この章で学ぶこと
2022 年度から高校で始まった必修科目 「公共」 は、 これまでの 「現代社会」 を大きく作り直した新しい科目です。
「公共」 は単に政治や経済の仕組みを覚える科目ではありません。 「主権者 として、 多様な他者と共に社会をつくる力」 を 養うことを目的としています。
- 「公共」 とは何か、 「現代社会」 とどう違うかを知る
- 3 つの大きな変化 (グローバル化・情報化・少子高齢化) をつかむ
- 18 歳選挙権 と 18 歳成人 が持つ意味を考える
- SDGs と 持続可能性 とは何かを学ぶ
- 1 年間 の公共学習の流れをイメージする
ポイント: 中学公民が 「社会の仕組みを知る」 段階だったとすれば、 高校公共は 「主権者として、 自分がどう行動するかを考える」 段階です。 答えは一つではない問いに、 自分の頭で向き合う練習をします。
1. 「公共」 とは何か
「公共」 とは、 文字通り 「みんなに関わること」 を意味します。 道路・公園・学校・防災といった 「公共のもの」 だけでなく、 選挙・憲法・裁判・国際協力といった社会の仕組み全体が公共の領域に含まれます。
高校公共が目指す 3 つの力
文部科学省の学習指導要領は、 公共の目標 を大きく 3 つにまとめています。
| 力 | 内容 | 例 |
|---|
| ① 知識・技能 | 政治・経済・倫理・国際社会の基礎を理解する | 三権分立・需要供給・国連 |
| ② 思考・判断・表現 | 多様な 立場 の意見を 踏まえて自分の考えをつくる | 9 条解釈・原発 の是非 |
| ③ 学びに向かう力 | 社会の一員 として 主体的に行動する | 選挙投票・ボランティア・請願 |
旧 「現代社会」 との違い
| 観点 | 旧 「現代社会」 (-2021) | 新 「公共」 (2022-) |
|---|
| 位置付け | 選択必修 | 必修 (全高校生が学ぶ) |
| 中心軸 | 知識の体系的な学習 | 主体的な 問い・話し合い |
| 対象学年 | 1-3 年で 選択 | 主に 1-2 年で必修 |
| 18 歳との関係 | あまり 強調 されず | 18 歳主権者教育 が大黒柱 |
大事: 公共は 「答えを暗記 する科目」 ではありません。 「意見が分かれる 問いに、 根拠 を示して議論 する練習」 をする科目です。 立場 の違う人を否定 せず、 対話 する姿勢 が求められます。
2. 現代社会の特色 ① グローバル化
「グローバル化」 とは、 国境 を 越えて人・モノ・お金・情報が行き来し、 世界が一体 につながる動き です。
グローバル化の具体例
| 分野 | 例 |
|---|
| モノ | スマホの 部品 は中国・韓国・台湾・米国で分業 |
| 人 | 海外旅行・留学、 在日外国人約 358 万人 (2025 年 6 月末) (2024) |
| お金 | 円とドルの 為替、 多国籍企業の海外投資 |
| 情報 | インターネットで世界中のニュースが 瞬時 に届く |
| 食 | 日本の食料自給率 (カロリー 基) は約 38% (2023) |
グローバル化の利点と課題
| 利点 | 課題 |
|---|
| 安く多様な 商品 が入手可能 | 国内産業 が海外との 競争 で苦戦 |
| 世界の文化に 触れられる | 文化摩擦・偏見・差別 |
| 地球規模の 課題 に 協力 できる | 感染症・経済危機 も 瞬時 に拡散 |
ポイント: グローバル化は 「良い・悪い」 で一つに 括れません。 立場 によって受け止め方は違います。 例えば安い輸入商品 は消費者に利益をもたらしますが、 国内生産者には打撃です。 「誰にとっての利益か」 を考える視点が大切です。
3. 現代社会の特色 ② 情報化
「情報化」 とは、 コンピューターとインターネットが社会の中心となり、 大量の情報が 瞬時 にやり取りされる状態 になることです。
情報化の主な動き
- インターネット: 1990 年代後半に一般 普及
- スマートフォン: 2010 年代に 急速 普及 (世帯保有率 90% 超)
- SNS (X・Instagram・LINE・TikTok): 個人が世界へ 発信可能
- AI (人工知能): 画像・文章生成、 自動翻訳、 自動運転
- キャッシュレス 決済: スマホ決済 が 急速 に 普及
情報化の利点と課題
| 利点 | 課題 |
|---|
| 知識 と 情報 へのアクセスが容易 | フェイクニュース・偽情報の 拡散 |
| 地理的距離 を 越えてつながれる | デジタルデバイド (情報格差) |
| 個人が 発信 でき、 多様な声が届く | プライバシー侵害・誹謗中傷 |
| AI が 単純作業を 補助 | AI 時代の雇用 と著作権問題 |
「メディアリテラシー」 が不可欠
情報化社会で主体的に生きるには、 「メディアリテラシー」 が不可欠です。 これは メディアが流す情報を批判的に読み解き、 自ら賢く使う力 を指します。
- 発信元を確認: 公的機関 / 大手メディア / 個人ブログで信頼度は違う
- 複数の情報源 を 比較 する
- タイトルだけで 判断 しない (本文と違う場合多し)
- 発信する前に立ち止まる (拡散する責任)
4. 現代社会の特色 ③ 少子高齢化
「少子高齢化」 とは、 生まれる子どもが減り (少子化)、 65 歳以上の高齢者の 割合 が増える (高齢化) 現象 です。 日本は世界で最もこの 傾向 が進んだ国です。
数字で見る日本の少子高齢化
| 指標 | 1970 年 | 2000 年 | 2024 年 |
|---|
| 合計特殊出生率 | 2.13 | 1.36 | 約 1.20 |
| 65 歳以上の 割合 | 7.1% | 17.4% | 約 29.3% |
| 平均寿命 (男) | 69.31 歳 | 77.72 歳 | 81.09 歳 |
| 平均寿命 (女) | 74.66 歳 | 84.60 歳 | 87.14 歳 |
65 歳以上の 割合 が 21% を超えると 「超高齢社会」 と呼ばれます。 日本は 2007 年に到達 し、 現在は約 30% に迫ります。
少子高齢化がもたらす影響
| 分野 | 影響 |
|---|
| 社会保障 | 年金・医療・介護 の 負担 が現役世代に 集中 |
| 労働力 | 生産年齢人口 (15-64 歳) の 減少、 人手不足 |
| 地域社会 | 過疎化、 限界集落、 学校統廃合 |
| 財政 | 税収減 + 社会保障支出増で 赤字 拡大 |
対応策と議論
少子高齢化への対応として、 以下のような政策が議論 されています。
- 子育て 支援 (保育所拡充、 児童手当)
- 女性と高齢者の就労促進
- 外国人労働者の受け入れ
- 社会保障制度 の改革 (年金受給開始年齢、 窓口 負担割合)
- AI・ロボットによる 省力化
議論のポイント: 「子育て 支援 を増やす」 「消費税を上げる」 「移民 を受け入れる」 など、 どの案にも賛成と反対があります。 公共では一方の 立場 を押しつけず、 さまざまな意見を 比較 して自分の考えをつくります。
5. 18 歳主権者の時代
2016 年に 選挙権が 18 歳に引き下げられ、 2022 年には民法改正で成人年齢も 18 歳となりました。 高校在学中に 選挙 が行われる時代が来ています。
選挙の投票。2016 年に選挙権が 18 歳に引き下げられ、高校在学中から主権者として政治に参加できるようになった。一票が社会をつくる。
18 歳でできること・できないこと
| 18 歳でできること | 20 歳までできないこと |
|---|
| 選挙 で投票 する | お酒を飲む |
| 国民投票 (憲法改正) | タバコを吸う |
| クレジットカードをつくる | 競馬・競輪等の 公営 競技 |
| ローンを組む | 養子を 迎える (養親 となる) |
| 一人で 契約 を 結ぶ | 大型・中型自動車免許 |
| 親権 (父母の 同意不要) | 裁判員 (5 年後から年齢引き下げ議論中) |
「主権者教育」 の必要性
「主権者教育」 とは、 国民主権 の担い手として、 政治に主体的に関わる力を 育てる教育 です。 国会選挙の投票率を見ると、 若い世代ほど低くなる 傾向 があります (10-20 代は 30-40% 台、 60 代は 70% 前後)。
なぜ投票 が大切かを整理してみましょう。
| 観点 | 説明 |
|---|
| 代表の 選出 | 自分の代わりに 国会 で 議論 する人を選ぶ |
| 政策の 選択 | 増税 か 減税 か、 原発 か 脱原発 かなど |
| 若者の声を 反映 | 投票率が低いと、 政治家は高齢者向け政策に偏りやすい |
大事: 選挙 で投票 するだけが政治参加ではありません。 請願・パブリックコメント・SNS での発言・ボランティア・NPO 参加など、 多様な形があります。 自分に合う関わり方を見つけることが出発点です。
6. 持続可能な社会と SDGs
地球 温暖化、 貧困、 格差、 紛争 など、 現代社会は国境 を 越える課題に 直面 しています。 これらに国際社会が力を合わせて取り組む目標が 「SDGs」 (持続可能な開発目標) です。
SDGs とは
- 2015 年 の国連総会 で採択 された
- 2030 年 までに達成を目指す 国際目標
- 17 の 目標 と 169 のターゲット で構成
- 「誰一人取り 残さない」 がキーワード
17 の目標 (一部)
| 番号 | 目標 |
|---|
| 1 | 貧困 をなくそう |
| 4 | 質の高い教育をみんなに |
| 5 | ジェンダー 平等 を 実現 しよう |
| 7 | エネルギーをみんなにそしてクリーンに |
| 13 | 気候変動 に具体的な対策を |
| 16 | 平和 と 公正 をすべての人に |
持続可能性とは
「持続可能性」 (サステナビリティ) とは、 将来の世代が必要を満たす能力を 損なわず、 現在の必要を満たすこと を指します (1987 年国連 報告 「我ら共通の未来」 の定義)。
- 環境・社会・経済 の 3 つのバランスが必要
- 世代間公正 (今と未来の世代の 公平)
- 世代内公正 (先進国と途上国・男女間の 公平)
ポイント: 「経済を優先するか、 環境 を優先するか」 という二択 ではなく、 「両方を高いレベルで両立させる道を探す」 のが SDGs の考え方です。 例: 再生可能エネルギー産業 は環境 と 雇用両方に貢献します。
7. 公共で大切にする 「思考の道具」
公共では答えが一つでない 問いに取り組みます。 そのとき役立つ 「思考の道具」 を紹介します。
① 事実と意見を分ける
| 事実 | 意見 |
|---|
| 「2024 年の出生数は約 72 万人」 | 「子育て支援 をもっと増やすべき」 |
| 数字・記録・実験で 確認可 | 立場 や価値観で異なる |
② 複数の 立場 を想像する
例: 「コンビニ 24 時間営業をどう考えるか」
- 消費者 → 便利 さを求める
- 店員・店長 → 人手不足で 負担 が大きい
- フランチャイズ本部 → 売上 を 維持 したい
- 環境 団体 → エネルギー 消費 を 減らしたい
- 高齢者 → 夜中に体調が悪いとき助かる
→ 同じ出来事 でも 立場 によって見え方が違う ことを 理解 する。
③ 「功利主義」 と 「義務論」
倫理学で古くから議論されてきた二大アプローチです。
| アプローチ | 特徴 | 弱点 |
|---|
| 功利主義 | 「最大多数の最大幸福」 を目指す。 結果を重視 | 少数派の権利 が軽視されがち |
| 義務論 | 「人を手段として扱わず目的として扱う」 (カント)。 行為そのものの 正義 を重視 | 現実 との折り合いが難しい場合あり |
→ どちらか一方が正解ではない。 状況 によって使い分け、 あるいは 両立 させる道を探す。
④ 「ロールズ の無知 のベール」
20 世紀の 哲学者ロールズは 「自分がどんな立場 (性別・人種・財産・才能) に生まれるか分からない状態で、 どんな社会を望むか」 を考える思考実験 を提唱 しました。
→ この視点を持つことで、 自分の都合だけでなく、 弱い 立場 の人にも配慮 した 社会 を考えやすくなります。
8. これから 1 年の学び
最後に、 公共全 10 章の全体像を確認しておきましょう。
| 章 | テーマ | キーワード |
|---|
| Ch1 | 公共とは (現代社会) | グローバル化・情報化・少子高齢化 |
| Ch2 | 青年期と古今の思想 | アイデンティティ・諸子百家・宗教 |
| Ch3 | 民主主義と人権 の歴史 | マグナ・カルタ・社会契約説 |
| Ch4 | 日本国憲法 と基本的人権 | 三大原則・新しい人権 |
| Ch5 | 民主政治のしくみ | 三権分立・裁判員制度 |
| Ch6 | 選挙 と政治参加 | 比例代表・18 歳選挙 権 |
| Ch7 | 経済 のしくみと市場 | 需要 供給・株式会社 |
| Ch8 | 政府の 役割 と財政・金融 | 税金・日本銀行・社会保障 |
| Ch9 | 国際社会と日本 | 国連・WTO・自由貿易 |
| Ch10 | 持続可能な社会と主体的市民 | SDGs・気候変動 |
学び方のコツ
- ニュースと 結びつける: 教科書の言葉を現実の出来事 とつなぐ
- 複数の 立場 から考える: 自分と違う意見にも 耳 を 傾ける
- 数字と出典 を 確認: 「なんとなく」 でなく根拠 を 大切 に
- 議論を 恐れない: 意見 が違うことは 自然、 対話 で 深める
まとめチェック
安全配慮: 多様な意見の尊重
公共の学びで最も 大切 なのは 「自分と違う意見を否定 せず、 まず聴く」 姿勢 です。
- 政治や 社会 問題 では、 家庭や 友だちの間で意見が違うことがあります。 「どちらが正しいか」 を 競う場ではなく、 「なぜその人はそう考えるのか」 を 理解 しようとする場として教室を使いましょう
- SNS での発信は慎重 に。 一度出した言葉は 完全 に消せないことがあり、 誰かを 傷 つける可能性もあります
- 自分の 「当たり前」 が、 他の人にはそうでない場合があることを 意識 しよう。 文化・宗教・性別・障害 の 有無・経済状況 など、 さまざまな違いがあります
- 困ったことや不安があれば、 一人で抱え込まず先生・相談 窓口・家族に話そう。 「話していいこと」 です
まとめ — 公共とはを 3 行で
- 公共 は 18 歳成人と 18 歳選挙権 を前に主権者としての力を育てる高校必修科目
- 現代社会 は グローバル化・情報化・少子高齢化 という 3 つの変化の中にあり、 フェイクニュース や デジタルデバイド などの課題と向き合う
- SDGs と 持続可能性 を軸に、 功利主義 や ロールズ の思想を学び メディアリテラシー で事実と意見を区別する