この章で学ぶこと
第 1 章で 「すべての 生物 は 細胞 からできている」 という 細胞説 を学びました。 第 2 章では、 その 細胞 の中身 を詳しく見ていきます。
- 真核細胞 と 原核細胞 の違いを説明 できる
- 真核細胞 の主な オルガネラ (核・ミトコンドリア・葉緑体・小胞体・ゴルジ体・リソソーム) の役割 を言える
- 動物細胞 と植物細胞 の違い (細胞壁・葉緑体・液胞) を言える
- 細胞膜 が リン脂質二重層そう] でできていることを知る
- 受動輸送 と 能動輸送 の違いを説明できる
ポイント: 細胞 は 「小さな工場」 とたとえられます。 各オルガネラ が別の仕事 (発電・組み立て・出荷・廃棄等) を分担し、 全体 として 1 つの細胞 を動かしています。
ミトコンドリア の 透過電子顕微鏡 (TEM) 像 (哺乳類肺組織)。 内部に折りたたまれた クリステ が見える。 呼吸 (酸化的リン酸化) で ATP を作る細胞内小器官。
葉緑体 (コケ植物 の葉細胞)。 緑色の粒一つ一つが 葉緑体 で、 内部の チラコイド で 光合成 の明反応 が行われる。
1. 真核細胞と原核細胞
地球上のすべての細胞 は、 核 (核膜で包まれた DNA領域) を持つか持たないかで 2 つに分かれます。
真核と原核の違い
| 項目 | 原核細胞 | 真核細胞 |
|---|
| 核膜 | なし (DNA が 細胞質 に露出) | あり (核 の中に DNA) |
| 大きさ | 1〜10 μm (小さい) | 10〜100 μm (大きい) |
| オルガネラ | ほぼなし (リボソーム のみ) | 多種 (ミトコンドリア・葉緑体等) |
| DNA の形 | 環状 1 本 | 線状多本、 ヒストン と結合 |
| 例 | 細菌 (大腸菌)・古細菌 | 動物・植物・菌類・原生生物 |
| 出現時期 | 約 38 億年前 | 約 20 億年前 |
原核細胞の構造
原核細胞 はシンプルな構造 で、 主に次のパーツからできています。
| パーツ | はたらき |
|---|
| 細胞壁 | 形を保ち、 浸透圧から細胞 を守る (ペプチドグリカン製) |
| 細胞膜 | 物質の出入りを制御 |
| 細胞質 | DNA・リボソーム が漂う場 |
| 環状 DNA | 核様体と呼ばれる領域 に集まる |
| べん毛 (一部) | 運動用 |
大事: 原核細胞 が 「シンプル」 といっても、 代謝・複製・転写・翻訳等の基本機能 はすべて持ち、 れっきとした 生物 です。
2. 真核細胞のオルガネラ
真核細胞 には、 膜で区切 られた特殊 な構造 = オルガネラ (細胞小器官) が多数あります。
主なオルガネラ一覧
| オルガネラ | 主なはたらき | 動物細胞 | 植物細胞 |
|---|
| 核 | DNA を保管、 転写 の場 | あり | あり |
| 核小体 | リボソーム の部品を作る | あり | あり |
| ミトコンドリア | 呼吸 (ATP 合成) | 多数 | 多数 |
| 葉緑体 | 光合成 | なし | あり |
| 小胞体 (ER) | タンパク質・脂質 の合成・輸送 | あり | あり |
| ゴルジ体 | タンパク質 の修飾・出荷 | あり | あり |
| リソソーム | 分解酵素を含み不要物を消化 | あり | (液胞 が代用) |
| 液胞 | 物質の貯蔵・浸透圧調節 | 小さい | 大きい |
| 細胞壁 | 形を保つ (セルロース製) | なし | あり |
| 細胞骨格 | 形を維持、 細胞内輸送 | あり | あり |
| 中心体 | 細胞分裂時の 紡錘体形成 | あり | (高等植物ではなし) |
核 — 遺伝情報の司令室
核 は細胞 の 中枢すう] で、 直径約 5〜10 μm。
- 核膜: 二重膜。 多数の 核膜孔 が開き、 物質の出入りを調節
- 染色体: DNA と ヒストン という タンパク質 の複合体。 普段 はほどけて クロマチン として存在、 分裂時に凝縮 して 染色体 として見える
- 核小体: 核 の中にある小さな構造。 rRNA と リボソーム部品を製造
ミトコンドリア — 細胞の発電所
- 大きさ約 1〜10 μm、 二重膜構造
- 内膜が内側にひだ状に入り込んだ クリステ を持つ
- 内部 の液体を マトリックス と呼ぶ
- 呼吸 (クエン酸回路・電子伝達系) を行い、 ATP を合成
- 独自 の環状 DNA と リボソーム を持ち、 細胞 の中で自己複製 する (→ 共生説 の根拠)
葉緑体 — 植物の発電所
- 大きさ約 5〜10 μm、 二重膜構造
- 内部に平たい袋状の チラコイド が重なって グラナ を形成
- 周囲の液体を ストロマ と呼ぶ
- 光合成 で光エネルギー から グルコース と ATP を合成
- ミトコンドリア同様独自 の DNA を持つ
小胞体とゴルジ体 — タンパク質の工場と出荷場
| オルガネラ | 役割 |
|---|
| 粗面小胞体 | 表面 に リボソーム が付着、 タンパク質 を合成 |
| 滑面小胞体 | リボソーム なし、 脂質合成・カルシウム貯蔵 |
| ゴルジ体 | 小胞体から来た タンパク質 に 糖鎖 を付け、 小胞 として出荷 |
| 小胞 (ベシクル) | タンパク質 を包み、 行き先へ運ぶ |
リソソームと液胞 — 細胞の廃棄場・倉庫
- リソソーム: 動物細胞 に多い。 強い分解酵素を含み、 古くなった オルガネラ や細胞 が取り込んだ異物を分解
- 液胞: 植物細胞 で大きく発達。 水や養分・色素 (アントシアン等) を貯蔵、 浸透圧 で細胞 を膨張 させ形を保つ
細胞骨格 — 細胞の骨組み
3 種類の繊維 が細胞内をネットワーク状に走り、 形と動きを支えます。
| 種類 | 主成分 | 役割 |
|---|
| アクチンフィラメント | アクチン | 細胞 の形・筋収縮・原形 質流動 |
| 微小管 | チューブリン | 紡錘体・繊毛・べん毛・細胞内物質輸送 |
| 中間径フィラメント | ケラチン等 | 細胞 と組織 の機械的強度 |
共生説 — オルガネラの起源
ミトコンドリア と 葉緑体 は、 かつて別の 原核生物 が 大きな細胞 に取り込まれて共生した ことで生まれたと考えられています。 これを 共生説 (細胞内共生説) と呼び、 マーグリス (米) が 1967 年に提唱。 根拠:
- 二重膜構造 (取り込まれた際の膜と元の膜)
- 独自 の 環状 DNA と リボソーム を持つ
- 細胞 とは別のタイミングで自己分裂
- リボソーム のサイズが 原核細胞 のものと似る
3. 動物細胞と植物細胞の比較
構造の違い
| 構造 | 動物細胞 | 植物細胞 |
|---|
| 細胞壁 | なし | あり (セルロース) |
| 葉緑体 | なし | あり |
| 液胞 | 小さい・少数 | 大きい・1 つ |
| 中心体 | あり | (高等植物ではなし) |
| リソソーム | あり | (液胞 が代用) |
| 形 | 不定形 | 角ばった形 (細胞壁のため) |
細胞壁の役割
植物の 細胞壁 は セルロース ででき、 細胞 の形を保ち、 大きな 浸透圧 に耐えます。 隣の細胞 とは 原形質連絡 (プラスモデスマ) で連結 され、 物質をやり取りします。
4. 細胞膜と物質輸送
すべての オルガネラ と細胞 そのものは、 細胞膜 (生体膜) という薄い膜で区切 られています。
リン脂質二重層
- 細胞膜の主成分 は リン脂質
- リン脂質 は 親水性の頭部 と 疎水性の尾部 を持つ
- 水中では尾部同士 が内側に向かい、 二重層そう] を自動的に形成
- 全体として約 10 nm の厚さ
流動モザイクモデル
1972 年、 シンガーとニコルソンが提案: 細胞膜は 「リン脂質 の海に 膜タンパク質 が浮かぶ」 動的な構造。
| 構成要素 | 役割 |
|---|
| リン脂質二重層 | 基本構造、 疎水性物質を通す |
| 膜タンパク質 | 物質輸送・受容体・酵素 |
| コレステロール | 膜の流動性 を調節 (動物細胞) |
| 糖鎖 | 細胞 の識別・免疫 |
選択透過性
細胞膜は 「通すもの」 と 「通さないもの」 を選ぶ 性質 = 選択透過性 を持ちます。
| 通しやすさ | 物質 |
|---|
| 通しやすい | 酸素・二酸化炭素・水 (小さく電気を帯びない) |
| 通しにくい | グルコース・アミノ酸・イオン (大きいまたは電気を帯びる) → 膜タンパク質 が必要 |
受動輸送と能動輸送
物質の輸送 はエネルギー消費 の有無で 2 種類に分かれます。
| 種類 | エネルギー | 方向 | 例 |
|---|
| 受動輸送 | 不要 | 濃度高 → 低 (拡散 の向き) | 単純拡散 (酸素)、 促進拡散 (膜タンパク質経由のグルコース) |
| 能動輸送 | ATP必要 | 濃度低 → 高 (拡散 と逆) | ナトリウムポンプ (Na⁺ を細胞外へ、 K⁺ を細胞内へ) |
浸透圧 — 水の動き
半透膜 (水だけ通す膜) をはさんで濃度 が違うと、 水が薄い側から濃い側へ 移動します。 このときに生まれる圧力が 浸透圧。
| 細胞 を入れた液 | 動物細胞 | 植物細胞 |
|---|
| 低張液 (薄い) | 水が入り膨張 → 溶血 (赤血球) | 細胞壁があり破れない、 膨圧 が高まる |
| 等張液 | 変化なし | 変化なし |
| 高張液 (濃い) | 水が出て縮む | 原形質分離 (細胞質が細胞壁から離れる) |
大事: 病院 で点滴 に使う 生理食塩水 (0.9 % NaCl) はヒトの 赤血球 にとって 等張液 なので、 細胞 を壊しません。 これが 浸透圧 知識 の実用例です。
5. 観察実習 — オオカナダモの原形質流動
植物細胞 の 葉緑体 が 流れるように動く 現象 を 原形質流動 (細胞質流動) と呼びます。 アクチンフィラメント と ミオシン が関与。
観察手順
- オオカナダモ の若い葉を 1 枚採取
- スライドガラスに載せ、 水を 1 滴
- カバーガラスをかぶせる (染色液不要)
- 顕微鏡 (低倍 → 400 倍) で観察
- 緑のつぶ (葉緑体) が細胞 の内側を一定方向に流れるのを確認
安全配慮 + 生命尊重: オオカナダモは 自然環境 から採らず、 学校で栽培 したものを使う。 特定外来生物法で移動 が規制 されています。 観察後は 流しに流さず 廃棄容器 に。
6. ふりかえり
- [ ]原核細胞 と 真核細胞 の違い (核膜 の有無) が言える
- [ ]ミトコンドリア・葉緑体・小胞体・ゴルジ体・リソソーム の役割を言える
- [ ]動物細胞 と植物細胞 の違い (細胞壁・葉緑体・液胞) を言える
- [ ]共生説 の根拠 (二重膜・環状 DNA) を 1 つ言える
- [ ]細胞膜 が リン脂質二重層そう] でできていると知っている
- [ ]受動輸送 と 能動輸送 の違い (ATP の有無) が言える
- [ ]浸透圧 で 溶血・原形質分離 が起こることを説明できる
この章の安全配慮
- 生体試料 (オオカナダモ・タマネギ等) は 自然 から採らず 学校で栽培 したものを使う (特定外来生物法)
- 観察後の試料 は 流しに流さず 廃棄容器 へ
- 顕微鏡 の油浸レンズ (100×) は イマージョンオイル が必要、 こぼさない
次の章: 第 3 章では、 細胞 の中で行われる化学反応 = 代謝 を学びます。 葉緑体 が行う 光合成 と ミトコンドリア が行う 呼吸 が、 ATP という エネルギー通貨を介してどうつながるかを見ていきましょう。