この章で学ぶこと
動物 は 外界 の 刺激 を受け取り、 神経 で 情報 を伝え、 効果器 で反応 する ことで、 環境 の変化に適応 して生きています。 この一連のしくみを学ぶのが第 6 章です。
- ヒトの 5 つの 受容器 (眼・耳・鼻・舌・皮膚) と適刺激 が言える
- ニューロン の構造 と 活動電位 のしくみを理解 する
- シナプス での 興奮伝達 と 神経伝達物質 の役割 を知る
- 筋収縮 が 滑り説 で起こることを説明できる
- 生得的行動 (本能) と 学習 を区別 できる
- 神経系・眼等の検査を受ける際の 安全配慮 を知る
ポイント: 「受容器 → 感覚神経 → 中枢神経 → 運動神経 → 効果器」 という矢印 が第 6 章の全ての基本 です。 この流れを念頭 に章を読み進めてください。
ニューロン (神経細胞) の構造。 細胞体 から短い突起 樹状突起 (入力) と長い突起 軸索 (出力) がのびる。 軸索 の末端 シナプス で次のニューロンに信号 を伝える。
ヒト の 脳 (側面)。 大脳 (思考・記憶・感覚)・小脳 (運動調整)・脳幹 (生命維持) からなる。 ヒトの大脳 新皮質 が著しく発達 していることが特徴。
1. 受容器 — 外界を感じる入り口
刺激 を受け取る細胞 や器官 を 受容器 と言います。 受容器はそれぞれ 決まった種類 の 刺激 (適刺激) に強く反応 するようにできています。
ヒトの主な受容器と適刺激
| 受容器 | 適刺激 | 受容細胞 |
|---|
| 眼 (網膜) | 光 (波長約 400-800 nm の 可視光線) | 錐体細胞・桿体細胞 |
| 耳 (うずまき管) | 音 (空気 の振動約 20-20000 Hz) | 聴細胞 |
| 半規管・前庭 | 体の回転・傾き | 有毛細胞 |
| 鼻 (嗅上皮) | 空気中の化学物質 | 嗅細胞 |
| 舌 (味蕾) | 水に溶けた化学物質 | 味細胞 |
| 皮膚 | 圧・温・冷・痛 | 多様な受容体 |
大事: 適刺激以外 でも強く受けると 受容器 は反応 します。 例: 目をこすると 「光が見える」 (圧を光と誤認) — これは 「眼は何が来ても光として脳に送る」 からです。
眼の構造と視覚
眼球 の構造 を カメラ と比較 すると理解 しやすい:
| 眼 の部位 | はたらき | カメラの対応 |
|---|
| 角膜 | 光を屈折 させて入れる | レンズカバー |
| 水晶体 | ピント調節 | レンズ |
| 虹彩 | 入る光量を調節 | 絞り |
| 網膜 | 光を受け取る | フィルム / センサー |
| 視神経 | 信号 を脳へ送る | ケーブル |
網膜 には 2 種類 の 視細胞 があります:
- 錐体細胞 (cone) — 明るい場所で働き、 色 を見分ける (赤・緑・青の 3 種類)
- 桿体細胞 (rod) — 暗い場所で働き、 明暗 を見分けるが 色は見えない
ポイント: 暗い場所で色がわかりにくいのは、 錐体細胞 が働きにくく 桿体細胞 だけで見ているから。 「暗順応」 (暗闇で目が慣れる) は ロドプシン (桿体細胞 の視物質) が再合成 されるため。
耳の構造と聴覚・平衡覚
耳 は 2 つの 感覚 を担当します:
- 聴覚 (音を聞く)
- 平衡覚 (体の傾きと回転 を知る)
音が 聴覚 として認識 されるまでの流れ:
- 音 (空気振動) が 外耳道 に入り 鼓膜 を振動 させる
- 耳小骨 (つち・きぬた・あぶみ骨) で振動 が増幅 される
- うずまき管 (蝸牛) のリンパ液を振動 させる
- 基底膜 上の 聴細胞 が振動 を感知し、 興奮 を生じる
- 聴神経 で大脳の聴覚野へ伝えられる
平衡覚 は 半規管 (回転検出) と 前庭 (傾き・直線加速) が担当します。
2. ニューロンと興奮のしくみ
神経 のはたらきを担う細胞 を ニューロン (神経細胞) と言います。 ヒトの脳には 約 860 億個 の ニューロン があり、 互いにつながり合って 情報 をやり取りします。
ニューロンの基本構造
ニューロン は 3 つの主要部分 で構成 されます:
| 部位 | はたらき |
|---|
| 細胞体 | 核 があり、 細胞の中心 |
| 樹状突起 | 他の ニューロン からの 情報 を受け取る |
| 軸索 | 興奮 を別の ニューロン や 効果器 へ送る長い突起 |
軸索 を ミエリン鞘 (髄鞘) が巻いているものを 有髄神経 と言い、 巻いていないものを 無髄神経 と言います。 ミエリン鞘 の切れ目 (ランビエ絞輪) で興奮 が飛び飛びに伝わる (跳躍伝導) ため、 有髄神経 の方が速く伝わります。
静止電位と活動電位
ニューロン の細胞膜は、 何もしていない時でも 静止電位 (約 -70 mV) を持っています。 これは細胞 の内側が外側より電気的にマイナスという意味 で、 主に ナトリウムポンプ がナトリウムイオン (Na⁺) を外へ、 カリウムイオン (K⁺) を内へ (ATP を使いながら) 運ぶ結果です。
刺激 がある強さ (閾値) を超えると、 一瞬 に電位 が逆転することがあります。 これを 活動電位 と言います。
活動電位の流れ
- 刺激 で Na⁺ チャネル が開く
- Na⁺ が細胞内へ流れ込み、 内側がプラスになる (脱分極)
- ピーク (約 +30 mV) に達すると Na⁺ チャネルが閉じ、 K⁺ チャネル が開く
- K⁺ が細胞外へ出て内側が再びマイナスに戻る (再分極)
- ナトリウムポンプが元のイオン配置に戻す
大事: 活動電位 は 「全か無か の 法則」 に従います。 閾値未満 では全く発生せず、 閾値以上なら常に同じ大きさの 活動電位 が発生します。 刺激 の強弱は 活動電位 の発生頻度 で表されます。
興奮の伝導速度
| 神経 の種類 | 伝導速度 |
|---|
| 太い 有髄神経 (運動神経等) | 約 100 m/秒 |
| 細い 有髄神経 | 約 10-30 m/秒 |
| 無髄神経 | 約 1 m/秒以下 |
ポイント: ミエリン鞘 があるほど速い。 多発性硬化症 (MS) は ミエリン鞘 が壊れる病気 で、 神経 の伝導 が遅くなり麻痺 や視力障害 が起こります。
3. シナプス — ニューロンからニューロンへ
ニューロン と ニューロン のつなぎ目を シナプス と言います。 シナプスでは 神経伝達物質 という化学物質 を介して 情報 が伝わります (化学シナプス)。
シナプスでの伝達の流れ
- 活動電位 が シナプス前細胞 の末端 (シナプス小頭) に到達
- Ca²⁺ チャネルが開き、 Ca²⁺ が流れ込む
- シナプス小胞 が細胞膜と融合 し、 神経伝達物質 を シナプス間隙 へ放出
- 神経伝達物質 が シナプス後細胞 の 受容体 に結合
- 後細胞 でイオンチャネルが開き、 活動電位 が発生 (または抑制)
主な神経伝達物質
| 物質 | はたらき | 関連 |
|---|
| アセチルコリン | 神経 → 筋肉 (運動)、 副交感神経 | 重症筋無力症 |
| ノルアドレナリン | 交感神経・覚醒・集中 | ストレス反応 |
| ドーパミン | 快感・意欲・運動制御 | パーキンソン病 |
| セロトニン | 気分安定・睡眠 | うつ病治療薬が標的 |
| GABA | 抑制性 (脳を落ち着かせる) | 抗不安薬 |
| グルタミン酸 | 興奮性 (脳の主力興奮性) | 記憶・学習 |
大事: 興奮性シナプス は後細胞 を興奮させ、 抑制性シナプス は抑制 します。 1 つの ニューロン は多くのシナプスから興奮性・抑制性の 入力 を同時に受け、 その 総和 が 閾値 を超えた時に初めて 活動電位 を出します (時間的加重・空間的加重)。
シナプスはなぜ一方向か
シナプスでは 神経伝達物質 は必ず前細胞 から後細胞 へ と伝わります。 後細胞 には受容体があるが、 前細胞 には受容体がほとんどないからです。 この 一方向性 により、 神経 回路 の流れが決まり、 規則的な 情報処理 ができます。
4. 神経系の全体構造
ヒトの 神経系は大きく 2 つに分かれます:
| 区分 | 内容 |
|---|
| 中枢神経 | 脳・脊髄 |
| 末梢神経 | 中枢神経 から出て全身に広がる神経 |
脳の主要部位とはたらき
| 部位 | はたらき |
|---|
| 大脳 | 思考・記憶・言語・感覚 と 運動 の中枢 |
| 小脳 | 運動 の調節・平衡感覚 |
| 間脳 (視床・視床下部) | 自律神経・ホルモン の統合 |
| 中脳 | 眼球運動・姿勢反射 |
| 延髄 | 呼吸・心拍・血圧等の生命維持 |
| 脊髄 | 脳と全身をつなぐ・反射 の中枢 |
反射 — 脳を経由しない速い反応
熱い物に触れた時に思わず手を引くのは 反射 です。 反射 は 脊髄 や 延髄 で 感覚神経 と 運動神経 が直接つながる ため、 大脳の 判断 を待たず速く反応 できます (反射弓)。
ポイント: 反射 は 「受容器 → 感覚神経 → 脊髄 → 運動神経 → 効果器」 の 5 ステップ。 大脳を経由しないので 0.1 秒程度 で反応 できます。 例: 膝蓋腱反射 (膝を叩くと足が上がる)、 瞳孔反射。
5. 効果器 — 筋肉のしくみ
神経 からの命令 を受けて動く器官 を 効果器 と言います。 代表例が 筋肉 です。
筋肉の 3 種類
| 種類 | 場所 | 制御 |
|---|
| 骨格筋 | 骨に付く | 随意筋 (自分の意志で動かせる) |
| 心筋 | 心臓 | 不随意筋 (自動的に動く) |
| 平滑筋 | 内臓・血管壁 | 不随意筋 |
骨格筋の構造
骨格筋 を顕微鏡 で見ると、 横紋 (しま模様) が見えます。 このしまは 筋原繊維 に並んだ サルコメア (筋節) の繰り返しによるものです。
サルコメアの中には 2 種類 の フィラメント があります:
- 太いフィラメント — ミオシン からなる
- 細いフィラメント — アクチン からなる
筋収縮のしくみ — 滑り説
筋肉 が縮む時、 フィラメント自体 は縮まず、 アクチン と ミオシン が互いに滑り合う ことでサルコメアが短くなります。 これを 滑り説 (スライディングフィラメント説) と言います。
筋収縮 の流れ:
- 運動神経 からの 活動電位 が 神経筋接合部 へ到達
- アセチルコリン が放出され、 筋線維膜で 活動電位 が発生
- 筋線維内の 筋小胞体 から Ca²⁺ が放出
- Ca²⁺ が トロポニン に結合し、 トロポミオシン の アクチン結合部位を露出
- ミオシン頭部が ATP を分解 してエネルギーを得て、 アクチン を引き寄せる (クロスブリッジ サイクル)
- サルコメアが短くなり、 筋肉 が縮む
大事: 筋収縮 には ATP と Ca²⁺ が必須。 死後、 ATP が枯渇 すると ミオシン が アクチン から外れられず硬くなります (死後硬直)。
筋肉が疲れるしくみ
激しい運動を続けると:
- ATP が枯渇 する
- グリコーゲン が分解 され 乳酸 が蓄積 する
- pH が下がり酵素 のはたらきが落ちる
これらが重なり 筋疲労 が起こります。 休息 すると乳酸は肝臓 で グルコース に戻され (コリ回路)、 筋肉は回復 します。
6. 動物の行動 — 生得的行動と学習
動物 の 行動 は大きく 2 つに分けられます:
| 行動 の種類 | 内容 | 例 |
|---|
| 生得的行動 | 生まれつき持っている | 走性・反射・本能行動 |
| 学習行動 | 経験 により後天的に獲得 | 慣れ・古典的条件づけ・試行錯誤・知能行動 |
生得的行動の例
- 走性 — 刺激 の方向に動くこと。 例: ガが光に集まる (正の 走光性)・ミミズが光を避ける (負の 走光性)
- 本能行動 — 種に固有の一連の動作。 例: トゲウオ のオスの なわばり 行動・産卵行動
- フェロモン — 同種の個体間で信号として働く化学物質。 例: ガの性フェロモン
学習の種類
| 学習 | 内容 | 例 |
|---|
| 慣れ | 同じ 刺激 を繰り返すと反応 が弱くなる | アメフラシ の水管反射 |
| 古典的条件づけ | 別の 刺激 と関連づけて反応する | パブロフの犬 (ベルとエサ) |
| 試行錯誤 | 何度も試して正解を見つける | ネズミの迷路学習 |
| 知能行動 | 経験 から推論 して解く | チンパンジーが棒でバナナを取る |
| 刷り込み | 生後早期の短期間に親等を覚える | ローレンツのカモのヒナ |
大事: 古典的条件づけ (パブロフ) — ベルの音とエサを何度も一緒に与えると、 ベルの音だけで犬がよだれを出すようになる。 これは 「ベル = エサ」 と学習 した結果です。
7. ふりかえり
- [ ]受容器 と適刺激 (眼 = 光、 耳 = 音等) を言える
- [ ]錐体細胞 (色) と 桿体細胞 (明暗) の違いを言える
- [ ]ニューロン の構造 (細胞体・樹状突起・軸索) と 活動電位 のしくみを説明できる
- [ ]全か無かの法則 を理解 している
- [ ]シナプス での 神経伝達物質 の役割を知る
- [ ]反射 が 脊髄 で起こり大脳を経ない ことを説明できる
- [ ]筋収縮 の 滑り説 を アクチン と ミオシン で説明できる
- [ ]生得的行動 と 学習 を区別 でき、 例をあげられる
この章の安全配慮
- 視力 や 聴力 の検査は 学校検診 や 眼科・耳鼻科 で定期的に受ける。 異常 (見えにくい・耳鳴り等) を感じたら早めに受診
- スマホやゲームの長時間使用は 眼精疲労 や ドライアイ の原因になる。 1 時間ごとに 5-10 分の休憩、 20-20-20 ルール (20 分ごとに 20 フィート先を 20 秒見る) を心掛ける
- イヤホンで大音量 を続けると 音響性難聴 になる。 周りの音が聞こえる程度の音量で
- 神経系に異常を感じた時 (片側だけ動かない・ろれつが回らない等) は 脳卒中 の可能性 があり、 一刻 も早く救急 (119) を呼ぶ
- 筋肉 の痙攣 や強い痛みが続く場合は過度な運動を中止し、 水分・電解質 を補給して休む
次の章: 第 7 章では、 動かないように見える 植物 がどのように 環境 を感じ、 ホルモンで反応するかを学びます。 動物とは違う 「植物流の応答」 を知りましょう。