はじめに
漢文は、 中国古代の人々の知恵と詩情を伝える宝庫です。 中学 3 年では、 訓読の方法を身につけ、 『論語』 と漢詩を味わいます。 すべてパブリックドメインの古典です。
この章でできるようになること:
- 漢文の訓読 (返り点・送り仮名) ができる
- 書き下し文を作れる
- 『論語』 の代表的な章句の意味が分かる
- 唐代の漢詩 (李白・杜甫・王維) を鑑賞できる
1. 訓読の基本
漢文は本来、 中国語の語順で書かれています。 日本語で読むために 返り点 と 送り仮名 を補って読むのが訓読です。
返り点の種類
| 記号 | 名前 | 働き |
|---|
| レ | レ点 | 一字だけ返って読む |
| 一・二・三 | 一二点 | 二字以上離れて返って読む |
| 上・下 | 上下点 | 一二点を含む範囲をさらに返る |
例
学レ 而時習レ 之 → 学びて時に之を習ふ
「学」 → 「而」 → 「時」 → 「習」 → 「之」 ではなく、 「学」 → 「時」 → 「之」 → 「習」 → 「而」 と並べ替えて読むイメージです (実際は「学びて時に之を習ふ」 となる)。
書き下し文のルール
- 送り仮名は 歴史的仮名遣い を使う (ふ・ゐ・ゑ など)
- 助詞・助動詞にあたる漢字は ひらがな に直す (而 → て、 也 → なり)
- 訓読の順に並べ替える
2. 『論語』 — 孔子と弟子の言葉
孔子 (前 551 頃-前 479) 中国春秋時代の思想家。 弟子たちが孔子の言行をまとめたのが『論語』 です (PD)。
学而第一
子曰 ク、 学而時習レ 之 ヲ、 不二亦説ナラ 一乎 (而 は 置 き 字)
書き下し文:
子曰 (い) はく、 学びて時に之を習ふ、 亦 (また) 説 (よろこ) ばしからずや。
現代語訳:
先生がおっしゃった。 「学んで、 ときに復習する。 なんと喜ばしいことではないか。」
学んでいないと…
学而不レ 思則罔 シ。 思而不レ 学則殆 シ。
書き下し文:
学びて思はざれば則 (すなは) ち罔 (くら) し。 思ひて学ばざれば則ち殆 (あや) ふし。
現代語訳:
学ぶだけで考えなければ、 (本当のことは) 見えてこない。 考えるだけで学ばなければ、 (独りよがりで) 危険である。
学ぶことと考えることの 両方が必要 という、 学習の本質を突いた言葉です。
古き知恵から新しきを
温レ 故而知レ 新、 可二以為一レ 師矣
書き下し文:
故 (ふる) きを温 (たず) ねて新しきを知る、 以て師と為 (な) るべし。
現代語訳:
古いことを学び直して、 そこから新しい意味を見出せる人は、 人の師となる資格がある。
四字熟語「温故知新」 の出典です。
3. 唐詩三選
唐代 (618-907) は中国詩の黄金期です。 ここでは三人の代表詩人の作品 (すべて PD) を鑑賞します。
李白 (701-762) — 「静夜思」
牀前看二月光一
疑フラクハ 是地上 ノ霜カト
挙レ 頭望二山月一
低レ 頭思二故郷一
書き下し文:
牀 (しょう) 前月光を看 (み) る
疑ふらくは是れ地上の霜かと
頭を挙げて山月を望み
頭を低 (た) れて故郷を思ふ
現代語訳:
ベッドの前に月の光が差している
地上の霜かと見まちがえるほどに
顔を上げて山にかかる月を眺め
顔を伏せて故郷を思った
旅先で月を見て故郷を思う、 古今東西に通じる情を詠んだ短い詩です。
杜甫 (712-770) — 「春望」 冒頭
国破山河在
城春草木深 シ
書き下し文:
国破れて山河在り
城春にして草木深し
現代語訳:
国は (戦乱で) 滅んだが、 山や河は (変わらずに) ある
都には春が来て、 草や木が深く茂っている
戦乱で荒れ果てた都を前に、 変わらぬ自然と変わってしまった人事の対比を詠んだ名句です。
王維 (701頃-761) — 「鹿柴」
空山不レ 見レ 人
但聞二人語響一 ヲ
書き下し文:
空山人を見ず
但 (ただ) 人語の響くを聞く
現代語訳:
人気のない山中に人の姿は見えない
ただ、 どこかから人の話し声だけが響いて聞こえる
視覚と聴覚の対比で、 山中の静けさをかえって際立たせる手法です。
4. 漢詩の形式
| 形式 | 字数 × 句数 | 例 |
|---|
| 五言絶句 | 5 字 × 4 句 | 静夜思・鹿柴 |
| 七言絶句 | 7 字 × 4 句 | 早発白帝城 |
| 五言律詩 | 5 字 × 8 句 | 春望 (全体) |
| 七言律詩 | 7 字 × 8 句 | — |
絶句は四句、 律詩は八句が原則です。 韻 (句末の音をそろえる) と対句 (構造の対称) が技法の中心です。
孔子 — 論語 の 語り手
孔子 の 肖像。 江戸期 の 絵師狩野道信 が 1784 年 に 描い た もの。 福岡県立修猷館高等学校蔵。 出典: Wikimedia Commons (Public Domain)。
『論語』 は 孔子 と その 弟子 の 言行 を まとめ た もの で、 中国 だけ で なく 日本 で も 江戸時代 を 通じ て 学問 の 中心 と なり まし た。 江戸期 の 日本 で も 上 の よう に 孔子像 が 多く 描か れ、 各藩校 や 学者 に 尊敬 さ れ て いた こと が わかり ます。
まとめ
- 漢文は返り点・送り仮名を補って訓読する
- 『論語』 は孔子の言行録、 学びの根本を示す
- 唐詩は中国詩の黄金期、 李白・杜甫・王維が代表
- すべて PD なので学習教材として自由に使える
二千年以上前の中国の知恵が、 訓読を通じて日本語の中に生き続けています。