この章で学ぶこと
第2章で「生成AIのしくみ」を学びましたが、この第3章ではいま現場で実際に使われている生成AIの最新動向を押さえます。テキストだけでなく画像・音楽・音声・動画をつくる生成AIがどこまで実用化されているか、そこに潜むディープフェイクという危険、そして生成AIの弱点を補う二大技術であるRAG(検索拡張生成)とAIエージェントを理解するのがゴールです。
この章のキーワードは「生成の多様化」と「外とつながるAI」。生成AIはテキスト生成から始まり、あらゆるメディアを生み出す方向へ広がりました。さらに、AI単体の知識だけに頼らず、外部の最新データを検索して答える(RAG)、外部のツールを自分で操作してタスクをこなす(AIエージェント・MCP)という「外部連携」の流れが、いま最も注目されています。
学習ゴール
- テキスト・画像・音楽・音声・動画それぞれの生成AIの「入力→生成物」と代表サービスを説明できる
- 画像のリサイズ・正規化・データ拡張(データの水増し)・リマスタリングなど、生成・学習を支える処理を判別できる
- ディープフェイクとは何か、その危険性とディスインフォメーション(偽情報)の問題を説明できる
- RAGの仕組み(質問→検索→取得→生成)とメリット、チャンク・ベクトルデータベースの役割を説明できる
- AIエージェントの仕組みと、MCPによる外部ツール連携の意味を説明できる
試験では: 第3章は「新しい用語の意味と目的」を問う出題が中心です。特にRAG=最新・社内情報を検索して答える、AIエージェント=自律的にタスクを実行するという各技術の「何のための技術か」を取り違えないことが得点のカギです。
1. 生成AIが出来ることと主なサービス
生成AIは、学習したデータをもとに新しいコンテンツをつくり出すAIです。最初はテキスト(文章)が中心でしたが、いまでは画像・音楽・音声・動画まで、あらゆる種類のコンテンツを生成できるようになりました。それぞれ「何を入力すると何が生成されるか」で整理すると覚えやすくなります。
1.1 生成AIの種類と生成物
| 種類 | 主な入力 | 生成されるもの | サービスの例 |
|---|
| テキスト生成AI | 文章(プロンプト) | 文章・要約・翻訳・プログラム | ChatGPT、Gemini、Claude |
| 画像生成AI | 文章や画像 | イラスト・写真風画像・デザイン | Stable Diffusion、Midjourney、DALL-E |
| 音楽生成AI | 文章やジャンル指定 | 楽曲・BGM・歌 | Suno、Udio |
| 音声生成AI | 文章(読ませたい内容) | 音声読み上げ・合成音声 | 各種の音声合成サービス |
| 動画生成AI | 文章や画像 | 短い動画クリップ | Sora、Veo3 |
いずれも「与えた指示(プロンプト)や素材から、まったく新しいコンテンツを生み出す」点は共通です。近年は、テキスト・画像・音声など複数の種類を同時に扱えるマルチモーダル化が進み、1つのサービスで文章も画像も動画も扱えるようになってきています。
補足: サービス名は入れ替わりが激しい分野です。試験対策では「Sora や Veo3 は動画生成AI」「Suno は音楽生成AI」のように、名前と種類の対応を押さえておけば十分です。個々の機能を細かく暗記する必要はありません。
1.2 画像・データを扱う基本処理
画像生成AIや画像認識AIを学習・活用するとき、元データをそのまま使うのではなく、あらかじめ整える処理が行われます。用語として問われることがあります。
- リサイズ: 画像の大きさ(縦横のピクセル数)をそろえる処理。AIに入力する画像はサイズを統一する必要があるため行います。
- 正規化(ノーマライゼーション): 画素の明るさや数値の範囲を、たとえば0〜1のような一定の範囲にそろえる処理。学習を安定させ、精度を高めます。
- データ拡張(データオーグメンテーション / データの水増し): 元の画像を回転・反転・拡大・色調変更などして学習データを人工的に増やす技術。データが少ないときに過学習を防ぎ、精度を上げます。
- リマスタリング: 古い・低画質の画像や音声・映像を、AIで高画質・高音質に作り直す処理。ノイズ除去や解像度向上などに使われます。
絶対暗記: データ拡張(データの水増し)=既存データを加工して量を増やす技術で、データ不足と過学習の対策になります。ゼロから新しいデータを買い集めるのではない点がポイントです。
2. ディープフェイク(深層偽造)技術
生成AIの表現力が高まったことで、便利さと同時に新しいリスクも生まれました。その代表がディープフェイクです。
2.1 ディープフェイクとは
ディープフェイク(deepfake、深層偽造)とは、ディープラーニングを使って、実在する人物の顔・声・動作などをリアルに合成し、本物そっくりの偽の画像・音声・動画をつくる技術のことです。「ディープラーニング(deep learning)」と「フェイク(fake、偽物)」を組み合わせた言葉です。
技術的には、第2章で学んだGAN(敵対的生成ネットワーク)などの生成技術が土台になっています。もともとは映像制作などへの応用も期待されましたが、悪用されると深刻な被害につながります。
2.2 ディープフェイクの危険性と事件の類型
ディープフェイクは、見分けがつかないほど精巧になっているため、次のような形で悪用される危険があります。
| 悪用の類型 | 内容 |
|---|
| なりすまし | 有名人や経営者の顔・声を合成し、本人が発言・出演したように見せかける |
| 偽動画・偽画像の拡散 | 実際には起きていない出来事の映像をつくり、SNSなどで拡散する |
| 詐欺への悪用 | 家族や上司の声を合成した電話で送金を求めるなど、金銭をだまし取る |
| 名誉毀損・プライバシー侵害 | 本人の許可なく顔を別の映像に合成し、尊厳を傷つける |
こうした事件は世界各地で報告されており、有名人の偽広告、経営者になりすました送金指示、選挙に関わる偽情報などが問題になっています。
引っかけ: ディープフェイクは「画像だけ」の技術ではありません。顔・声・動画を含む幅広い偽造技術です。音声だけを合成して詐欺に使う「声のディープフェイク」もあります。
2.3 偽情報(ディスインフォメーション)
ディープフェイクと深く関わるのが、偽情報の問題です。用語を区別しておきましょう。
- ディスインフォメーション(disinformation): 他人をだます・混乱させることを意図して、意図的につくられ拡散される偽情報。
- ミスインフォメーション(misinformation): 悪意はなく、誤って広まってしまう誤情報。
ディープフェイクは、このディスインフォメーション(意図的な偽情報)の強力な道具になり得ます。生成AIで大量の偽コンテンツを簡単につくれるようになったため、情報の真偽を自分で確かめる姿勢(ファクトチェック)がこれまで以上に重要になっています。
絶対暗記: ディスインフォメーション=だます意図がある偽情報、ミスインフォメーション=意図しない誤情報。「意図の有無」で区別します。
3. RAG(検索拡張生成)
生成AI(大規模言語モデル)には、第2章で学んだ大きな弱点が2つあります。①学習した時点までの知識しか持たず最新情報に弱いこと、②事実でないことをもっともらしく答えるハルシネーションが起きることです。これらを補う代表的な技術がRAGです。
3.1 RAGとは
RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)とは、AIが回答を生成する前に、外部の文書やデータベースから関連情報を検索して取り込み、その情報にもとづいて回答を生成するしくみです。「Retrieval(検索)」で得た情報を「Generation(生成)」に足し込む、というのが名前の由来です。
たとえば社内マニュアルや最新のニュースをRAGで参照させれば、AIが本来知らない社内固有の情報や最新情報についても、根拠にもとづいて答えられるようになります。
3.2 RAGの歴史と発展
RAGという考え方は2020年ごろに論文で提唱され、ChatGPTの登場で大規模言語モデルが普及すると、その弱点(最新情報・専門情報への対応)を補う実用的な手法として一気に広まりました。現在では、企業が自社データと生成AIを組み合わせる際の標準的なアプローチの1つになっています。
3.3 RAGの仕組み
RAGは、大きく「事前準備」と「回答生成」の2段階で動きます。
事前準備(データを検索できる形にしておく)
- 参照させたい文書をチャンク(chunk)と呼ばれる適度な長さのかたまりに分割する。
- 各チャンクを、意味を数値ベクトルに変換した埋め込み(エンベディング)にする。
- そのベクトルをベクトルデータベース(ベクトルDB)に保存しておく。
回答生成(質問が来たときの流れ)
| 手順 | 処理 |
|---|
| ① 質問 | 利用者が質問を入力する |
| ② 検索 | 質問をベクトル化し、ベクトルDBから意味が近いチャンクを探す |
| ③ 取得 | 関連する文書(チャンク)を取り出す |
| ④ 生成 | 取り出した文書を質問と一緒にLLMへ渡し、それを根拠に回答を生成する |
ポイントは、LLM本体を再学習(ファインチューニング)しなくても、参照させる文書を差し替えるだけで最新・専門情報に対応できることです。
絶対暗記: RAGの流れは 質問 → 検索 → 関連文書の取得 → 回答生成。文書はチャンクに分割してベクトルデータベースに入れ、意味の近さで検索します。
3.4 RAGのメリットとユースケース
RAGの主なメリット:
- ハルシネーションの低減: 検索してきた実際の文書を根拠にするため、でたらめな回答が減る。
- 最新情報への対応: 参照データを更新すれば、モデルを学習し直さなくても新しい情報に答えられる。
- 社内・専門情報の活用: 一般公開されていない社内文書にもとづいた回答ができる。
- 出典を示せる: どの文書を参照したかを提示でき、回答の根拠を確認しやすい。
代表的なユースケースには、社内文書を検索して答える社内向けチャットボット、製品マニュアルにもとづくカスタマーサポート、大量の資料から根拠付きで答える調査・問い合わせ支援などがあります。
引っかけ: RAGはモデルそのものを賢く学習し直す技術ではありません。外部知識を「検索して足す」技術です。モデルの中身を更新するファインチューニングとは目的が異なります。
4. AIエージェント
RAGが「AIに知識を足す」技術だとすれば、AIエージェントは「AIに行動させる」技術です。2025年ごろから最も注目を集めている分野です。
4.1 AIエージェントとは
AIエージェント(AI Agent)とは、目標を与えると、その達成に必要な作業を自分でいくつかの手順に分解し、外部のツールを使いながら自律的に実行していくAIのことです。
従来の生成AIは「質問に答える」「文章を書く」など、人間が1回ごとに指示を出す使い方が中心でした。これに対しAIエージェントは、「調べて・まとめて・資料を作って」といった複数ステップの仕事を、人間が細かく指示しなくても最後までやり遂げようとします。
4.2 AIエージェントの仕組み
AIエージェントは、おおむね次のサイクルを繰り返して動きます。
| 段階 | 内容 |
|---|
| ① 計画 | 与えられた目標を、達成に必要な小さなタスクに分解する |
| ② ツール実行 | Web検索・計算・ファイル操作・外部サービスなど、必要なツールを選んで実行する |
| ③ 観察 | 実行結果を確認し、目標に近づいたかを評価する |
| ④ 再計画 | まだ足りなければ次の手を考え、①〜③を繰り返す |
このように、自分で計画し、ツールを使い、結果を見て次の行動を決めるループを回せる点が、単なるチャットボットとの大きな違いです。RAGによる検索も、エージェントが使うツールの1つとして組み込まれることがあります。
絶対暗記: AIエージェントのキーワードは「自律的」と「タスクの分解・実行」。目標だけ与えれば、手順の分解からツールの実行まで自分で進めます。
4.3 AIエージェントのツール事例
AIエージェント型のサービス・ツールが次々に登場しています。試験対策としては「そういう名前のAIエージェント系サービスがある」という程度で押さえておけば十分です。
- GenSpark: 調査やコンテンツ作成などを自律的に進めるとされるAIエージェント系サービス。
- Manus: 与えたタスクを自律的に実行するとうたうAIエージェント系サービス。
- Skywork AI: 資料作成などの業務支援を行うとされるAIエージェント系サービス。
これらは機能や位置づけが更新されやすいため、細かい仕様の暗記より「AIエージェントの代表例」として名前を認識しておくことが大切です。
4.4 MCPと外部連携
AIエージェントが力を発揮するには、外部のツールやデータと安全につながる必要があります。そのための標準的なしくみがMCPです。
MCP(Model Context Protocol、モデルコンテキストプロトコル)とは、AI(モデル)と外部のツールやデータソースを、共通のルール(プロトコル)でつなぐための標準規格です。2024年にAnthropic(Claudeの開発元)が提唱し、対応が広がっています。
MCPが重要なのは、これがあると個別のツールごとに専用のつなぎ込みを開発しなくても、標準の作法にそって多様な外部サービスをAIから利用できるようになるからです。いわば「AIと外部世界をつなぐ共通の差し込み口」のような役割を果たし、AIエージェントの活用を後押ししています。
補足: MCPは「AIと外部ツール/データを標準的につなぐ共通規格」と押さえます。RAG(検索して知識を足す)、AIエージェント(自律的に実行する)、MCP(外部と標準的につなぐ)をセットで区別できるようにしておきましょう。
まとめ
- 生成AIはテキスト・画像・音楽・音声・動画に広がった。Sora・Veo3は動画、Sunoは音楽など、名前と種類の対応で押さえる
- 学習・生成を支える処理としてリサイズ・正規化・データ拡張(データの水増し)・リマスタリングがある。データ拡張は既存データを加工して量を増やし過学習を防ぐ
- ディープフェイクはディープラーニングで顔・声・動画を精巧に偽造する技術。なりすまし・偽動画・詐欺に悪用される
- 偽情報はディスインフォメーション(意図的)とミスインフォメーション(意図しない誤り)を区別する
- RAG(検索拡張生成)は外部文書を検索して回答に足す技術。流れは質問→検索→取得→生成。文書をチャンクに分けてベクトルデータベースに保存し、ハルシネーション低減と最新情報対応を実現する
- AIエージェントは目標からタスクを自律的に分解・実行するAI。GenSpark・Manus・Skywork AIなどが代表例
- MCP(Model Context Protocol)はAIと外部ツール/データを標準的につなぐ共通規格。RAG・AIエージェント・MCPは目的の違いで区別する