この章で学ぶこと
生成AIパスポート試験の最終章にあたるこの第5章「プロンプトの作り方と実践」は、これまで学んだ知識を実際に使いこなすための章です。生成AIに与える指示文をプロンプトと呼び、その良し悪しでAIの出力の質は大きく変わります。ここでは、言語モデル(LM)から大規模言語モデル(LLM)へと発展してきた技術的な背景を押さえたうえで、「どう書けば思いどおりの答えが返ってくるのか」という具体的なテクニックを、実際のプロンプト例とともに学びます。
この章のキーワードは「指示の設計」と「得意・不得意の見極め」。うまく書けば校正・要約・翻訳・アイデア出しまで幅広くこなせる一方で、正確な計算や最新情報の取得といった苦手分野もあります。両方を理解して、AIを賢く使い分けられるようになるのがゴールです。
学習ゴール
- LMとLLMの違い、プレトレーニングやTemperature・top-pといった出力を左右する設定を説明できる
- Zero-ShotプロンプティングとFew-Shotプロンプティングの違い、良いプロンプトの4要素(Instruction・Context・Input Data・Output Indicator)を判別できる
- 校正・要約・変換など、LLMを使った代表的な実践テクニックを具体例で説明できる
- メール作成・翻訳・ブレインストーミングなど、テキスト生成AIのビジネス応用の用途を挙げられる
- テキスト生成AIが不得意なこと(正確な文字数・計算・最新情報・芸術の批評)と、その理由を説明できる
試験では: 第5章は「用語の意味」と「プロンプトの良し悪しの判断」の両方が問われます。特にZero-Shot/Few-Shotの区別、4要素、AIが苦手なことは頻出です。実践テクニックは「この操作は何と呼ぶか」を問う形で出ます。
1. LMとLLM
1.1 言語モデル(LM)とは
LM(Language Model、言語モデル)とは、ある単語の並びの次に、どの単語が来やすいかを確率で予測するしくみです。たとえば「明日は雨が___」という文の空欄には、「降る」が来る確率が高く「食べる」は低い、といった具合に、言葉のつながりやすさを数値でとらえます。
言語モデルには発展の歴史があります。
- n-gramモデル: 直前の数語(n個の単語の連なりを単位とし、直前のn−1語)だけを手がかりに次の単語を予測する、古典的でシンプルな統計的手法。長い文脈を考慮できないという弱点があります。
- ニューラル言語モデル: ニューラルネットワークを使って単語の意味や文脈をとらえる言語モデル。n-gramより広い文脈を扱え、精度が大きく向上しました。
1.2 大規模言語モデル(LLM)とは
LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)とは、膨大なテキストデータと巨大なニューラルネットワークで作られた、非常に大規模な言語モデルです。ChatGPTなどの対話型AIは、このLLMを土台にしています。
LLMは、まず大量のテキストで基礎学習を行います。これをプレトレーニング(事前学習)と呼びます。インターネット上の膨大な文章を読み込ませ、「言葉のつながり方」という汎用的な知識をあらかじめ身につけさせる工程です。この事前学習を終えたモデルに、さらに用途に合わせた調整を加えて実用化していきます。
絶対暗記: LM=言語モデル(次の単語を予測)。LLM=大規模言語モデル(LMを巨大化したもの)。プレトレーニング=事前学習で、大量テキストから汎用知識を先に学ぶ工程。
1.3 出力を左右する設定 — ハイパーパラメータ
モデルの学習や出力のふるまいを、人間があらかじめ決めておく設定値をハイパーパラメータと呼びます。データから自動で決まる値ではなく、人間が外から与える調整つまみだと考えると分かりやすいでしょう。
テキスト生成でよく登場するのが、出力の「多様性(ばらつき)」を制御する次の2つです。
| 設定 | 何を調整するか | 値を上げると | 値を下げると |
|---|
| Temperature | 出力のランダム性・多様性 | 意外性のある多様な文が出やすい | 無難で一貫した文が出やすい |
| top-p | 候補とする単語の範囲(確率の累積) | 幅広い候補から選び多様になる | 高確率の候補に絞られ堅実になる |
- Temperatureは、次の単語を選ぶときの「確率分布の鋭さ」を変える値です。低くすると最も確率の高い単語が選ばれやすく、出力が安定します。高くすると低確率の単語も選ばれやすくなり、創造的だが予測しにくい出力になります。
- top-p(核サンプリング、Nucleus Sampling)は、確率の高い単語から累積して一定の割合(p)に達するまでを候補とし、その範囲から選ぶ方式です。
事実を正確に答えてほしい業務ではTemperatureを低め、アイデア出しなど発想を広げたいときは高めに、といった使い分けをします。
ポイント: TemperatureもTop-pも「出力の多様性を制御する」パラメータ。値を上げるほど多様(創造的)、下げるほど堅実(安定)になる、という方向をセットで覚えます。
1.4 プロンプトとプロンプトエンジニアリング
プロンプト(Prompt)とは、生成AIに与える指示や質問の文のことです。そして、目的の出力を引き出せるようにプロンプトを工夫して設計する技術をプロンプトエンジニアリングと呼びます。同じAIでも、プロンプトの書き方しだいで返ってくる答えの質は大きく変わります。この章の後半は、まさにこのプロンプトエンジニアリングの実践です。
2. プロンプティングの基礎
プロンプトの書き方には、いくつかの基本パターンがあります。まず「例を示すかどうか」による2つの型を押さえます。
2.1 Zero-ShotとFew-Shot
| 型 | 意味 | 使いどころ |
|---|
| Zero-Shotプロンプティング | 例を1つも示さず、指示だけを与える | 一般的で単純なタスク |
| Few-Shotプロンプティング | いくつか(数個)の例を示してから指示する | 出力の形式やニュアンスを揃えたいタスク |
Zero-Shotプロンプティングは、お手本を見せずにいきなり指示する方法です。「次の文章を要約して」のように、AIがすでに知っている一般的なタスクなら、これで十分うまくいきます。
Few-Shotプロンプティングは、「こういう入力にはこう答えてほしい」という具体例をいくつか先に見せてから本題を指示する方法です。出力の形式・トーン・分類のしかたなどをAIに真似させたいときに有効です。
たとえば、口コミをポジティブ/ネガティブに分類させる場合のFew-Shotプロンプトは次のようになります。
次のレビューを「肯定的」か「否定的」で分類してください。
例1)「対応が早くて助かりました」→ 肯定的
例2)「二度と使いたくない」→ 否定的
対象)「値段のわりに品質がいまいちだった」→
このように例を添えると、AIは望みどおりの言葉づかいと形式で分類を返しやすくなります。
絶対暗記: 例を見せないのがZero-Shot、例をいくつか見せるのがFew-Shot。「Shot=例示の数」と覚えると混同しません。
2.2 良いプロンプトの4要素
質の高い出力を安定して得るには、プロンプトに必要な情報を過不足なく盛り込むことが大切です。良いプロンプトを構成する要素として、次の4つが挙げられます。
| 要素 | 意味 | 例 |
|---|
| Instruction(指示) | AIにしてほしいことそのもの | 「以下の文章を要約して」 |
| Context(文脈) | 背景・前提・条件 | 「読者は小学生。専門用語は使わない」 |
| Input Data(入力データ) | 処理してほしい対象のデータ | 要約したい本文そのもの |
| Output Indicator(出力形式の指定) | 答えの形・長さ・書式 | 「3行の箇条書きで」 |
この4要素を1つのプロンプトにまとめると、次のようになります。
【指示】次の商品説明を要約してください。
【文脈】ネット通販の商品ページ用。読者は一般の消費者です。
【入力データ】このワイヤレスイヤホンは最大30時間再生でき、ノイズ
キャンセリング機能とIPX7の防水性能を備えています。
【出力形式】キャッチーな1文(40字以内)で。
4つすべてを毎回そろえる必要はありませんが、指示だけで思いどおりにならないときは、文脈・入力データ・出力形式を補うと改善します。
試験では: 4要素の名前(Instruction / Context / Input Data / Output Indicator)と、それぞれが「何を指すか」の対応が問われます。特にOutput Indicator=出力形式の指定を取り違えないように。
3. LLMプロンプティングの実践
LLMは、文章に対するさまざまな加工が得意です。代表的な操作を整理します。
| 操作 | 内容 |
|---|
| 文章の校正・校正箇所の確認 | 誤字脱字・文法の修正、どこを直したかの提示 |
| 文章の整理 | 乱れた文章を読みやすく再構成 |
| 文章の要約 | 長文を短くまとめる |
| 箇条書き↔文章の相互変換 | 箇条書きを文章に、文章を箇条書きに |
| 対象読者の変更 | 専門家向け⇔初心者向けに言い換え |
| 話者(役割)設定の変更 | 「あなたは編集者です」など役割を与える |
| 会話のやり取りへ変換 | 説明文を対話形式に書き換え |
| 例え話で理解を深める | 難しい概念を身近な例にたとえる |
| 数字の変換 | 単位換算・表記ゆれの統一など |
3.1 文章の校正と校正箇所の確認
誤りを直すだけでなく、「どこをどう直したか」まで示させると、内容を確認しながら安心して使えます。
次の文章の誤字脱字と文法を校正してください。修正した箇所は、
「修正前 → 修正後」の一覧も添えてください。
文章:私は昨日、友達と映画をみにいきました。とてもおもしろしか
ったので、また見たいとおもいまた。
3.2 対象読者の変更
同じ内容でも、読み手に合わせて説明を変えられます。役割設定と組み合わせると効果的です。
あなたは理科の先生です。次の説明を、小学生にもわかるように、
専門用語を使わず、身近な例え話を交えて書き直してください。
説明:光合成とは、植物が光エネルギーを利用して二酸化炭素と水
から有機物を合成する反応である。
このプロンプトは、「話者(役割)設定の変更」「対象読者の変更」「例え話で理解を深める」を同時に使った例です。1つのプロンプトに複数のテクニックを重ねられる点が実践のコツです。
3.3 要約と形式変換
長文の要約や、文章と箇条書きの相互変換もよく使われます。出力形式(Output Indicator)を明確に指定するのがポイントです。
次の議事録を、要点3つの箇条書きに要約してください。各項目は
20字以内でお願いします。
(議事録の本文をここに貼り付け)
ポイント: 実践テクニックは「操作の名前」を問う出題が中心です。校正・整理・要約・箇条書き変換・対象変更・話者設定・会話化・例え話・数字変換という操作の呼び名を、内容とセットで押さえます。
4. テキスト生成AIを用いたビジネス応用
実務では、テキスト生成AIは幅広い業務に応用できます。主な用途を整理します。
| 分野 | 用途例 |
|---|
| 文書作成 | ビジネスメール、ビジネス書類テンプレート、会議のアジェンダ |
| 企画・発想 | キャッチコピー、ブレインストーミング、ディベート(賛否両論の整理) |
| 調査・分析 | アンケート項目の作成、アンケート結果の分析 |
| 業務の分解 | 業務手順の分解(ステップ化)、タスクの抽出 |
| 言語処理 | 外国語翻訳、英単語からの英文作成、海外企業宛メール |
| データ整形 | 姓と名の分離、ふりがなの記載 |
| 対話的な支援 | 質問させながら一緒に進める |
4.1 ビジネスメールの作成
要件を箇条書きで渡し、トーンや宛先を指定すると、整った文面が得られます。
次の要件で、取引先へのお詫びメールを作成してください。丁寧で
簡潔なビジネス文体でお願いします。
・件名:納品遅延のお詫び
・状況:部品の入荷遅れで、納品が3日遅れる見込み
・対応:新しい納品予定日は今週金曜。再発防止に努める旨を添える
4.2 業務手順の分解とタスク抽出
漠然とした依頼を、実行できる手順や作業単位に分けさせるのも得意分野です。
「社内セミナーを開催する」という業務を、準備から当日までの
手順に分解し、それぞれに必要なタスクを箇条書きで挙げてください。
4.3 データ整形 — 姓名分離・ふりがな
表計算では手間のかかる整形作業も、まとめて依頼できます。
次の氏名リストを「姓/名/ふりがな」の表に整理してください。
山田太郎、佐藤花子、鈴木一郎
4.4 質問させながら一緒に進める
AIに一方的に指示するだけでなく、足りない情報をAIから質問させることで、対話しながら成果物を仕上げられます。
新商品の企画書を一緒に作りたいです。いきなり書き始めず、必要な
情報を一つずつ私に質問してください。私の回答をもとに、最後に
企画書にまとめてください。
ポイント: ビジネス応用は「テキスト生成AIでできること/できないこと」を選ばせる出題があります。翻訳・要約・アイデア出し・文書作成・データ整形は得意、次の§5で扱う計算や最新情報は不得意、という線引きを意識しましょう。
5. テキスト生成AIの不得意なこと
テキスト生成AIは万能ではありません。しくみ上、苦手な作業がはっきりあります。なぜ苦手なのかを理由とともに理解しておくと、使いどころを誤りません。
| 苦手なこと | なぜ苦手か |
|---|
| 正確な文字数の指定 | 文字数を1文字ずつ数えて調整しているわけではなく、確率的に文を生成するため、「ちょうど100字」のような厳密な指定はずれやすい |
| 計算 | 数式を計算しているのではなく「それらしい続き」を予測しているだけなので、桁の多い計算などで誤りが出やすい |
| 最新の情報 | 学習データには区切り(カットオフ)があり、それ以降の出来事は原則知らない |
| 芸術の批評 | 「良い/悪い」は主観的な価値判断で、唯一の正解がない。学習データにある傾向をなぞるにとどまる |
5.1 なぜ計算と文字数が苦手か
LLMの本質は「次に来そうな単語を予測する」ことです。電卓のように計算処理をしているわけでも、文字を数えているわけでもありません。そのため、桁の大きな掛け算や、「厳密に○文字」といった指定は外しやすいのです。正確な計算が必要な場面では、AIに計算ツールを使わせる、あるいは人間が電卓・表計算で検算する、といった補い方をします。
5.2 なぜ最新情報が苦手か
LLMはあらかじめ用意された大量のテキストで事前学習(プレトレーニング)されており、その学習データにはいつまでのデータかという区切り(カットオフ)があります。カットオフより後の出来事は、追加の仕組みがなければ答えられません。最新情報を扱うには、外部の検索やデータベースを組み合わせるRAGのような手法が使われます。
5.3 ハルシネーションに注意
生成AIは、事実ではないことを、もっともらしく自信ありげに述べてしまうことがあります。これをハルシネーション(幻覚)と呼びます。存在しない書籍・法律・統計を「あるかのように」答えるのが典型例です。これも「それらしい続き」を生成するというしくみに由来する現象で、出力は必ず人間が事実確認することが欠かせません。
引っかけ: AIが苦手なのは「正確な計算」「厳密な文字数」「最新情報」「主観的な批評」。逆に、要約・翻訳・言い換え・アイデア出しは得意分野です。「計算は正確」「最新ニュースに強い」といった選択肢は誤りとして頻出します。
6. プロンプト改善の実例
ここまでの4要素(指示・文脈・入力データ・出力形式)を、実際の「不十分なプロンプト → 改善」で確認します。多くの場合、足りないのは文脈と出力形式です。
例1: お詫びメール
- 不十分: 「取引先へのお詫びメールを書いて。」
- 足りない要素: 文脈・入力データ・出力形式
- 改善: 「あなたは法人営業の担当者です。取引先A社への納品が2日遅れます。遅延理由(部品の入荷遅れ)・新しい納品日(6月20日)・再発防止策(在庫2週間分確保)を盛り込み、300字程度・丁寧な敬語・件名つきでお詫びメール本文を作成してください。」
- 誰に何を詫びるか(文脈)、盛り込む事実(入力データ)、長さと形式(出力形式)を足すと、そのまま使えるメールになります。
例2: 議事録の要約
- 不十分: 「この議事録を要約して。」(+議事録)
- 足りない要素: 文脈・出力形式
- 改善: 「以下は営業部の定例会議の議事録です。欠席した部長が短時間で把握できるよう、箇条書き5点以内で、各点の先頭に【決定】か【TODO】を付けて要約してください。」
- 指示と入力データはあるので、読み手(文脈)と件数・形式(出力形式)を足すのがポイントです。
例3: アイデア出し
- 不十分: 「新商品のアイデアを出して。」
- 足りない要素: 文脈・出力形式
- 改善: 「20代女性向けの低価格スキンケアブランドです。SNSで話題になりやすい新商品案をターゲットの悩みに紐づけて10個、『商品名/解決する悩み/一言コピー』の表形式で提案してください。」
例4: SNS投稿文(あと一歩の例)
- 不十分: 「下北沢のブックカフェが10月1日オープン、コーヒー1杯目無料の投稿を書いて。」
- 足りない要素: 出力形式(指示・文脈・入力データは揃っている)
- 改善: 上記に「120字以内・親しみやすいトーン・ハッシュタグ3つ」という出力形式を足す。
- 情報が揃っていても出力形式がないと媒体に合わない投稿になりがちです。
試験では: 「良いプロンプトにするために足りない要素はどれか」を問う形が想定されます。4要素のうち、特に文脈と出力形式が抜けやすいことを押さえましょう。
まとめ
- LMは次の単語を確率で予測する言語モデル。n-gram → ニューラル言語モデルと発展。これを巨大化したのがLLM(大規模言語モデル)
- プレトレーニング(事前学習) で汎用知識を先に学ぶ。Temperatureとtop-pは出力の多様性を制御する設定で、上げると多様・下げると堅実
- プロンプトはAIへの指示文。工夫して設計する技術がプロンプトエンジニアリング
- 例を示さないのがZero-Shot、いくつか示すのがFew-Shot。良いプロンプトの4要素はInstruction・Context・Input Data・Output Indicator
- 実践では校正・整理・要約・箇条書き変換・対象変更・話者設定・会話化・例え話・数字変換が定番。複数を1プロンプトに重ねられる
- ビジネスではメール・アジェンダ・キャッチコピー・翻訳・タスク抽出・ブレスト・データ整形などに応用できる
- 苦手なのは正確な文字数・計算・最新情報・芸術の批評。しくみ(次単語予測・学習データのカットオフ)に由来。ハルシネーションに備え、出力は人間が事実確認する