この章で学ぶこと
生態系 とは、 一定 の場所にいる 生き物の集まり とその 環境 (光・水・土等) を 1 つのシステムとして見たものです。 この章では 「植物 1 本 1 本や動物 1 匹 1 匹」 ではなく、 「生物の集団がどうつながり、 物質 と エネルギー がどう流れているか」 を学びます。
- 世界と日本の主な バイオーム を言える
- 食物連鎖・食物網・栄養段階 を説明できる
- エネルギー の流れ が一方通行であることを知る
- 炭素循環・窒素循環・水循環 の概略を描ける
- 地球温暖化・生物多様性喪失 等の環境問題 と対策を知る
- 野外観察 の安全配慮 を守る
ポイント: 「生物 と 環境 は切り離せない」 — これが生態学の基本思想 です。 1 種が絶滅 すればそれを食べていた種・食われていた種すべてに影響 が及ぶ。 自然 は 網の目状 につながっています。
食物網 (水生 生態系 の例)。 生産者 (植物プランクトン・藻類) → 一次消費者 (動物プランクトン) → 二次消費者 (小魚) → 高次消費者 (大魚)。 食物連鎖 が複雑 に絡み合う。
食物連鎖 の一場面 — カマキリ が セミ を捕食。 このような 「食う - 食われる」 関係 がつながり、 生態系 の エネルギー と 物質 の流れを作る。
1. バイオーム — 気候で決まる生物群系
気候 (主に年平均気温と年降水量) によって、 その地域に育つ 植物 のタイプが決まります。 その植物を中心とした動物・微生物の集まりを バイオーム (生物群系) と言います。
世界の主要バイオーム
| バイオーム | 気候 | 主な植物 |
|---|
| 熱帯多雨林 | 高温多湿 (年中) | 常緑広葉樹 (アマゾン・東南アジア) |
| 亜熱帯多雨林 | 暑い・雨多い | ガジュマル・タブノキ |
| 雨緑樹林 | 高温・乾季あり | チーク・落葉広葉樹 |
| 硬葉樹林 | 夏乾燥・冬雨 (地中海性気候) | オリーブ・コルクガシ |
| 照葉樹林 | 暖温帯 | シイ・カシ・クスノキ |
| 夏緑樹林 | 冷温帯 (落葉広葉樹) | ブナ・ミズナラ |
| 針葉樹林 | 亜寒帯 (タイガ) | エゾマツ・トウヒ |
| サバンナ | 熱帯草原 | イネ科 + 散在する木 |
| ステップ | 温帯草原 | イネ科 |
| 砂漠 | 乾燥 | サボテン・多肉植物 |
| ツンドラ | 寒帯 | コケ・地衣類 |
日本のバイオーム — 水平分布と垂直分布
日本列島は南北に長く、 標高差も大きいので、 多様なバイオームが見られます。
水平分布 (緯度による):
| 地域 | バイオーム |
|---|
| 沖縄・南西諸島 | 亜熱帯多雨林 |
| 関東 〜 九州 | 照葉樹林 (シイ・カシ) |
| 東北・北海道南部 | 夏緑樹林 (ブナ・ナラ) |
| 北海道中北部 | 針葉樹林 (エゾマツ・トドマツ) |
垂直分布 (本州中部山岳):
| 標高 | 帯 | バイオーム |
|---|
| 〜 700 m | 丘陵帯 | 照葉樹林 |
| 700 〜 1500 m | 山地帯 | 夏緑樹林 |
| 1500 〜 2500 m | 亜高山帯 | 針葉樹林 |
| 2500 m 〜 | 高山帯 | ハイマツ・高山草原 |
大事: 森林限界 (高い木が育たなくなる標高) は本州中部で約 2500 m。 これより上では風や寒さで木が大きく成長 できません。
2. 食物連鎖と食物網
生態系 の中で 「食う・食われる」 関係 を一列に並べたものが 食物連鎖 です。 実際には 1 種が複数の種を食べ・食われるので、 関係は網の目状になります。 これを 食物網 と言います。
栄養段階
食物連鎖 の中での位置を 栄養段階 と言い、 普通は 4-5 段階:
| 段階 | 名称 | 例 |
|---|
| 第 1 段階 | 生産者 | 植物・藻類・シアノバクテリア (光合成で有機物を作る) |
| 第 2 段階 | 一次消費者 | 植食動物 (バッタ・ウシ・ウサギ) |
| 第 3 段階 | 二次消費者 | 肉食動物 (カエル・ヘビ) |
| 第 4 段階 | 三次消費者 | 高次肉食動物 (タカ・トラ) |
| (横断) | 分解者 | 細菌・菌類 (落ち葉・死骸を分解) |
生態ピラミッド
栄養段階ごとの 個体数・生物量 (バイオマス)・エネルギー量 を積み上げた図を 生態ピラミッド と言います。 通常は上に行くほど小さくなる (ピラミッド型) で、 これはエネルギーが段階 ごとに失われるからです。
大事: エネルギー は 1 つ上の栄養段階に移る際に 約 10 % しか引き継がれない (残りは呼吸・熱・排泄で失われる、 10 %則)。 だから上位の肉食動物は個体数が少ない必然性があります。
キーストーン種 — 1 種で生態系が変わる
食物網 の中で 特に重要な役割 を持つ種を キーストーン種 と言います。 例: アメリカの ラッコ がウニを食べることでコンブ林が守られる (ラッコ激減 → ウニ増 → コンブ全滅)。 1 種を失うと生態系全体が崩れる例です。
3. 物質循環とエネルギーの流れ
生態系 の中で 物質 は 循環 しますが、 エネルギー は 一方通行 (太陽光 → 熱として宇宙へ) です。 この違いが生態学の重要なポイントです。
炭素循環
炭素 (C) は 二酸化炭素 (CO₂) と 有機物 の間で循環します。
- 植物 が 光合成 で CO₂ を取り入れ、 有機物 (グルコース等) を作る
- 動物 が 植物 を食べ、 有機物 を自分の体に取り入れる
- 全ての 生物 が 呼吸 で 有機物 を燃やし、 CO₂ を大気へ戻す
- 死骸 や排泄物は 分解者 が分解 し、 CO₂ を大気へ
- 一部は化石燃料 (石炭・石油) として地中に蓄積 され、 人間が燃やすと CO₂ になる
大事: 産業革命以降、 人間が化石燃料を大量に燃やし、 CO₂ 濃度が約 280 ppm → 420 ppm 超 (2024 年) に急上昇。 これが 地球温暖化 の主因。
窒素循環
窒素 (N) は タンパク質・核酸 の重要元素ですが、 大気中の N₂ を直接使える生物はごく一部:
| 段階 | 内容 |
|---|
| 窒素固定 | 根粒菌・シアノバクテリア が N₂ → アンモニウム (NH₄⁺) |
| 硝化 | 亜硝酸菌・硝酸菌 が NH₄⁺ → NO₂⁻ → NO₃⁻ |
| 同化 | 植物が NO₃⁻ を吸収して アミノ酸 に |
| 食物連鎖 | 動物がタンパク質として取り入れる |
| 分解 | 死骸 から NH₄⁺ が戻る |
| 脱窒 | 脱窒素菌 が NO₃⁻ → N₂ に戻す |
ポイント: マメ科植物 (ダイズ・クローバー) の根に共生する 根粒菌 が 窒素固定 するおかげで、 マメ科を育てた後の畑は自然 に肥沃 になります (輪作)。
水循環
水 (H₂O) は 蒸発 → 凝結 → 降水 → 流出 を繰り返して循環します。 植物 は 蒸散 で大量の水を大気へ放出し、 雲・雨の形成 に寄与します。 森林の減少は局地的な降水量を減らし、 砂漠化を促進 することが知られています。
エネルギーの流れ
太陽光 エネルギー → 植物 (光合成) → 一次消費者 → 二次消費者 → … → 最終的に全てが熱として放散。 つまり 生態系 は 太陽光を熱に変換して流す巨大装置 です。
大事: 生産者 が 1 年に固定するエネルギー量を 総生産量、 そこから自らの呼吸を引いたものを 純生産量 と言います。 純生産量が動物や分解者が利用できるエネルギーの元です。
4. 生物多様性 — 3 つのレベル
生物多様性 は第 1 章で触れた通り 3 レベルで評価します:
| レベル | 内容 |
|---|
| 遺伝的多様性 | 同種内の遺伝子の多様さ |
| 種多様性 | 種の数の多さ |
| 生態系多様性 | 生態系 の種類の多さ |
多様性が大事な理由
- 生態系サービス — 食料・水・気候調節・授粉・薬等を自然 から受け取っている
- レジリエンス (回復力) — 多様であるほど災害や病気に強い
- 倫理 — 1 度絶滅 した種は戻らない、 全生物に生きる権利
- 将来価値 — 未知の薬・遺伝資源が含まれている
5. 環境問題
人類の活動で 生態系 が大きく変えられています。
主な環境問題
| 問題 | 原因 | 影響 |
|---|
| 地球温暖化 | CO₂・メタン等の 温室効果ガス | 気温上昇・海面上昇・生態系変化 |
| オゾン層破壊 | フロン類 | 紫外線増加・皮膚がんリスク |
| 酸性雨 | SOx・NOx の大気汚染 | 森林枯死・湖沼酸性化 |
| 森林破壊 | 開発・焼畑 | CO₂ 増・生物多様性喪失・砂漠化 |
| 海洋汚染 | プラスチック・原油・農薬 | 海鳥・海産動物死亡 |
| 外来生物 | 人間が移入 (ペット逃し等) | 在来種駆逐 |
| 生物濃縮 | DDT・水銀・PCB 等 | 高次消費者で高濃度蓄積 |
生物濃縮 — 食物連鎖で毒が集まる
水銀や DDT 等の 分解 されにくい 化学物質は、 食物連鎖 を上がる度に 濃度が高くなり ます。 例: 水中 0.0001 ppm → プランクトン 0.04 → 小魚 0.5 → 大型魚 5 → 鳥 25 ppm。 これが 水俣病 (メチル水銀)・イタイイタイ病 (カドミウム) 等の公害病を起こしました。
持続可能な開発と SDGs
国際連合 が 2015 年に採択 した SDGs (持続可能 な開発目標、 17 目標) のうち、 生態系関連は:
- 目標 13: 気候変動への対策
- 目標 14: 海の豊かさを守ろう
- 目標 15: 陸の豊かさも守ろう
我々 1 人ひとりが 節電・節水・ゴミ削減・地産地消 等で貢献できます。
6. ふりかえり
この章の安全配慮
- 野外観察 では 長袖・長ズボン・帽子・運動靴 を着用。 草むらのマダニ・ヒル・ハチに注意
- クマ・イノシシ が出る地域では 1 人で行かない。 鈴やラジオで音を出し、 早朝・夕方を避ける
- 川や池での観察は ライフジャケット 必須。 大雨後は水量増加で危険、 中止
- 野鳥や動物には近づきすぎない・触らない (鳥インフルエンザ等の感染症リスク)
- 採取した動植物は 必要最小限 で、 種の保全に配慮。 国立公園・特別保護地区 では採取禁止
- 外来生物 を野外に放してはいけない (アメリカザリガニ・アカミミガメ等も規制対象)
- 観察後は 手を洗い、 服に付いた種子・虫を落としてから帰る (生物拡散防止)
次の章: 第 9 章では、 こうした多様な生物が なぜ・どのように 生まれたかを 進化 の視点 で学びます。 ダーウィンの自然選択 から系統樹までを扱います。