この章で学ぶこと
第 3 章は、 第 2 章 「力と運動」 を エネルギー の視点 から学び直します。 物理全体を貫く大黒柱 「エネルギー保存」 に出会う章です。
- 仕事 (W = F × d) とはどういう量かを知る
- 仕事率 (P = W ÷ t) を計算 できる
- 運動エネルギー と 位置エネルギー の区別 ができる
- 力学的エネルギー の保存 を理解 する
- 仕事の原理 (滑車・てこ・斜面) を知る
- エネルギー の移り変わり (運動 ↔ 位置 ↔ 熱) を理解 する
- 重い物を扱う 実験 の 安全 を学ぶ
ポイント: 「エネルギー」 とは、 「仕事 をする能力」 です。 エネルギー があれば物を動かしたり形を変えたりできます。
1. 仕事とは
理科 で言う 「仕事」 は、 日常語と違い、 物体に力を加えて動かした量 を指します。
仕事の公式
| 公式 | 単位 |
|---|
| 仕事 [W] = 力 [F] × 距離 [d] | J (ジュール) |
大事: 1 J (ジュール) とは、 「1 N の力で物体を 1 m 動かしたときの 仕事」 です。 つまり 1 J = 1 N・m。
仕事でない場合
| 場面 | 仕事 か | 理由 |
|---|
| 重い荷物を持ち上げる | ○ | 力と距離 あり |
| 重い荷物を持って 動かない | × | 距離 が 0 |
| 物を押すが 動かない (壁) | × | 距離 が 0 |
| 床を引きずる | ○ | 力と距離 あり |
| 等速 で横に持って歩く | × (理論上) | 重力 と動く向きが直角 |
ポイント: 力がかかっても 動かない なら 仕事 は 0、 というのが物理 の 「仕事」 の特徴 です。 「腕が疲れた」 = 「仕事 をした」 ではありません。
仕事の計算例
| 場面 | 力 [F] | 距離 [d] | 仕事 [W] |
|---|
| 1 kg の物を 2 m 持ち上げる | 9.8 N | 2 m | 19.6 J |
| 5 kg の物を 3 m 持ち上げる | 49 N | 3 m | 147 J |
| 100 N の力で床を 5 m 引く | 100 N | 5 m | 500 J |
2. 仕事率
同じ 仕事 でも、 短い時間 でする方が効率 がよい と言えます。 その度合いを表すのが 仕事率 です。
仕事率の公式
| 公式 | 単位 |
|---|
| 仕事率 [P] = 仕事 [W] ÷ 時間 [t] | W (ワット) |
仕事率の例
| 場面 | 仕事 | 時間 | 仕事率 |
|---|
| 100 J の 仕事 を 10 秒 で | 100 J | 10 秒 | 10 W |
| 100 J の 仕事 を 5 秒 で | 100 J | 5 秒 | 20 W |
| 1000 J の 仕事 を 100 秒 で | 1000 J | 100 秒 | 10 W |
大事: 1 W (ワット) とは 「1 秒 あたり 1 J の 仕事 をする能力」 です。 中 2 で学んだ 「電力 [W]」 と同じ単位 で、 「1 W = 1 J/s」 と統一されています。
身近な仕事率
| 物・場面 | 仕事率 の目安 |
|---|
| 人がゆっくり階段を上る | 約 80 W |
| 人が全力で階段を駆け上る | 約 500 W |
| 自転車 (普通) | 約 75 W |
| 家庭の掃除機 | 約 1000 W |
| 家庭のエアコン | 約 600 W |
3. 運動エネルギーと位置エネルギー
エネルギーの定義
エネルギー とは、 「仕事 をする能力」 のこと。 単位 は J (ジュール) (仕事 と同じ)。
運動エネルギー
動いている物体が持つ エネルギー = 運動エネルギー。 速いほど、 重いほど大きい。
| 性質 | くわしく |
|---|
| 速さ が大きいほど 大きい | 速さの 2 乗に比例 (高校で学ぶ) |
| 質量 が大きいほど 大きい | 質量 に比例 |
位置エネルギー
高い所にある物体が持つ エネルギー = 位置エネルギー。 高いほど、 重いほど大きい。
| 性質 | くわしく |
|---|
| 高さが高いほど 大きい | 高さに比例 |
| 質量 が大きいほど 大きい | 質量 に比例 |
例で比べる
| 場面 | 運動エネルギー | 位置エネルギー |
|---|
| 屋上に置かれたボール | 0 (静止) | 大 |
| 落下中のボール | 中 | 中 |
| 地面 に着いた瞬間 | 大 | 0 |
| 走る自動車 | 大 | 平地なら 0 (相対) |
ポイント: 「運動エネルギー がある」 とは 「動かして仕事ができる」、 「位置エネルギー がある」 とは 「落ちることで仕事ができる」 ということです。
4. 力学的エネルギーの保存
ジェットコースター (富士急ハイランド FUJIYAMA) — 高い場所 の 位置エネルギー が、 下りで 運動エネルギー に変わり、 速さが増す。 力学的エネルギー の保存 を体で感じられる身近な例。
力学的エネルギー
運動エネルギー と 位置エネルギー を 合わせたもの を 力学的エネルギー と言います。
| 公式 |
|---|
| 力学的エネルギー = 運動エネルギー + 位置エネルギー |
力学的エネルギー保存則
摩擦 や空気抵抗 がないとき、 力学的エネルギー は 常に一定 に保たれる。
これを 力学的エネルギー保存則 と言います。
振り子の例
振り子 が揺れるとき、 運動エネルギー と 位置エネルギー が 入れ替わり続けます。
| 位置 | 運動エネルギー | 位置エネルギー | 合計 (= 力学的エネルギー) |
|---|
| 端 (一番高い所) | 0 | 大 | 一定 |
| 真ん中 (一番低い所) | 大 | 0 | 一定 |
| 反対の端 | 0 | 大 | 一定 |
巨大 な 振り子 (フーコーの 振り子、 フランス) — 高い位置 での 位置エネルギー と、 低い点での 運動エネルギー が 互い に入れ替わる。 摩擦 が小さいほど 力学的エネルギー の保存 がながく続く。
ジェットコースターの例
| 位置 | 運動エネルギー | 位置エネルギー |
|---|
| 出発点 (一番高い所) | 小 | 大 |
| 一番低い谷 | 大 | 小 |
| 次の山の頂上 | 小 | 大 |
大事: 摩擦 や空気抵抗 が ある ときは、 力学的エネルギー は 熱 や 音 に変わり減っていきます。 でも 「全エネルギー」 を考えれば量は同じです (エネルギー の全体保存)。
5. 仕事の原理 — 道具を使って楽をする
滑車・てこ・斜面 などの道具 を使うと、 「小さな力で重い物を動かせる」 と中 1 で学びました。 でも 「仕事 そのものは減らない」 のが物理 の大原則です。
仕事の原理
道具 を使っても、 仕事 の量は変わらない。
・力を半分にすると → 距離 が 2 倍になる
・力を 3 分の 1 にすると → 距離 が 3 倍になる
動滑車の例
| 比較 | 力 | 距離 | 仕事 |
|---|
| 直接持ち上げる | 100 N | 1 m | 100 J |
| 動滑車 で持ち上げる | 50 N | 2 m | 100 J |
てこの例
| 比較 | 力 | 距離 | 仕事 |
|---|
| 支点から 1:2 の てこ | 50 N | 2 m | 100 J |
| 支点から 1:5 の てこ | 20 N | 5 m | 100 J |
斜面の例
| 比較 | 力 | 距離 | 仕事 |
|---|
| 1 m の高さに直接持ち上げ | 100 N | 1 m | 100 J |
| 長さ 2 m の 斜面 で押し上げ | 50 N | 2 m | 100 J |
ポイント: 「滑車 や てこ や 斜面 は 力を小さく できるが、 その分 距離 が長くなる」。 これが 仕事の原理 です。
6. エネルギーの移り変わり
エネルギー は 形を変えながら移り変わり ますが、 総量は変わりません。 これを エネルギー保存則 と言います (高校物理 でさらに深く学ぶ)。
エネルギーの種類
| 種類 | 例 |
|---|
| 力学的エネルギー | 振り子、 ジェットコースター |
| 熱エネルギー | 火、 摩擦熱 |
| 電気エネルギー | 電流 |
| 光エネルギー | 太陽光、 ライト |
| 音エネルギー | 楽器、 声 |
| 化学エネルギー | 電池、 食べ物、 ガソリン |
| 核エネルギー | 原子力発電 |
エネルギー変換の例
| 場面 | 変換の流れ |
|---|
| 電球 | 電気エネルギー → 光エネルギー + 熱エネルギー |
| 火力発電 | 化学エネルギー → 熱エネルギー → 力学的エネルギー → 電気エネルギー |
| 太陽光発電 | 光エネルギー → 電気エネルギー |
| ガスコンロ | 化学エネルギー → 熱エネルギー |
| 自動車 | 化学エネルギー (ガソリン) → 力学的エネルギー |
7. 安全配慮とふりかえり
仕事・エネルギー実験の安全
中 3 の 仕事・エネルギー 実験 では 重い おもり や 滑車 を使います。 力が大きいぶん、 けがの危険 があります。
| 場面 | 危険 | 対策 |
|---|
| 重い おもり の持ち上げ | 落下で足を強打 | 安全靴推奨、 落とさない慎重に持つ |
| 滑車 の ロープ | 切れる、 手を巻き込む | 強い ロープ を使う、 手を中に入れない |
| 斜面 から物が飛ぶ | 顔・足に当たる | ストッパー を置く、 真下に立たない |
| 振り子 の おもり | 顔や物に当たる | 周りを空ける、 大きく揺らしすぎない |
この章で学んだことのふりかえり
この章の安全配慮
- 重い おもり は 絶対に落とさない で慎重に持つ
- 落下物で足を打たないよう、 真下に立たない
- 滑車 の ロープ に手を巻き込まない、 ロープ は強いものを使う
- 振り子 の おもり は 大きく揺らしすぎない
- 斜面 から物が飛び出す実験 は 真下に立たない
次の章: 第 4 章では、 物理 から化学 に戻り、 「水溶液 と イオン」 を学びます。 中 2 で学んだ 「原子 と 分子」 の内側 に入って、 「原子 がプラスとマイナスに分かれる」 という新しい世界 を知ります。
まとめ — 仕事 と エネルギー を 3 行で
- 仕事 = 力 × 距離 (J) で定義され、 力の向きと移動の向きが同じときに仕事をしたとみなす厳密な物理量である
- 力学的エネルギー は 位置エネルギー と 運動エネルギー の和で、 振り子 では両者が変換しあい総和は保たれる
- エネルギー保存則 によりエネルギーは形を変えても総量が一定で、 滑車 など道具を使っても 仕事の原理 (仕事の量は変わらない) が成り立つ