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第 5 章では、 中学で学んだ 化学反応式 を高校で 「何 g・何 mol 反応して、 何 kJ の熱が出入りするか」 まで計算できるようになる章です。
ポイント: 第 4 章で学んだ mol がここで大活躍します。 反応式の係数が mol 比 であり、 mol 数とモル質量をかけると質量が出て、 mol 数と 反応エンタルピー をかけると 熱量 が出ます。
化学反応では、 「反応物」 が 「生成物」 に変わります。 化学反応式では 左に反応物、 右に生成物 を書き、 「→」 でつなぎます。
| 反応 | 反応式 |
|---|---|
| 水素が燃えて水ができる | 2H₂ + O₂ → 2H₂O |
| メタンが完全燃焼 | CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O |
| 鉄がさびる | 4Fe + 3O₂ → 2Fe₂O₃ |
| 中和反応 | HCl + NaOH → NaCl + H₂O |
| 炭酸水素ナトリウムの加熱 | 2NaHCO₃ → Na₂CO₃ + H₂O + CO₂ |
中学でも学んだ 質量保存の法則: 反応の前後で 原子の種類と数は変わらない = 質量も変わらない。 これを守るために係数をつけます (係数を変えるだけで、 化学式そのものは変えない)。
例: H₂ + O₂ → H₂O だけでは O が合わない (左 2、 右 1)。 各元素を合わせるために係数を調整:
2H₂ + O₂ → 2H₂O で H 4 個・O 2 個が左右とも一致 (バランス OK)。
複雑な反応で係数を求めるときは 未定係数法 を使います。
例: a Cu + b HNO₃ → c Cu(NO₃)₂ + d NO + e H₂O
| 元素 | 左辺 | 右辺 | 式 |
|---|---|---|---|
| Cu | a | c | a = c |
| H | b | 2e | b = 2e |
| N | b | 2c + d | b = 2c + d |
| O | 3b | 6c + d + e | 3b = 6c + d + e |
a = 1 とおき、 順に解くと c = 1、 b = 8/3、 d = 2/3、 e = 4/3。 全体を 3 倍して整数化:
3Cu + 8HNO₃ → 3Cu(NO₃)₂ + 2NO + 4H₂O
大事: 化学反応式を書いたら 必ず元素ごとに数を数えてバランスを確認。 1 個でも合わないと計算が全部ずれます。
水溶液の反応では、 イオンだけで反応を表す 場合があります。
| 通常の反応式 | イオン反応式 (傍観イオンを除く) |
|---|---|
| HCl + NaOH → NaCl + H₂O | H⁺ + OH⁻ → H₂O |
| AgNO₃ + NaCl → AgCl↓ + NaNO₃ | Ag⁺ + Cl⁻ → AgCl↓ |
| BaCl₂ + Na₂SO₄ → BaSO₄↓ + 2NaCl | Ba²⁺ + SO₄²⁻ → BaSO₄↓ |
「↓」 は 沈殿 を、 「↑」 は 気体発生 を表します (省略可)。
第 4 章の復習: 化学反応式の係数は mol 比 を表します。 質量比・体積比ではありません (体積比は気体でのみ)。
例: 2H₂ + O₂ → 2H₂O
| 観点 | H₂ | O₂ | H₂O |
|---|---|---|---|
| mol 比 | 2 | 1 | 2 |
| 質量 (g、 1 mol あたり) | 4 | 32 | 36 |
| 体積 (L、 標準状態、 気体のみ) | 44.8 | 22.4 | (液体のため) |
反応式: C₆H₁₂O₆ + 6O₂ → 6CO₂ + 6H₂O
| 段階 | 計算 |
|---|---|
| C₆H₁₂O₆ 質量 → mol (分子量 180) | 18 ÷ 180 = 0.1 mol |
| 必要な O₂ (係数比 1 : 6) | 0.1 × 6 = 0.6 mol |
| O₂ mol → 質量 | 0.6 × 32 = 19.2 g |
| O₂ mol → 体積 (標準状態) | 0.6 × 22.4 = 13.44 L |
| 発生する CO₂ (係数比 1 : 6) | 0.1 × 6 = 0.6 mol → 0.6 × 44 = 26.4 g |
反応式: Fe + 2HCl → FeCl₂ + H₂↑
例: 鉄 5.6 g を十分な量の塩酸と反応させたとき、 発生する H₂ の体積 (標準状態) は ?
| 段階 | 計算 |
|---|---|
| Fe 質量 → mol (原子量 56) | 5.6 ÷ 56 = 0.1 mol |
| H₂ の mol (係数比 1 : 1) | 0.1 mol |
| H₂ mol → 体積 (標準状態) | 0.1 × 22.4 = 2.24 L |
反応物の一方が 少なくて先になくなる 場合、 そちらが 限りの反応物 になり、 残った方は余ります。
例: H₂ 2.0 g と O₂ 16 g を反応させた。 どちらが余るか。 何 g 反応して何 g の水ができるか。
| 段階 | 計算 |
|---|---|
| H₂ mol | 2.0 ÷ 2.0 = 1.0 mol |
| O₂ mol | 16 ÷ 32 = 0.5 mol |
| 比 (H₂ : O₂ = 2 : 1) で必要な O₂ | 1.0 × (1/2) = 0.5 mol → ぴったり |
| 発生する H₂O | 1.0 × (2/2) = 1.0 mol → 1.0 × 18 = 18 g |
化学反応では エネルギーの出入り が起こります。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 発熱反応 | 周囲に熱を放出 (周囲があたたかくなる) | 燃焼 (CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O)、 中和、 鉄のさび |
| 吸熱反応 | 周囲から熱を吸収 (周囲が冷たくなる) | 炭酸水素ナトリウムの熱分解、 水への硝酸アンモニウムの溶解 |
「反応で出入りする熱量」 を表す物理量を 反応エンタルピー と呼び、 ΔH で表します (単位は kJ/mol)。
| ΔH | 意味 |
|---|---|
| ΔH < 0 (負) | 発熱反応 (系から熱が出て、 内部エネルギーが減る) |
| ΔH > 0 (正) | 吸熱反応 |
ポイント: ΔH は 「生成物のエネルギー − 反応物のエネルギー」 です。 発熱反応では生成物の方がエネルギーが低いので 負 になります。
反応エンタルピー を反応式に添えたものを 熱化学方程式 と呼びます。 高校化学では次のような形で書きます (新課程では ΔH を末尾に添える形を推奨)。
| 反応 | 熱化学方程式 |
|---|---|
| 水素の燃焼 (1 mol あたり 286 kJ 発熱) | H₂ (気) + (1/2) O₂ (気) → H₂O (液) ΔH = −286 kJ |
| メタンの燃焼 (1 mol あたり 891 kJ 発熱) | CH₄ (気) + 2O₂ (気) → CO₂ (気) + 2H₂O (液) ΔH = −891 kJ |
| 炭素の燃焼 | C (黒鉛) + O₂ (気) → CO₂ (気) ΔH = −394 kJ |
| 中和 | HCl 水溶液 + NaOH 水溶液 → NaCl 水溶液 + H₂O (液) ΔH = −56 kJ |
| 水の蒸発 (吸熱) | H₂O (液) → H₂O (気) ΔH = +44 kJ |
書くときのルール:
反応エンタルピー は反応の種類で細かく分けられます。 高校化学で出る主なもの:
燃焼熱: 物質 1 mol が 完全燃焼 したときに発生する熱量 (発熱なので ΔH < 0)。
| 物質 | 燃焼熱 |
|---|---|
| H₂ (気) | 286 kJ/mol |
| C (黒鉛) | 394 kJ/mol |
| CH₄ (気、 メタン) | 891 kJ/mol |
| C₂H₅OH (液、 エタノール) | 1368 kJ/mol |
| C (黒鉛) → CO₂ で不完全 (CO になった場合) | 不完全燃焼と呼ぶ |
中和熱: 1 mol の水 H₂O が生成する中和反応で発生する熱量。 強酸・強塩基の場合はどんな組み合わせでも 約 56 kJ/mol (ΔH ≒ −56 kJ)。
| 反応 | 中和熱 |
|---|---|
| HCl + NaOH | 約 56 kJ/mol |
| HNO₃ + KOH | 約 56 kJ/mol |
| HCl + NH₃ (弱塩基) | 約 50 kJ/mol (やや小さい) |
ポイント: 強酸・強塩基の中和が同じ値になるのは、 「H⁺ + OH⁻ → H₂O」 という同じイオン反応だからです。
生成熱: 化合物 1 mol が その成分元素の単体から 生成するときの熱量。
| 化合物 | 生成熱 |
|---|---|
| H₂O (液) | 286 kJ/mol (これは H₂ の燃焼熱と同じ) |
| CO₂ (気) | 394 kJ/mol (C の燃焼熱と同じ) |
| NH₃ (気) | 46 kJ/mol |
| NO (気) | −90 kJ/mol (吸熱: 標準状態で N₂ + O₂ から NO はできにくい) |
溶解熱: 物質 1 mol を多量の水に溶かしたときの熱量。
| 物質 | 溶解熱 |
|---|---|
| NaOH (固) → 水溶液 | 44 kJ/mol (発熱) |
| H₂SO₄ (液) → 水溶液 | 95 kJ/mol (大きく発熱、 「水 → 酸」 の順厳守) |
| NH₄NO₃ (固) → 水溶液 | −26 kJ/mol (吸熱: 冷却パックに利用) |
ヘスの法則 (総熱量保存の法則): 「反応の経路がちがっても、 出入りする 熱量の総和 は同じ」。
つまり、 直接測定できない反応の 反応エンタルピー も、 既知の反応の組み合わせで 計算で求められる。
C → CO は直接測れない (実際は CO₂ まで燃えやすい) が、 次の 2 つの反応から求められる:
| 既知の反応 | ΔH |
|---|---|
| ① C (黒鉛) + O₂ → CO₂ | −394 kJ |
| ② CO + (1/2) O₂ → CO₂ | −283 kJ |
求める: ③ C (黒鉛) + (1/2) O₂ → CO
① − ② = ③ なので、 ΔH₃ = ΔH₁ − ΔH₂ = −394 − (−283) = −111 kJ
化学反応の 反応エンタルピー は 結合エネルギー (結合を切るのに必要なエネルギー) を使っても求められます。
ΔH (反応の熱) = (切れる結合のエネルギーの和) − (できる結合のエネルギーの和)
| 結合 | エネルギー (kJ/mol) |
|---|---|
| H−H | 436 |
| O=O | 498 |
| O−H | 463 |
| C−H | 416 |
| C−C | 348 |
| C=O | 803 |
例: H₂ + (1/2) O₂ → H₂O の反応熱 (発熱)
| 段階 | 計算 |
|---|---|
| 切る結合 | 1 × (H−H) + 0.5 × (O=O) = 436 + 249 = 685 kJ |
| できる結合 | 2 × (O−H) = 2 × 463 = 926 kJ |
| ΔH | 685 − 926 = −241 kJ (発熱) |
(精密値は H₂O が気体か液体かで変わるため、 実測値 −286 kJ/mol と多少ずれる)
中学化学で学ばない、 高校化学で入り口だけ学ぶこと:
反応速度 = 単位時間あたりの 反応物の減少量 または 生成物の増加量。 反応速度は次の 4 つで大きく変わる。
| 要因 | 速度への影響 |
|---|---|
| 濃度 | 濃いほど速い |
| 温度 | 高いほど速い (10 °C 上がると約 2 〜 3 倍) |
| 触媒 | 反応経路を変えて速くする (自身は変化しない) |
| 表面積 | 固体が細かいほど速い |
正反応と逆反応が 同じ速度 で進む状態を 化学平衡 と呼びます。 高校化学ではさらに ルシャトリエの原理 (平衡をずらす方法) を学びます。
化学反応と熱の 実験 では、 発熱・燃焼・引火 が大きな危険です。
| 薬品 | 危険性 | 対策 |
|---|---|---|
| エタノール、 ジエチルエーテル、 アセトン | 引火性 | 火気厳禁、 ドラフト、 換気 |
| 濃硫酸 H₂SO₄ | 強い 脱水、 水と大量発熱 | 「水 → 酸」 の順 厳守、 急がない |
| 濃硝酸 HNO₃ | 強酸、 金属と反応して有毒ガス (NO₂) | ドラフト |
| Na、 K | 水と反応し H₂ 発生 → 発火 | 教師デモ、 灯油中保存 |
| 過酸化水素 H₂O₂ (高濃度) | 触媒との反応で急激な発生 | 保護メガネ |
| マグネシウムリボン Mg | 燃焼で強い紫外線と高温 | 直視しない、 火ばなみに注意 |
| 場面 | 注意 |
|---|---|
| ガスバーナー | 元栓 → 空気 → 燃料の順で開け、 消すときは逆 |
| 燃焼実験 (Mg、 S、 P) | 保護メガネ と ドラフト |
| 酸素充満容器での燃焼 | 急激な燃焼、 退避距離を取る |
| 加熱した試験管 | 口を自分や他人に向けない、 沸騰石 を入れる |
| 引火性溶媒 | 周囲に火気なし、 換気 |
次の章へ: ここまでで高校化学 (化学基礎部分) の 基本道具 = 物質・原子・周期表・結合・mol・熱 がそろいました。 この後はこの 5 章を土台に、 第 6 章で 酸と塩基、 第 7 章で 酸化還元 を詳しく学びます。 中和滴定 や 電池・電気分解 の計算に、 mol と熱の知識が全て生きてきます。