第 6 章北アメリカ州 — 大農業と先端工業の大陸
最終確認日:
この章で学ぶこと
北アメリカ州は、 漢字では 「北米」 と書き、 アメリカ合衆国・カナダ・メキシコを中心とする大陸です。 面積は世界の 6 大陸の中で 3 番目の大きさ。 そこには高さ 4,000 メートルをこえるロッキー山脈、 流域面積が世界有数のミシシッピ川といった雄大な自然が広がります。
そして、 この大陸を学ぶときに外せないのが 「大規模農業」 と 「先端技術」 と 「多民族社会」 の 3 つの顔です。 1 つの国で世界の食料とコンピューター産業を動かすアメリカ合衆国、 広い国土と豊かな資源をもつカナダ、 急速に工業化を進めるメキシコ。 それぞれの個性を比べながら見ていきましょう。
- 北アメリカ州の自然 (ロッキー山脈・ミシシッピ川・五大湖) を知る
- 適地適作とセンターピボットに代表される大規模農業を理解する
- シリコンバレーを中心とするアメリカの先端技術産業を知る
- ヒスパニック・ネイティブアメリカンなどの多民族社会を理解する
- USMCA (米墨加協定) による北米経済圏のしくみを知る
ポイント: 北アメリカ州を一言で言うと 「自然の大きさと、 産業の強さと、 民族の多様さ が同時に存在する大陸」 です。 5 章まで学んだアジア・ヨーロッパ・アフリカと比べながら読むと違いがよく見えてきます。
1. 北アメリカ州の自然と地形
北アメリカ大陸は、 太平洋と大西洋にはさまれた巨大な大陸です。 西側には高い山脈、 中央には広大な平原、 東側にはなだらかな山脈、 という 「3 つの縦じま」 構造が特徴です。
西部のロッキー山脈 — 環太平洋造山帯の一部
大陸の西側を南北に走るのが ロッキー山脈 です。 アラスカからメキシコまで、 約 4,500 キロメートルにわたって続き、 最高峰は 4,000 メートルをこえます。 この山脈は太平洋を取り囲む 環太平洋造山帯 の一部で、 地震や火山が多い地域です。 ロッキー山脈の西側には砂漠や高原が広がり、 グランドキャニオンのような大地形が見られます。
中央の大平原とミシシッピ川
ロッキー山脈と東部のアパラチア山脈にはさまれた広大な中央部は、 グレートプレーンズ や プレーリー と呼ばれる大平原です。 ここには ミシシッピ川 が北から南へ流れ、 メキシコ湾に注ぎます。 流域面積は約 325 万平方キロメートルで、 世界第 3 位。 流域では小麦やとうもろこしなどが大量に栽培されています。
五大湖とセントローレンス川
大陸北東部には 五大湖 (スペリオル・ミシガン・ヒューロン・エリー・オンタリオ) と呼ばれる 5 つの大きな湖があり、 アメリカとカナダの国境を形づくっています。 五大湖からは セントローレンス川 が大西洋に流れ出て、 内陸の工業地帯と海を結ぶ重要な水路となっています。
気候 — 緯度が高いのに多様
北アメリカ州は、 北は北極圏、 南は熱帯まで含むため、 気候も多様です。
| 地域 | おもな気候 | 特徴 |
|---|---|---|
| カナダ北部・アラスカ | 寒帯・亜寒帯 | 永久凍土、 タイガ |
| カナダ南部・アメリカ北部 | 冷帯・温帯 | 五大湖周辺は冬が寒い |
| アメリカ中央部 | 温帯 (ステップ) | 大平原、 西側ほど乾燥 |
| アメリカ南部 | 温暖湿潤 | フロリダは亜熱帯 |
| メキシコ高原 | 高山気候 | 標高が高く過ごしやすい |
大事: ロッキー山脈・ミシシッピ川・五大湖の 3 点セットを地図で押さえると、 北アメリカ州の産業の配置が一気に見えてきます。
2. アメリカの適地適作と大規模農業
アメリカ合衆国は 「世界の食料庫」 と呼ばれるほど、 農業が強い国です。 小麦・とうもろこし・大豆・牛肉など、 多くの品目で世界有数の生産量と輸出量をほこります。 その強さを支える考え方が 適地適作 です。
適地適作とは
適地適作 とは、 「その土地の気候や土壌にいちばん合った作物を大規模に育てる」 やり方です。 アメリカでは、 地域ごとに育てる作物がはっきり分かれています。
| 地域 | おもな作物 |
|---|---|
| 北部 (五大湖付近) | 酪農 (チーズ・バター) |
| 中央北部 | 春小麦 |
| 中央南部 | 冬小麦 |
| 中西部 (コーンベルト) | とうもろこし・大豆・豚 |
| 南部 (旧コットンベルト) | 綿花・落花生 (現在は多様化) |
| カリフォルニア | 果樹・野菜 (地中海性気候) |
大規模と機械化
アメリカの農場 1 戸あたりの平均耕地面積は、 約 180 ヘクタールほどとされています。 日本の農家 1 戸あたり (約 3 ヘクタール) と比べると、 60 倍ちかくの広さです。 この広大な土地を数人で耕すため、 大型トラクターやコンバインが欠かせません。
乾燥地帯では、 円形のスプリンクラーで水をまく センターピボット と呼ばれるかんがい設備が使われています。 上空から見ると、 円がいくつも並ぶ独特の風景が広がります。
アグリビジネス — 農業の巨大産業化
種子の開発から肥料・農薬の販売、 収穫物の流通・加工・輸出までを大企業がまとめて行うしくみを アグリビジネス と言います。 これにより、 効率は高まる一方で、 個人農家の経営は厳しくなる面もあります。
ポイント: 「広い土地 + 機械 + 適地適作 + アグリビジネス」 の 4 つが、 アメリカの農業が世界をリードする理由です。 ただし、 大量の水や化石燃料を使うため、 地下水の枯渇や土壌流出といった課題も生じています。
3. アメリカの工業 — 製造業から先端技術へ
アメリカの工業は、 時代とともに中心地を変えてきました。 大きな流れは、 「北東部の重工業 → 南部のサンベルト → 西海岸の先端技術」 です。
古くからの工業地帯 — 北東部と五大湖周辺
19 世紀後半から 20 世紀前半にかけて、 五大湖周辺で鉄鋼と自動車工業が発展しました。 ピッツバーグの鉄鋼、 デトロイトの自動車が代表的です。 しかし、 1970 年代以降、 設備の古さや海外との競争で衰退し、 工場が閉鎖された地域は ラストベルト (錆びた地帯) と呼ばれるようになりました。
サンベルト — 北緯 37 度以南の新興工業地域
1970 年代から、 アメリカ南部の 北緯 37 度以南 の地域で工業が急速に発展しました。 この地域を サンベルト と呼びます。 温暖で土地・労働力が安く、 航空・宇宙・電子産業などが集まりました。 ヒューストン (宇宙)・ダラス (電子) などが代表都市です。
シリコンバレー — 世界の先端技術の中心
カリフォルニア州サンフランシスコ南部の シリコンバレー は、 半導体 (シリコン) を使うコンピューター産業から名がついた地域です。 ここには世界中から集まる技術者と、 スタンフォード大学を中心とする研究機関、 そしてベンチャー投資家が集積し、 IT・ソフトウェア・バイオなどの先端産業が発展しています。
| 工業地域 | 中心 | 特徴 |
|---|---|---|
| 五大湖周辺 | デトロイト・ピッツバーグ | 鉄鋼・自動車 (現在はラストベルト) |
| サンベルト | ヒューストン・ダラス | 航空・宇宙・石油 |
| シリコンバレー | サンノゼ周辺 | IT・ソフトウェア |
大事: アメリカの工業は 「製造業の大量生産」 から 「知的財産とサービス」 へ重点を移してきました。 GAFA と呼ばれる巨大 IT 企業の多くがこの国から生まれています。
4. 多民族社会とヒスパニック・ネイティブアメリカン
アメリカ合衆国・カナダ・メキシコは、 もともと ネイティブアメリカン (先住民) が暮らしていた大陸に、 ヨーロッパから移民がやってきてつくった国々です。 そこにアフリカから連れてこられた人々、 アジアからの移民、 メキシコや中南米からの移民が加わり、 世界でも例を見ない 多民族社会 が形づくられました。
アメリカの主な民族構成 (おおよその割合)
| 民族 | 割合 (おおよそ) |
|---|---|
| ヨーロッパ系 | 約 60 % |
| ヒスパニック (中南米からの移民・子孫) | 約 19 % |
| アフリカ系 | 約 13 % |
| アジア系 | 約 6 % |
| ネイティブアメリカン | 約 1 % |
※ 国勢調査の区分により重複する場合があり、 数字は概数です。
ヒスパニックの増加
ヒスパニック とは、 スペイン語を話す人々やその子孫を指す呼び方で、 メキシコ・キューバ・プエルトリコなど中南米出身の人々が多く含まれます。 出生率が高く、 移民も続いているため、 人口比率は年々増えています。
カナダの多文化主義
カナダは、 英語圏とフランス語圏 (ケベック州が中心) の 2 つの公用語を持つ国で、 多様な文化を尊重する 多文化主義 を国の方針としています。
ネイティブアメリカンの歴史
ヨーロッパ人の入植以前、 北アメリカ大陸には ネイティブアメリカン (アメリカ先住民) が数多くの部族を形成して暮らしていました。 入植とともに多くの命が失われ、 土地を奪われ、 居留地と呼ばれる限られた地域に移された歴史があります。 現在は文化と言語を守る取り組みが進められています。
ポイント: 「アメリカ人 = 英語を話す白人」 という単純な見方は正しくありません。 多様な出自・宗教・言語・文化を持つ人々が一つの国をつくっているのが、 北アメリカ州の大きな特徴です。
5. USMCAと北米の経済統合
北アメリカ州の 3 か国 (アメリカ・カナダ・メキシコ) は、 経済の結びつきがとても強くなっています。 その中心となる協定が USMCA (米墨加協定) です。
NAFTA から USMCA へ
1994 年に、 3 か国のあいだで NAFTA (北米自由貿易協定) が結ばれ、 関税を段階的に引き下げることで自由な貿易が進められました。 その後、 内容が見直され、 2020 年に USMCA (United States-Mexico-Canada Agreement) と名前を変えて発効しました。
国境をこえる産業連携
USMCA のもとで、 自動車・電機・農産物などが国境をこえて大量に行き来しています。 たとえば自動車 1 台には、 アメリカで設計され、 メキシコで組み立てられ、 カナダで部品がつくられたものが含まれる、 といったケースがふつうになっています。
メキシコの工業化
メキシコでは、 アメリカとの国境沿いに マキラドーラ と呼ばれる輸出向けの工場が多く立地しています。 比較的安い賃金とアメリカ市場への近さを生かし、 自動車・電子製品などが大量に生産されています。
カナダの資源と工業
カナダは国土の大部分が寒冷地ですが、 鉱産資源 (ニッケル・ウランなど)、 木材、 石油 (オイルサンド) などの資源が豊富で、 アメリカへの輸出が経済を支えています。
大事: 北米 3 か国は 「アメリカ = 巨大市場と技術、 カナダ = 資源、 メキシコ = 製造拠点」 という役割分担を持ちながら、 USMCA のもとで一つの巨大な経済圏を形成しています。
まとめ — 北アメリカ州を 3 行で
- 西にロッキー山脈、 中央にミシシッピ川と大平原、 東に五大湖とアパラチア山脈 — 雄大な自然が産業の土台。
- アメリカは適地適作の大規模農業と、 シリコンバレーなどの先端技術で世界をリード。
- アメリカ・カナダ・メキシコはUSMCAで結ばれ、 多民族が暮らす巨大経済圏を形成。
安全と学び方の心がけ — 多民族社会を学ぶときに
北アメリカ州の学習では、 「アメリカ人とはこういう人」 「ヒスパニックはこう」 といった 一面的なイメージで人をまとめない ことが大切です。 同じ国の中にも、 さまざまな出身・言語・宗教・経済状況の人が暮らしています。
- ニュースで見るアメリカの一場面を、 国全体の姿と思いこまない。
- 「先住民」 「移民」 を過去の話ではなく、 今を生きる人々として想像する。
- 国の政策と、 そこに暮らす一人ひとりの暮らしを切り分けて考える。
- メキシコや中南米の文化を 「下に見る」 表現や偏見を避け、 違いを尊重する。
世界地理を学ぶことは、 同時に 「人をどう見るか」 を学ぶことでもあります。 偏見や決めつけを持たず、 一次資料 (公式統計や現地の声) にあたる姿勢を大切にしましょう。