この章で学ぶこと
第 6 章で日本の自然環境を見ました。 第 7 章では 「日本では何が、 どこで、 どのように作られ、 世界とどうつながっているか」 を産業と貿易 の視点で整理します。
戦後 の日本は第 1 次産業中心から、 第 2 次・第 3 次へと 産業構造 の高度化 を進め、 1968 年には GNP 世界第 2 位 (当時) となりました。 21 世紀 に入り、 グローバル化・少子高齢化・デジタル化が重なり、 産業の姿はさらに変化しています。
- 第 1 次産業・第 2 次産業・第 3 次産業 の違いと構成比の変化を説明できる
- 日本の 食料自給率 が低い背景と食料安全保障を理解する
- 太平洋ベルト の形成 とコンビナート・臨海工業地域 を説明できる
- 物流・港湾・空港・サプライチェーンの役割 が分かる
- FTA・EPA・TPP・RCEP など国際経済連携 と貿易摩擦 を多角的に考えられる
章の視点: 「自国中心」 でも「他国 任 せ」 でもない。 多国間で支え合う関係性 のなかで日本の産業を考えます。
1. 産業の 3 区分 と構造変化
新幹線路線図 — 1964 年開業から全国へ延伸した高速鉄道網。 北海道から鹿児島まで。 国際社会でも高速鉄道システム輸出の先駆け。
3 区分 の整理 (Colin Clark の産業分類)
| 区分 | 主な業種 | 例 |
|---|
| 第 1 次産業 | 農業・林業・漁業・鉱業 | 米作・畜産・漁業 |
| 第 2 次産業 | 製造業・建設業・電気 ガス | 自動車・電気機械・化学・建設 |
| 第 3 次産業 | 商業・運輸・金融・サービス・情報通信 | 小売・物流・銀行・IT・観光 |
経済が発展 するにつれ、 第 1 次 → 第 2 次 → 第 3 次へと比重が移る傾向 (ペティ・クラークの法則) が知られます。
日本の就業者構成比の変化
| 年 | 第 1 次 | 第 2 次 | 第 3 次 |
|---|
| 1950 年 | 約 49 % | 約 22 % | 約 30 % |
| 1980 年 | 約 11 % | 約 34 % | 約 55 % |
| 2020 年 | 約 3 % | 約 23 % | 約 73 % |
戦後 わずか 70 年で 第 1 次が 49 % → 3 % に激減、 第 3 次が 30 % → 73 % に拡大 しました。 経済大国 と呼ばれた時期も、 まさに第 2 次・第 3 次が急速 に伸びた時期です。
「6 次産業化」 とは
近年は、 第 1 次 (生産) × 第 2 次 (加工) × 第 3 次 (販売・サービス) を組み合わせる 「6 次産業化」 が注目 されています (1 × 2 × 3 = 6)。 例として、 農家が自家製ジャムを作り直売所で売る、 漁協が加工場とレストランを運営 するなどがあります。
意義: 第 1 次産業の価値 を 付加価値 と雇用 で上乗せし、 地方経済 と後継者不足の課題を改善するねらいがあります。
2. 第 1 次産業 — 農林水産の現在
日本の農業
日本の農業 は 小規模・兼業中心、 米中心 が長らくの特徴 でした。 しかし食生活の洋風化、 米消費量の半減 (1962 年 1 人 118 kg → 2022 年 51 kg)、 高齢化 (基幹的農業従事者平均 67.8 歳) などで構造変化が続いています。
| 主な課題 | 内容 |
|---|
| 担い手不足 | 65 歳以上が約 7 割、 後継者不足 |
| 耕作放棄地増加 | 全国約 26 万 ha (東京都の 1.2 倍) |
| 小規模経営 | 1 戸当たり平均約 3.1 ha (米 EU の数十分の 1) |
| TPP 等で国際競争 | 関税引き下げで安価な輸入品と競合 |
対策として、 大区画化と法人化、 スマート農業 (GPS トラクター・ドローン防除・AI 病害診断)、 ブランド化 (魚沼産コシヒカリ・夕張メロン) などが進んでいます。
林業・水産業
日本は 国土の約 67 % が森林 ですが、 林業就業者は戦後 の約 50 万人から 4 万人強 (2020 年) に激減。 木材自給率は一時 18 % まで落ち込み、 近年は約 41 % (2022 年) まで回復 しています。
水産業 も漁獲量がピーク (1984 年約 1,282 万 t) から約 3 分の 1 (2022 年約 386 万 t) に減少。 排他的経済水域規制、 海洋資源減少、 高齢化が背景です。 一方で 養殖 (ブリ・ホタテ・カキ・ウナギ) や 栽培漁業 が比重を増しています。
3. 食料自給率と食料安全保障
食料自給率とは
食料自給率 は 「国内で消費 される食料のうち、 国内生産 で賄まかな える割合」 です。 2 つの計算方法があります。
| 種類 | 算出方法 | 2022 年度 |
|---|
| カロリーベース | 1 人 1 日当たりの供給熱量 | 約 38 % |
| 生産額ベース | 国内生産額 ÷ 国内消費仕向額 | 約 58 % |
どちらの指標 でも主要先進国で最低水準 です。 米の自給率は約 99 % ですが、 小麦約 16 %、 大豆約 7 %、 飼料用トウモロコシはほぼ 100 % 輸入 に依存 しています。
国際比較
| 国 | カロリーベース自給率 (2020 年前後) |
|---|
| カナダ | 約 221 % |
| オーストラリア | 約 173 % |
| アメリカ | 約 115 % |
| フランス | 約 117 % |
| ドイツ | 約 84 % |
| 日本 | 約 38 % |
| イギリス | 約 54 % |
食料安全保障とバーチャルウォーター
食料安全保障 は 「いかなる時でも国民が必要な食料を入手できる状態」 を守る考え方です。 2022 年のウクライナ危機 で小麦・肥料価格 が高騰し、 リスクが改然 と認識 されました。
バーチャルウォーター (仮想水) は、 「輸入食料を国内で生産 すると仮定 した時に必要な水量」 です。 日本は年間約 800 億 t (国内水利用量の約 1 倍) の水を食料として 「輸入」 している計算 となり、 世界の水資源と強く結びついています。
4. 第 2 次産業 — 工業と立地
戦後工業の歩み
| 期間 | 主な動き |
|---|
| 1950 年代 | 朝鮮戦争特需 → 重化学工業化 |
| 1960 年代 | 高度経済成長、 太平洋ベルト形成 |
| 1970 年代 | 2 度の石油危機 → 省エネ・知識集約化 |
| 1980 年代 | 自動車・家電 が世界を席巻 |
| 1990 年代 | 円高・空洞化、 海外生産移転 |
| 2000 年代 〜 | 中国への生産 シフト、 IT・先端素材へ |
| 2020 年代 | 半導体国内回帰 (T S M C 熊本)・E V 化 |
太平洋ベルトと主要工業地域
太平洋ベルト は関東から北九州まで太平洋・瀬戸内沿いに連なる工業集積地帯 で、 全国工業出荷額の約 6 割を占めます。
| 工業地帯・地域 | 中心 | 主な産業 |
|---|
| 京浜工業地帯 | 東京・横浜・川崎 | 出版・印刷・自動車・石油化学 |
| 中京工業地帯 | 名古屋・豊田 | 自動車 (世界最大級)・航空機 |
| 阪神工業地帯 | 大阪・神戸 | 化学・鉄鋼・繊維 |
| 北九州工業地域 | 北九州 | 鉄鋼中心 (近年縮小) |
| 瀬戸内工業地域 | 倉敷・周南 など | コンビナート中心 |
| 東海工業地域 | 静岡 (浜松・富士) | 楽器・オートバイ・製紙 |
工業立地の 4 類型
| タイプ | 立地要因 | 例 |
|---|
| 原料立地型 | 重い原料 の産出地近く | セメント・パルプ |
| 市場立地型 | 大消費地近く | ビール・印刷・出版 |
| 臨海立地型 | 港湾 から原料輸入 | 製鉄・石油化学 |
| 労働力立地型 | 安価で豊富な労働力 | 繊維・縫製 |
近年は 臨空立地 (空港近くに IC・医薬品工場) や 知識集約立地 (大学・研究機関近くに R & D) など新しい類型も加わっています。
5. 第 3 次産業と物流・サービス
第 3 次産業の比重拡大
GDP の約 7 割を占める第 3 次産業は、 商業・運輸・金融・情報通信・観光・教育・医療・福祉 と幅広く含みます。 とくに 情報通信 (約 5 % → 約 10 %)・医療福祉 (約 3 % → 約 8 %) が急成長 しています。
物流とサプライチェーン
製品 が 「生産 → 加工 → 物流 → 小売 → 消費者」 へ流れる一連 の過程 を サプライチェーン と呼びます。 グローバル化で工程 が国境 を越え、 1 つの部品不足が世界中の工場を止める 「サプライチェーンリスク」 が表面化しています (2020 年半導体不足で自動車減産など)。
主な物流拠点:
| 種類 | 主な拠点 |
|---|
| 国際港湾 (コンテナ) | 東京・横浜・名古屋・神戸 |
| 国際ハブ空港 | 成田・関西・中部 |
| 物流ハブ | 内陸拠点 (戸田・川越・つくばなど) |
観光立国
訪日外国人旅行者数は 2003 年の約 521 万人から 2019 年ピーク約 3,188 万人、 コロナ後 2024 年には約 3,687 万人と過去最多を記録 しました (政府観光局速報値)。 政府 は 「観光立国推進基本計画」 で持続可能 な観光を掲げ ていますが、 オーバーツーリズム (京都嵐山・富士山・倶知安等) や多言語対応・宿泊不足など課題も多い分野 です。
6. 国際関係 — FTA・EPA・TPP・RCEP
自由貿易 と経済連携
国と国の関税・サービス・投資等を自由化する仕組みには主に次があります。
| 用語 | 意味 |
|---|
| FTA (自由貿易協定) | 関税撤廃・引き下げを中心とした二国間 / 多国間協定 |
| EPA (経済連携協定) | F T A + 投資・人の移動・知的財産を含む |
| TPP / CPTPP | 環太平洋 11 か国 (米離脱後) の包括的 EPA |
| RCEP | 日中韓 + ASEAN + 豪 NZ の 15 か国 EPA (世界 GDP 約 3 割) |
| WTO (世界貿易機関) | 多国間貿易 ルールを定める国際機関 |
日本は 2024 年時点 で 21 の EPA / FTA を発効 させており、 貿易額ベースで約 8 割をカバーしています。
貿易摩擦
関税や為替・補助金をめぐり、 国同士の利害が衝突 する状態 を 貿易摩擦 と呼びます。 1980 年代には日米自動車・半導体摩擦 が大きな政治課題となりました。 近年では米中の関税競争、 半導体輸出規制 などが世界のサプライチェーンに影響 を与えています。
多角的視点: 自由貿易 は 消費者に安い製品・選択肢拡大 の恩恵 がある一方、 国内の弱い産業を直撃 します。 どちらの立場から評価 するかで見え方が大きく変わる論点 です。
円高・円安の影響
| 現象 | 輸出 | 輸入 |
|---|
| 円高 | 不利 (海外で価格上昇) | 有利 (安く買える) |
| 円安 | 有利 (海外で価格低下)・外貨収入増 | 不利 (エネルギー・食料高騰) |
2022 〜 2024 年の急速 な円安 (1 ドル = 110 円 → 160 円台) は、 訪日観光客増・大企業輸出採算改善と、 食料エネルギー価格上昇 という 「光と影」 を同時にもたらしました。
7. 章のまとめと振り返り
| 観点 | キーワード |
|---|
| 産業構造 | 第 1 次/第 2 次/第 3 次・ペティ・クラークの法則・6 次産業化 |
| 第 1 次 | 食料自給率 38 %・耕作放棄地・スマート農業・養殖 |
| 第 2 次 | 太平洋ベルト・3 大工業地帯・工業立地 4 類型 |
| 第 3 次 | サプライチェーン・観光立国・物流ハブ |
| 国際関係 | FTA・EPA・TPP・RCEP・WTO・貿易摩擦・円高円安 |
確認クイズ
- 第 1 次から第 3 次へ比重が移る法則 の名前を答えよ。
- 日本のカロリーベース食料自給率は何 % か (2022 年度)。
- 太平洋ベルトに含まれる 4 大工業地帯 を挙げよ。
- FTA と EPA の違いを簡潔 に説明せよ。
- 円安が進んだとき、 輸出 と輸入 それぞれに与える影響 は。
8. 国際関係 を学ぶときの心がまえ (重要)
🌐 中立と多角的視点 を大切に
- 特定 の国を 「敵」 「悪」 と単純化しない。 どの国にも国民がいて、 利益と立場がある
- 貿易摩擦 の報道 は 片方の国の視点 だけを切り取りやすい。 双方の一次ソース (政府発表・国連統計 など) も確認する
- グローバル化で 「あなたの 1 杯のコーヒー」 が遠い国の暮らしと直結 していることを意識 する
- SNS で流れる国際ニュースは 誤情報・印象操作 も多い。 出典 と日付を必ず確認する
- 自分の消費行動 (食べ物・服・電気) も 世界の産業とつながる一票。 フェアトレード・地産地消・省エネも国際関係 の入口です
経済 と国際関係 を学ぶことは、 「世界のなかで 自分がどう生き、 どう選ぶか」 を考えることです。 統計 と多角的視点 を武器に、 単純化を避けて学んでいきましょう。
まとめ — 日本の産業と国際関係を 3 行で
- 第 1 次産業 (農林水産)・第 2 次産業 (鉱工業)・第 3 次産業 (商業サービス) の構造が変化、 サービス業化が進む
- 食料自給率 はカロリーベース約 38% と低く 食料安全保障 が課題、 6 次産業化 など新しい取り組みも進む
- 工業は 太平洋ベルト (京浜工業地帯・中京工業地帯 など) に集中、 FTA・EPA・TPP で開かれた経済と 貿易摩擦 への対応が並ぶ