この章で学ぶこと
第 6 章では 海洋 を学びます。 地球表面 の約 70 % を占める海は、 気候 と 生命 を支える巨大 なシステムです。
- 海水 の 組成 と 塩分 のしくみを知る
- 海洋の 層構造 (表層・混合層・水温躍層・深層) を理解 する
- 表層循環 と 海流 の駆動 を学ぶ
- 深層循環 (熱塩循環) とその全球規模 の流れを知る
- 日本周辺 の 黒潮・親潮・対馬海流 を押さえる
- エルニーニョ・ラニーニャ と 気候変動 の関係 を学ぶ
- 海洋観測 と 防災 (海での安全配慮を含む) を確認する
ポイント: 海は 「ただの水の入れ物」 ではありません。 大気 と熱・水蒸気・二酸化炭素 をやりとりし、 気候 をコントロールする 地球 のエンジン です。
1. 海水の組成と塩分
海水の主な成分
海水 は純水 (H₂O) に多くの 塩類 が溶け込んだ水溶液 です。 平均 1 kg あたり約 35 g の塩類 を含み、 この値を 塩分 と呼びます。
| イオン | 重量比 (%) | 主な由来 |
|---|
| 塩化物 イオン (Cl⁻) | 約 55 | 火山ガス・岩石 の 風化 |
| ナトリウムイオン (Na⁺) | 約 31 | 岩石 の 風化 |
| 硫酸 イオン (SO₄²⁻) | 約 8 | 火山ガス |
| マグネシウムイオン (Mg²⁺) | 約 4 | 岩石 の 風化 |
| カルシウムイオン (Ca²⁺) | 約 1 | 岩石 の 風化 |
| カリウムイオン (K⁺) | 約 1 | 岩石 の 風化 |
ポイント: Cl⁻ と Na⁺ で全体の約 86 % を占め、 いわゆる 「食塩 (NaCl)」 が海水の味の中心 です。
塩分の単位と平均値
塩分 は古くは 千分比 (‰、 パーミル) で表し、 平均約 35 ‰ でした。 現在 は 実用塩分 や 絶対塩分 が使われ、 単位 なしで 約 35 と表すことが多いです。
| 海域 | 塩分 の目安 | 理由 |
|---|
| 紅海 | 約 40 | 気温高く 蒸発大、 降水少 |
| 地中海 | 約 38 | 蒸発 > 降水 |
| 大西洋 (中緯度) | 約 36 | 蒸発 やや多 |
| 太平洋 (中緯度) | 約 35 | 平均的 |
| 北極海 | 約 30 | 降水 と 氷 の 融解 |
| バルト海 | 約 10 | 河川流入大 |
塩分を決める 4 要素
| 要因 | 塩分 への影響 |
|---|
| 蒸発 | 増やす (水だけが抜け塩が残る) |
| 降水 | 減らす (淡水が加わる) |
| 河川流入 | 減らす (淡水) |
| 結氷・融解 | 結氷で増え、 融解で減る |
大事: 海水 の 塩の構成比 は世界 のどこでもほぼ一定 (=塩分構成一定の法則) です。 場所 によって変わるのは 総量 (= 塩分) だけで、 塩の 「比」 は変わりません。
2. 海洋の層構造
鉛直方向の 3 層構造
外洋 の海水 は 水温 によって 3 層に分けられます。
| 層 | 深さ | 特徴 |
|---|
| 表層混合層 | 0-100 m 程度 | 風と波でかき混ぜられ、 水温・塩分 がほぼ一定 |
| 水温躍層 (サーモクライン) | 100-1000 m | 深さとともに急に水温が下がる |
| 深層 | 1000 m 以下 | 水温約 2-4 ℃ でほぼ一定 |
水温躍層ができるしくみ
太陽 放射 は表層 だけを暖め、 風で混合される範囲 も表層 に限られます。 その下は暖められず冷たいまま残り、 「冷たい水の上に暖かい水」 という安定 な重なりができます。 この境界 が 水温躍層 です。
| 緯度 | 水温躍層 の強さ |
|---|
| 低緯度 (赤道付近) | 強い (表層暖、 深層冷の差大) |
| 中緯度 | 季節で変化 (夏強、 冬弱) |
| 高緯度 | 弱いまたは無い (表層も冷たい) |
塩分の鉛直構造
| 海域 | 表層 塩分 | 深層 塩分 |
|---|
| 中緯度 (亜熱帯) | 高い (蒸発大) | やや低い |
| 高緯度 | 低い (降水 と融解) | やや高い |
| 赤道 | やや低い (降水多) | 中間 |
3. 表層循環と海流
世界の 海流 — 赤が 暖流、 青が 寒流。 各大洋 に 亜熱帯環流 と呼ばれる大きな渦があり、 北半球 は時計回り、 南半球 は反時計回り。 日本周辺には 黒潮・親潮・対馬海流・リマン海流 が流れる。
風が駆動する海流
海面 では 偏西風 と 貿易風 がふき、 その 摩擦 で海水が動き出します。 これが 風成循環 です。
| 風系 | 緯度 | 海流 への影響 |
|---|
| 貿易風 (東風) | 0-30° | 赤道域を西向きに流す |
| 偏西風 (西風) | 30-60° | 中緯度 を東向きに流す |
亜熱帯環流 (ジャイア)
各大洋 では、 中緯度 に 亜熱帯環流 と呼ばれる大きな渦ができます。
| 大洋 | 北半球 の環流 (時計回り) | 南半球 の環流 (反時計回り) |
|---|
| 太平洋 | 黒潮・北太平洋海流・カリフォルニア海流・北赤道海流 | 東オーストラリア海流・南極周極流 の一部・ペルー海流・南赤道海流 |
| 大西洋 | メキシコ湾流・北大西洋海流・カナリア海流・北赤道海流 | ブラジル海流・南極周極流 の一部・ベンゲラ海流・南赤道海流 |
暖流と寒流
| 海流 の種類 | 流れる方向 | 水温 | 例 |
|---|
| 暖流 | 低緯度 → 高緯度 | 周囲 より高い | 黒潮、 メキシコ湾流 |
| 寒流 | 高緯度 → 低緯度 | 周囲 より低い | 親潮、 カリフォルニア海流 |
西岸強化
各環流の 西岸 (大陸 の東側 = 海から見て西岸) では、 流れが細く速くなります。 これを 西岸強化 といい、 黒潮 や メキシコ湾流 が代表例です。
ポイント: 黒潮 の流速 は最大約 2-2.5 m/s (時速約 7-9 km) に達し、 「川のように流れる海」 と呼ばれます。 一方環流の東岸は幅広く遅い流れです。
4. 日本周辺の海流
日本を取り囲む 4 大海流
| 海流 | 種類 | 流れる場所 |
|---|
| 黒潮 (日本海流) | 暖流 | 日本の太平洋側を南西 → 北東 |
| 親潮 (千島海流) | 寒流 | 千島列島沿いに北 → 南 |
| 対馬海流 | 暖流 | 日本海を南 → 北 |
| リマン海流 | 寒流 | 日本海の大陸側を北 → 南 |
黒潮と親潮の出会い: 潮目
黒潮 と 親潮 がぶつかる三陸沖は 潮目 (潮境) と呼ばれ、 暖流 にのる魚 (カツオ・マグロ) と寒流 にのる魚 (サンマ・イワシ・サバ) が集まる世界有数 の漁場 です。
| 海域 | 主な魚 | 理由 |
|---|
| 黒潮域 | カツオ、 マグロ、 サワラ | 暖流性 |
| 親潮域 | サンマ、 イワシ、 タラ | 寒流性、 プランクトン 豊富 |
| 潮目 | 多種多様 | 両海流 が混ざり 餌豊富 |
海流が気候に与える影響
| 場所 | 海流 | 気候 への影響 |
|---|
| 日本太平洋側 | 黒潮 | 冬でも比較的暖かく雨が多い |
| 三陸沖 | 親潮 | 夏に 「やませ」 (冷涼な北東風) をもたらす |
| 西ヨーロッパ | 北大西洋海流 (= メキシコ湾流延長) | 高緯度 でも温暖、 ロンドンが札幌と同緯度 なのに雪少 |
5. 深層循環 (熱塩循環)
深層循環とは
風が動かす 表層循環 とは別に、 海水 の 密度 の差 で駆動 される循環 があります。 これを 深層循環 または 熱塩循環 といいます。 密度 は 水温 と 塩分 で決まるためこの名前 がつきます。
| 要因 | 密度 への影響 |
|---|
| 水温 が低い | 密度大 (沈む) |
| 塩分 が高い | 密度大 (沈む) |
| 水温 が高い | 密度小 (浮く) |
| 塩分 が低い | 密度小 (浮く) |
沈降海域とグローバルコンベヤーベルト
冷たく塩分の高い海水 が大量に沈む場所 は限られており、 そこから全海洋を巡る大循環が生まれます。 これを グローバルコンベヤーベルト (世界 の海のベルトコンベヤー) と呼ぶことがあります。
| 沈降海域 | 形成 される水 |
|---|
| グリーンランド 沖・ラブラドル海 | 北大西洋深層水 |
| 南極 ウェッデル海・ロス海 | 南極底層水 |
形成された深層水は大西洋 → 南極周辺 → インド洋・太平洋 へゆっくりと移動し、 約 1000-2000 年 かけて表層 に戻ります。
深層循環が担う役割
| 役割 | 内容 |
|---|
| 熱輸送 | 低緯度 の熱を高緯度 へ |
| 酸素供給 | 表層 の酸素を深層へ |
| 二酸化炭素 吸収 | 大気 CO₂ を深層へ隔離 |
| 栄養塩 輸送 | 深層から 湧昇域 へ戻し 植物プランクトン を育てる |
大事: 深層循環 が弱まると、 大西洋沿岸 の西ヨーロッパが寒冷化する可能性が指摘 されています。 気候変動 と強く関わる重要 なシステムです。
6. エルニーニョとラニーニャ
平年 (中立) の太平洋
赤道太平洋 では 貿易風 が東から西へふき、 暖かい表層水が西側 (インドネシア沖) にたまります。 一方東側 (南米沖) では深層から冷たい水が湧き上がる (湧昇)、 というバランスができています。
| 海域 | 平年の状態 |
|---|
| 西太平洋 (インドネシア沖) | 海面 水温高い、 積乱雲発達、 降水多 |
| 東太平洋 (ペルー沖) | 湧昇 で冷たい、 積乱雲少、 降水少 |
エルニーニョ現象
エルニーニョ は、 貿易風 が弱まって暖水が東へ広がり、 東太平洋 の 湧昇 が弱まって 東側の海面 水温 が平年より高くなる 現象です。 数年に一度発生し、 約半年から 1 年半続きます。
| 場所 | エルニーニョ時の変化 |
|---|
| ペルー沖 | 水温上昇、 降水増 (洪水) |
| インドネシア・オーストラリア | 水温低下、 降水減 (干ばつ・森林火災) |
| 日本 (典型例) | 暖冬・冷夏傾向 |
ラニーニャ現象
ラニーニャ はエルニーニョと逆で、 貿易風 が強まり東太平洋 の 水温 が平年より 低くなる 現象です。
| 場所 | ラニーニャ時の変化 |
|---|
| ペルー沖 | 水温低下、 降水減 |
| インドネシア・オーストラリア | 水温上昇、 降水増 |
| 日本 (典型例) | 寒冬・猛暑傾向 |
テレコネクション
エルニーニョ や ラニーニャ は太平洋 だけでなく、 大気 の波動を通じて世界中の 気候 に影響を与えます。 これを テレコネクション と呼びます。
| 現象 | 世界各地への主な影響 |
|---|
| エルニーニョ | 北米西岸で大雨、 アフリカ南部で干ばつ、 アマゾン干ばつ |
| ラニーニャ | オーストラリア北部大雨、 インドモンスーン強化 |
7. 海洋観測と安全配慮
海洋観測の方法
| 方法 | 内容 |
|---|
| CTD (電気伝導度・水温・水深計) | 鉛直方向の水温・塩分 プロファイル を測る |
| Argo フロート | 自動で浮き沈みしデータを衛星に送信 (世界約 4000 機) |
| 人工衛星 | 海面 水温・海面高度を 広域観測 |
| 海洋ブイ | 定点で 水温・波高・気象 を連続観測 |
| 海洋観測船 | 採水・海底 掘削・音響探査 |
海での学習と安全ルール
海を学ぶときは 必ず 安全配慮を守ります。
| 場面 | 注意 すること |
|---|
| 海岸観察 | ライフジャケット 着用、 潮位 と 離岸流 を事前に確認、 単独行動禁止 |
| 磯採集 | 滑 りやすい岩、 ウニ・クラゲ・ヒョウモンダコ など危険生物 に注意 |
| 津波危険時 | 揺れたら すぐ高台へ、 海岸から離れる、 警報解除まで戻らない |
| 海水温観測 | 熱中症・低体温症注意、 必ず大人同行 |
| 強風の日 | 観察中止を判断する勇気 を持つ |
大事: 離岸流 (海岸から沖へ流れる速い帯状の流れ) に巻き込まれたら、 沖へ流されながら岸と平行に泳いで抜け出す のが正解です。 岸に向かって泳ぐと体力が尽きます。
8. ふりかえり
この章で学んだことをふりかえりましょう。
- [ ]海水 の平均 塩分 が約 35 と言える
- [ ]塩分構成一定の法則 (塩の比は一定) を説明 できる
- [ ]海洋の 3 層構造 (表層混合層・水温躍層・深層) を言える
- [ ]亜熱帯環流 の北半球・南半球 の回転方向を言える
- [ ]西岸強化 と 黒潮・メキシコ湾流 の関係 を説明 できる
- [ ]日本周辺 の 4 海流 (黒潮・親潮・対馬海流・リマン海流) が言える
- [ ]潮目 と漁業 の関係 を説明 できる
- [ ]深層循環 (熱塩循環) の沈降海域 (北大西洋・南極) と周期 (約 1000-2000 年) を言える
- [ ]エルニーニョ・ラニーニャ の違いを説明 できる
- [ ]海での安全ルール (ライフジャケット・離岸流対応・津波警報) を守れる
この章の安全配慮
- 海岸観察 では ライフジャケット 必須 + 大人同行
- 離岸流 に注意、 巻き込まれたら 岸と平行に泳ぐ
- 津波警報時は すぐ高台へ避難
- 磯 の危険生物 (ヒョウモンダコ・カサゴ・ウニ) に触らない
- 海水を飲まない (塩分 と 細菌 で体調を崩す)
次の章: 第 7 章では 天気 と季節 を学びます。 海が大気 とどうやりとりするか、 高気圧・低気圧・前線・台風 の仕組み、 そして日本の四季をつくる 気団 を知ります。
黒潮 (日本海流) の 衛星 海面水温画像 (NASA Goddard) — 赤・黄色が暖かい海水 で、 フィリピン沖から北上して 日本列島 の南岸 をなめるように流れ、 房総半島沖で東へそれて 太平洋 へ抜ける様子が一目で分かる。 世界最速級の 西岸境界流。