この章で学ぶこと
高校の 地理総合 は、 中学の地理で学んだ世界と日本の知識 を土台 に、 「情報 を自分で集めて地図化し、 課題 を分析 する」 高校らしい力を育てる科目 です。 必履修化された 2022 年度以降、 大学入試 (共通 テスト含む) でも重視 されています。
第 1 章では、 地理の全ての出発点である 位置と地図 の表し方、 そして高校地理で中核 となる GIS (地理情報 システム) のしくみを学びます。
- 緯度・経度 で位置を数値 として表せる
- 地球儀 と 平面地図 の違いを理解 し、 主な 投影法 (メルカトル図法・モルワイデ図法・正距方位図法) の用途 を使い分けられる
- 地形図 の 等高線 と 縮尺 を読み取れる
- GIS と GPS (GNSS) の関係 を説明 できる
- 国土地理院の 地理院地図、 政府 統計 (e-Stat) などの オープンデータ を自分の課題 に使える
ポイント: 中学では 「地図を読む」 が中心でしたが、 高校地理総合では 「地図をつくる」 「地図で考察 する」 がゴール。 GIS はその道具 です。
1. 緯度・経度と地球の形
地球は完全 な球ではなく、 自転 の遠心力 で赤道部分 がわずかにふくらんだ 回転楕円体 (かいてんだえんたい) です。 ただし高校段階でも 「ほぼ球形」 と扱って計算 することがほとんどです。
地球の大きさ
| 項目 | 数値 |
|---|
| 赤道半径 | 約 6,378 km |
| 極半 径 | 約 6,357 km (赤道半径より約 21 km 短い) |
| 赤道一周 | 約 40,075 km (= 約 4 万 km) |
| 表面 積 | 約 5.1 億 km² |
| 海と陸の比率 | 海約 71 % : 陸約 29 % |
大事: 赤道一周 = 約 4 万 km は中学でも学ぶ重要 な数字。 これを覚えておくと、 「経度 1 度 ≒ 約 111 km (赤道上)」 「経度差 ÷ 15 = 時差」 という 基本計算 がすぐできるようになります。
緯度 と 経度
- 緯度: 赤道 (緯度 0 度) を基準 に北へ 90 度 (北極)、 南へ 90 度 (南極) を測る。 北は 北緯、 南は 南緯。 同じ緯度を結んだ線 = 緯線
- 経度: イギリス・ロンドン旧グリニッジ天文台 を通る線を 本初子午線 (経度 0 度) とし、 東へ 180 度・西へ 180 度を測る。 同じ経度を結んだ線 = 経線 (北極 と南極 を結ぶ)
緯度・経度で位置を表す
| 都市 | 緯度・経度 (約) |
|---|
| 東京 | 北緯 35.68 度・東経 139.77 度 |
| 大阪 | 北緯 34.69 度・東経 135.50 度 |
| ロンドン | 北緯 51.51 度・経度 0.00 度 |
| ニューヨーク | 北緯 40.71 度・西経 74.01 度 |
| シンガポール | 北緯 1.35 度・東経 103.82 度 |
| シドニー | 南緯 33.87 度・東経 151.21 度 |
| サンパウロ | 南緯 23.55 度・西経 46.63 度 |
緯度・経度は 「世界共通 の住所」 です。 GPS、 Google マップ、 GIS は全てこの値を内部 で使っています。
ポイント: 高校ではさらに 測地 系 (大地を測る基準) という概念 も出てきます。 日本では 2002 年から世界共通 の 世界測地 系 (JGD2000、 現行 JGD2011) を採用 し、 それ以前の 「日本測地 系」 とは同じ場所 でも緯度・経度が数百 m ずれます。 古い地図を使う時は注意。
2. 時差と 標準時
地球は 24 時間で 1 周 = 360 度 自転 します (= 1 時間で 15 度)。 経度が違えば太陽 が南中 する時刻 がずれるため、 時計 もずらして暮ら さないと不便 です。 このずれが 時差 です。
標準時の決め方
各国は自国の基準 となる 標準時 (標準時子午線) を持ちます。
- 日本: 東経 135 度 (兵庫県明石市) を通る子午線を標準時とし、 これを JST (Japan Standard Time) と呼ぶ
- イギリス: 経度 0 度 (グリニッジ) → GMT (Greenwich Mean Time) / UTC (協定世界時)
- アメリカ本土: 4 つの標準時 (東部・中部・山岳・太平洋)
- 中国: 国土が東西に 5 タイムゾーン分広いのに 1 つの標準時 (北京時間 = UTC+8) で統一
- ロシア: 11 の標準時
時差計算の公式
基本: 経度差 ÷ 15 = 時差 (時間)。 東経同士・西経同士は引き算、 東経と西経は足し算。
| 計算例 | 経度差 | 時差 |
|---|
| 東京 (東経 135 度) ↔ ロンドン (0 度) | 135 度 | 9 時間 (東京が進んでいる) |
| 東京 ↔ ニューヨーク (西経 75 度) | 135 + 75 = 210 度 | 14 時間 (東京が進んでいる) |
| 東京 ↔ ロサンゼルス (西経 120 度) | 135 + 120 = 255 度 | 17 時間 |
| 東京 ↔ シドニー (東経 150 度) | 15 度 | 1 時間 (シドニーが進んでいる) |
日付変更線 と サマータイム
- 日付変更線: ほぼ経度 180 度に沿って、 国や島を 避 けてジグザグに引かれた線。 西から東 へ越えると 1 日戻る、 東から西 へ越えると 1 日進む
- サマータイム (夏時間): 春 〜 秋に時計 を 1 時間進める制度。 日照時間を有効 に使い、 省エネをねらう。 EU・北アメリカ等で採用、 日本は現在採用 せず
大事: 共通テストでは 「東京と 〇〇 の時差を求めよ」 「日本を 〇 月 〇 日 〇 時に出発して 〇 時間後に 〇〇 に 着 くと現地時刻は何時 か」 タイプが頻出。 経度差 ÷ 15 と 進んでいる / 遅れている の判断 が 鍵。
3. 地球儀と地図投影法
地球は 球体 なので、 平らな紙に写すと 必ずどこかがゆがみます。 「距離・面積・角度・方位」 の 4 つを 同時 に正し く表すことはできない、 これが投影法の大原則 です。
地球儀が一番正確だが
地球儀 は縮小 した立体 なので、 距離・面積・角度・方位全てがほぼ正しい。 ただし 持ち運びにくい・世界全体 を一度に見られない・印刷 できない という弱点があります。 そこで用途 に 応 じてさまざまな 平面投影法 が使い分けられます。
主な 3 投影法の比較
| 図法 | 何が正し いか | 何がゆがむか | 主な用途 |
|---|
| メルカトル図法 | 角度 (経線と緯線が直角) | 高緯度で面積 が大きく誇張 される | 航海図、 等角航路 (船の進路) |
| モルワイデ図法 | 面積 | 形がゆがむ (だ円形) | 分布図 (人口分布、 気候区分など) |
| 正距方位図法 | 中心からの 距離と方位 | 中心以外 の形と距離 | 航空図、 大圏航路 (最短 コース) |
メルカトル図法の 「落とし穴」
メルカトル図法で世界地図を見ると、 グリーンランドがアフリカぐらいに大きく見えます。 しかし実際 の面積 は アフリカ約 3,000 万 km² ↔ グリーンランド約 216 万 km² (アフリカの約 1/14) です。 高緯度ほど面積 が拡大 される性質 に注意。
逆に 赤道直下のアフリカ・東南アジア・アマゾン流域 は実際 より小さく印象 づけられます。 「世界をフェアに見るためにはどの図法を使うかを意識 する」 という視点 が大切 です。
正距方位図法 と大圏航路
東京を中心とした正距方位図法でニューヨークを見ると、 最短経路 (= 大圏航路) は 北極上空 を通ることがわかります。 メルカトル図法で直線 を引いた 「等角航路」 とは別のもの。 国際線旅客機が北太平洋ルートを取るのはこのためです。
ポイント: 「メルカトル = 角度・モルワイデ = 面積・正距方位 = 距離と方位」。 共通テストでは 「人口分布を表すのに適した図法を選べ」 「東京から真北に進んで最初 に到達 する大陸を答えよ (正距方位図法で読む)」 タイプが出ます。
4. 地形図の読み方
日本の 地形図 は 国土地理院 が作製 する公式 の地図で、 1:25,000 と 1:50,000 が代表的です。 GIS の時代 でも、 「ベースとなる紙の地形図を読める」 ことは高校地理の必須技能 です。
縮尺 の基本
| 縮尺 | 1 cm が実際 の | 主な用途 |
|---|
| 1:25,000 | 250 m | 標準的な地形図、 登山 ・ 防災 |
| 1:50,000 | 500 m | 広域の地形図、 国土把握 |
| 1:200,000 | 2 km | 地勢図 (県域規模) |
計算: 地図上 4 cm の距離 が、 縮尺 1:25,000 では 4 × 25,000 = 100,000 cm = 1 km に相当。 共通テストで頻出 の計算。
等高線 の読み方
地形図で高さを表す線が 等高線。 同じ高さの地点 を結んでいる。 1:25,000 では 主曲線 が 10 m おき、 計曲 線 が 50 m おき。 1:50,000 では主曲線 20 m・計曲線 100 m。
| 等高線の様子 | 地形 の読み取り |
|---|
| 線が 狭 い間隔 | 急斜面 (傾斜 が急) |
| 線が 広 い間隔 | ゆるやかな斜面 |
| 等高線が 山側に突き出す (V 字) | 谷 |
| 等高線が 下側に張り出す (U 字) | 尾根 |
| 同じ標高 の 閉 じた線 | 山頂 または くぼ地 |
主な 地図記号
地形図では、 建物 や土地利用 を 記号 で表します。 おもな地図記号を下に示します (実際の記号の形はこの図で確認 しましょう)。
おもな 地図記号。 学校 (「文」)・市役所・郵便局 (〒)・寺院 (卍)・神社 (鳥居)・消防署・警察署・病院・工場 (歯車) など。 高等学校は 「文」 を ○ で囲む。
大事: 地図記号は 2019 年度改訂 で 「自然災害伝承碑」 が追加 されました (記号は石碑 のシルエット)。 過去 の災害 を伝える場所 を地形図上で確認 でき、 防災学習に直結します。
5. GIS と GPS (GNSS)
GIS (Geographic Information System、 地理情報 システム) とは、 地図上に様々 なデータ (人口・気温・店舗位置 など) を 重合わせて 分析 するしくみ。 高校地理総合の大きな学習内容です。
GIS の基本構造
GIS ではデータを 「レイヤ (層)」 という単位 で重ねます。
- レイヤ 1: 道路 と鉄道
- レイヤ 2: 河川 と海岸線
- レイヤ 3: 人口 (メッシュごと)
- レイヤ 4: 病院 の位置
- レイヤ 5: 浸水想定区域 (洪水 ハザード)
これらを自由 に重ね合わせることで、 「人口が多い浸水区域に病院は足りているか」 「最寄 りの避難所まで何 m か」 といった 空間分析 ができます。
身近な GIS の活用例
| 分野 | 活用例 |
|---|
| 防災 | ハザードマップ (洪水・土砂災害・津波・地震 のリスク表示) |
| 都市計画 | 人口推移 と公共施設配置 の検討、 コンパクトシティ計画 |
| 商業 | コンビニ・スーパーの出店計画 (人口・所得・通行量) |
| 農業 | 衛星写真と土壌 データでの 精密農業 (スマート農業) |
| 物流 | 配達 ルート最適化、 倉庫立地検討 |
| 観光 | 観光客の動線分析、 多言語案内 アプリ |
| 公衆衛生 | 感染症 の流行 マップ、 ワクチン配布計画 |
GPS (GNSS) と GIS の関係
スマホやカーナビの 「現在地」 表示は、 GPS (Global Positioning System、 アメリカの衛星測位 システム) や、 それを含む総称 GNSS (Global Navigation Satellite System、 全球測位衛星システム) の信号 を使って緯度・経度を計算 しています。
| システム | 運用国 | 衛星数 (約) |
|---|
| GPS | アメリカ | 30 機 |
| GLONASS | ロシア | 24 機 |
| Galileo | EU | 30 機 |
| BeiDou (北斗) | 中国 | 30 機以上 |
| みちびき | 日本 (準天 頂衛星) | 4 機 (将来 7 機体制) |
みちびき は日本の真上付近 を通る軌道 で、 GPS の精度 を補強 し、 都市部のビル谷[ま||]や山間部 でも数 cm 精度の測位を可能 にします。
ポイント: 「GPS で取った現在地 を GIS の地図上に重ねて表示」 するのが、 スマホ地図アプリの基本構造。 GPS は 「位置を測る」、 GIS は 「位置とデータを重ねて分析する」 と役割 が違います。
6. オープンデータと地理院地図
高校地理総合では、 自分で 公式 のオープンデータ を取って来て、 地図化・分析する活動が重視 されます。
主な無料 データソース
| 名称 | 提供元 | 主な内容 |
|---|
| 地理院地図 | 国土地理院 | 地形図・空中写真・標高・断層・浸水想定等。 ブラウザで 重合わせ可能 |
| e-Stat (政府統計ポータル) | 総務省統計局 | 国勢調査・経済 センサス等全統計を CSV / API で |
| j-SHIS | 防災科学技術研究所 | 全国の地震動予測地図 |
| OpenStreetMap (OSM) | 国際的ボランティア | 世界の道路・建物を自由利用 |
| G-Spatial 情報 センター | 国土交通省系 | 土地利用・交通量等 |
GIS で課題 を解く流れ
- 問いを立てる (例: わが市で高齢化が進む地区と病院の配置 はつり合っているか)
- データを集める (国勢調査 でメッシュごとの 65 歳以上比率、 地理院地図で病院位置)
- 重合わせる (GIS ソフト QGIS や地理院地図でレイヤ化)
- 分析する (ヒートマップ・バッファ距離分析等)
- 解釈 と提案 (地区 A は高齢化 + 病院遠い → 移動支援提案)
大事: 地理総合では 「地域調査」 が必修 テーマ。 GIS を使った フィールドワーク (現地調査と地図化) を経験 することが求められています。
7. ふりかえりと安全配慮
学んだこと
この章の 安全配慮 — GIS データの出典 と著作権
GIS で教材 やレポートをつくるとき、 データの出典 と著作権 には必ず気をつけましょう。
- 国土地理院地図 は利用規約 の範囲 で自由 に利用可能だが、 出典 「国土地理院」 の表記が必要 (改変 すると 「国土地理院の地図を加工」 と明記)
- OpenStreetMap (OSM) は 「© OpenStreetMap contributors」 のクレジット表記とライセンス (ODbL) の継承 が必要
- Google マップ のスクリーンショット利用 は教育目的 でも 利用規約 の確認必須。 商用 やロゴ改変は不可
- ハザードマップ は 更新日 を必ず確認。 古いデータで 「自宅 は安全」 と判断 するのは危険
- 個人 の位置情報 (S N S 投稿 の GPS タグ等) を集めて公開 するのは プライバシー侵害 のリスク。 個人 が特定 できる形での公表 はしない
次の章: 第 2 章では、 6 大陸 3 大洋とプレートテクトニクス、 標準時、 そして大地形・小地形を学び、 「球面上の世界」 を立体的に把握 します。