この章で学ぶこと
Ch7 で学んだように、 市場経済だけでは解決 できない問題 (公共財・外部不経済・所得格差・景気変動など) があります。 これらに対応するため、 政府 が大きな役割 を果たしています。
本章では、 政府がお金を集めて使う 「財政」、 日本銀行 が通貨を管理する 「金融政策」、 そして私たちの暮らしを支える 「社会保障」 を学びます。 これらは全て、 私たちの税金によって動いています。
- 政府 の経済的役割 (資源配分・所得再分配・景気安定) を理解
- 税金 の種類 (直接税・間接税・累進課税) をつかむ
- 予算 の流れと 国債 の問題を知る
- 日本銀行 の役割と 金融政策 のしくみを学ぶ
- 社会保障 の 4 本柱 (年金・医療・介護・公的扶助) を理解する
- 税と社会保障が 「お互いさま」 の仕組みであることを知る
ポイント: 政府の仕事は 「お金を取られる」 だけではありません。 道路・教育・医療・防衛・警察・防災 — 私たちは毎日政府のサービスを受けています。 税金はその 会費 のようなものです。
1. 政府の 3 つの経済的役割
日本銀行 (本店、 東京日本橋) — 日本の中央銀行。 紙幣発行、 金融政策 (政策金利・量的緩和)、 「銀行の銀行」 としての役割。
現代の政府は 「経済政策の担い手」 として、 主に 3 つの役割を果たしています。
政府の 3 大役割
| 役割 | 内容 | 具体例 |
|---|
| ① 資源配分の調整 | 市場で提供 されにくい財を政府が提供 | 道路、 公園、 警察、 消防、 義務教育、 国防 |
| ② 所得の再分配 | 累進課税と社会保障で格差を是正 | 高所得者ほど多くの税、 生活保護、 年金 |
| ③ 景気の安定化 | 不況や好況をゆるやかにする | 公共事業、 減税、 利子率操作 |
公共財とは
公共財 とは、 「皆が一緒に使える (非競合性)」 「お金を払わない人を排除 できない (非排除性)」 という性質 を持つ財です。 例: 道路、 国防、 灯台。
民間企業では利潤 が出ないので提供 されにくく、 政府が税金を使って提供 する必要があります。
大きな政府と小さな政府
| 立場 | 主張 | 例 |
|---|
| 大きな政府 | 政府が経済に積極的に介入 | 北欧諸国 (高福祉・高負担) |
| 小さな政府 | 市場に任せ、 政府は最小限 | アメリカ (低福祉・低負担) |
メモ: 日本は中程度と言われますが、 高齢化で社会保障費が急増し、 政府規模 が拡大してきています。 「どの程度政府が関わるべきか」 は民主主義の永遠 の議題です。
2. 財政と税金
財政 とは、 政府 (国・地方) がお金を集め (歳入)、 使う (歳出) 経済活動です。
国の歳入の主な内訳 (一般会計、 概算)
| 区分 | 割合 |
|---|
| 租税収入 (税金) | 約 60 % |
| 公債金 (借金) | 約 30 〜 35 % |
| その他 | 約 5 〜 10 % |
国の歳出の主な内訳
| 区分 | 割合 | 内容 |
|---|
| 社会保障関係費 | 約 33 % | 年金、 医療、 介護、 生活保護 |
| 国債費 | 約 22 % | 過去の借金の返済と利払い |
| 地方交付税 | 約 15 % | 地方公共団体への配分 |
| 公共事業費 | 約 6 % | 道路、 河川、 港 |
| 教育 ・ 科学 | 約 5 % | 国立大学、 研究 |
| 防衛費 | 約 5 % | 防衛装備、 自衛隊 |
税金の分類
① 直接税と間接税
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|
| 直接税 | 税を負担 する人と納める人が同じ | 所得税、 法人税、 相続税、 住民税 |
| 間接税 | 税を負担 する人 (消費者) と納める人 (店) が違う | 消費税、 酒税、 たばこ税、 関税 |
② 国税と地方税
| 種類 | 例 |
|---|
| 国税 | 所得税、 法人税、 消費税、 相続税、 関税 |
| 地方税 | 住民税、 事業税、 固定資産税、 自動車税 |
主な税金のしくみ
所得税 — 累進課税
所得税 は個人の所得 (給与・事業・利子など) にかかる税で、 累進課税 が採用されています。 所得が高いほど税率も高くなるしくみです (5 % 〜 45 % の 7 段階)。
| 課税所得 | 税率 |
|---|
| 195 万円以下 | 5 % |
| 330 万円以下 | 10 % |
| 695 万円以下 | 20 % |
| 900 万円以下 | 23 % |
| 1800 万円以下 | 33 % |
| 4000 万円以下 | 40 % |
| 4000 万円超 | 45 % |
→ この累進性が 「所得再分配」 の役割を果たします。
消費税 — 比例課税
消費税 は商品やサービスの消費にかかる税で、 1989 年に 3 % で導入、 段階的に引き上げられ、 現在は 10 % (食料品等は軽減税率 8 %) です。
| 良い面 | 課題 |
|---|
| 安定した税収 (景気による変動が少ない) | 逆進性 (所得が少ない人ほど負担率が重い) |
| 高齢化社会で現役世代だけに偏らない | 価格上昇で消費が冷え込む |
| 全ての人が公平に負担 | 中小企業の事務負担が大きい |
メモ: 日本の消費税率 10 % は、 ヨーロッパ諸国 (20 % 前後) と比べ低めですが、 議論が続いています。
国債と財政赤字
歳出を税金で賄え ない時、 政府は 国債 (国の借金) を発行してお金を集めます。
| 区分 | 内容 |
|---|
| 建設国債 | 道路や橋などの公共事業用 (財政法で認められている) |
| 赤字国債 (特例公債) | 経常経費用。 本来は禁止だが特別法で毎年発行 |
日本の財政状況
- 国・地方の長期債務残高: 約 1300 兆円 (GDP の約 250 % で先進国で突出)
- プライマリーバランス (基礎的財政収支): 政策的経費を税収で賄う指標。 赤字が続いている
- 将来世代への負担: 借金は将来払うことになる
重要: 国の借金は 「将来の私たちと子孫が払う」 ことになります。 借金を増やし続けるか、 増税や歳出削減をするか — 民主主義で決めるべき重要課題です。
3. 財政政策 — 景気を動かす
政府は 税制 と 歳出 を通じて景気を調整します。 これを 財政政策 と言います。
景気と財政政策
| 景気の状態 | 政府の対応 |
|---|
| 不況 (景気が悪い) | 公共事業を増やす + 減税 → 需要を増やす |
| 好況 (景気がよすぎる) | 公共事業を減らす + 増税 → 需要を抑える |
ビルト ・ イン ・ スタビライザー
ビルト・イン・スタビライザー (自動安定化装置) とは、 累進課税や社会保障の仕組みが、 景気が良い時は自動的に多く税を取り、 悪い時は給付を増やすことで、 景気を安定させる効果です。
ケインズ経済学
20 世紀前半、 イギリスの経済学者ケインズ は 「不況時には政府が積極的に介入 して需要をつくるべき」 と主張し、 これは戦後各国の経済政策の基本になりました。 これを 「ケインズ主義」 と言います。
メモ: 1980 年代以降、 「政府介入 は弊害 が大きい」 とする新自由主義が台頭しましたが、 2008 年リーマンショック・2020 年コロナショックの際には大規模 な財政出動が行われ、 ケインズの考え方が再評価 されています。
4. 金融と通貨
金融 とは、 「お金を持っている人」 から 「お金が必要な人」 へお金を流すしくみです。 その中心が 銀行 です。
通貨の種類
| 通貨 | 意味 |
|---|
| 現金通貨 | 紙幣・硬貨 (お札・コイン) |
| 預金通貨 | 銀行の預金。 振込み・引き落としで使う |
通貨の 3 つの機能
| 機能 | 内容 |
|---|
| 交換手段 | モノやサービスの取引に使う |
| 価値尺度 | モノの値段 を表す |
| 価値貯蔵 | 価値 を蓄える (貯金) |
銀行の 3 大業務
| 業務 | 内容 |
|---|
| 預金業務 | 個人や企業からお金を預かる |
| 貸出業務 | 企業や個人にお金を貸す (利子を取る) |
| 為替業務 | 振込み・送金 |
→ 銀行は預金と貸出の 金利差 (利ざやや) で利益を得ます。
信用創造
銀行は 「お金を貸すことで預金を増やす」 という不思議な力を持ちます。 これを 信用創造 と言います。 100 万円の預金から、 全体ではその何倍もの預金が生まれます。
5. 日本銀行と金融政策
日本銀行 (日銀、 1882 年設立) は日本の 中央銀行 で、 通貨や金融を管理する特別な銀行です。
日銀の 3 つの役割
| 役割 | 内容 |
|---|
| 発券銀行 | 紙幣 (お札) を発行する (硬貨 は政府発行) |
| 銀行の銀行 | 一般銀行から預金を受け、 貸し出しもする |
| 政府の銀行 | 国庫金 (税金) の出納、 国債の取引 |
金融政策の主な手段
金融政策 とは、 日銀が通貨量や金利を操作し、 物価や景気を安定させる政策です。
| 政策 | 内容 | 不況時 | 好況時 |
|---|
| 公開市場操作 | 日銀が国債を市中銀行と売買 | 買いオペ (お金を市中に流す) | 売りオペ (お金を吸い上げる) |
| 政策金利操作 | 短期金利を上げ下げ | 利下げ | 利上げ |
| 預金準備率操作 | 銀行が日銀に預ける比率 | 引き下げ | 引き上げ |
インフレとデフレ
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|
| インフレ (インフレーション) | 物価が持続的に上がる | 100 円だったパンが 110 円に |
| デフレ (デフレーション) | 物価が持続的に下がる | 100 円だったパンが 90 円に |
| スタグフレーション | 不況と物価上昇が同時 | 1970 年代オイルショック |
日銀の物価目標
日銀は 「消費者物価上昇率 2 %」 を目標 としています。 ゆるやかなインフレが経済成長 につながると考えられています。
メモ: 日本は 1990 年代後半から 2010 年代まで長期デフレに苦しみ、 「失われた 30 年」 とも言われました。 2022 年以降 は世界的な物価上昇でインフレ局面に移行しています。
6. 社会保障制度 — 4 本柱
社会保障 とは、 「病気・失業・老後・障害などで困った時に、 社会全体で助け合うしくみ」 です。 憲法 25 条の 生存権 (健康で文化的な最低限度の生活) を実現 する制度です。
社会保障の 4 本柱
| 柱 | 内容 | 例 |
|---|
| ① 社会保険 | 保険料を払い、 困った時に給付 | 年金、 医療、 介護、 雇用、 労災 |
| ② 公的扶助 | 困窮者に税金で給付 | 生活保護 |
| ③ 社会福祉 | 高齢者・障害者・児童を支援 | 児童福祉、 障害者福祉 |
| ④ 公衆衛生 | 国民全体の健康を守る | 予防接種、 感染症対策、 上下水道 |
社会保険の 5 つの制度
| 保険 | 内容 |
|---|
| 公的年金 | 国民年金 (基礎年金) + 厚生年金。 老後・障害・遺族 |
| 医療保険 | 国民健康保険、 健康保険組合。 自己負担 1〜3 割 |
| 介護保険 | 40 歳以上が加入。 65 歳以上で介護サービスを受けられる |
| 雇用保険 | 失業した時の給付、 育児休業給付 |
| 労災保険 | 仕事中や通勤中の事故・病気 |
公的年金制度
日本の年金は 2 階建て です。
| 階層 | 名称 | 対象 |
|---|
| 1 階 | 国民年金 (基礎年金) | 20〜60 歳の全国民 |
| 2 階 | 厚生年金 | 会社員・公務員 |
| 3 階 | 企業年金、 iDeCo など (任意) | 希望者 |
高齢化と社会保障
日本の社会保障給付費は約 130 兆円 (GDP の約 25 %) と急増しています。 これを支える現役世代が減っていくことが大きな課題です。
| 比率 | 1970 年 | 2020 年 | 2050 年 (推計) |
|---|
| 65 歳以上 1 人を支える現役世代 | 9.8 人 | 2.1 人 | 1.4 人 |
重要: 「肩車型社会」 と呼ばれます。 1 人が 1 人を支える社会になれば、 現役世代の負担 は非常に重くなります。
7. 持続可能 な社会保障と私たち
社会保障制度を 持続可能 なものにするため、 様々 な議論が行われています。
主な改革の方向
| 方向 | 内容 |
|---|
| 税と社会保障の一体改革 | 消費税引上げ分を社会保障財源に |
| 支給開始年齢の引上げ | 年金の支給を 65 歳 → 70 歳へ |
| 負担と給付の見直し | 高所得高齢者の自己負担増 |
| 健康寿命の延伸 | 介護が必要な期間を短く |
| 女性・高齢者の就労促進 | 支え手を増やす |
マイナンバー制度
マイナンバー (社会保障・税番号制度、 2016 年) は、 全国民に 12 桁の番号を付与し、 行政を効率化する制度です。 公平な給付と税の徴収をめざすもので、 マイナンバーカードの普及が進められています。
大事: マイナンバーは 個人情報の中でも最重要 です。 SNS で公開したり知らない人に教えたりは絶対にしないでください。 暗証番号も厳重に管理しましょう。
まとめと安全配慮
この章のまとめ
| 学んだこと | キーワード |
|---|
| 政府の役割 | 資源配分・所得再分配・景気安定 |
| 税の種類 | 直接税・間接税・累進課税 |
| 国の財政 | 国債・歳出・歳入 |
| 金融政策 | 日本銀行・公開市場操作 |
| 物価 | インフレ・デフレ |
| 社会保障 | 4 本柱・社会保険・生活保護 |
安全配慮 — 税金の大切さと社会保障の仕組み
税金を知ること
「税金は取られるもの」 と思っていませんか。 確かに給与から天引きされる税金を見るとそう感じます。 しかし 税金は私たちの生活を支えるお金 です。
- 学校に行ける (1 人当たり公費約 100 万円 / 年)
- 病気でも安く医療を受けられる (3 割負担、 残りは保険と税)
- 道路を安全に通れる
- 警察・消防・自衛隊が守ってくれる
- 災害時に支援 がある
税金を払うことは 「社会の一員としての会費」 です。 しかし同時に、 「税金が適切に使われているか」 を主権者としてチェックすることも大切です。
確定申告と年末調整
会社員は 年末調整 で税が自動的に計算されます。 自営業・フリーランスは 確定申告 が必要です。 アルバイトでも年収 123 万円 (2025 年の税制改正で 103 万円から引き上げ) を超えると所得税がかかり、 130 万円 (一定の場合 106 万円) を超えると親の社会保険の扶養から外れます。
社会保障を自分ごととして
20 歳になったら 国民年金 に加入する義務があります (大学生には学生納付特例制度があります)。 「どうせもらえない」 と払わないと、 障害になった時や老後に困ります。
社会保障を悪用させない
| 行為 | 内容 |
|---|
| 生活保護不正受給 | 働けるのに申請、 収入を隠す |
| 介護報酬不正請求 | 提供 していないサービスを請求 |
| マイナ詐欺 | マイナンバーカードの偽造、 個人情報取得 |
困った時は必ず相談
- 生活困窮: 福祉事務所、 社会福祉協議会
- 失業: ハローワーク (公共職業安定所)
- 年金: 年金事務所、 ねんきんダイヤル
- 税金: 税務署、 区市町村の税務課
- 多重債務: 法テラス、 弁護士会
大事: 社会保障制度は 「困った時に助けを求める」 ことが前提です。 我慢や遠慮は必要ありません。 助けを求めることは 権利 です。 そして、 自分が余裕がある時は困っている人を支える — この 「お互いさま」 が社会保障の基本です。
まとめ — 政府の役割と財政・金融を 3 行で
- 政府は 公共財 の供給・所得再分配 (累進課税)・景気安定を担い、 財政 と 金融 の 2 つの政策手段を用いる
- 所得税・消費税 など 直接税・間接税 を組み合わせ、 累進課税 と ビルト・イン・スタビライザー が格差を是正
- 日本銀行 が 金融政策 と 信用創造 で インフレ・デフレ に対応、 社会保障 が 生存権 を支える