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生物はどうして親と似た子を残せるのでしょうか。 そして、 1 個の受精卵からどのように体がつくられていくのでしょうか。 この章では、 生命が世代をこえて受け継がれるしくみを学びます。
キーワード: 細胞分裂・染色体・受精・減数分裂・遺伝子・DNA・メンデル・顕性形質・潜性形質
私たちの体は、 もとは 1 個の受精卵でした。 そこから 細胞分裂 をくり返して数十兆個の細胞になります。 この、 体をつくる細胞が 2 つに分かれることを 体細胞分裂 といいます。
体細胞分裂が行われる場所は、 たとえば次のような場所です。
| 生物 | 分裂がさかんな部分 |
|---|---|
| 植物 | 根の先端 (根冠のすぐ内側)、 茎の先端 |
| 動物 | 全身 (とくに皮膚・骨髄・小腸の内側) |
細胞の核の中には、 ふだんはぼんやり見えるだけの 染色体 があります。 細胞分裂の時にはひも状に太くなり、 染色 (赤紫の色素) でよく染まるのでこの名前がつきました。
染色体の中には、 親から子に伝わる形質を決める 遺伝子 がならんでいます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 染色体 | 細胞の核の中にあるひも状のもの |
| 遺伝子 | 染色体の中にある、 形質を決める情報 |
| DNA | 遺伝子の本体となる物質 (デオキシリボ核酸) |
染色体の数は生物の種類ごとに決まっています。
| 生物 | 染色体の数 |
|---|---|
| ヒト | 46 本 |
| イヌ | 78 本 |
| ネコ | 38 本 |
| エンドウ | 14 本 |
| ショウジョウバエ | 8 本 |
| タマネギ | 16 本 |
体細胞分裂は、 次のような順序で進みます。 顕微鏡でタマネギの根を観察すると、 さまざまな段階の細胞が同時に見えます。
| 段階 | 名前 | 起こること |
|---|---|---|
| ① | 間期 | 染色体が複製される (核は丸く見えるだけ) |
| ② | 前期 | 染色体がひも状に見え始める |
| ③ | 中期 | 染色体が中央に並ぶ |
| ④ | 後期 | 染色体が両端に引っ張られる |
| ⑤ | 終期 | 細胞質がくびれ、 2 つの核ができる |
| ⑥ | 完了 | 2 個の新しい細胞になる |
大事: 分裂の前 (間期) に 染色体が複製されて 2 倍になる ので、 分裂後の細胞ももとと同じ数の染色体をもちます。 ヒトの場合、 46 本 → 92 本に複製 → 46 本ずつに分かれる、 という流れです。
タマネギの根の先を使った観察では、 次の操作をします。
| 手順 | 目的 |
|---|---|
| ① 60 ℃ のうすい塩酸に数分つける | 細胞どうしをバラバラにする (解離) |
| ② 水でよく洗う | 塩酸を取り除く |
| ③ 酢酸オルセイン (赤紫) で染める | 染色体をよく見えるようにする |
| ④ カバーガラスで押しつぶす (押しつぶし法) | 細胞を 1 層にする |
ポイント: 酢酸オルセイン や酢酸カーミンは 染色体だけを赤紫に染める 性質があります。 だから分裂中の染色体がはっきり見えるのです。
生物が子を残すことを 生殖 といいます。 生殖には大きく 2 種類があります。
| 種類 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 無性生殖 | 親が 1 体だけで子をつくる。 子は親と同じ遺伝子をもつ (クローン) | ジャガイモのいも、 ヒドラの出芽、 ミカヅキモの分裂 |
| 有性生殖 | 雄 (おす) と雌 (めす) の 生殖細胞 が合わさる。 子は親と異なる遺伝子をもつ | 多くの動物・植物 |
| 方法 | 例 |
|---|---|
| 分裂 | アメーバ・ゾウリムシ・ミカヅキモ |
| 出芽 (からだの一部がふくらんで切り離れる) | ヒドラ・酵母 |
| 栄養生殖 (体の一部から新しい個体) | ジャガイモのいも、 サツマイモ、 オランダイチゴのほふく茎 |
| 胞子 | コケ・シダ・キノコ |
動物の有性生殖は、 次の流れで進みます。
| 段階 | 起こること |
|---|---|
| ① | 雄の精巣で 精子、 雌の卵巣で 卵 (らん) がつくられる |
| ② | 精子と卵が出会って合わさる (受精) |
| ③ | できた 受精卵 が体細胞分裂をくり返す (発生) |
| ④ | やがて親と同じ形の子になる |
被子植物の場合は、 次の流れです。
| 段階 | 起こること |
|---|---|
| ① | おしべのやくで 花粉、 めしべの子房の中の胚珠で 卵細胞 がつくられる |
| ② | 花粉がめしべの柱頭につく (受粉) |
| ③ | 花粉から 花粉管 がのびて、 胚珠まで届く |
| ④ | 花粉管の中を通って 精細胞 が卵細胞と合わさる (受精) |
| ⑤ | 受精卵が細胞分裂をくり返して胚になり、 種子ができる |
大事: 動物の 「精子・卵」 と植物の 「精細胞・卵細胞」 は名前がちがうだけで、 役わりは同じです。 どちらも 生殖細胞 と呼ばれます。
ヒトの染色体は 46 本です。 もし、 精子と卵がそれぞれ 46 本をもっていたら、 受精卵は 92 本になってしまいます。 さらに、 次の世代では 184 本… とどんどん倍になります。
これを防ぐため、 生殖細胞がつくられるときは 染色体の数を半分にする特別な分裂 が起こります。 これを 減数分裂 といいます。
| 染色体の数 | ヒトの場合 |
|---|---|
| ふつうの体細胞 | 46 本 |
| 精子 | 23 本 |
| 卵 | 23 本 |
| 受精卵 (23+23) | 46 本 |
| 項目 | 体細胞分裂 | 減数分裂 |
|---|---|---|
| 起こる場所 | 体のあらゆる部分 | 生殖細胞がつくられるときだけ |
| 分裂の回数 | 1 回 | 2 回連続 |
| できる細胞の数 | 2 個 | 4 個 |
| 染色体の数 | もとと同じ (46 → 46) | 半分 (46 → 23) |
| 細胞の性質 | もとと同じ | 親と異なる組み合わせ |
ポイント: 減数分裂 で染色体の数が半分になるから、 受精 で元にもどるのです。 この 「半分 → 合わせて元へ」 が有性生殖のカギです。
19 世紀に メンデル (オーストリアの修道士) は、 エンドウを使って遺伝を系統的 に研究しました。 メンデルが注目したのは、 「親の形質が子にどう伝わるか」 でした。
メンデルが観察したエンドウの形質 (例):
| 形質 | 対立する形 |
|---|---|
| 種子の形 | 丸 / しわ |
| 種子の色 | 黄 / 緑 |
| 花の色 | 紫 / 白 |
| さやの形 | ふくらむ / くびれる |
| 草丈 | 高い / 低い |
メンデルはまず、 「自家受粉を何世代もくり返しても同じ形質しか出ない」 系統 (=純系) を用意しました。 そして、 たとえば 「丸の純系」 と 「しわの純系」 をかけ合わせます。
| 親 (親世代) | 子 (F1) |
|---|---|
| 丸 (純系) × しわ (純系) | すべて丸 |
しわは消えてしまったように見えます。 この、 子に現れた形質を 顕性形質 (旧: 優性形質)、 隠れた形質を 潜性形質 (旧: 劣性形質) といいます。
F1 どうしを自家受粉させると、 次の世代 (F2) ではしわが復活します。
| F1 同士をかけ合わせ | F2 |
|---|---|
| 丸 (F1) × 丸 (F1) | 丸 : しわ ≒ 3 : 1 |
なぜ 3 : 1 になるのか。 メンデルはこう説明しました。
「形質を決める要素 (= 遺伝子) は 対 (ペア) で存在し、 生殖細胞ができるときに 1 つずつに分かれて 入る」
これを 分離の法則 といいます。 図で整理しましょう。
| 親 | 遺伝子型 | 生殖細胞 |
|---|---|---|
| 丸 (純系) | AA | A だけ |
| しわ (純系) | aa | a だけ |
| F1 | 遺伝子型 | 表現型 |
|---|---|---|
| 受精卵 | Aa | 丸 (A が顕性) |
F1 (Aa) のつくる生殖細胞は A : a = 1 : 1。 これを表でかけ合わせます。
| A (1/2) | a (1/2) | |
|---|---|---|
| A (1/2) | AA | Aa |
| a (1/2) | Aa | aa |
| 遺伝子型 | 数の比 | 表現型 |
|---|---|---|
| AA | 1 | 丸 |
| Aa | 2 | 丸 |
| aa | 1 | しわ |
→ 丸 : しわ = (1+2) : 1 = 3 : 1
大事: 分離の法則 があってこそ、 「親とはちがう形質をもつ孫が生まれる」 という現象が説明できます。 これがメンデルの大発見でした。
| 用語 (現在) | 旧称 | 意味 |
|---|---|---|
| 顕性形質 | 優性形質 | F1 で現れる形質 |
| 潜性形質 | 劣性形質 | F1 で隠れる形質 |
ポイント: 「優性・劣性」 は 「優れている・劣っている」 と誤解されやすいので、 2017 年以降の教科書は 「顕性・潜性」 と表記します。 形質の良し悪しではなく、 「現れやすいか・隠れやすいか」 だけのちがいです。
遺伝子 の本体は、 DNA (デオキシリボ核酸) という物質です。 1953 年にワトソンとクリックが、 DNA は 2 本の鎖がらせん状に巻き付いた 二重らせん構造 をしていることを発見しました。
DNA には 4 種類の 「文字」 (塩基) がならんでおり、 その並び方が遺伝情報を表します。
| 塩基 | 記号 | 対となる塩基 |
|---|---|---|
| アデニン | A | T (チミン) |
| チミン | T | A |
| グアニン | G | C (シトシン) |
| シトニン | C | G |
A は必ず T と、 G は必ず C とペアになります。 この規則があるから、 DNA は正確に複製できるのです。
| 大きさの順 | 説明 |
|---|---|
| 1. 染色体 | 細胞の核の中にあるひも状のもの |
| 2. DNA | 染色体をつくっている長い鎖状の物質 |
| 3. 遺伝子 | DNA 上の、 ある形質を決める部分 |
大事: 「染色体 ⊃ DNA ⊃ 遺伝子」 という包含関係を押さえましょう。 DNA は物質の名前、 遺伝子はその中の 「意味をもつ部分」 です。
DNA の解析が進み、 私たちの生活にも関わる技術が生まれています。
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| ヒトゲノム計画 | ヒトの全 DNA 配列を解読 (2003 年完了、 約 30 億塩基対) |
| 遺伝子診断 | DNA を調べて病気のリスクを知る |
| 遺伝子組み換え | 別の生物の遺伝子を入れて新しい性質をもたせる |
| ゲノム編集 | 特定の遺伝子をねらって書きかえる |
| iPS 細胞 | 体細胞を初期化して、 さまざまな細胞に分化させる |
考えてみよう: 遺伝子を書きかえる技術は 「病気を治す」 一方で、 「親が子の性質を選ぶ」 方向にも使えてしまいます。 どこまでが許されるか、 みんなで考える時代が来ています。
| 場面 | 注意 |
|---|---|
| 塩酸を使う解離 | 必ずうすい塩酸、 保護めがね、 換気、 先生と一緒に |
| 染色液 (酢酸オルセイン) | 服につけると落ちない、 手につけない |
| 顕微鏡の操作 | 直射日光を反射させない (目を痛める) |
| プレパラート | 使い終わったら流しで洗う、 ガラスでけがをしない |
遺伝子の知識は、 病気を治す力になる一方で、 人を区別したり差別したりする道具にもなってしまう危険 があります。 学ぶときには次のことを大切にしましょう。
大事: 科学技術は 「使う人がどう使うか」 で良くも悪くもなります。 高校でも、 大人になっても、 「自分ごと」 として考える力をもちましょう。
次の章へ: ここまでは地球上の生命の連続性を学びました。 次は視点を大きく広げて、 地球を取り巻く 宇宙 のしくみを学びます。