この章で学ぶこと
生物 が持つ 5 つの共通特徴 (第 1 章) の 1 つが 恒常性 でした。 第 5 章では、 動物がどのように体の内部を 一定 に保つ のかを詳しく見ていきます。
- 恒常性 (ホメオスタシス) の意味 を説明 できる
- 体液 (血液・組織液・リンパ液) の区分 とはたらきを言える
- 赤血球・白血球・血小板・血しょう の役割を理解 する
- 自律神経 (交感神経・副交感神経) の拮抗作用 を説明できる
- ホルモン が内分泌系でどのように働くかを言える
- 体温・血糖値・血液浸透圧 の調節しくみを説明できる
ポイント: 恒常性 は 「外が変わっても中を一定 に」 するしくみ。 ヒトの体温が真夏でも真冬でも 36-37 ℃ に保たれるのが代表例です。 この制御 を担うのが 自律神経 と ホルモン の 2 大システムです。
ヒト の 心臓 (前面)。 4 つの部屋 (右心房・右心室・左心房・左心室) があり、 全身 へ血液 を送る ポンプ。 安静時 1 分間に約 5 L の血液 を送り出す。
腎臓 (ヒト) の解剖図。 皮質・髄質・腎盂 からなる。 内部 には約 100 万個の ネフロン (糸球体 + 尿細管) があり、 血液 から 尿 を作り、 体液 の量と塩分濃度 を調節 する。
1. 恒常性と体液
恒常性 (ホメオスタシス)
恒常性 (ホメオスタシス、 homeostasis) とは、 生物 が体内 の状態 (温度・pH・浸透圧・血糖値等) を 一定 の範囲 に保つ性質。 1932 年に キャノン (米) が命名。
ヒトの体で維持 されている主な値:
| 項目 | 正常範囲 |
|---|
| 体温 (深部) | 36.5 〜 37.0 ℃ |
| 血液pH | 7.35 〜 7.45 (弱アルカリ性) |
| 血糖値 (空腹時) | 70 〜 110 mg/dL |
| 血液浸透圧 | 約 290 mOsm/L |
体液の 3 区分
体内を流れる液体を 体液 と呼び、 ヒトでは体重の 約 60 % を占めます。
| 種類 | 場所 | はたらき |
|---|
| 血液 | 血管 の中 | 全身へ物質を運ぶ |
| 組織液 | 細胞 と細胞 の隙間 | 細胞 と物質を直接やり取り |
| リンパ液 | リンパ管の中 | 組織液が回収されて戻る、 免疫 |
血液 が 毛細血管 からしみ出して 組織液 になり、 一部がリンパ管で集められて リンパ液 として 静脈 へ戻ります。
2. 血液の成分
血液 は全体の約 45 % が 血球 (細胞)、 55 % が 血しょう (液体) からなります。
血液の成分表
| 成分 | 大きさ | 数 (μL あたり) | 寿命 | はたらき |
|---|
| 赤血球 | 約 7 μm | 男約 500 万・女約 450 万 | 約 120 日 | ヘモグロビン で酸素運搬 |
| 白血球 | 6〜30 μm | 4,000〜9,000 | 数日〜数年 | 免疫 (細菌 やウイルスと戦う) |
| 血小板 | 2〜4 μm | 15〜35 万 | 約 10 日 | 血液凝固 (止血) |
| 血しょう | — | (液体) | — | 物質運搬・pH調節 |
赤血球と酸素運搬
赤血球 は 核を持たない 円盤状の細胞 で、 中に ヘモグロビン (Hb) を多量に含みます。
- ヘモグロビンは 鉄 (Fe) を含む赤い色素
- 酸素 が多いところ (肺) で HbO₂ (酸素ヘモグロビン) になり、 酸素 が少ないところ (組織) で酸素 を放す
- この 酸素解離曲線 が S 字形になるのは適応的
白血球の種類
| 種類 | 主なはたらき |
|---|
| 好中球 | 細菌 の 食作 用 (食べて殺す) |
| マクロファージ | 大型の食作用 + 抗原提示 |
| リンパ球 (B 細胞・T 細胞) | 抗体産生・感染細胞攻撃 |
血液凝固
血管 が切れると:
- 血小板 が集まって傷口をふさぐ
- フィブリン (繊維状の タンパク質) が編まれ、 血球 を絡めて 血ぺい (血餅、 けっぺい) を作る
- 出血が止まる (止血)
大事: 血液凝固 には カルシウムイオン (Ca²⁺) とビタミン K が必要。 ビタミン K 不足 や抗凝固薬の過剰摂取で出血が止まらなくなる。
3. 自律神経 — 速い制御系
恒常性 を制御 する 2 大システムの 1 つが 自律神経 (オートノミック)。 自分の意志 と関係なく内臓 や血管を調節。 交感神経 と 副交感神経 が拮抗的に働きます。
交感神経と副交感神経の比較
| 器官 | 交感神経 (闘争・逃走) | 副交感神経 (休息・消化) |
|---|
| 心臓 | 拍動 促進 (速く) | 拍動 抑制 (遅く) |
| 気管支 | 拡張 | 収縮 |
| 瞳孔 | 散大 (開く) | 縮小 (閉じる) |
| 唾液 | 少量・粘い | 大量・サラサラ |
| 胃腸 の動き | 抑制 | 促進 |
| 末端血管 | 収縮 (顔面蒼白) | 拡張 |
| 発汗 | 促進 | (関与少) |
大事: 「緊張 すると心臓 がドキドキして口が渇く」 = 交感神経優位。 「ご飯を食べた後に眠くなる」 = 副交感神経優位。 この切り替えを担うのが脳の 視床下部。
神経系の階層
| 階層 | 内容 |
|---|
| 中枢神経 | 脳・脊髄、 全体の司令 |
| 末梢神経 | 体性神経 (運動・感覚) + 自律神経 (交感・副交感) |
4. ホルモン — ゆっくりと持続する制御系
ホルモン は 内分泌腺 から 血液 に直接 分泌 され、 全身を巡り特定 の標的細胞 に作用 する物質。 神経 より 遅い が 持続的 に働きます。
主な内分泌腺とホルモン
| 内分泌腺 | ホルモン | はたらき |
|---|
| 視床下部 | 各種放出ホルモン | 下垂体を制御 |
| 脳下垂体前葉 | 成長ホルモン・甲状腺刺激ホルモン (TSH) | 成長・他内分泌腺制御 |
| 脳下垂体後葉 | バソプレシン (ADH) | 腎臓で水再吸収 |
| 甲状腺 | チロキシン | 全身の 代謝促進 |
| 副甲状腺 | パラトルモン | 血中カルシウム上昇 |
| 副腎髄質 | アドレナリン | 血糖値上昇・心拍増加 |
| 副腎皮質 | 糖質コルチコイド・鉱質コルチコイド | 血糖上昇・ナトリウム 再吸収 |
| 膵臓 ランゲルハンス島 B 細胞 | インスリン | 血糖値を 下げる |
| 同 A 細胞 | グルカゴン | 血糖値を 上げる |
| 卵巣 | エストロゲン・プロゲステロン | 第二次性徴・月経周期 |
| 精巣 | テストステロン | 第二次性徴 |
フィードバック制御
ホルモンの量は 負のフィードバック で自動調節。 例: 甲状腺系
- 視床下部 が TRH 分泌 → 下垂体が TSH 分泌 → 甲状腺がチロキシン分泌
- 血中チロキシンが増えると、 視床下部 と下垂体を抑える
- 結果、 一定値に保たれる
5. 体温と血糖値の調節
体温の調節
ヒトは 恒温動物。 暑い・寒いに応じて自律神経とホルモンが体温を一定 に保ちます。
寒いとき (体温 ↓):
- 視床下部 が検知
- 交感神経 → 皮膚血管収縮 (放熱 ↓)、 立毛筋収縮 (鳥肌)、 ふるえ (熱産生 ↑)
- ホルモン → アドレナリン・チロキシン → 代謝 ↑ → 熱産生 ↑
暑いとき (体温 ↑):
- 交感神経抑制 → 皮膚血管拡張 (放熱 ↑)、 発汗
- 交感神経 → 発汗 → 蒸発で冷却
血糖値の調節
血糖値 は食後に上がり、 空腹時に下がりますが、 通常 70-110 mg/dL に保たれます。
血糖値 ↑ (高血糖) → 下げる:
- 膵臓 B 細胞 が インスリン 分泌
- 全身の細胞 がグルコースを取り込む、 肝臓で グリコーゲン に貯蔵
- 結果、 血糖値 ↓
血糖値 ↓ (低血糖) → 上げる:
- 膵臓 A 細胞 が グルカゴン 分泌
- 副腎髄質が アドレナリン 分泌
- 副腎皮質が 糖質コルチコイド 分泌
- 肝臓のグリコーゲン → グルコースに分解、 血中へ
- 結果、 血糖値 ↑
大事: 血糖値を 下げる ホルモンは インスリン 1 種類 だけ。 上げるホルモンは複数。 これは 「飢餓 が命取り」 という進化的背景を反映しています。 糖尿病 (インスリンが効かない・出ない病気) はこのバランスが崩れる病気です。
病気との関連
| 病気 | 原因 |
|---|
| 糖尿病 (1 型) | 自己免疫 で膵臓 B 細胞 が破壊 され、 インスリン が出ない |
| 糖尿病 (2 型) | 生活習慣等で インスリン が効かなくなる |
| バセドウ病 | チロキシン過剰、 代謝亢進・心拍増加 |
| くる病 | ビタミン D 不足でカルシウム不足 |
6. 血液浸透圧と腎臓
血液浸透圧 (主に ナトリウム と水のバランス) も一定 に保たれます。 鍵を握るのが 腎臓 と バソプレシン (ADH)。
体が脱水状態のとき (浸透圧 ↑)
- 視床下部 が高浸透圧を検知
- バソプレシン (抗利尿ホルモン、 ADH) を後葉から分泌
- 腎臓 の集合管で 水の再吸収 が増える
- 尿量が減り、 体内の水が保たれる
体が水分過剰のとき (浸透圧 ↓)
- ADH 分泌 が抑えられる
- 腎臓 で水の再吸収が減る
- 尿量が増える
大事: お酒を飲んだ後にトイレが近くなるのは、 アルコールが ADH を抑制 するから。 このため飲酒後は脱水 に注意 が必要。
7. ふりかえり
- [ ]恒常性 (ホメオスタシス) とは 「外が変わっても中を一定」 と説明できる
- [ ]体液 の 3 区分 (血液・組織液・リンパ液) を言える
- [ ]赤血球・白血球・血小板・血しょう の役割を言える
- [ ]交感神経 と 副交感神経 が 拮抗的 に働くことを説明できる
- [ ]ホルモン が 内分泌腺 から血液へ 分泌 されることを知る
- [ ]血糖値を下げるのは インスリン、 上げるのは グルカゴン等と言える
- [ ]負のフィードバック でホルモン量が自動調節されると知る
この章の安全配慮
- 血液を扱う実験 (例: 血液型判定) は 使い捨ての採血用ランセット を使い、 使い回しは絶対にしない (感染防止)
- 採血廃棄物は 感染性廃棄物容器 に入れ、 流しに流さない
- ホルモンの過剰摂取 (サプリ・ドーピング等) は内分泌系のバランスを崩し危険
- 自律神経 の不調 (動悸・めまい等) を感じたら早めに休息する
次の章: 第 6 章では、 体を守るもう 1 つのシステム = 免疫 を学びます。 白血球 がどのように病原体を見分け、 抗体を作り、 記憶 するかを詳しく見ていきましょう。