この章で学ぶこと
いよいよ公共の最後の章です。 ここまで学んできた 「個人と社会」 「民主主義と政治」 「経済」 「国際社会」 を統合し、 「私たちはどんな社会をつくっていくべきか、 そのために何をすべきか」 を考える章です。
21 世紀 の私たちは、 気候変動・格差拡大・紛争・感染症・人工知能 — かつてない大きな課題に直面しています。 これらを一つの国や一部の大人だけで解くことはできません。 全ての人、 全ての国が、 知恵を出し合い行動する 必要があります。
- 持続可能性 (サステナビリティ) とは何かを理解する
- SDGs 17 目標 の全体像を把握 する
- 気候変動 と パリ協定 の意義 を知る
- ジェンダー平等 や 難民 などの国際課題を学ぶ
- NGO / NPO など市民社会の役割を知る
- 主権者としての自覚 と行動を育てる
ポイント: 「自分一人がやっても変わらない」 と思う必要はありません。 大きな社会変革はいつも、 一人ひとりの小さな行動と選択 の積み重ねから生まれてきました。
1. 持続可能な社会とは
SDGs (持続可能な開発目標) — 2015 年国連採択。 2030 年までの 17 目標。 主体的な市民として自分ごと化することが求められる。
持続可能性 (Sustainability) とは、 「現在世代のニーズを満たしつつ、 将来世代のニーズを損なわないこと」 を意味します (1987 年ブルントラント委員会報告)。
3 つの柱
持続可能性は次の 3 要素のバランスで成り立ちます。
| 柱 | 内容 | 例 |
|---|
| 環境 | 地球環境の保全 | 気候変動抑制、 生物多様性 |
| 社会 | 公平で包摂的な社会 | 貧困削減、 教育、 平等 |
| 経済 | 持続可能 な経済成長 | グリーン経済、 雇用 |
なぜ 「持続可能性」 か
20 世紀 の経済成長 は大量生産・大量消費・大量廃棄 を前提としましたが、 それは 地球の有限な資源を食い尽くす モデルでした。 21 世紀 になり、
- 気候変動 が異常気象・海面上昇を引き起こす
- 生物多様性 が急速に失われる
- 海洋プラスチック汚染 が深刻化
- 格差 が国内・国際で拡大
- 資源枯渇 の心配 (魚・水・希少金属)
こうした状況で 「このままでは地球が持たない」 と認識 されたことが、 持続可能性の議論の出発点です。
環境問題の国際会議
| 年 | 会議 | 内容 |
|---|
| 1972 | 国連人間環境会議 (ストックホルム) | 「かけがえのない地球」 |
| 1992 | 国連環境開発会議 (リオサミット) | 気候変動枠組条約・生物多様性条約採択 |
| 1997 | 京都議定書採択 | 先進国に温室効果ガス削減義務 |
| 2015 | パリ協定採択 | 全加盟国が削減目標 |
2. SDGs — 17 の目標
SDGs (Sustainable Development Goals、 持続可能 な開発目標) は、 2015 年 9 月国連サミット で全加盟国 (193 か国) が採択した、 2030 年 までの共通目標 です。
SDGs の基本
| 項目 | 内容 |
|---|
| 目標数 | 17 |
| ターゲット数 | 169 |
| 目標年 | 2030 年 |
| 基本理念 | 「誰一人取り残さない」 (No one will be left behind) |
| 対象 | 先進国を含む全ての国 |
SDGs の 17 目標
| 番号 | 目標 |
|---|
| 1 | 貧困をなくそう |
| 2 | 飢餓 をゼロに |
| 3 | すべての人に健康と福祉を |
| 4 | 質の高い教育をみんなに |
| 5 | ジェンダー平等 を実現 しよう |
| 6 | 安全な水とトイレを世界中に |
| 7 | エネルギーをみんなにそしてクリーンに |
| 8 | 働きがいも経済成長 も |
| 9 | 産業と技術革新の基盤をつくろう |
| 10 | 人や国の不平等をなくそう |
| 11 | 住み続けられるまちづくりを |
| 12 | つくる責任つかう責任 |
| 13 | 気候変動に具体的な対策を |
| 14 | 海の豊かさを守ろう |
| 15 | 陸の豊かさも守ろう |
| 16 | 平和と公正をすべての人に |
| 17 | パートナーシップで目標を達成 しよう |
SDGs の 5 つの P (大きなテーマ)
| P | 意味 | 関連目標 |
|---|
| People (人間) | 貧困・飢餓・健康・教育・ジェンダー | 1〜6 |
| Prosperity (繁栄) | 経済成長・働きがい・産業 | 7〜11 |
| Planet (地球) | 環境・気候・海・陸 | 12〜15 |
| Peace (平和) | 平和・公正 | 16 |
| Partnership (協力) | 多国間協力 | 17 |
大事: SDGs は 「政府だけの目標」 ではありません。 企業・自治体・学校・個人 — 全ての主体 が取り組むことを想定しています。 高校生であるあなたも、 「自分にできること」 を考えてください。
3. 気候変動とパリ協定
SDGs 17 目標の中でも特に緊急性が高いとされるのが 気候変動 (目標 13) です。
気候変動の現状
| 指標 | 状況 |
|---|
| 世界平均気温 | 産業革命前と比べて約 1.1 °C 上昇 (2020 年時点) |
| 海面上昇 | 過去 100 年で約 20 cm |
| 異常気象 | 豪雨・干ばつ・熱波・大型台風 が増加 |
| 北極海氷 | 急速に減少 |
| 生物多様性 | 多くの種が絶滅の危機 |
なぜ気候が変動するのか
主な原因は 温室効果ガス (CO₂・メタンなど) の排出増加です。 産業革命以降 の化石燃料 (石炭・石油・天然ガス) の大量消費で、 大気中の CO₂ 濃度 が過去 80 万年で最高レベルになっています。
パリ協定 (2015)
パリ協定 は、 京都議定書に代わる 新しい国際枠組み です。 2020 年から本格実施。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 長期目標 | 産業革命前比で気温上昇を 2 °C 未満、 できれば 1.5 °C に抑える |
| 対象国 | 全加盟国 (先進国 + 途上国) |
| 削減目標 | 各国が自主的に設定・5 年ごとに強化 |
| 長期戦略 | 21 世紀後半に排出量と吸収量のバランス (実質ゼロ) |
カーボンニュートラル
カーボンニュートラル とは、 温室効果ガスの 排出量と吸収量を等しくする こと (実質ゼロ)。 日本政府は 2020 年に 「2050 年カーボンニュートラル」 を宣言し、 主要国も同様の目標 を掲げています。
グリーンエネルギー
| 種類 | 特徴 |
|---|
| 太陽光発電 | 屋根・空地で発電。 コスト急落 |
| 風力発電 | 陸上・洋上で大規模化 |
| 地熱 | 火山国日本の強み |
| 水力 | 安定した既存電源 |
| バイオマス | 木材・廃棄物からエネルギー |
私たちにできる気候行動
- 省エネ — エアコンの適正温度、 LED 照明
- 食の選択 — 地産地消、 食品ロス削減
- 移動の工夫 — 公共交通、 自転車、 EV
- 買い物 — リサイクル製品、 環境ラベル商品
- 声を上げる — 政治 ・ 企業への働きかけ
4. ジェンダー平等と多様性
ジェンダー とは、 生物学的性 (sex) に対して 「社会的・文化的につくられた性役割」 です。 「男らしさ」 「女らしさ」 の期待が、 個人の自由を縛る場面があります。
ジェンダー平等の課題 (日本)
| 分野 | 状況 |
|---|
| 国会議員 | 女性比率約 10 %(衆院)、 約 25 %(参院) — 世界平均約 26 %より低い |
| 企業管理職 | 女性比率約 12 %(課長以上) |
| 賃金格差 | 女性の平均賃金は男性の約 75 % |
| 家事 ・ 育児時間 | 共働き世帯でも女性が約 5 倍負担 |
ジェンダー ・ ギャップ指数
世界経済フォーラムの 「ジェンダー ・ ギャップ指数」 で、 日本は 148 か国中 118 位 (2023 年) と、 先進国で最低水準です。 特に 「政治」 「経済」 分野の遅れが指摘 されています。
LGBTQ+ とセクシュアル ・ マイノリティ
| 用語 | 意味 |
|---|
| L Lesbian | 女性同性愛者 |
| G Gay | 男性同性愛者 |
| B Bisexual | 両性愛者 |
| T Transgender | 出生時性と性自認が異なる人 |
| Q Queer / Questioning | 自認を探索中・特定しない |
| + | 上記以外の多様 な性 |
日本では同性婚が法的に認められていませんが、 自治体レベルで パートナーシップ制度 が広がっています。 G7 諸国で同性婚が認められていないのは日本だけです (2023 年時点)。
多様性 (ダイバーシティ) の尊重
| 軸 | 内容 |
|---|
| 性別 | 男・女・X ジェンダー・ノンバイナリー |
| 国籍 ・ 民族 | 在日外国人、 アイヌ、 琉球、 帰化 |
| 障害 | 身体 ・ 知的 ・ 精神 ・ 発達 |
| 年齢 | 子どもから高齢者まで |
| 宗教 | 多宗教共存 |
| 学歴 ・ 経歴 | 多様 な経路 |
大事: 「平等」 は 「全員同じ扱い」 ではなく、 「その人に必要な配慮 をして、 同じスタートラインに立つ」 ことです (公正・equity の考え方)。
5. 難民・人道危機
世界では紛争・迫害・気候災害などで故郷を追われる人が急増しています。
難民の現状 (UNHCR)
| 区分 | 数 |
|---|
| 強制移動された人 (合計) | 約 1.1 億人 (2023 年) |
| 難民 (国境を越えた人) | 約 3500 万人 |
| 国内避難民 | 約 6500 万人 |
| 庇護申請者 | 約 600 万人 |
主な出身国: シリア、 ウクライナ、 アフガニスタン、 ミャンマー、 ベネズエラ。
難民条約
難民条約 (1951 年) は、 「人種・宗教・国籍・政治的意見などで迫害 される恐れがあるため国を出た人」 を難民と定義 し、 受入れ国は送還してはならない (ノン ・ ルフールマン原則) と定めています。
日本の難民受入れ
日本の難民認定数は年間数十 〜 200 人程度で、 申請者の認定率は 1〜2 % と先進国中極端に低いことが国際社会から指摘されています。 2022 年ウクライナ侵攻後、 「避難民」 として約 2000 人を受入れたことは注目されました。
メモ: 2023 年改正入管法は、 難民申請中であっても 3 回目以降 は強制送還を可能とし、 国連や NGO から批判を受けています。
6. 市民社会 — NGO・NPO・ボランティア
社会を動かす主体は 「政府」 と 「企業」 だけではありません。 市民自身 が集まり課題解決 に取り組む 「市民社会」 が重要な役割 を果たしています。
NGO と NPO
| 略語 | 正式名 | 特徴 |
|---|
| NGO | 非政府組織 (Non-Governmental Organization) | 主に国際協力分野 |
| NPO | 非営利組織 (Non-Profit Organization) | 主に国内の福祉・環境・教育分野 |
主な国際 NGO
| 名称 | 活動分野 |
|---|
| 国境なき医師団 (MSF) | 紛争地 ・ 災害地での医療 |
| 赤十字 / 赤新月 | 災害 ・ 紛争救援 |
| アムネスティ | 人権・政治犯救援 |
| WWF | 自然環境保護 |
| オックスファム | 貧困削減 |
日本の NPO 法
1998 年の 特定非営利活動促進法 (NPO 法) により、 市民が簡単に法人をつくれるようになりました。 現在約 5 万の認証 NPO 法人があります。
ボランティア
| 分野 | 例 |
|---|
| 災害支援 | 地震・水害で復旧を手伝う |
| 福祉 | 高齢者・障害者の生活支援 |
| 環境 | 海岸清掃、 森林保全 |
| 教育 | 子どもの学習支援、 国際交流 |
| 国際協力 | 開発途上国での活動 |
メモ: 1995 年の阪神・淡路大震災で多くのボランティアが駆け付け、 この年が 「ボランティア元年」 と呼ばれます。 その後、 NPO 法制定 (1998)、 東日本大震災 (2011) を経て、 市民活動が社会に定着 してきました。
7. 主体的市民としての行動
最後に、 「私たちはどのように社会に関わっていくか」 を考えましょう。
主権者教育の 4 つの力
文部科学省は 主権者教育 で育てるべき力を次のように整理しています。
| 力 | 内容 |
|---|
| ① 知識 ・ 理解 | 社会のしくみを知る |
| ② 思考力 | 多角的に考える |
| ③ 判断力 | 自分の意見を持つ |
| ④ 行動力 | 実際に社会に関わる |
社会を変える 5 つのレベル
| レベル | 行動 |
|---|
| 個人 | 日々の選択 (買い物・ごみ分別・節電) |
| 家庭 | 家族で話し合う、 価値観を共有 |
| 学校 ・ 地域 | 委員会・自治会・ボランティア |
| 国政 | 投票・請願・パブリックコメント |
| 国際 | 留学・国際 NGO・SNS 発信 |
高校生でもできる行動
- 学ぶ — ニュースを毎日見る、 本を読む、 多様 な人と話す
- 発信する — 学校新聞、 SNS、 ブログ
- 参加する — 生徒会、 部活、 地域行事、 ボランティア
- 意見を出す — 学校 ・ 自治体への提案、 アンケート回答
- 18 歳で投票する — 必ず投票所に行く
社会を変えた高校生 ・ 若者の例
世界では多くの若者が社会を動かしてきました。
| 名前 | 活動 |
|---|
| マララ ・ ユスフザイ (パキスタン) | 女子教育を訴え 17 歳でノーベル平和賞 |
| グレタ ・ トゥーンベリ (スウェーデン) | 15 歳から気候変動抗議、 世界中の若者を動員 |
| エマ ・ ゴンザレス (米国) | 銃規制を訴える高校生リーダー |
大事: 「私は普通の高校生だから…」 と思う必要はありません。 マララもグレタも、 始めは一人の普通の中高生でした。 彼ら とあなたの違いは、 「始めたかどうか」 だけです。
まとめと安全配慮
この章のまとめ
| 学んだこと | キーワード |
|---|
| 持続可能性 | 環境・社会・経済の 3 本柱 |
| SDGs | 17 目標、 「誰一人取り残さない」 |
| 気候変動 | パリ協定、 カーボンニュートラル |
| 多様性 | ジェンダー、 LGBTQ+ |
| 難民 | UNHCR、 難民条約 |
| 市民社会 | NGO・NPO・ボランティア |
| 主体的市民 | 主権者教育、 18 歳投票 |
安全配慮 — わたしたちにできる SDGs 行動
公共の学びの締めくくりとして、 「明日からできる行動」 をリストアップしましょう。 大切なのは 「できることから始める」 ことです。
17 目標ごとの 「私にできること」 例
| 目標 | できる行動 |
|---|
| 1 貧困をなくそう | フェアトレード商品を選ぶ、 寄付 |
| 2 飢餓ゼロ | 食品ロスを出さない、 食べ物を残さない |
| 3 健康と福祉 | 自分の健康を大切に、 ワクチンを受ける |
| 4 質の高い教育 | 学校を大切に、 弟妹に勉強を教える |
| 5 ジェンダー平等 | 「男 / 女だから」 と言わない、 多様性尊重 |
| 6 安全な水とトイレ | 水を大切に使う、 節水 |
| 7 クリーンエネルギー | 節電、 LED 照明 |
| 8 働きがいと経済成長 | アルバイトでも労働法を知る |
| 9 産業と技術革新 | 新しい技術 ・ 知識を学ぶ |
| 10 不平等をなくそう | 差別しない、 誰でも受け入れる |
| 11 住み続けられるまち | 地域行事に参加、 ごみ分別 |
| 12 つくる責任つかう責任 | リデュース・リユース・リサイクル |
| 13 気候変動対策 | 公共交通・自転車を使う |
| 14 海の豊かさ | プラスチック削減、 マイボトル |
| 15 陸の豊かさ | 植樹、 森林を守る認証商品 |
| 16 平和と公正 | 暴力・いじめを許さない、 投票 |
| 17 パートナーシップ | 国際交流、 ボランティア |
主権者としての 5 つの約束
公共の学びを振り返り、 これからの自分と約束しましょう。
- 18 歳になったら必ず投票に行く — 一票が民主主義を支える
- ニュースを毎日確認する — 自国・世界で起きていることを知る
- 意見が違う人とも対話する — 多様性を尊重し学ぶ
- 困っている人を見過ごさない — 助けを求める、 助ける、 支援団体を知る
- 自分の行動が社会を変えると信じる — 小さな行動の積み重ねが大きな変化を生む
安全 ・ 心の配慮
社会課題を学ぶ中で、 「世界は暗い」 「自分一人では何もできない」 と気持ちが沈むことがあるかもしれません。 その時は
- 休む勇気を持つ — 全ての課題を一度に解こうとしなくていい
- 仲間と共有する — 友達・家族・先生と話す
- 小さな成功を喜ぶ — リサイクル 1 個、 投票 1 票でも立派な行動
- 困ったら相談: いのちの電話 (0570-783-556)、 24 時間子ども SOS (0120-0-78310)、 よりそいホットライン (0120-279-338)
最後のメッセージ
「公共」 で学ぶ全ては、 「あなたが主役の社会」 についてのことです。 教科書を閉じ、 試験が終わっても、 学んだことはあなたの中に残り、 大人になった時の判断を支えます。
完璧な社会はどこにもありません。 でも 「より良い社会をめざす」 努力を続けることは必ずできます。 一人の力は小さくても、 18 歳になれば投票ができます。 SNS で声を上げることもできます。 ボランティアに参加することもできます。
未来の社会をつくるのは、 政治家でも大企業でもなく、 今ここでこの教科書を読んでいるあなた です。 自信を持って、 一歩ずつ進んでください。 公共の学びの旅はここで一区切りですが、 主権者としての学びはこれからも続きます。
まとめ — 持続可能な社会と主体的市民を 3 行で
- SDGs と 持続可能性 は環境・経済・社会の統合を目指し、 パリ協定 と カーボンニュートラル が気候変動対策の中心
- ジェンダー平等・公正 と包摂、 難民条約 などの課題には国家・NGO・NPO・個人が連携して取り組む
- 主体的市民として 18 歳からの投票・消費・参加を通じ、 学んだ 「公共」 を一歩ずつ行動に移していく