この章で学ぶこと
短歌 (5・7・5・7・7 の三十一音) と 俳句 (5・7・5 の十七音) は、 世界で最も短い 詩 の形と言われます。 中 2 では、 古典 の名歌・名句 を味わい、 自分で一首・一句を詠むことまでを 目標とします。
- 短歌 と 俳句 の 音数と 形式 を 正確 に言える
- 枕詞・序詞・掛詞・縁語 を見つけられる
- 万葉集・古今集・新古今集の名歌 を三首ずつ 鑑賞 できる
- 松尾 芭蕉 の俳句を三句鑑賞でき、 季語 を 判別 できる
- 自分で短歌一首 / 俳句一句を 創作 できる
ポイント:短歌と俳句は、 千年以上続く日本の 文化 遺産。 読むだけでなく 詠むことで、 感性 が 磨かれます。
1. 短歌 — 三十一音の 抒情詩
形と名前
| 区分 | 音数 |
|---|
| 初句 | 5 |
| 二句 | 7 |
| 三句 | 5 |
| 四句 | 7 |
| 結句 | 7 |
| 合計 | 31 |
初句 から三句までを 上の句、 四句と結句を 下の句 と呼びます。
短歌の 修辞 (表現技法)
| 技法 | 説明 | 例 |
|---|
| 枕詞 | 特定の語を導く五音の 飾り言葉 | 「ちはやぶる」 → 「神」 を導く |
| 序詞 | 七音以上で後の言葉を導く | 「足引 の山鳥の尾のしだり尾の」 |
| 掛詞 | 一つの音に二つの意味を持たせる | 「松」 = 「松 の木」 と 「待つ」 |
| 縁語 | 連想でつながる語を散り 嵌める | 「糸」 と 「結ぶ」 「切る」 |
| 体言止め | 名詞で結句を終える | 「山 の 端」 で終える |
2. 古典の短歌 — 三集から
万葉集 (奈良時代、 約 4500 首) より
山上憶良 「銀 も」 (巻五・803)
銀 も 金 も 玉 も何せむに 勝れる 宝 子 に 及かめやも
意訳:銀も金も 宝石 も、 一体何になるだろうか。 何よりも 優れた 宝 であるわが 子 に 及ぶものがあろうか、 いや、 ない。
鑑賞: 親 が 我が 子 を思う 気持ちを、 誇張 せず素直に詠んだ一首。 「及かめやも」 は 反語 (「いやない」 という強調)。
額田王 「熟田津に」 (巻一・8)
熟田津に 船乗りせむと 月 待てば 潮 もかなひぬ 今 は 漕ぎ 出でな
意訳: 熟田津で 船 に乗ろうと 月 (の 出) を 待っていたら、 潮 も良い 頃合いになった。 さあ 今 こそ 漕ぎ 出そう。
鑑賞: 出航 の 高ぶる 気持ちが 「な」 (勧誘の 終助詞) に 込められている。 潮 と 月 という 自然 と、 人 の 動きが一体化。
詠み人知らず (巻十・1812)
春 過ぎて 夏 来たるらし 白たへの 衣 干したり 天 の 香具山
意訳: 春 が過ぎて 夏 が 来 たらしい。 真っ 白 な 衣 が 干されている、 天 の 香具山 に。
鑑賞:持統天皇の 作 と伝わる (万葉集では 詠み人知らず)。 視覚 (白) と 体感 (夏) の 対比 で季節の移ろいを描く。
古今集 (平安時代初期、 紀貫之ら) より
紀貫之 「人 はいさ」
人 はいさ 心 も知らずふるさとは 花 ぞ 昔 の 香 に 匂ひける
意訳: 人 の 心 はさあどうだか分からない。 けれど故郷の 梅 の 花 は 昔 のままの 香りを 漂わせている。
鑑賞: 係結び 「ぞ … ける」 (連体形) に 注目。 人 の 心 の 変わりやすさと、 花 の 不変 を 対比 させている。
新古今集 (鎌倉時代初期、 後鳥羽院勅撰) より
西行法師 「心 なき」
心 なき 身 にもあはれは知られけり 鴫 立つ 沢 の 秋 の 夕暮
意訳: 出家 して 感情 を捨てた 身 (= 心 なき 身) であっても、 しみじみとした 趣 は 感じられるものだ。 鴫 が 飛び立つ 沢 の 秋 の 夕暮れよ。
鑑賞: 「寂」 という 美 意識を 象徴 する一首。 体言止め (「夕暮れ」) で余韻 を残す。
3. 俳句 — 十七音と 季語
形と約束
| 区分 | 音数 |
|---|
| 初句 | 5 |
| 中句 | 7 |
| 結句 | 5 |
| 合計 | 17 |
俳句には、 季節を示す 季語 を必ず入れる約束があります (無季俳句という 例外 もあり)。 また、 句 の 切れ目を作る 切字 (や・かな・けり等) もよく使われます。
4. 松尾 芭蕉 の名句三選
松尾 芭蕉 (1644-1694) は 江戸時代前期の 俳人。 「奥 の 細道」 等で 俳諧 を 文学 に 高めました。
(1) 「古池 や」
古池 や 蛙 飛び 込む 水 の 音
季語: 蛙 (春) 切字: や
鑑賞: 静かな 古池 と、 一瞬 の 水 の 音。 静 と 動、 古さと 新しさの 対比 が 凝縮 された一句。
(2) 「閑さや」
閑さや 岩 にしみ入る 蝉 の 声
季語: 蝉 (夏) 切字: や
鑑賞: 山形 の 立石寺で詠んだ句。 蝉 の 鋭い 声 が 岩 に 染み 込んで行くという 共感覚的な 表現 が 名句 の 由縁。
(3) 「夏草 や」
夏草 や 兵 ども が 夢 の 跡
季語: 夏草 (夏) 切字: や
鑑賞: 平泉 高館で、 源 義経らの 最期 を想い詠んだ句。 無常観 が 凝縮 されている。
5. 季語の例
| 季節 | 代表季語 |
|---|
| 春 | 桜・梅・蝶・蛙・菜 の 花・雛 祭り |
| 夏 | 蝉・蛍・夕立・向日葵・花火 |
| 秋 | 紅葉・月・菊・案山子・赤蜻蛉 |
| 冬 | 雪・木枯らし・椿・炬燵・白鳥 |
| 新年 | 元日・初詣で・門松・雑煮 |
6. 自分で一首 / 一句を詠む — 創作練習
短歌を作る手順
- テーマを 一つ決める — 「朝 の 電車」 「テスト前」 「祖母 の手」 等
- 具体的な 情景 を思い 浮かべる — 抽象語を使わず 五感 で
- 初句 (5) をまず置く — 印象的な 名詞や 呼びかけ
- 結句 (7) を決める — 体言止めにすると 余韻 が残る
- 間を埋める — 音数が合うか 声 に 出して 確かめる
例 (Studia 自作)
改札 を 抜ければ 早き 朝 の 風 肩 の 鞄 を一つ 抱えて (短歌)
白 き 息 銀杏 の 影 を 追い走る (俳句、 季語: 銀杏 = 秋)
芭蕉 とはどんな 人物
松尾芭蕉の肖像。 江戸中期の俳人与謝蕪村が 18 世紀に描いたもの。 出典: Wikimedia Commons (Public Domain)。
芭蕉 は 「奥の細道」 を 代表 とする 紀行 で知られ、 後の俳人与謝 蕪村 にも 大きな 影響 を 与えました。 蕪村自身も俳人兼画家で、 上の肖像はその蕪村が描いたものです。
まとめ
- 短歌 = 5・7・5・7・7 (31 音)、 俳句 = 5・7・5 (17 音)
- 修辞 (枕詞・序詞・掛詞・縁語・体言止め) を 味わう
- 万葉集 (奈良)・古今集 (平安)・新古今集 (鎌倉) は三大勅撰歌集
- 俳句には 季語 と 切字 (や・かな・けり) を入れる
- 芭蕉 は 「古池 や」 「閑かさや」 「夏草 や」 等で 俳諧 を 文学 に高めた
- 自分でも 一首・一句 を詠んでみることが何よりの 学び
次の章へ:詩の世界に 親しんだら、 続いて 小説 の 読解。 情景・心情・人物像 をどう読むかを学びます。