この章で学ぶこと
第 6 章では、 中学で 「酸・アルカリ・中和」 として学んだ内容を、 高校では 数値 (pH) と 電離の強さ (電離度) で整理し直します。
- 酸と塩基の 2 つの定義 (アレニウス / ブレンステッド・ローリー) を区別できる
- 強酸 と 弱酸、 強塩基 と 弱塩基 を例であげられる
- pH を水素イオン濃度 [H⁺] から計算できる
- 中和反応 を化学反応式で書ける
- 中和滴定 で濃度を求められる
- 滴定曲線と 指示薬 (フェノールフタレイン・メチルオレンジ) を結びつけられる
ポイント: 中学では 「青色リトマスが赤になるもの = 酸」 でしたが、 高校では 「水に溶けて H⁺ を出すもの」 「H⁺ を受け取るもの」 と定義し直します。 さらに、 どれくらい強いか を数値 (pH や電離度) で表します。
1. 酸と塩基の定義
アレニウスの定義
スウェーデンの アレニウス は、 19 世紀末に次のように定義しました。
- 酸: 水に溶けて 水素イオン H⁺ を生じる物質
- 塩基: 水に溶けて 水酸化物イオン OH⁻ を生じる物質
たとえば塩酸と水酸化ナトリウムは次のように 電離 します。
- HCl → H⁺ + Cl⁻
- NaOH → Na⁺ + OH⁻
| 区分 | 例 | 電離して生じるイオン |
|---|
| 酸 | HCl, H₂SO₄, HNO₃, CH₃COOH | H⁺ |
| 塩基 | NaOH, KOH, Ca(OH)₂, NH₃ (水溶液) | OH⁻ |
ブレンステッド・ローリーの定義
アレニウスの定義では 水が必須 でしたが、 デンマークの ブレンステッド とイギリスの ローリー は、 水がなくても使える広い定義を提案しました。
- 酸: 相手に H⁺ を与える 物質 (プロトン供与体)
- 塩基: 相手から H⁺ を受け取る 物質 (プロトン受容体)
たとえばアンモニア NH₃ が水に溶けるとき、 NH₃ は H⁺ を受け取るので塩基、 H₂O は H⁺ を与えるので酸としてはたらきます。
NH₃ + H₂O ⇌ NH₄⁺ + OH⁻
ポイント: ブレンステッド・ローリーの定義では、 同じ物質が相手によって酸にも塩基にもなれる のが特徴です。 H₂O は上では酸ですが、 HCl と反応するときは H⁺ を受け取る塩基となります。
共役酸塩基対
H⁺ をやり取りした結果、 酸から H⁺ が抜けたものを 共役塩基、 塩基が H⁺ を受け取ったものを 共役酸 とよびます。
| 反応 | 酸 | 共役塩基 | 塩基 | 共役酸 |
|---|
| HCl + H₂O → H₃O⁺ + Cl⁻ | HCl | Cl⁻ | H₂O | H₃O⁺ |
| CH₃COOH + H₂O ⇌ H₃O⁺ + CH₃COO⁻ | CH₃COOH | CH₃COO⁻ | H₂O | H₃O⁺ |
| NH₃ + H₂O ⇌ NH₄⁺ + OH⁻ | H₂O | OH⁻ | NH₃ | NH₄⁺ |
2. 酸塩基の価数と強弱
価数
1 個の分子 (または 1 個の式量) が出せる H⁺ や OH⁻ の数を 価数 といいます。
| 価数 | 酸の例 | 塩基の例 |
|---|
| 1 価 | HCl, HNO₃, CH₃COOH | NaOH, KOH, NH₃ |
| 2 価 | H₂SO₄, H₂CO₃, H₂S | Ca(OH)₂, Ba(OH)₂, Mg(OH)₂ |
| 3 価 | H₃PO₄ | Al(OH)₃, Fe(OH)₃ |
電離度と強弱
電離度 α とは、 「水に溶けた酸 (塩基) のうち、 何割が電離したか」 を表す値 (0 < α ≤ 1) です。
α = (電離した分子数) / (溶けた分子数)
| 区分 | 電離度 α | 例 |
|---|
| 強酸 | ほぼ 1 (ほぼ完全に電離) | HCl, HNO₃, H₂SO₄ |
| 弱酸 | 1 よりかなり小さい (一部だけ電離) | CH₃COOH, H₂CO₃, H₂S |
| 強塩基 | ほぼ 1 | NaOH, KOH, Ca(OH)₂, Ba(OH)₂ |
| 弱塩基 | 1 よりかなり小さい | NH₃, Mg(OH)₂, Cu(OH)₂ |
覚え方: 入試では 「H と Cl」 「H と NO₃」 「H₂ と SO₄」 = 強酸、 「Na, K, Ca, Ba の水酸化物」 = 強塩基、 と覚えればほぼ OK。 残りは弱と考えてよい。
強弱と価数は別
「2 価だから強い」 とは限りません。 H₂SO₄ は 2 価の強酸ですが、 H₂CO₃ は 2 価の弱酸です。 同様に Ca(OH)₂ は 2 価の強塩基、 Cu(OH)₂ は 2 価の弱塩基です。
3. 水の電離と pH
水の電離
純粋な水でもごくわずかに電離して、 H⁺ と OH⁻ を生じます。
H₂O ⇌ H⁺ + OH⁻
25 °C では、 [H⁺] = [OH⁻] = 1.0 × 10⁻⁷ mol/L です。 したがって、
[H⁺] × [OH⁻] = 1.0 × 10⁻¹⁴ (mol/L)²
これを 水のイオン積 Kw といい、 25 °C では一定の値をとります。
pH の定義
水素イオン濃度 [H⁺] はとても小さい値なので、 対数をとって扱います。 これが pH (水素イオン指数) です。
pH = -log₁₀[H⁺]
| 液 | [H⁺] (mol/L) | pH |
|---|
| 0.1 mol/L 塩酸 | 1.0 × 10⁻¹ | 1 |
| 食酢 (うすい) | 約 1 × 10⁻³ | 約 3 |
| 純水 | 1.0 × 10⁻⁷ | 7 |
| 海水 | 約 1 × 10⁻⁸ | 約 8 |
| 0.1 mol/L NaOH | 1.0 × 10⁻¹³ | 13 |
| pH の範囲 | 液性 |
|---|
| pH < 7 | 酸性 |
| pH = 7 | 中性 |
| pH > 7 | 塩基性 (アルカリ性) |
ポイント: pH が 1 ちがうと [H⁺] は 10 倍ちがう。 たとえば pH 3 の液は pH 5 の液より H⁺ が 100 倍多いことになる。
pH の計算例
- 0.01 mol/L の HCl (強酸) の pH は? → [H⁺] = 0.01 = 10⁻² → pH = 2
- 0.1 mol/L の CH₃COOH (弱酸、 α = 0.01) の pH は? → [H⁺] = 0.1 × 0.01 = 10⁻³ → pH = 3
- 0.01 mol/L の NaOH の pH は? → [OH⁻] = 10⁻² → [H⁺] = 10⁻¹⁴ / 10⁻² = 10⁻¹² → pH = 12
4. 中和反応と塩
中和反応の基本
酸と塩基が反応して互いの性質を打ち消し合う反応を 中和反応 といいます。 一般に次のように書けます。
酸 + 塩基 → 塩 + 水
| 例 | 化学反応式 |
|---|
| 塩酸 + 水酸化ナトリウム | HCl + NaOH → NaCl + H₂O |
| 硫酸 + 水酸化ナトリウム | H₂SO₄ + 2 NaOH → Na₂SO₄ + 2 H₂O |
| 酢酸 + アンモニア | CH₃COOH + NH₃ → CH₃COONH₄ |
イオンの立場で見れば、 中和の本質は H⁺ + OH⁻ → H₂O です。
塩の分類
中和でできる塩は、 もとの酸・塩基の強弱で水溶液の液性がちがいます。
| 塩の例 | もとの酸 | もとの塩基 | 水溶液の液性 |
|---|
| NaCl | 強酸 (HCl) | 強塩基 (NaOH) | 中性 |
| CH₃COONa | 弱酸 (CH₃COOH) | 強塩基 (NaOH) | 弱塩基性 |
| NH₄Cl | 強酸 (HCl) | 弱塩基 (NH₃) | 弱酸性 |
| CH₃COONH₄ | 弱酸 | 弱塩基 | ほぼ中性 |
ポイント: 「強い方が勝つ」 と覚える。 強酸 + 弱塩基 → 酸性寄り。 弱酸 + 強塩基 → 塩基性寄り。 これを 塩の加水分解 という。
5. 中和滴定
中和滴定 — ビュレット から一定濃度 の標準溶液を少しずつ滴下し、 指示薬の変色で中和点を検出する。
中和の量的関係
中和が完全に起こるのは、 酸が出す H⁺ の mol = 塩基が出す OH⁻ の mol のときです。
a 価の酸 (濃度 c₁ mol/L、 体積 V₁ mL) と b 価の塩基 (濃度 c₂ mol/L、 体積 V₂ mL) が過不足なく反応する条件は、
a × c₁ × V₁ = b × c₂ × V₂
覚え方: 「価数 × 濃度 × 体積」 が酸と塩基で等しくなる、 と覚える。 強弱には関係しない (電離度が小さくても、 中和が進むにつれて残りも電離するため)。
中和滴定の操作
濃度が分かっている酸 (または塩基) を使って、 濃度が分からない塩基 (または酸) の濃度を求める実験を 中和滴定 といいます。
| 器具 | 役割 |
|---|
| ホールピペット | 一定体積 (例 10.00 mL) をはかりとる |
| コニカルビーカー | はかりとった液を入れ、 指示薬を加える |
| ビュレット | 滴下する液の体積を 0.05 mL まで読む |
| メスフラスコ | 標準液を一定体積でつくる |
滴定曲線と指示薬
滴定中の pH 変化をグラフにしたものを 滴定曲線 といいます。 中和点付近で pH は急に変化 (pH の跳躍) します。
| 滴定の種類 | 中和点の液性 | 適切な指示薬 |
|---|
| 強酸と強塩基 | 中性 (pH 7) | フェノールフタレイン / メチルオレンジどちらも可 |
| 弱酸と強塩基 | 弱塩基性 (pH 8〜9) | フェノールフタレイン (変色域 pH 8.3〜10) |
| 強酸と弱塩基 | 弱酸性 (pH 5〜6) | メチルオレンジ (変色域 pH 3.1〜4.4) |
| 弱酸と弱塩基 | (中和点が不明瞭) | 滴定に不向き |
ポイント: 「弱と強の組合せでは、 強い方の側にある指示薬 を使う」 と覚える。 弱酸 + 強塩基 → 中和点は塩基性側 → フェノールフタレイン (塩基性で赤)。
計算例題
0.10 mol/L の食酢 (CH₃COOH) を 10.00 mL とり、 濃度不明の NaOH 水溶液で滴定したら、 12.50 mL で中和した。 NaOH 水溶液の濃度 c は?
解: 1 × 0.10 × 10.00 = 1 × c × 12.50 → c = 0.080 mol/L
6. 章のまとめ
重要用語まとめ
- アレニウス の定義: 水中で H⁺ を出す = 酸、 OH⁻ を出す = 塩基
- ブレンステッド・ローリー の定義: H⁺ を与える = 酸、 H⁺ を受け取る = 塩基
- 電離度 α がほぼ 1 = 強酸 / 強塩基、 小さい = 弱酸 / 弱塩基
- pH = -log₁₀[H⁺]、 pH < 7 酸性、 = 7 中性、 > 7 塩基性
- 中和反応: H⁺ + OH⁻ → H₂O、 反応で 塩 ができる
- 中和滴定 の関係式: a c₁ V₁ = b c₂ V₂
- 指示薬: フェノールフタレイン / メチルオレンジ を使い分け
確認リスト
この章の安全配慮
- 強酸 (塩酸・硫酸・硝酸) と 強塩基 (水酸化ナトリウム) は強い腐食性。 必ず 保護メガネ と 手袋 を着用する
- 皮膚や目についたら 大量の流水で 15 分以上洗う。 重症のときは医療機関へ
- 濃硫酸を水でうすめるときは 「酸を水へ少しずつ」 (逆だと突沸して飛び散る)
- 中和滴定の廃液はほぼ中性だが、 不安があれば大量の水でうすめてから流す
- 弱塩基 NH₃ (アンモニア) の蒸気は吸うと気道を刺激する。 ドラフト内で扱う
次の章: 第 7 章では 酸化還元 と 電池 を学びます。 酸化数 の計算、 半反応式 の組み立て、 ボルタ電池 / ダニエル電池 / 鉛蓄電池 / 燃料電池 のしくみを順に見ていきます。
万能 pH 指示薬 — pH によって色が連続的に変化する。 強酸性 (赤)・中性 (緑)・強塩基性 (紫) を 1 本で簡易判定できる。
まとめ — 酸塩基と pH を 3 行で
- アレニウス の定義では 酸 は水中で 水素イオン を、 塩基 は 水酸化物イオン を出し、 ブレンステッド・ローリー の定義では プロトン供与体 と プロトン受容体 と捉え直す
- pH = -log[H⁺] で 水のイオン積 Kw=10−14 から pH + pOH = 14 が成立し、 電離度 により 強酸 / 弱酸 が区別される
- 中和滴定 では ビュレット で正確に滴下し、 滴定曲線 の当量点に応じた 指示薬 (フェノールフタレイン / メチルオレンジ) を選ぶ