この章で学ぶこと
高校の 生物 は、 中学理科で学んだ 「生き物の体のつくりとはたらき」 を土台 に、 「生命とは何か」 を分子・細胞 レベルで理解 し、 「なぜ多様 な生き物がいるのか」 を 進化 の視点 でとらえ直す科目 です。
第 1 章では、 高校生物の全単元 に通じる 共通 の視点 を学びます。
- すべての 生物 に共通 する 5 つの特徴 を言える
- 細胞説 がどのように確立 されたかを知る
- 光学顕微鏡 と 電子顕微鏡 のしくみと倍率・分解能 の違いを理解 する
- 高校生物の 探究 (仮説 - 実験 - 考察) の流れをつかむ
- 顕微鏡 観察 と 実験 の 安全配慮 (生命 尊重・薬品取扱) を守る
ポイント: 中学では 「植物・動物の体のつくり」 を別々 に学んだが、 高校生物では 「すべての生き物が細胞からできており、 同じ仕組みで動いている」 という統一的な視点を持ちます。
光学顕微鏡 — 高校生物で細胞 や 微生物 を観察 する基本道具。 接眼 レンズと対物 レンズの倍率 を掛け合わせたものが総倍率 (例: 10×40 = 400 倍)。
フック が 1665 年 『Micrographia』 に描いた コルク 切片。 小さな部屋 を 「cell (細胞)」 と名づけた。 これが 細胞 という言葉 の起源。
1. 生物の共通性と多様性
地球上には現在 約 175 万種 が名前をつけられており、 未発見 を含めると 3 千万種 以上いると推定 されます。 これらの生き物は形も大きさも暮らし方もまったく違いますが、 すべて 共通 の特徴 を持っています。
生物の 5 つの共通特徴
| 特徴 | 内容 | 例 |
|---|
| ① 細胞 からなる | すべての 生物 は 1 つ以上の 細胞 でできている | 大腸菌 (1 細胞)・ヒト (約 37 兆細胞) |
| ② 代謝 を行う | 外から物質と エネルギー を取り入れ、 化学反応 で体を維持 する | 光合成・呼吸 |
| ③ 自己複製 を行う | DNA を複製 し、 子を残す | 細胞分裂・生殖 |
| ④ 恒常性 を保つ | 体内を一定 の状態 に保つ | 体温・血糖値 の調節 |
| ⑤ 進化 する | 突然変異 と 自然選択 で世代 を重ねて変化する | キリンの首が長くなった過程 |
大事: この 5 特徴 を すべて 持つものだけが 生物 とみなされます。 ウイルス は ④ と ① を持たない (細胞構造 がない) ため、 生物 と非生物の 境界 に位置するとされます。
共通性がある理由 — 共通祖先
すべての 生物 が同じ仕組 みを持つのは、 約 38 億年前の 共通祖先 から進化した からです。 その証拠:
- 遺伝 情報 が すべての生物で DNA (または RNA) で書かれている
- タンパク質 を作る 遺伝暗号 (コドン) がほぼ全生物で共通
- ATP を エネルギー通貨として使う仕組 みが共通
多様性 — なぜこんなに種が多いか
共通祖先 から 進化 によって 分化 し、 多様 な 環境 に適応 した結果 として現在の 生物多様性 があります。 主な階層:
| レベル | 内容 |
|---|
| 遺伝的多様性 | 同じ種の中での個体差 (例: ヒトの顔・髪・血液型) |
| 種多様性 | 同じ 生態系 の中に多くの種がいること |
| 生態系多様性 | 森・草原・海・砂漠等の 生態系 そのものの多様 さ |
生物の分類 — ドメインと界
生物は細胞 の構造や 遺伝子 の違いによって、 大きく 3 ドメイン に分けられます (ウーズ の提案、 1990 年)。
| ドメイン | 細胞型 | 代表例 |
|---|
| 細菌 (Bacteria) | 原核細胞 | 大腸菌・乳酸菌・シアノバクテリア |
| 古細菌 (Archaea) | 原核細胞 | メタン菌・好熱菌・好塩菌 |
| 真核生物 (Eukarya) | 真核細胞 | 動物・植物・菌類・原生生物 |
2. 細胞説 — 生物学の出発点
「すべての生物は細胞からできている」 という考え方を 細胞説 といい、 19 世紀 に確立 されました。 これは高校生物の 最大の出発点 です。
細胞説確立の歴史
| 年 | 人物 | 業績 |
|---|
| 1665 | フック (英) | コルク切片 を観察 し、 小さな部屋を 「cell」 と名づけた (実は 細胞壁 の跡) |
| 1674 | レーウェンフック (蘭) | 自作 の顕微鏡 で 生きた 微生物 を観察 |
| 1831 | ブラウン (英) | 植物細胞 の 核 を発見 |
| 1838 | シュライデン (独) | 植物について 「細胞 が単位」 と提案 |
| 1839 | シュワン (独) | 動物についても同じとし、 細胞説 を確立 |
| 1855 | フィルヒョー (独) | 「すべての細胞 は細胞 から生じる」 (omnis cellula e cellula) |
大事: 細胞説 の 3 本柱:
① すべての生物は細胞 からなる
② 細胞 は 生物 の 構造・機能 の単位
③ 細胞 は 既存 の細胞 の 分裂 から生まれる
3. 顕微鏡のしくみと観察
細胞 を見る道具 が 顕微鏡 です。 高校生物では 光学顕微鏡 を自分で操作 し、 電子顕微鏡 の像を写真で学びます。
光学顕微鏡の基本構造
| 部品 | はたらき |
|---|
| 接眼レンズ | 目でのぞくレンズ。 倍率 は 5×・10×・15× 等 |
| 対物レンズ | 試料側のレンズ。 4×・10×・40×・100× 等 |
| ステージ (載物台) | プレパラートを置く台 |
| しぼり (絞り) | 光の量を調節 |
| 反射鏡 / 光源 | 光を試料 にあてる |
| 粗動 ねじ・微動 ねじ | ピント合わせ |
| レボルバー | 対物 レンズの切り替え |
倍率と分解能
- 倍率 = 接眼 レンズの倍率 × 対物 レンズの倍率
- 例: 接眼 10× × 対物 40× = 400 倍
- 分解能 = 区別 できる 2 点の最小距離。 倍率 を上げても分解能以下のものは見えない
| 顕微鏡 | 分解能 | 見えるもの |
|---|
| 肉眼 | 約 0.1 mm (100 μm) | 大きな細胞 (鶏卵の黄身等) |
| 光学顕微鏡 | 約 0.2 μm (200 nm) | 細胞・核・葉緑体・ミトコンドリア |
| 透過型電子顕微鏡 (TEM) | 約 0.2 nm | 膜 の二重構造・リボソーム・DNA |
| 走査型電子顕微鏡 (SEM) | 約 1 nm | 細胞表面 の立体構造 |
大事: 電子顕微鏡 は光ではなく 電子線 を使う。 真空中で観察 するため、 生きた細胞 は観察 できない。 光学顕微鏡 と役割 が違うことに注意。
プレパラートの作り方 (タマネギ表皮の観察)
中学で行った操作 の復習:
- タマネギ内側 の表皮 を ピンセット ではがす
- スライドガラス に載せ、 酢酸カーミン または 酢酸オルセイン を 1 滴
- カバーガラス を端から静かにかぶせ、 気泡を入れない
- ろ紙 ではみ出した液を吸う
- 顕微鏡 で観察: 低倍率 (10×) → 高倍率 (40×) の順
安全配慮: 酢酸 カーミン・酢酸 オルセインは 皮膚・服につくと染まる。 保護メガネ をつけ、 こぼしたらすぐぬぐう。 染色液 は 流しにそのまま捨てない で、 廃液容器 に集める。
観察ノートの書き方
| 項目 | 内容 |
|---|
| 日時・場所 | 観察 の条件 を記録 |
| 試料 | 何を見たか (例: タマネギ表皮) |
| 倍率 | 接眼 × 対物 の値 |
| スケッチ | 輪郭線 だけで描く (影や色は入れない) |
| 気づき | 形・並び方・大きさのメモ |
4. 高校生物の探究
中学で学んだ 探究 の流れは高校でも変わりませんが、 「仮説 を数値や統計 で検証 する」 段階に進みます。
探究の 7 ステップ (高校版)
| ステップ | 中学とのちがい |
|---|
| ① 課題設定 | 「なぜ ?」 を 既知 の知識 と結びつけ て立てる |
| ② 仮説 | 検証可能 な形 (「A ならば B」) で立てる |
| ③ 実験計画 | 対照実験 を必ず設計 する (条件制御) |
| ④ データ 収集 | 複数回 くり返し、 個体差を含める |
| ⑤ 分析 | 平均・標準偏差・グラフ で整理 |
| ⑥ 考察 | 仮説 を 支持 / 否定 したかを述べる |
| ⑦ 結論 | 1 文でまとめ、 次の課題 を示す |
対照実験の重要性
対照実験 とは、 「比較 のために 1 つだけ条件 を変え た実験」 です。 生物の実験 では個体差や 環境差が大きいため、 これが不可欠。
例: 「光が葉の緑化に必要 か」 を確かめる実験
- 実験群: 光を当てて育てる
- 対照群: 暗室で育てる (これ以外の条件 はすべて同じ)
両者の違いが 光 だけなら、 「緑化に光が関与」 と結論 できる。
大事: 「実験群だけ行って結果を出した」 では科学的に不十分。 必ず対照群を設計 することが高校生物の基本。
5. 高校生物の全体像
高校で学ぶ 「生物基礎」 と 「生物」 の構成 を知っておくと、 各章のつながりが見えます。
| 科目 | 主な 単元 |
|---|
| 生物基礎 (1 年・必修系) | 細胞 と分子・遺伝子 とそのはたらき・体液 と 恒常性・植生 と バイオーム・生態系 |
| 生物 (2-3 年・選択系) | 代謝詳細・遺伝 と 進化・動物 の反応 (神経・筋・行動)・植物 の反応・生態系 と 進化詳細 |
ポイント: 「生物基礎」 は 2 単位、 「生物」 は 4 単位 が標準。 大学入試 (共通 テスト) では 基礎 2 教科必須 なので、 生物基礎 は文系でも履修 することが多い。
6. ふりかえり
この章の安全配慮
- 顕微鏡 は 直射日光を反射鏡に当てない (失明の危険)
- 染色液 (酢酸 カーミン・オルセイン) は 皮膚・服に注意、 廃液 は容器 に
- カバーガラス・スライドガラスは 割れやすい ため、 端を持つ
- 観察後は 必ず手を洗う
次の章: 第 2 章では、 すべての 生物 の単位 である 細胞 の構造 と機能 を詳しく学びます。 ミトコンドリア や 葉緑体 などの オルガネラ がどのように役割分担しているかを見ていきましょう。