はじめに
古文読解の最大の関門は 助動詞 です。 助動詞は 接続(前の活用形)で分類すると整理しやすくなります。
この章で身につくこと:
- 助動詞 18 種類を 接続別に整理して覚える
- 「る・らる」「す・さす」など 多義助動詞を文脈で識別できる
- 助動詞同士の 連結パターンを読み取れる
1. 接続別助動詞一覧
| 接続 | 助動詞 | 主な意味 |
|---|
| 未然形 | る・らる | 受身・尊敬・自発・可能 |
| 未然形 | す・さす・しむ | 使役・尊敬 |
| 未然形 | ず | 打消 |
| 未然形 | む・むず | 推量・意志・適当・勧誘 |
| 未然形 | じ | 打消推量・打消意志 |
| 未然形 | まし | 反実仮想 |
| 未然形 | まほし | 願望 |
| 連用形 | き・けり | 過去 |
| 連用形 | つ・ぬ | 完了・強意 |
| 連用形 | たり | 完了・存続 |
| 連用形 | けむ | 過去推量・過去の原因 |
| 連用形 | たし | 願望 |
| 終止形 | らむ | 現在推量・現在の原因 |
| 終止形 | べし | 推量・意志・可能・当然・命令・適当 |
| 終止形 | まじ | 打消推量・打消意志 |
| 終止形 | らし | 推定 |
| 終止形 | めり | 推定・婉曲 |
| 終止形 | なり(伝聞) | 伝聞・推定 |
| 体言・連体形 | なり(断定) | 断定・存在 |
| 体言・連体形 | たり(断定) | 断定 |
| 体言・連体形 | ごとし | 比況 |
注意:終止形接続の助動詞は、 ラ変型には連体形に付きます(例: 「あるべし」)。
2. 「る・らる」 — 受身・尊敬・自発・可能
- 「る」は四段・ナ変・ラ変の未然形に接続
- 「らる」はそれ以外(上一・上二・下一・下二・カ変・サ変)の未然形に接続
4 つの意味の見分け方
| 意味 | サイン |
|---|
| 受身 | 「人に〜される」 文脈(「〜に」 が補える) |
| 尊敬 | 主語が 高貴な人物 |
| 自発 | 心情語(思ふ・忍ぶ・偲ぶ・案ず など)に付く |
| 可能 | 下に打消(ず・じ・まじ)が来る |
原文: 「頼朝の首をはねて墓の前に懸けよ、と仰せられけり」(平家物語)
現代語訳: 「頼朝の首を切って墓の前に懸けよ、 とおっしゃった」
「仰せられけり」 の「られ」 は 尊敬(主語が高貴)。
3. 「す・さす・しむ」 — 使役・尊敬
- 「す」 は四段・ナ変・ラ変の未然形
- 「さす」 はそれ以外の未然形
- 「しむ」 は漢文訓読体で使われる
識別
- 単独で使われたら → 使役(〜させる)
- 下に 「給ふ」「おはす」などの尊敬語が続いたら → 尊敬(〜なさる)
例: 「書かせ給ふ」 = お書きになる(二重敬語=最高敬語、 天皇など最高位)。
4. 「き・けり」 — 過去
| 助動詞 | 意味 | 使い分け |
|---|
| き | 直接過去(自分が体験した過去) | 体験回想 |
| けり | 間接過去(伝聞)・詠嘆 | 説話・物語の地の文・気づきの「〜だなあ」 |
「けり」 の詠嘆
和歌や会話文中の「けり」 は、 過去ではなく 詠嘆(〜だなあ)の意味になることが多いです。
原文: 「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮」(新古今集・藤原定家)
現代語訳: 「見渡してみると花も紅葉も無いことだなあ。 浦の苫屋に立つ秋の夕暮れよ。」
「なかりけり」 の「けり」 は 詠嘆。
5. 「つ・ぬ」 — 完了・強意
| 助動詞 | 接続傾向 |
|---|
| つ | 他動詞に多い |
| ぬ | 自動詞に多い |
強意の見分け
「つ」「ぬ」 の下に 推量系助動詞(む・べし・らむ・けむ・じ・まじ)が続くと 強意(きっと〜だろう)になります。
例: 「散りなむ」 = きっと散ってしまうだろう。
6. 「む・むず・らむ・けむ」 — 推量系
| 助動詞 | 時制 | 主な意味 |
|---|
| む(ん)・むず | 未来 | 推量・意志・適当・勧誘・婉曲 |
| らむ | 現在(目の前にないこと) | 現在推量・現在の原因 |
| けむ | 過去(過去の伝聞・想像) | 過去推量・過去の原因 |
「む」の意味識別(人称ルール)
| 主語 | 意味 |
|---|
| 1 人称(我) | 意志(〜しよう) |
| 2 人称(汝) | 勧誘(〜しないか)・適当(〜がよい) |
| 3 人称(彼) | 推量(〜だろう) |
7. 「べし」 — 6 つの意味
「べし」 は古文助動詞の中で 最重要。 文脈で 6 意味を判別します。
| 意味 | 訳 | サイン |
|---|
| 推量 | 〜にちがいない | 客観的判断 |
| 意志 | 〜しよう | 1 人称主語 |
| 可能 | 〜できる | 下に打消 or 文意 |
| 当然 | 〜べきだ・〜はず | 道理・規範 |
| 命令 | 〜せよ | 2 人称主語・上位者からの指示 |
| 適当 | 〜がよい | 助言文脈 |
暗記語呂: 「すいかとめて」 = 推量・可能・当然・命令・適当・意志(順不同)。
8. 「なり」 の識別 — 断定 か 伝聞・推定 か
「なり」 には 2 種類あり、 接続で見分けます。
| 種類 | 接続 | 訳 |
|---|
| 断定 | 体言・連体形 | 〜である・〜にある |
| 伝聞・推定 | 終止形(ラ変は連体形) | 〜という・〜らしい |
例: 「花なり」 = 体言+なり → 断定(花である)。
「鳴くなり」 = 終止形+なり → 伝聞・推定(鳴いているようだ)。
紫式部 の 肖像画 (狩野孝信、 1573 年)。 紫式部 の「源氏物語」「紫式部日記」 に は、 本章 で 整理 した 助動詞「けり・き・つ・ぬ・たり・り・べし・む」 等 が 縦横 に 使われています。
まとめ
- 助動詞は 接続で覚えるのが最短
- 「る・らる」 4 意味、 「べし」 6 意味は文脈で識別
- 「き/けり」 「つ/ぬ」 など対になる助動詞はセットで暗記
- 「なり」 は接続で 断定 vs 伝聞推定を区別
次章は 助詞。 特に係助詞「ぞ・なむ・や・か・こそ」 の係り結びは重要です。