この章で学ぶこと
第 7 章では 電子のやり取り に注目した化学反応 = 酸化還元反応 を学びます。 中学では 「酸素と結びつく / 酸素を失う」 で酸化・還元を区別しましたが、 高校では 電子 で統一的に定義します。
- 酸化 = 電子を失う、 還元 = 電子を受け取る ことを説明できる
- 酸化数 の数え方を知り、 反応で増減を判定できる
- 酸化剤 と 還元剤 を区別し、 半反応式 を書ける
- イオン化傾向 の順序をおぼえ、 金属の反応性を説明できる
- 電池 (ボルタ・ダニエル・鉛蓄電池・燃料電池) の反応を書ける
- 電気分解 のしくみを理解し、 陰極・陽極で起こる反応を書ける
1. 酸化と還元の定義
3 つの立場
酸化・還元は同じ反応を別の角度から見るもので、 高校では次の 3 つの立場を区別します。
| 立場 | 酸化 | 還元 |
|---|
| 酸素 | 酸素と結びつく | 酸素を失う |
| 水素 | 水素を失う | 水素と結びつく |
| 電子 (高校の中心) | 電子を失う | 電子を受け取る |
例: 2 Cu + O₂ → 2 CuO では、 Cu は電子を失い (酸化)、 O は電子を受け取る (還元)。
同時に起こる
電子は突然消えたり生まれたりしないので、 酸化と還元は必ず同時に起こります。 この反応を 酸化還元反応 とよびます。
ポイント: 「燃焼」 「金属のさび」 「呼吸」 「電池の放電」 「写真の現像」 — これらはすべて酸化還元反応です。
2. 酸化数
酸化数とは
「どの原子がどれだけ酸化されたか」 を数値で表すために 酸化数 を使います。 酸化数が 大きくなれば酸化、 小さくなれば還元 です。
酸化数の決め方 (ルール)
| ルール | 例 |
|---|
| 単体の原子 = 0 | H₂, O₂, Na, Cl₂ → 0 |
| 単原子イオン = イオンの価数 | Na⁺ = +1, Cl⁻ = -1, Mg²⁺ = +2 |
| 化合物中の H = +1 (例外: 金属水素化物で -1) | H₂O 中の H = +1, NaH 中の H = -1 |
| 化合物中の O = -2 (例外: 過酸化物で -1, OF₂ で +2) | H₂O 中の O = -2, H₂O₂ 中の O = -1 |
| 化合物全体の酸化数の和 = 0 | H₂SO₄ 全体 = 0 |
| 多原子イオン全体の酸化数の和 = イオンの価数 | SO₄²⁻ 全体 = -2 |
計算例
H₂SO₄ 中の S の酸化数を x とおくと、
(+1) × 2 + x + (-2) × 4 = 0 → x = +6
| 物質 | 注目原子 | 酸化数 |
|---|
| HNO₃ | N | +5 |
| HNO₂ | N | +3 |
| KMnO₄ | Mn | +7 |
| K₂Cr₂O₇ | Cr | +6 |
| Fe₂O₃ | Fe | +3 |
| FeO | Fe | +2 |
覚え方: 「O は -2、 H は +1」 を出発点に全体で帳尻を合わせる。 これでほぼすべての酸化数が出せる。
3. 酸化剤と還元剤
定義
| 区分 | はたらき | 反応後の自分 |
|---|
| 酸化剤 | 相手を酸化する (= 自分が電子を受け取る) | 還元される |
| 還元剤 | 相手を還元する (= 自分が電子を与える) | 酸化される |
よく出る酸化剤・還元剤
| 種類 | 代表例 | 反応で何になるか |
|---|
| 強い酸化剤 | KMnO₄ (酸性中) | Mn²⁺ (Mn の酸化数 +7 → +2) |
| 強い酸化剤 | K₂Cr₂O₇ (酸性中) | Cr³⁺ (+6 → +3) |
| 酸化剤 | H₂O₂ (酸性中) | H₂O (O の酸化数 -1 → -2) |
| 酸化剤 | 濃 HNO₃, 希 HNO₃, 熱濃 H₂SO₄ | NO₂, NO, SO₂ |
| 強い還元剤 | Na, K, Ca など活性金属 | Na⁺, K⁺, Ca²⁺ |
| 還元剤 | H₂S | S |
| 還元剤 | SO₂ (相手が強ければ還元剤、 弱ければ酸化剤) | S, または S²⁻ |
半反応式
酸化剤・還元剤が受け取る (与える) 電子の数を含めて書いた式を 半反応式 といいます。
例: 過マンガン酸イオン (酸性中)
MnO₄⁻ + 8 H⁺ + 5 e⁻ → Mn²⁺ + 4 H₂O
例: 過酸化水素 (還元剤として)
H₂O₂ → O₂ + 2 H⁺ + 2 e⁻
書き方の順: ① 反応前後の物質を書く ② O を H₂O で合わせる ③ H を H⁺ で合わせる ④ 電荷を e⁻ で合わせる。
4. イオン化傾向と金属の反応
イオン化列
水溶液中で金属が陽イオンになりやすい順 (= 電子を失いやすい順) を イオン化傾向 といいます。
K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
覚え方: 「貸そうかなまああてにすなひどすぎる借金」 (K Ca Na Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb H Cu Hg Ag Pt Au)
イオン化列で何がわかるか
| 反応 | 反応する金属 |
|---|
| 常温の水と反応 | K, Ca, Na |
| 熱水と反応 | Mg |
| 高温の水蒸気と反応 | Al, Zn, Fe |
| 希酸 (HCl, 希 H₂SO₄) と反応し H₂ を出す | H より左 (K 〜 Pb) |
| 濃硝酸・熱濃硫酸に反応 | Cu, Hg, Ag (Pt, Au は反応しない) |
| 王水 (濃 HCl + 濃 HNO₃ = 3:1) に反応 | Pt, Au |
鉄のさび
鉄 Fe が水と酸素でさびるのは酸化反応です。 これを防ぐために トタン (Fe を Zn でめっき) や ブリキ (Fe を Sn でめっき) が使われます。
| 種類 | めっき金属 | キズがついたとき |
|---|
| トタン | Zn (Fe よりイオン化しやすい) | Zn が先に溶け、 Fe を守る |
| ブリキ | Sn (Fe よりイオン化しにくい) | キズから Fe が急速にさびる |
5. 電池 (化学電池)
ダニエル電池 — Zn 板 (負極) と Cu 板 (正極) を ZnSO₄ と CuSO₄ 水溶液に浸し、 塩橋でつなぐ。 酸化還元反応で電流が流れる化学電池の代表。
電池のしくみ
イオン化傾向のちがう 2 種類の金属を電解液に入れると、 電子が外部回路を通って流れます。 これを 電池 (化学電池) といいます。
| 用語 | 定義 |
|---|
| 負極 | 電子が出ていく側 = 酸化が起こる側 (イオン化しやすい金属) |
| 正極 | 電子が入ってくる側 = 還元が起こる側 |
| 起電力 | 正極と負極の間の電位差 (V) |
ボルタ電池
最初の化学電池。 Zn 板と Cu 板を希 H₂SO₄ につけたもの。
- 負極 (Zn): Zn → Zn²⁺ + 2 e⁻
- 正極 (Cu): 2 H⁺ + 2 e⁻ → H₂
起電力は約 1.1 V だが、 Cu 板表面に H₂ が付着してすぐに起電力が落ちる (分極)。
ダニエル電池
ボルタの弱点を改良。 Zn 板を ZnSO₄ 水溶液に、 Cu 板を CuSO₄ 水溶液につけ、 素焼き板 (または塩橋) で仕切る。
- 負極 (Zn): Zn → Zn²⁺ + 2 e⁻
- 正極 (Cu): Cu²⁺ + 2 e⁻ → Cu
起電力約 1.1 V、 安定して取り出せる。
鉛蓄電池 (二次電池 = 充電可)
自動車のバッテリー。 希硫酸 に Pb 板と PbO₂ 板を入れたもの。
自動車用鉛蓄電池 — エンジン始動や電装品の電源に使う。 セル 1 個で約 2.0 V、 6 セルを直列接続して 12 V を取り出す。 充電できる 二次電池 の代表で、 100 年以上使われている。
- 負極 (Pb): Pb + SO₄²⁻ → PbSO₄ + 2 e⁻
- 正極 (PbO₂): PbO₂ + 4 H⁺ + SO₄²⁻ + 2 e⁻ → PbSO₄ + 2 H₂O
- 全体: Pb + PbO₂ + 2 H₂SO₄ → 2 PbSO₄ + 2 H₂O
放電で H₂SO₄ が減るため、 電解液の密度を計れば残量が分かる。
燃料電池 (リン酸形)
水素を燃料に、 酸素と反応させて電気を取り出す。 排出物は水だけのクリーンな電池。
- 負極 (H₂): 2 H₂ → 4 H⁺ + 4 e⁻
- 正極 (O₂): O₂ + 4 H⁺ + 4 e⁻ → 2 H₂O
- 全体: 2 H₂ + O₂ → 2 H₂O
| 電池名 | 一次/二次 | 起電力 | 用途 |
|---|
| ボルタ電池 | 一次 | 約 1.1 V | 歴史的 |
| ダニエル電池 | 一次 | 約 1.1 V | 教科書 |
| マンガン乾電池 | 一次 | 約 1.5 V | 家電 |
| アルカリマンガン電池 | 一次 | 約 1.5 V | 家電 |
| 鉛蓄電池 | 二次 | 約 2.0 V | 自動車 |
| リチウムイオン電池 | 二次 | 約 3.7 V | スマホ・EV |
| 燃料電池 | — | 約 1.2 V | 自動車 (FCV)・家庭 |
6. 電気分解
電気分解とは
電池の反対で、 外部から電気を流して 強制的に酸化還元 を起こす操作が 電気分解 です。 水溶液か融解塩に電極をさし、 直流を流します。
| 電極 | 起こる反応 | 名前 |
|---|
| 陰極 (-) | 還元 (電子を受け取る) | 陽イオンが電子を受け取り析出 |
| 陽極 (+) | 酸化 (電子を失う) | 陰イオン (または電極自身) が電子を失う |
よく出る例
| 電解液 / 電極 | 陰極の反応 | 陽極の反応 |
|---|
| CuSO₄ aq / Cu 電極 | Cu²⁺ + 2 e⁻ → Cu | Cu → Cu²⁺ + 2 e⁻ (電解銅精錬) |
| NaCl aq / 炭素電極 | 2 H₂O + 2 e⁻ → H₂ + 2 OH⁻ | 2 Cl⁻ → Cl₂ + 2 e⁻ |
| H₂SO₄ aq / 白金電極 | 2 H⁺ + 2 e⁻ → H₂ | 2 H₂O → O₂ + 4 H⁺ + 4 e⁻ |
| 融解 NaCl / 炭素 | Na⁺ + e⁻ → Na | 2 Cl⁻ → Cl₂ + 2 e⁻ |
ファラデーの法則
電気分解で析出 (発生) する物質の物質量は、 流れた電気量に比例します。
電気量 Q (C) = 電流 I (A) × 時間 t (s)
電子 1 mol の電気量 = 9.65 × 10⁴ C (ファラデー定数)
例: 1 A の電流で 32 分 10 秒 (= 1930 秒) 流すと、 流れた電子は 1930 / 96500 = 0.020 mol。 Cu²⁺ + 2 e⁻ → Cu なので Cu は 0.010 mol = 0.64 g 析出。
7. 章のまとめ
重要用語まとめ
- 酸化 = 電子を失う、 還元 = 電子を受け取る (同時に起こる)
- 酸化数 で反応を整理。 増えれば酸化、 減れば還元
- 酸化剤 / 還元剤 と 半反応式 を区別
- イオン化傾向 で金属の反応性を比較
- 電池: ボルタ・ダニエル・鉛蓄電池・燃料電池のしくみ
- 電気分解 と ファラデー定数 = 9.65 × 10⁴ C/mol
確認リスト
この章の安全配慮
- 鉛蓄電池の 希硫酸 は強い腐食性。 こぼしたら大量の水で流し、 中和剤 (重曹) で処理する
- 電気分解で発生する 塩素 Cl₂ は有毒気体。 必ず ドラフト内で行う
- 水素 H₂ は可燃性で爆発するおそれ。 火気厳禁
- リチウムイオン電池の内部短絡は発火の原因。 分解・改造・水濡れはしない
- 金属ナトリウム K, Na は水と激しく反応して発火。 絶対に水に入れない (灯油中で保管)
次の章: 第 8 章では 無機化学 に入り、 非金属元素 (水素・ハロゲン・酸素・硫黄・窒素・リン・炭素・ケイ素) と 典型金属・遷移元素 の性質を順に見ていきます。
まとめ — 酸化還元 と 電池 を 3 行で
- 酸化数 の増減で酸化/還元を判定し、 酸化剤 と 還元剤 の 半反応式 を組み合わせて反応全体を構築する
- イオン化傾向 の大きい金属が 負極 となり、 ボルタ電池 ・ダニエル電池 ・鉛蓄電池 ・燃料電池 の各極反応が体系的に理解できる
- 電気分解 では電気量 (C) と物質量 (mol) が ファラデー定数 9.65 × 10⁴ C/mol で結ばれ、 工業的な金属精錬や水酸化ナトリウム製造に応用される