この章で学ぶこと
第 5 章は、 第 4 章 「水溶液とイオン」 を受け、 「化学変化と電池」 を学びます。 イオンがやりとりする 電子 が、 電気エネルギーを生み出すしくみを知ります。
- 酸化 と 還元 (電子のやりとり) を知る
- 酸化還元反応 が同時に起こることを理解する
- 電池 の基本のしくみを知る
- ボルタ電池 と ダニエル電池 のちがいを知る
- 燃料電池 のしくみと環境価値を知る
- 金属の イオン化傾向 で反応の強さを比較できる
- 一次電池 と 二次電池 のちがいを知る
- 電池の 短絡 と 廃棄 の安全を学ぶ
ポイント: 「電池」 とは、 「化学変化 (酸化還元) を利用して電気エネルギーを取り出す装置」 です。 中 2 で学んだ 「電流」 が、 化学とつながります。
1. 酸化と還元
酸化とは
物質が 酸素と結びつく 反応、 または 電子を失う 反応を 酸化 と言います。
還元とは
物質から 酸素が取り除かれる 反応、 または 電子を受け取る 反応を 還元 と言います。
酸化と還元は同時に起こる
酸化が起こるとき、 必ず 還元も同時に起こります。 これを 酸化還元反応 と言います。
| 反応例 | 酸化された物 | 還元された物 |
|---|
| 2CuO + C → 2Cu + CO₂ | C (酸素と結合) | CuO (酸素を失う) |
| 2Mg + O₂ → 2MgO | Mg (酸素と結合) | — (O₂ も還元と見る) |
| Fe + S → FeS | Fe (電子を失う) | S (電子を受け取る) |
| Zn + CuSO₄ → ZnSO₄ + Cu | Zn (電子を失う) | Cu²⁺ (電子を受け取る) |
電子で見る酸化還元
酸化と還元を 電子 で見ると、 とても分かりやすくなります。
| 反応 | 電子の動き |
|---|
| 酸化 | 電子を 失う (e⁻ を出す) |
| 還元 | 電子を 受け取る (e⁻ をもらう) |
例: Zn → Zn²⁺ + 2e⁻ (亜鉛が酸化されて電子を出す)
例: Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu (銅イオンが還元されて電子を受け取る)
大事: 中学では 「酸素の出入り」 で説明されることが多いですが、 高校では 「電子の出入り」 で統一します。 中 3 から 電子で考える 癖をつけましょう。
2. 金属のイオン化傾向
イオン化傾向とは
金属が 陽イオンになりやすさ を イオン化傾向 と言います。
主な金属のイオン化傾向 (大きい順)
| 順位 | 金属 | 反応性 |
|---|
| 1 | K (カリウム) | 非常に強い |
| 2 | Ca (カルシウム) | 強い |
| 3 | Na (ナトリウム) | 強い |
| 4 | Mg (マグネシウム) | やや強い |
| 5 | Al (アルミニウム) | やや強い |
| 6 | Zn (亜鉛) | 中 |
| 7 | Fe (鉄) | 中 |
| 8 | Ni (ニッケル) | 弱め |
| 9 | Sn (スズ) | 弱め |
| 10 | Pb (鉛) | 弱め |
| 11 | (H) (水素) | 基準 |
| 12 | Cu (銅) | 弱い |
| 13 | Hg (水銀) | 弱い |
| 14 | Ag (銀) | 弱い |
| 15 | Au (金) | ほぼ反応しない |
イオン化傾向の使い方
| 比較 | 結果 |
|---|
| Zn と Cu²⁺ (硫酸銅水溶液) | Zn の方がイオン化傾向大 → Zn が溶け、 Cu が析出 |
| Cu と Ag⁺ (硝酸銀水溶液) | Cu の方がイオン化傾向大 → Cu が溶け、 Ag が析出 |
| Au と HCl | Au のイオン化傾向が小さい → 反応しない |
ポイント: イオン化傾向が 大きい金属 ほど 「陽イオンになりやすく = 酸化されやすい」。 この性質を利用して電池が作れます。
3. 電池のしくみ
電池とは
電池 とは、 「化学変化 (酸化還元) を利用して電気エネルギーを取り出す装置」 です。
電池の基本構成
| 要素 | 役割 |
|---|
| 負極 (マイナス極) | 電子を 出す (酸化される方) |
| 正極 (プラス極) | 電子を 受け取る (還元される方) |
| 電解液 | イオンを通す水溶液 |
| 導線 | 電子が流れる道 |
電子と電流の向き
- 電子 は 負極 → 導線 → 正極 の向きに動く
- 電流 はその 逆、 正極 → 導線 → 負極 の向きと定義される (歴史的な約束)
大事: 電子と電流は 逆向き です。 これは中 2 でも出てきました。 中 3 では 「負極で酸化、 正極で還元」 が起こるとセットで覚えましょう。
4. ボルタ電池とダニエル電池
ボルタの電堆 (Voltaic pile) — 亜鉛と銅の板の間に食塩水をしみ込ませた布をはさみ、 何段も積み重ねた世界初の電池 (1800 年)。 ボルタ電池の原型。
ボルタ電池
1800 年にイタリアの ボルタ が作った世界初の電池。
| 要素 | 内容 |
|---|
| 負極 | 亜鉛 (Zn) |
| 正極 | 銅 (Cu) |
| 電解液 | うすい硫酸 (H₂SO₄) |
| 負極の反応 | Zn → Zn²⁺ + 2e⁻ (酸化) |
| 正極の反応 | 2H⁺ + 2e⁻ → H₂ (還元) |
問題点: 正極で水素気体が銅板について電流を妨げる (分極)。 すぐ弱くなる。
ダニエル電池
ダニエル電池 — 亜鉛板を硫酸亜鉛水溶液に、 銅板を硫酸銅水溶液に入れ、 素焼き板 (隔膜) で仕切る。 ボルタ電池の弱点 (分極) を解消し、 安定して長時間電流を取り出せる。
1836 年にイギリスの ダニエル がボルタ電池を改良した電池。
| 要素 | 内容 |
|---|
| 負極 | 亜鉛 (Zn) |
| 正極 | 銅 (Cu) |
| 負極側電解液 | 硫酸亜鉛 (ZnSO₄) 水溶液 |
| 正極側電解液 | 硫酸銅 (CuSO₄) 水溶液 |
| セロハン や 素焼き板 | 両電解液を分け、 イオンだけ通す |
| 負極の反応 | Zn → Zn²⁺ + 2e⁻ (酸化) |
| 正極の反応 | Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu (還元) |
ポイント: ダニエル電池は正極で 銅 が析出するだけで 気体が発生しない ため、 ボルタ電池よりも 安定して長持ち します。
ボルタとダニエルの比較
| 比較項目 | ボルタ電池 | ダニエル電池 |
|---|
| 発明年 | 1800 年 | 1836 年 |
| 電解液 | 1 種 (うすい硫酸) | 2 種 (ZnSO₄ と CuSO₄) |
| 負極の物質 | 亜鉛 | 亜鉛 |
| 正極の物質 | 銅 | 銅 |
| 正極での反応 | 水素が発生 | 銅が析出 |
| 安定性 | 弱い (分極) | 安定 |
5. 一次電池と二次電池
一次電池と二次電池
| 種類 | 性質 | 例 |
|---|
| 一次電池 | 1 回使い切り、 充電できない | マンガン乾電池、 アルカリ乾電池、 リチウム電池 (ボタン) |
| 二次電池 (蓄電池) | 充電して 何度も使える | ニッケル水素電池、 リチウムイオン電池、 鉛蓄電池 |
主な電池の種類
| 電池 | 種類 | 用途 |
|---|
| マンガン乾電池 | 一次 | リモコン、 時計 |
| アルカリ乾電池 | 一次 | 強力機器 (ライト等) |
| リチウム電池 (ボタン) | 一次 | 腕時計 |
| 鉛蓄電池 | 二次 | 自動車バッテリー |
| ニッケル水素電池 | 二次 | 充電式単三電池 |
| リチウムイオン電池 | 二次 | スマホ、 ノート PC、 EV (電気自動車) |
| 燃料電池 | (連続供給) | 燃料電池自動車 (FCV) |
二次電池の仕組み
充電とは、 電池に 逆向きの電流 を流して、 化学反応を 逆戻し することです。
| 状態 | 化学反応 |
|---|
| 放電 (使う) | 元の物質 → 反応後の物質 |
| 充電 | 反応後の物質 → 元の物質 |
6. 燃料電池
燃料電池とは
燃料電池 は、 水素 (H₂) と酸素 (O₂) を化学反応させて電気を作る装置。 反応後に出るのは 水だけ なので、 環境にやさしい電池として注目されています。
燃料電池の反応
| 場所 | 反応 |
|---|
| 負極 (水素側) | 2H₂ → 4H⁺ + 4e⁻ |
| 正極 (酸素側) | O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ → 2H₂O |
| 全体 | 2H₂ + O₂ → 2H₂O |
燃料電池の特徴
| 特徴 | くわしく |
|---|
| 反応後の排出物 | 水 (H₂O) だけ |
| 二酸化炭素排出 | 0 (走行時) |
| 効率 | 高い (60 % 以上のことも) |
| 燃料 | 水素 H₂ |
| 課題 | 水素の製造と貯蔵、 充填インフラ |
用途
| 用途 | 例 |
|---|
| 燃料電池自動車 | トヨタ MIRAI、 ホンダ CLARITY |
| 家庭用燃料電池 | エネファーム |
| 業務用電源 | 病院、 データセンターのバックアップ |
| 宇宙開発 | アポロ計画で採用 |
7. 安全配慮とふりかえり
電池の取扱い注意
電池は化学反応を含むため、 取扱いを誤ると 発熱・漏液・爆発 の危険があります。
| 場面 | 危険 | 対策 |
|---|
| 電池の 短絡 (ショート) | 発熱、 発火、 漏液 | プラスとマイナスを 直接つながない (金属で結ぶなど厳禁) |
| 電池を 逆向き に入れる | 発熱、 漏液 | プラス・マイナスを確認してから入れる |
| 混在 (新 + 古、 種類違い) | 漏液、 性能低下 | 同じ種類・新しさで揃える |
| 電池を火に入れる | 爆発 | 絶対に火に入れない |
| 電池を分解する | 薬品が漏れる | 絶対に分解しない |
| 使用済みを普通ごみに | 火災・環境汚染 | 電池回収ボックス に出す |
化学実験の安全
| 場面 | 危険 | 対策 |
|---|
| ボルタ・ダニエル電池の製作 | うすい硫酸・銅イオン水溶液 | 保護メガネ 必須、 服に付けない |
| 金属と薬品の反応 | 水素気体発生 (爆発性) | 換気、 火を近づけない |
| 燃料電池の実験 | 水素の取扱い | 必ず先生と、 火気厳禁 |
廃棄ルール
| 電池の種類 | 廃棄方法 |
|---|
| 乾電池 (マンガン・アルカリ) | 電池回収ボックス (ホームセンター・スーパー) |
| ボタン電池 | 電池回収ボックス (販売店) |
| リチウムイオン電池 | 資源回収 (発火の危険あり、 専用ルート) |
| 自動車バッテリー (鉛蓄電池) | カーショップ・ガソリンスタンド |
大事: 電池を 普通ごみに出す と、 ごみ収集車や処理場で 発火 する事故が増えています。 必ず 回収ボックス に出しましょう。
この章のふりかえり
この章の安全配慮
- 電池の短絡 (プラスとマイナスを直接結ぶ) を 絶対にしない
- 電池を 火に入れない、 分解しない
- 使用済み電池は 回収ボックス に出す (普通ごみ厳禁)
- 電池製作実験で 保護メガネ 必須、 服に薬品を付けない
- 水素が発生する反応は 火気厳禁、 必ず 換気
- 実験後の薬品は流しに捨てず、 必ず 先生の指示 に従う
次の章: 中 3 理科後半では、 化学から 生物 (細胞分裂・遺伝) と 地学 (太陽系・宇宙) に進みます。 中 1・中 2 で学んだ 「身の回りの自然」 が、 「生命の連続性」 と 「宇宙の中の地球」 につながる章です。
まとめ — 化学変化と電池を 3 行で
- 電池は酸化還元反応 (電子のやりとり) を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置である
- ボルタ電池 ・ダニエル電池ではイオン化傾向の大きい金属が負極で酸化され、 小さい金属が正極で還元される
- 一次電池 (使い切り) と二次電池 (充電可能) があり、 燃料電池は 2H₂ + O₂ → 2H₂O で水しか生じない環境に優しい電源である