 実験中 | 物差 とデジタル機器 の 精度 が違う | 有効数字 をそろえる |
| 結果報告 | 有効数字 が多すぎる | 入力の一番アバウトな 桁 にそろえる |
| 大きな数 | 0 が多くてまちがえる | 10 のべきで表す (1.23 × 10⁸) |
| 小さな数 | 小数点を取り違える | 接頭辞 (μ・n・p) を使う |
| ルール | くわしく |
|---|---|
| ① 保護メガネ | 力学実験 でも跳ね返りに備える |
| ② 進行方向に立たない | 台車 や振り子の軌道上を避ける |
| ③ 電気 実験 | 短絡 (ショート) を作らない |
| ④ 光・レーザー | レーザー光は 絶対 に目をのぞき込まない |
| ⑤ 終了後の整理 | 電源 OFF・薬品分別・記録保存 |
大事: 計算 ミスは単なる 「点を失う」 ですが、 実験中のミスはケガや火災 につながります。 数字と同じように、 安全も 「誤差 ゼロ」 をめざしましょう。
次の章: 第 2 章ではいよいよ 等加速度運動 と 落下運動 に入ります。 ガリレオが 400 年前に発見した 「落下の法則」 を、 この章で学んだ ベクトル と 有効数字 の道具 であつかいます。