この章で学ぶこと
第 8 章では 7 地方区分の現状を整理しました。 第 9 章ではさらに一歩進み、 「この地域をどう持続させ、 どう育てていくか」 を考えます。
人口減少・高齢化・東京一極集中という構造的課題のなか、 全国各地で 新しい地域づくり が試みられています。 ICT・観光・農業 6 次化・移住促進など、 多様なアプローチを多角的に学びましょう。
- 持続可能性 (sustainability) と SDGs の地域への当てはめを説明できる
- 地方創生 とその 4 つの基本目標を言える
- スマートシティ・コンパクトシティ の違いと事例を知る
- ICT利活用・MaaS・スマート農業 など技術を使う取り組みがわかる
- 地域おこし協力隊・二地域居住・関係人口 など新しい概念を説明できる
章の視点: 「補助金で一時的に元気にする」 ではなく、 「自立して続く仕組み」 を設計するのが持続可能な地域づくり。
1. 「持続可能な地域」 とは
持続可能性の 3 つの柱
「持続可能な地域づくり」 は、 環境・経済・社会 の 3 つの柱を同時に満たすことを目指します (1992 年リオ地球サミット以来の国際標準)。
| 柱 | 意味 | 地域での例 |
|---|
| 環境 | 自然資源を損なわず次世代へ | 森林保全・再エネ・ごみ削減 |
| 経済 | 雇用と所得を維持 | 地場産業振興・観光・I T |
| 社会 | 教育・医療・コミュニティを守る | 学校維持・買い物弱者対策 |
「縮小社会」 での持続可能性
日本は 2008 年をピークに 人口が減り続ける 「縮小社会」 に入りました。 国立社会保障・人口問題研究所推計では、 2070 年に人口約 8,700 万人 (現在の約 7 割) と見込まれます。 この中で 「拡大路線」 は続けられず、 「コンパクトで質が高い暮らし」 がキーワードとなっています。
SDGs と地域
第 5 章で学んだ SDGs (2030 年までの 17 目標) は、 地域のレベルで実装するものです。 内閣府が 「SDGs 未来都市」 を認定 (2024 年まで計 206 都市) し、 各地で独自取り組みが進んでいます。
例:
- 北海道ニセコ町: 環境共生リゾート
- 神奈川県横浜市: ZE B / Z E H 普及
- 岡山県真庭市: バイオマス産業 (CLT 木材・ペレット)
- 熊本県水俣市: 公害経験からの環境都市
2. 地方創生 — 国の戦略
「地方創生」 の始まり
2014 年、 元総務大臣増田寛也氏を中心とする 「日本創成会議」 が 「消滅可能性自治体」 (2040 年に 20 - 39 歳女性が半減する自治体) が全国 896 (約半数) と試算し、 大きな衝撃を与えました。
これを受け政府は 「まち・ひと・しごと創生法」 (2014) を制定、 「地方創生」 戦略を開始しました。
4 つの基本目標
| 目標 | 内容 |
|---|
| 1. 稼ぐ地域をつくる | 地場産業・農林水産・観光・I C T |
| 2. 関係人口を創出する | 移住・二地域居住・テレワーク |
| 3. 結婚・出産・子育ての希望を叶える | 待機児童解消・働き方改革 |
| 4. 人が集う安心して暮らせるまち | 公共交通・医療・防災 |
「総合戦略」 と 「地方版総合戦略」
国の総合戦略 (5 年ごと) に合わせ、 全ての都道府県・市町村が 「地方版総合戦略」 を策定。 K P I (重要業績評価指標) で進捗を管理する P D C A 型で進められています。
批判的視点: 地方創生は約 10 年続いたが、 東京一極集中は解消されず、 出生率も改善していない。 個々の成功事例は多いが、 構造的課題は残る。 そこを直視した議論が必要とされている。
3. スマートシティとコンパクトシティ
スマートシティ
スマートシティ は、 ICT (情報通信技術) を使ってエネルギー・交通・医療・防災等を効率化し、 暮らしの質を高める都市の考え方です。
| 分野 | 取り組み例 |
|---|
| エネルギー | スマートグリッド・地域熱供給・蓄電池 |
| 交通 | MaaS・自動運転バス・電動キックボード |
| 医療 | オンライン診療・遠隔手術支援 |
| 防災 | 河川・橋梁センサー・避難誘導 AI |
| 行政 | 電子申請・オープンデータ |
代表例: 福岡市 (タクシー M a a S)、 さいたま市 (スマートホーム)、 会津若松市 (デジタル田園都市)、 トヨタ Wo v e n C i t y (静岡県裾野市)。
コンパクトシティ
コンパクトシティ は、 都市機能 (住宅・商業・医療・教育) を 中心部に集約 し、 公共交通でつなぐ 「歩いて暮らせる街」 の考え方です。 富山市 (LRT 富山ライトレール) や青森市が代表例です。
| メリット | デメリット |
|---|
| インフラ維持コスト削減 | 郊外居住者の移住抵抗 |
| 高齢者の暮らしやすさ | 中心部の地価上昇 |
| C O 2 削減 | 強制移住とは受け取られやすい |
| 商店街復活 | 既存コミュニティの分断 |
立地適正化計画 (2014 年 〜) で全国約 700 市町村が策定中です。
4. 観光と地域経済
観光立国戦略
訪日外国人観光客は 2024 年約 3,687 万人で過去最多。 政府は 2030 年に 6,000 万人を目標としています。 観光消費額は 2024 年約 8 兆 1,000 億円で、 自動車・半導体に次ぐ 「輸出産業」 と位置づけられています。
オーバーツーリズム
一方で オーバーツーリズム (観光公害) が京都嵐山・京都祇園・富士山・倶知安・宮島等で深刻化。 ごみ散乱・撮影マナー・住宅価格上昇・地元住民の通勤困難などの課題が浮彫りになっています。
対応策:
- 入場制限 (江島 / 奈良東大寺・宮島厳島神社)
- 観光税 (京都市宿泊税・大阪市宿泊税・倶知安町宿泊税)
- 時間帯分散 (早朝 / 夜観光推奨)
- マナー啓発 (多言語サイン・QR コード案内)
着地型観光と DMO
従来の 「発地型 (旅行会社が都市で企画)」 観光から、 「着地型 (現地住民が企画)」 観光へシフトが進んでいます。 その担い手として DMO (Destination Management Organization) が全国約 290 団体登録 (2024 年)。 地元主体のマーケティング・商品開発・人材育成を担います。
5. ICT・MaaS とデジタル田園都市
MaaS とは
MaaS (Mobility as a Service) は、 鉄道・バス・タクシー・カーシェア・自転車シェアなど全ての移動手段をスマホアプリで一括検索・予約・決済できるサービスです。
事例:
- 福岡 my route (西鉄 + トヨタ共同)
- 会津 mobi (会津若松)
- Tama Mobility (多摩地域実証)
デジタル田園都市国家構想
2021 年に政府が打ち出した デジタル田園都市国家構想 は、 「デジタルの力で地方と都市の格差を縮める」 ことを目指します。 5 G・光ファイバ全国整備、 マイナンバーカード普及、 オンライン診療・教育拡大が柱です。
スマート農業 (再掲)
第 7 章でも触れましたが、 GPS トラクター・ドローン防除・AI 病害診断・自動給水センサー などが急速に普及。 高齢化・人手不足を解消し、 1 戸あたり経営規模を拡大する鍵となっています。
6. 関係人口と移住促進
「関係人口」 とは
2017 年ごろから注目されている 関係人口 は、 「移住していないけれど地域と多様な形で関わる人々」 を指します。 「定住人口」 と 「観光人口 (一時訪問)」 の中間概念です。
| 区分 | 例 |
|---|
| 定住人口 | その地域に住民票がある人 |
| 関係人口 | 二地域居住・ふるさと納税・テレワーク・地域サポーター |
| 観光人口 | 単発の旅行者 |
地域おこし協力隊
総務省制度 (2009 年 〜)。 都市部から過疎地へ移住し、 地元で 1 〜 3 年活動する仕組みです。 2023 年度末で 隊員累計約 1.1 万人、 任期終了後約 65 % が そのまま地域に定住 しています。
二地域居住・ワーケーション
リモートワーク普及で 「二地域居住」 (平日は都市・週末は地方) や 「ワーケーション」 (休暇と仕事を組み合わせ) が広がっています。 国土交通省推計では、 2 地域居住希望者が全国約 700 万人。
7. 地域おこしの多様な事例
全国の注目取り組み
| 地域 | 取り組み |
|---|
| 島根県海士町 | 隠岐諸島、 高校 「島留学」 で全国から生徒集客 |
| 徳島県神山町 | 過疎山村に Sansan・Plat-Ease 等の I T サテライトオフィス 16 社 |
| 新潟県十日町市 | 大地の芸術祭、 3 年ごとに 51 万人が訪問 |
| 岡山県真庭市 | バイオマス・C L T 木造建築材 |
| 奈良県川上村 | 100 年単位の森林経営 |
| 沖縄県久米島町 | 海洋深層水利用 (水産・農業・コスメ) |
| 北海道下川町 | 森林バイオマス 100 % 自給目指す |
これらの共通点は 「外部からのヨソモノ × 地元住民の協働」 「行政主導ではなく民間主導」 「短期補助金でなく長期ビジョン」 です。
8. 章のまとめと振り返り
| 観点 | キーワード |
|---|
| 持続可能性 | 環境 / 経済 / 社会の 3 本柱・SDGs 未来都市 |
| 地方創生 | 消滅可能性自治体・4 基本目標・地方版総合戦略 |
| 都市設計 | スマートシティ・コンパクトシティ・LRT |
| デジタル | ICT・MaaS・デジタル田園都市・スマート農業 |
| 担い手 | 地域おこし協力隊・関係人口・二地域居住・DMO |
確認クイズ
- 持続可能性の 3 つの柱を答えよ。
- 「消滅可能性自治体」 と試算されたのは全自治体の約何 % か。
- コンパクトシティのメリットとデメリットを 1 つずつ挙げよ。
- 関係人口とは何か。 例を 2 つ述べよ。
- 地域おこし事例で共通する成功要因を 1 つ挙げよ。
9. 自分ごととしての地域課題 (重要)
🌱 地域の未来を主体的に考えよう
- 自分が暮らす自治体の 「総合戦略」 をウェブで探して読んでみる (各市役所サイトに公開)
- 地元商店街・直売所・伝統行事 に 1 つ関わってみる
- ふるさと納税・寄付・観光 で別の地域と関わってみる (関係人口の入口)
- 「東京 / 都会が全て」 という価値観を一度疑ってみる。 大学進学・就職先を地方に求める選択肢もある
- SNS で 「○○ は過疎でダメ」 という安易な発言をしない。 そこで暮らす人々の努力を想像する
- ボランティア・インターン・地域留学など 若いうちしか出来ない関わり方 を探してみる
地域課題は 「誰かが解決してくれるもの」 ではなく、 「自分の暮らしと直結するもの」 です。 学んだ知識を一歩行動に移すことが、 持続可能な未来をつくる第一歩です。
まとめ — 持続可能な地域づくりを 3 行で
- 持続可能性は環境・経済・社会の 3 本柱で成り立ち、 地方創生とSDGs 未来都市が消滅可能性自治体の課題に対応する
- コンパクトシティとスマートシティ、 MaaSや LRT などの仕組みで都市機能を集約しデジタル化を進める
- 地域おこし協力隊や関係人口による多様な担い手の関わり方が地域の未来を支える